前回、2年ぶりの更新であったにも関わらず、たくさんのお気に入り・感想・評価をいただけて嬉しかったです、ありがとうございます!
これからもよければお付き合いください!
今回はタイトル通りの回。
前回、一哉は覚悟を誓ったものの、あるメンバーからの話を聞いてしまい・・・・・・
anxious:心配、不安
特別教室で授業が行われている中、俺は授業の内容もそこそこに、さっきすれ違った矢澤先輩の異様な雰囲気を思い出していた。
遠目から見ても分かるであろう目の下の濃いクマ、そして虚ろな目。少なくとも昨日の矢澤先輩の目はしっかりとしていて、クマなんてなかった。
あと、目の方に意識が行き過ぎていてその時は何も思わなかったが、髪もやたらと荒れていたような気がする。まるで起きてから一切整えないで学校に来たかのような。
人前に立って踊ったり歌ったりしているような女の子とは思えないような、そんな有様。たとえアイドルをやっていなかったとしても、年頃の女の子なら多少は気にしていそうなものなのに。
考えはいろいろ頭に浮かぶけれど、どれもしっくりこない。
例えば、俺とことりがそういう関係になっているのが
3年生だから進学のための勉強をするために徹夜でもしたのか? と考えたりもしたけれど、そもそもテストはまだ先の話だし、徹夜までして勉強をやることにメリットを感じるようなことはない。
近いうちにライブイベントは控えていないそうで、ことりもここ最近は俺にべったりというような状態。別にイベントの準備に追われているから寝れていないというわけでもないはず。
俺の頭の中で思いつく可能性はこのくらいで、他に思いつくのは、少なくともあんな状態にまでなるようなことではない。
なら、なぜ?
モヤモヤした頭を少しでもリフレッシュしようとして、窓の外でも見ようかと思った時だった。
「・・・・・・っ」
「っ!?」
窓際に座っていることりが、俺の方をジッと見ていたことに気がついた。
ことりは俺と目が合うと、にっこりと笑った。
そう。
思わず身を震わせてしまった。
あまりにも考え込んでしまっていて、ことりに見つめられていたことに気付かなかったことに驚いたが、あの寒気のするような鋭い目つきを見た途端、身体がいうことを聞かなくなった。
目が離せない。あの鋭い目から。
怖くて身体が固まってしまっている、まるで金縛りにでもあったかのようだ。
額に冷たい汗が浮かぶ。息も苦しいような気がする。
どうして、どうして口だけ笑ってるんだ。
どうして。
どうして────
「・・・・・・月くん? 皆月くん?」
「ひっ!?」
俺を呼ぶ声に驚きすぎて、思わず膝を思い切りあげてしまい机の下に強くぶつけてしまった。
声の方に顔を向けると、きょとんとした表情で先生が俺を見ていた。
「皆月く~ん? 授業中によそ見はダメですよ~?」
「は、はい。すいませんでした」
わざとらしく、子供を甘やかせるような声色で注意する先生に、俺は軽く荒れた呼吸を整えながら返事する。周りからはクスクスと笑い声が聞こえる。
かいた汗を軽く拭いながらも、見たくはないが見なきゃいけない気がして、変わらず送られてくる視線に再度目を向けた。
クラスが和やかな空気に包まれている中。
ことりは、
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
昼休み、少しの不安を感じながらも、いつものようにことりと昼飯を食べるため、準備をしていた。
「あれ?」
しかし、ことりの姿が見えない。
まだ昼飯に行く前だった高坂たちを捕まえて聞いてみたが、高坂たちも知らない間にいなくなってしまったらしい。
いつもだったら、俺が誘うより早くことりの方から来てくれるし、何かあって一緒にいられないときは連絡をしてくれていた。ただ今回に関しては、スマホのメッセージアプリにすら連絡が来ていない。
何か嫌な予感がする。特別教室での件も相まって、すごく不安に感じる。
探しに行こう、そう思って席を立った瞬間だった。
「あ、あのっ!」
右の方から、少し緊張しているかのような声で俺を呼ぶ誰か。
