ことりのモノ   作:kielly

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3話です。
初デート、そして――――

possessive : 所有格、所有欲


*3 初デート possessive

 

『一哉くん! 今度の休みにデートしよっ』

 

 

 俺とことりが付き合い始めて間もないころ、ことりからデートのお誘いがあった。ことりの方から誘ってくれるとは思っていなくて、これ以上にないくらいテンションが上がりまくっている俺。しかしその反面、初めてのデートくらい俺から誘いたかった、なんて気持ちもなくはない。

 だが、もうそんなことはどうでもいい。あの憧れだったことりと2人で、しかもことりの方からお誘いがあるだなんて今までの俺には到底信じられそうにもない出来事だ、この幸せを噛みしめよう。

 

 そんなことを思っている俺は、すでにデートの待ち合わせ場所である駅の前で立って待っている。

 

 テンションが上がりすぎて全く寝れず、待ち合わせ時間の2時間も前だというのにも関わらず、気持ちを抑えきれず家を飛び出してきたというわけだ。

 さて、ことりを待ってる間何してようかな。まだまだ時間はあるし、カフェくらい入ってくつろいどくか?

 

 そんなことを思っていたときだった。

 

 

「一哉く~ん! お待たせ~!」

 

「えっ!? ことり!?」

 

 

 聞くだけで癒される俺の大好きな声が、俺を呼ぶ。声が聞こえた方を振り返ると、そこには愛しの彼女の姿が。

 

 

「遅くなってごめんね~、はぁ、はぁ」

 

 

 遅くなってごめんと謝ることりの息は荒れていて、急いできてくれたのがよくわかる。ただ、今はまだ集合時間の2時間前、そもそも遅刻どころかかなり早すぎる到着なのだ。

 

 

「いやいやことり、遅れてないし、むしろ早すぎるくらいだぞ?」

 

「えへへ、少しでも早く一哉くんに会いたかったから……」

 

「ことり……」

 

 

 なんだこの天使は。思わずそう言いたくなるほどに可愛いことりは今、俺のために早々と会いに来てくれた。嬉しさのあまり叫びたくなるが、ぐっとこらえ、その代わりにことりの手を優しく握る。

 

 

「ありがとうことり、俺も早く会いたくてさ。ことりも同じ気持ちだっただなんて、嬉しいよ」

 

「一哉くん……やっぱりことり、一哉くんのこと大好きっ」

 

「おっと……俺も好きだよ」

 

「えへへ」

 

 

 抱き着いてくることりを体勢を少し崩しつつも受け止め、抱き合う。本当に両想いなんだ、そう実感できる。って、気づいたら周りの人たちからめっちゃ注目されてんじゃん!

 俺は慌ててことりと離れようとする。

 

 

「こ、ことり、周りの人たちから見られてるから、いったんここから離れようか」

 

 

 そう言ってことりから離れようとしたのだが、ことりは気にもしない様子でなおくっつき続ける。

 

 

「やだやだ、離れちゃ嫌っ!」

 

「き、気持ちは嬉しいんだけどさ、ほら、周りが」

 

 

 ことりが可愛らしい駄々をこねるけど、今のこの状況においてはその駄々はあまり好ましくない。そう思いつつ周りを確認すると、なぜかさっきより人が多くなってる気がする。やばいぞこれ。

 1人で慌てている俺に、ことりはいたって冷静に言い出す。

 

 

「ことりには一哉くんしか見えないもんっ」

 

「……っ!?」

 

 

 可愛い声で嬉しいことを言ってくれたのだが、その瞳には色がない。これって高坂たちと一緒にいたときに見せたあの怖い瞳……でも今回は別に他の女の子の名前なんて出してないし、なぜ……

 

 

「お願い、ことりだけを見て?」

 

 

 落ち着いてことりの様子を観察してみると、ことりはなぜか俺から一切目をそらさない。逆に俺がことり以外の方を見ようとすると、頬をそっとつかんでことりの方に向かせようとしてくる。

 そうか、俺は理解する。

 

 どうやらことりには、俺以外の人間(・・・・・・)を見る気がないらしい。

 

 色のない瞳を俺に向け続け、一向に離れてくれる気配のないことり。でも、それだけ俺のことを好きだと思ってくれている証拠。だったら俺も、男として応えたい。しかしここじゃちょっと場所が悪い。

