ワンパンマン ~機械仕掛けの弟子~ 作:Jack_amano
「じいさん こいつを任せるぞ」
そんな先生を、俺の横でただただ驚きを込めて見つめるS級ヒーロー3位の老人バングに優越感を持ちつつも、フルパワーで焼却砲を撃ち続けた為にエネルギー切れになりかかった俺は、身動きも出来ずにZ市が打ち砕かれた隕石の破片によって崩壊していく様を見ているしかなかった。
先生が破壊した隕石の破片は、容赦なく俺達にも降り注ぐ。
「ジェノス君、動くな。まぁ言われなくてももう動けんじゃろうが守っちゃる」
事態を予測していたバングは静かに俺の前に立ち
く、悔しいがバングの言う通りだ。
先ほどまで
先生程の素晴らしい破壊力はない。だが、流れるような手刀の動きは、確実に俺達目掛けて落ちて来る隕石の
ビルの群れが―――崩れる。町全体に崩壊の波が広がっていく。
巨大隕石の直撃を免れ、Z市消滅という危機を免れてはいても、その破片による二次被害は計り知れなかった。
情けない。もう少し俺に余力があれば、落ちて来る隕石の欠片を処分する手伝いが出来たのに。
今の俺は自分の指すら動かす事もままならない。
俺達が足場にしていたビルに隕石が突き刺さり、土台が壊れる。
緊急の事態、バングは老人の癖に、200キロは有にある俺を軽々と
S級ヒーローの実力者ともなるとこれが普通なのか。先生がS級10位以内を目指せと言っていた意味に気付き、自然と
―――つまり、俺は先生に
先生と会うまで、もはやあの暴走サイボーグ以外に負ける訳がない。と思いこんでいた俺は、なんてことはない、ただの井の中の蛙だったと言う訳だ。
「さて、これからどうしたもんじゃろうな」
人の好い年寄りの顔に戻ったバングは、俺を地面におろし、肩が
「本体に故障はない… このまま置いて行ってくれ。1時間程すれば自力で動ける」
本体の損傷率は5パーセントにも満たない。この程度なら研究所に救援要請のビーコンが送られる事もないだろう。
「そうはいかん、彼から頼まれたんじゃからのう」
バングはここから移動すべきかどうか悩んでいるようだ。
先生。
サイタマ先生はご無事だろうか?
生体アラートに回せるエネルギーがなかったので、先生がどこ無事に着地したのかすら掴めない。
俺のモニター内ではエネルギー切れを警告するアラートが点滅し、システムダウンまでのカウントを始めている。
本来ならば速やかにスリープモードに移行し、生体維持エネルギーの回復に努めなければならないのだろう。が、それは先生の行方が気になり過ぎて、俺には行動に移せなかった。
サイタマ先生が、まるで散歩でもしているかのように、のんびりと俺達の前に現れたのはそれからすぐ後の事だ。
「サンキュー、じいさん助かった」
俺達を見つけ、何事もなかったかのようにやって来た先生は、バンクにそう声を掛けると軽々と俺を担ぎ上げた。
あの高さまで宙を跳び、足場のない空中で隕石を破壊し、尚且つ着地を決める。一体、先生の運動エネルギーはどれ程だったのだろう?
――――――
「行くぞジェノス」
「 …はい…」
モニターが徐々に暗くなっていく――― 不味い。とうとうブライトネスがマイナス値の判別し辛い値にまで移行し始めた。
「 …不甲斐ない…弟子…で申し訳ありません… 」
「? 良くやったと思うぞ。お前の焼却砲のお蔭で距離感つかめたし、お前が何処にいるかも分かったんだ。気にすんな」
いえ、先生だけならばもっと素早く行動出来ていたでしょう。
こんな事ならヒーロー協会から呼び出された時、先生に一緒に付いて来て下さいとお願いするべきでした。
全くもって油断した。俺は協会の押し付けて来る厄介事のレベルを甘く見過ぎていた。
「えぇっと――― なんとかって博士に連絡するか?」
「いえ… 単…なるエネルギー不足なの…で 休めばなんとか… 」
"そうか"なんて答えながらも、先生の足はサクサクと前に進んで行く。
重量のある俺が乗っている先生の肩はメカである俺よりも薄い。なのに楽々と俺を乗せているそれが、単なる人間と同じ構成物質とは到底思えない。
先生の強さは本当に筋力的な物だけなのか、それとも他にも理由があるものなのか?
後者ならばまだ俺にも強くなるチャンスはあるかもしれない。
けど――――――――――――
「じゃあこのまま家に帰ろう。俺が付いてるから寝とけ」
「申し…訳…ありません…オチ…ます」
帰ろう――― 今、先生は帰ろうと言っただろうか?
『帰ろう』
それだけの言葉なのに、なんだか頭の中が暖かく感じるのは何故だろう?