「あ、あなたが、皆月先輩・・・・・・ですか?」
振り向いて確認したその顔には、見覚えがあった。
俺はその子についてくるよう言われたため、ことりにメッセージアプリで伝え、まだ教室にいてくれた高坂たちにも声をかけた上で、その子についていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その子に呼び出されたのは、学校で飼っているアルパカの小屋のすぐ近く。あまり人が寄り付かない、こんな静かな場所に呼び出されたのは今までで初めてだ。
歩くのを止めると、その子はもじもじしながら俺と向き合う形で正面に立ち、話し始めた。
「わ、私、
そう、俺を呼び出したのは、小泉花陽だった。
わざわざ自己紹介なんてしてくれなくたって、充分知っている。なぜなら、この子もことりと同じ、μ'sのメンバーだからだ。
でも、こうやって直接話すのは、昨日の矢澤先輩と同様に初めてだ。
こんな場所に呼び出されたこともあり、俺も少し緊張する。
小泉さんは続ける。
「さっそくなんですけど・・・・・・あ、あの、皆月先輩って、ことりちゃんと────お付き合いしてるって、本当なんですか?」
恐る恐る、といった様子で俺に尋ねてきたのは、ことりとの関係だった。
矢澤先輩の件にしてもそうだが、ことりから直接メンバーに報告したというのは、高坂と園田以外にはいないらしい。余計にことりが何を考えているのか分からなくなる。
伝えるメンバーを限定したかったのか、あるいは幼馴染2人だから打ち明けたというだけなのか、それとも。
考えるのもそこそこに、不安そうに見つめてくる小泉さんに、俺は答えた。
「うん、俺はことりと付き合っているよ」
それ聞くと、小泉さんは黙り込む。
不安そうな、悲しそうな。何とも言えない表情で。
「何かあったのかい?」
何となくだが、その表情の訳が分かっていた上で、あえて俺はそう尋ねた。
「あ、あの」
言いづらそうに小泉さんは口を開く。
「さ、最近、ことりちゃんの様子がおかしいんです」
予想は当たっていた。
ことりとの関係を聞いてきた時点で嫌な予感はしていたんだが、どうやらことりはμ'sのメンバーの前でも様子がおかしいようだ。
悲しそうな顔で俯きながら、小泉さんが続ける。
「ちょっと前からのことなんですけど、1つの練習が終わるたびにスマホを開いては、嬉しそうにしているのをよく見るようになったんです。今まではそんなにスマホを見ることなんてなかったのに。それだけだったら、皆月先輩からメッセージが届いたからっていうことで、今なら理解ができるんです。だけど」
小泉さんの声が一瞬止まる。そして、つばを飲み込む。
「た、たまに、すごく怖い目をしている時があるんです────っ!?」
怖い目、その言葉を出した後の小泉さんは、急に何かに怯えるような様子に変わった。
「い、今も! 何でなのかは分からないんですけど、その目を見た時の怖さを感じるんです!」
「今も?」
「は、はい! 気のせい、だとは思うんですけど」
気のせいだと言いながらも、落ち着きのない様子で周りを見渡している。一応俺も周りを見渡してみるが、やはり誰もいるようには見えない。確かに隠れられそうな場所はいくつかあるけれど、俺には人の気配なんて感じられないから、小泉さんの気のせいじゃないかと思える。
ある程度周りを見渡して、誰もいないことを確認し安心した表情を浮かべる小泉さんが、話を続ける。
「何を考えているのか分からないような、そんな目をしてるんですけど、私から見るとそれがすごく怖く感じるんです」
何を考えているのか分からない、おそらくそれは、俺が前に何度か見た、あの感情のない目と同じものだろう。その怖さを今感じたのだとしたら、急に落ち着きがなくなって、周りを見渡したくなるのも分かる。俺も同じ反応をするだろう。
「目つきの話だけだったら別によかったんです。それ以外は別に変わった様子は見られなかったので」
小泉さんは、再度周りを見渡し、少し震えた手を胸元で抑えながら、続ける。