 俺は深呼吸をして、ことりに言う。

 

 

「ことり、ここじゃゆっくりできないから、場所を移動してそっちでいっぱい抱きしめ合おうよ」

 

 

 我ながら照れもなくよく言えたものだ、と自画自賛しながらも、ことりの様子を窺う。

 

 すると、目の色が戻った。

 

 

「あ、そうだよね、せっかくならゆっくりできる場所に移動したいもんね!」

 

 

 そう言うとことりは抱き着くのをやめ、代わりに腕を絡ませるように組んで、指と指を絡ませるように手を繋いできた。

 

 

「いこっ!」

 

 

 嬉しそうに笑うことりを見て一安心した俺はことりの手を握り返し、ことりと一緒に歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「ことり、ここのベンチでだったらゆっくりできそうだね」

 

「そうだね! 一緒に座ろ?」

 

「うん」

 

 

 どれくらい歩いたかは分からないが、ことりとお話しながら歩いているといつの間にか人気のない公園まで来てしまっていた。その公園にあったベンチでとりあえずいったん休むことに。

 

 

「結構歩いちゃったね」

 

「そうだな~、ことりはきつくない?」

 

「一哉くんと一緒だから平気だよ!」

 

「ふふ、そっか」

 

 

 ことりが大丈夫かどうか心配だったのだが、流石はスクールアイドルだけあって全く問題ないらしい。そして、俺と一緒だからと言ってくれたのがすごく嬉しい。

 青葉が生い茂るこの季節、吹く風にも少しの熱を感じる。でもそんな熱さも気にならないくらい、今の俺たちは熱いだろう、なんてね。

 

 

 グゥゥゥゥゥゥ

 

 

「あっ」

 

 

 思い切り大きな腹の音が響く。そういや朝ごはんも食べないで来たんだっけ。

 

 

「ふ、ふふっ」

 

「わ、笑うなよ」

 

「ごめんね、ふふっ!」

 

「こらことりぃ!」

 

「きゃー♪」

 

 

 腹の音を聞いてことりが笑いだした。恥ずかしくはあったが、楽しそうに笑うことりを見てるとこっちまで嬉しくなってくる。

 笑い終わってすぐ、ことりがバッグを開け、何かを取り出そうとしていた。

 

 

「ことり?」

 

「えへへ、実は今日、お弁当を持ってきたんですっ」

 

「え!?」

 

「ことりの手作りお弁当ですっ♡」

 

 

 取り出したのはお弁当箱、しかも中身はことりの手作りらしい。やばい、嬉しくて涙出そう。

 

 

「一生懸命作ってみたんだぁ」

 

「ことり、嬉しいよ!」

 

「えへへ~! じゃーん!」

 

「おぉ~!」

 

 

 ことりが開けたその弁当箱には、きれいに盛り付けられたおかずたち、そしてサンドイッチ。

 

 

「すげえ、めっちゃうまそうじゃん!」

 

「そうかなぁ、えへへっ。これ全部一哉くんに食べてもらいたくて作ったの」

 

「え!? これ全部俺に!?」

 

 

 2人分にしては小さめな弁当箱だとは思っていたが、全て俺に食べさせるためだけにもってきてくれたらしい。でもそしたらことりの分は……?

 

 

「ことりのことは心配しないでいいよっ。一哉くんに食べてもらえればそれで十分だもんっ」

 

 

 無いらしい。

 

 

「こ、ことり、本当にいいのか?」

 

「うんっ! だから、食べてほしいなぁ」

 

「ありがとうっ、いただくよ!」

 

「やった~っ」

 

 

 それでも俺に食べてもらいたいらしいことりは、箸でおかずをつかみ、俺の口元に持ってくる。

 

 

「はい、あーん♡」

 

「っ……あ、あーん」

 

 

 まるでいつもやっているかのようなノリで、人生初のあーんを経験することに。夢にまで見た光景に心の中で歓喜しながらも、おかずを咥える。

 

 

「美味い! 美味いよこれ!」

 

「そ、そう? 嬉しいっ」

 

「こんな美味いの食べたの初めてだ!」

 

 