無機質なラボではなく、今の俺には普通の人のように帰れる場所がある。
帰ろうと言ってくれる人がいる。
暗いモニターに吸い込まれるように、そこで俺の意識は途切れた。
『システムダウンより5分経過。"
サイタマが担いでいたジェノスから小さな電子音が響いた。
と、ともに、力なく俯いた頭に意志が灯り、人形の様に無表情な顔がサイタマを見上げる。まるでそうなるのが判っていたかのように、サイタマは聞きたかった事を訊ねた。
「おい、本当に怪我はないんだな?」
サイタマがこの男に会ったのは、前回の蚊の怪人の時と合わせてこれで2回目だった。
「はい。損傷は外付けパーツのみ。本体に損傷はありません」
ジェノスの口から出る声は、いつものそれとは違い若干低く、そしていつもにまして平坦だ。
だが―――――
「 …お前はジェノスの補助電脳なんだよな?」
「はい。俺はジェノスの生存率を上げる為の緊急AI。"GENOS:β" です」
サイタマが聞きたかったのは、そういう答えではない。
電脳なんて物にはとんと
だが、今はこの疑問を解決するよりも、緊急AIが起動するほど
「で、これからどうすりゃいいんだ?」
無人街に向かいつつ、その肩に担ぎあげていたジェノスだがジェノスではないモノに訊ねる。
「はい。有機物を分解出来るだけのエネルギーが溜まれば再起動します。後、燃焼効率のよい物を口径摂取させて下さい」
口径摂取? つまり、なんか食わせろって事か? いちいち小難しい言い方しやがって。と、思いながらサイタマは口を開いた。
「燃焼効率のいい物って――――― 」
おかゆとか? とサイタマが続ける前に平坦な声が割り込む。
「ガソリン等の油成分が推奨されます」
!
「いやいやいやいや!ダメだろそんな悪食!味覚あるんだろ?普通の飯じゃダメなのか?!」
「はい。代用出来ます。が、効率は落ちます」
そう言えば、初めてあった頃、"自分には必要ない"とジェノスは頑なに食事を拒んでいた事をサイタマは思い出した。
サイタマは遠慮して断っていたのかと思っていたが――― どうやらそれは違ったらしい。
「お前―――うちに来るまで一体何食ってたんだ?」
「 ……主にオイルを摂取していました」
サイタマが気になっていた一つがこの間だ。この、気不味くなった時の会話の間すらAIに組み込まれているとでも言うのだろうか?
だがサイタマは少し安心した。どうやら"GENOS:β"もオイルを食べる事には否定的らしいという事に。
「時間かかっても普通の飯がいいだろう。人間なんだから」
サイタマはあのガソリンスタンドの臭いが嫌いだ。深夜は時給がいいし、バイトをしてみようかと考えた事もあったが、空きっ腹の時にあの臭いを嗅ぐと眉間に皺が寄る。そしてサイタマは大抵食べる事に苦労していた。
あんな臭いモノ、絶対クソ不味いに決まってる。
嗅覚は人よりずっと感度が高いと言っていたジェノスが、効率の為だけにかんど嗅覚を切ってまでガソリンを飲み干す図は、彼には容易に想像がついた。
最近、ジェノスは旨そうに飯を食うようになった。とサイタマは思う。
サイタマを手伝おうと、料理もするようになった。
最初は、米を洗おうとして力を入れ過ぎ、粉々にしてしまったり、食材を切ろうとして包丁の刃を潰したりなんだりと散々だったが、黙々と努力して… 今は玉子も綺麗に割れる様になった。(まぁその練習の為に卵料理が続いたりしてしまったが―――)
お世辞にもけっして上手とは言えなかったが、バカ真面目に取り組む姿勢には感情が薄れてきたと思っていたサイタマにも思うところがある。
ここでまた効率重視に戻ってしまうのは何だか良い事ではないような気がした。
「何か――― 好きな食べ物はないのか?」
「 …ジェノスは――― オイルサーディンが好きです」
「え? 酒のつまみじゃねぇのアレ」
イワシのオイル漬け、マイナーな食べ物だが、サイタマは飲み屋でバイトしていた頃に扱った事はある。
「両親の故郷の特産です」
そう告げるAIのジェノスの言葉に、微かに感情が入っている事にサイタマは気付いていた。
そして彼は聞き逃していた。AIが、質問してもいない事に答えているという事実を。
『再起動終了:プログラム正常作動確認』
起動音と共に、視界がクリアーになる。と、博士の研究所とは違う、見慣れない白い天井が目に入った。
▶現在位置:Z市無人街・サイタマ先生宅
▶現在時刻:――――――
どうやら俺はサイタマ先生の布団をお借りしていたらしい。
何時もは横にならず、片膝をついた状態でスリープモードに入っていた為に先生のお宅の天井をまじまじと見たことがなかったから、ここが何処だか気付くのが遅れたのか。
あれから一時間以上たっている。
メンテナンス中の培養槽の中でもないのに悪夢も見ずにこんなに長時間寝るなんて――― 久しぶりだ。
強制終了だったから夢を見ないですんだのか?