「で、でも、にこちゃ・・・・・・矢澤先輩から今朝、こう言われたんです」
「"ことりには近づくな"、って。昨日までとは全く違う雰囲気の矢澤先輩から」
一瞬、俺の身体が固まった。
小泉さんも、あの矢澤先輩を見ていたらしく、その上忠告までされていたなんて思ってなかった。
しかしそのおかげで、矢澤先輩があんな状態になってしまった理由が、ようやく分かった。
ことりに何かされたんだ。
俺にならまだしも、μ'sのメンバーの前ですら、あの雰囲気を出している。それどころか、内容は分からないが、矢澤先輩をあそこまで追いやるほどの何かを、ことりはやったらしい。
ことりが時折おかしくなるのは俺も充分知ってるし、そのことを知っているのは俺だけだと思っていた。加えて、あの状態になったことりから迫ってきたとしても、あそこまでやられることはないと思う。
だとしたのなら、まだ俺が知らない、ことりの本性があるのかもしれない。
もう少し、そのことを聞きたい。
いつ、どうやって、何をことりがやったのか、知りたい。
そんなことを小泉さんが知っているとは思えないけど、少しでも情報が欲しくて、小泉さんに問いかけようとした。
「ねえ小泉さん」
その時だった。
「一哉く~ん? どこかな~?」
よく知っている、見た目通りの柔らかな、だけどどこか不気味さを感じさせる声で俺を呼ぶ。
俺と小泉さんはその声に驚き、顔を見合わせる。
小泉さんは、矢澤先輩からの忠告があったからだろう、少し泣きそうな顔をしながら、慌ててお辞儀をした後、声のする方とは真逆に駆けていった。
残された俺は1人、その場に立ちすくんだまま声がする方を見続ける。
「どこですか~?」
呼ぶ声が徐々に近くなる。
自分の彼女だ、別に怖がる必要なんか何もない。今はもう小泉さんは近くにいない。昨日絶対に別れないって誓ったばかりじゃないか、会いたくない理由なんてないはずだ。
なのになぜだろう。
今はその姿を見るのが、何よりも怖い。
メッセージアプリで、小泉さんと少し話してくるとは伝えたし、ここに着く前に、高坂から、ことりには伝えたと返事が来ていたのは確認した。特に怖がる理由はないはず。
声と共に、足音が近づいて来る。
もう、すぐそこまで来ている。きっと、俺が呼べばすぐに顔を出すのが分かるくらいには近くにいる。
呼吸が苦しくなる。見つけられた俺は一体、どんな態度で、どんな言葉をかけたらいい? そんなことすら分からない。
分からない。分からない。
どうすれば────
呼ぶ声が止まった。
足音も聞こえない。
「え?」
思わず声が漏れる。
それはあまりにもまぬけで、情けない声だった。
でも声が出たおかげで、少しずつ身体から力が抜けていくのが分かる。
荒れた呼吸を整えながら、ホッと胸を撫で下ろした。
「見つけましたぁ」
「っはぁっ」
「やっと見つけられたぁ」
突然の、背後からの柔らかな声と身体に、発作でも起こしたかのような、声にならない声が漏れる。
震えることもなく、ただただ硬直する俺の身体に、絡みつくように抱きつく。
「メッセージ届いたから探したんだよぉ?」
「あ、あぁ、ごめんな」
甘えた声で、少し安心したような声色。
一昨日までの俺なら、すぐにでも振り向いて正面から抱きしめ返すだろう。
けど、今の俺にそこまでの勇気がない。
というより、さっきまで聞いていた話が頭をよぎって、まともに対応できる気がしない。
どうしても、ことりが何をしたのかが知りたい。
でも、ことりに直接それを聞くのは、危ない。そんな気がしてならない。
それなら、と、俺は1つ、決断する。
昨日ことりに、勝手に女と会わないと言ったばかりではあるけれど、そうでもしなきゃ、俺はまともにことりと接することができなさそうで怖いから。
俺は
矢澤先輩に直接話を聞きにいく。
ことりちゃんがメインなのにことりちゃんの出番少なくない???
チュンチュンしちゃうぞ????
と思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、ご安心くださいね。
多分、今だけです。