 初めにくれたのは卵焼き。綺麗な黄色に少しだけ焦げ目をつけていて、上手い具合に焼けている。ことりのイメージぴったりの甘めの卵焼きだったが、まさしくそれが俺の好物。甘い卵焼き好きにはたまらなかった。

 

 

「えへへ……こと……えき……えへへっ」

 

 

 卵焼きを味わう横で、ことりは嬉しそうに顔を赤らめ、何やら独り言を言ってるみたいだが、そこまでは聞き取れなかった。

 ことりは嬉しそうに次のおかずを箸でつかみ、再び

 

 

「あーん♡」

 

 

 人生二度目のあーんの瞬間を味わせてくれた。やっぱりことりは最高だ。

 

 

「あーん……ん!? これもすごく美味いよことり!」

 

「えへ、えへへっ」

 

 

 次にあーんしてくれたのはハンバーグ。いい感じに焼き目の入った美味そうなハンバーグは、やはり美味かった。にしてもこのハンバーグ、今まで食べてきたのと少し違った味がする気がする。隠し味でも入れてくれたんだろうか?まぁだとしても聞かないでおこう、せっかくことりが頑張ってくれたんだから、それを聞くのは野暮だろう。

 

 

「ことりの――――が一哉くんの中に……」

 

「え?」

 

「え!? ううん、何でもないの!」

 

「え? あぁ」

 

 

 またことりが何かを言っていたが聞き取れず。独り言が癖なんだろうか? 新しい発見だ。

 

 

 

 そのあともことりから食べさせてもらいながら、弁当を味わうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~、美味かったよことり、ごちそうさま」

 

「はい、お粗末様でしたっ」

 

 

 ことりは可愛らしく敬礼のポーズをとり、嬉しそうに笑っている。やっぱり可愛いわ、ことり。裁縫出来て料理も出来て可愛くて、言うこと無しだな。

 食べ終わった弁当箱を一緒に片付けているとき、ことりが切り出した。

 

 

「か、一哉くん」

 

 

 少しだけ緊張気味なその声に、少しだけ俺も緊張してしまう。

 

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「あ、あのね一哉くん……」

 

 

 赤く染めた頬、そして人差し指をきれいな唇に当て、こう言った。

 

 

「ご、ご褒美、ほしいな」

 

 

 色っぽいその仕草、そして徐々に近づけてくる唇。

 え、まってそういうことなのか? 初めての経験に混乱する俺。ことりのきれいな顔が徐々に近づく。

 

 ことりが目を閉じた。

 

 ことりはそこで、近づけるのをやめた。たぶん、俺からするのを待っている。

 

 "ご褒美"、そうだ、ことりは俺のために頑張ってくれたんだ。なら俺も頑張るしかない。

 

 勇気を振り絞り、俺も徐々にことりの唇へ近づけていく。

 

 少しづつ、少しづつ――――――――

 

 

 

 

「んっ……」

 

 

 

 

 触れあう。

 

 その感触は、生まれて初めて味わう感覚で、思わず夢うつつになる。現実であることを確かめるため、ことりを抱きしめる。

 

 

「ん……っ」

 

 

 この温かさ、柔らかさ、間違いない現実だ。

 

 

 

 そっと、唇を離していく――――

 

 

 

 

 

「一哉くん……好き」

 

「ことり、俺も好きだ」

 

 

 唇こそ離したものの、身体は抱き合ったままで、互い見つめ合う。

 

 人生初めてのキス、相手はずっと憧れていたことり。嬉しくて、嬉しくて。

 

 

 永遠に――――このまま時が止まってしまえばいいのにと思いながら、俺たち二人はずっと抱き合っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰宅後、南家。

 デートを終え、空になった弁当箱を洗いながら、ことりはつぶやく。

 

 

「えへへ、喜んでもらえたぁ」

 

 

 

 

 

「ことりお手製、唾液入り(・・・・)卵焼きと、血液入り(・・・・)ハンバーグ」

 

 

 

 

 

「美味しいって褒めてもらえた……嬉しいなぁ」

 

 

 

 

「でも、き、キス、してくれるのが分かってたら、唾液入れなくてもよかったかな。反省反省」

 

 

 

 

 

「また次も、喜んでもらえるように頑張っちゃおうっ」

 

 

 

 

 

 

 デート中のつぶやきを、一哉は知らない。

 

 

 

 





いかがでしたか?
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