こんな状態になった時は何時も検査台の上で目覚めていたから考えた事もなかった。
「起きたか?」
俺の気配に気付いたのか、フライパンを
――――――サイタマ先生。
「申し訳ありません。先生のお手を
「今飯にするからちょっと待ってろ」
「いえ、お気になさらずに。食用油か何かを頂ければ事足りますので。しかし先生の身の回りのお世話は弟子の仕事だと言うのに、厨房に先生を立たせてしまうとは… 」
「気にすんな。家事なんてその時出来る奴がやりゃぁいいんだ」
「はぁ」
情けない… 言いたくはないが、先生は俺よりずっと料理が上手い。
こんな事なら人であった時に部活動などに
「もう出来る。動けるか?」
「はい」
動きはぎこちないが動作に不備はない。
起き上がろうとして、頬から剥がれ落ちる基盤の欠片に、俺は腕に装着していた外付け拡張アームズモードが取り外されている事に気が付いた。
先生が力付くで解除したのだろうか?
テレビの不具合でさえ叩けば直ると豪語する先生にかかったら、こんなロック解除のスイッチなぞ意味をなさない物なのかもしれない。
後で密かに起動チェックをしなければ… まさか初めての実戦使用で最大出力のデータを取る羽目になるとはクセーノ博士も思わなかったろう。
「…なんですかこれは?」
目の前に運ばれてきた料理に、思わず心の声が漏れてしまう。
香ばしい良い香りだ。
ざく切りのキャベツに、イワシのオイル漬け、味にインパクトを与えているであろう鷹の爪は、美しいコントラストで白い麺にトッピングされている。だがその"ヤマザキ春のパン祭り"で手に入れたであろうワンプレートの白い皿には、フィットチーネの様に太く、その皿の様に白い麺が――――――
「なにって… オイルサーディンとキャベツのペペロンチーノ・
「 …… 」
饂飩。オイルサーディンにうどん。
先生がうどん好きとは知ってはいたが、まさかオイルサーディンにうどんとは…
「仕方ねーだろ。隕石でライフラインが止まってるんだ。何時復旧するか分からないし、スパゲッティ
「は、いえ、先生の手料理にケチをつけるんて…そんな…」
濡れタオルが手渡され、手を拭く様に
確かに。
この建物は屋上に貯水タンクがある物件だが、無人街の中だ。早急なライフラインの復旧は望めないだろう。必要ならば自分達で直さねばならないかも知れない。
先生は机の上にグラスと牛乳を置くと、俺の前にどっかりと腰を下ろした。
「お前は本当にバカ真面目だな。ちよっとは冒険してみろよ。大体、主食に合うもんはメインが麺だろうと米だろうとパンだろうと合うもんなんだよ。食いもん屋で出る
なるほど。
「つまり、良い素材は相手を選ばず活躍できる。戦いにおいても、何時もの攻撃方法に頼るのではなく、応用を考えよと先生はそう
「そこまで言ってないんだけど」
「勉強になります先生!」
急いでノートを取り出し、今の教えを書き込もうとして先生に止められる。
「食事中にノートはとるな。熱い物は熱いうちに、冷たいもんは冷たいうちに食わなきゃ美味しくないだろうが」
はっ! それはつまり―――
「どんな攻撃も機を逃せば効果は半減という事を仰りたいのですねですね?!
これもしっかりと覚えておいて、後でノートに書かねば。今日は先生の素晴らしい活躍と教えとでノートが一冊埋まるかもしれない。
先生は何か遠くを見るような目つきで口を開いた。
「うん、もういいから。さっさと食おう。こんな時でもお前は通常運転なんだな」
二人でどちらからともなく『いただきます』と声を掛け、箸を取る。
オイルサーディンのペペロンチーノか… 考えてみれば久しぶりだ。人だった時に食べたきりだから4年ぶり、か。
昔はよく二人して、母さんに頼んで作ってもらったっけ。
……………
先生の作って下さったオイルサーディンとキャベツのペペロンチーノの饂飩は、なんだか優しい味がした。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
更新遅くなってすいませんでした。
なんかジェノスの家族構成、サイボーグの設定、捏造もりもりですがお許しください。
これからもっと捏造します。
時期に狂サイボーグにも会う予定。
もう少し長くなりますがお付き合いの程宜しくお願いします。
ところで!
村田先生版103話!かっこよかったですね~!
駆動騎士やべぇ!!番犬マンもすげぇ!なんだ豚神~!
やべぇよ・・・やべぇよ! はやく!はやく続きを!!
うおぉぉぉぉぉぉ!
あ、アニメ化二期決定おめでとうございます!