ワンパンマン ~機械仕掛けの弟子~   作:Jack_amano

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弟子入り

 あれから何度もサイタマ先生のお宅を訪ねたが、先生は『他人なんだから帰れ』という割には、俺を家に上げてくれ、お茶を飲みながら雑談をし、パトロールがてら一緒に買い物に行って、共に食事までしてくれる。 

 

 だがそこまでは行っても、弟子入りとなるとどうしても首を縦に振って下さらない。

 理由を尋ねると、『筋トレだけで強くなった俺から学ぶ事なんて何もないだろ』と答えが返ってくるのだが――― そんな事はない。

 ここに通って先生と行動するだけで、ストレス値が下がって義体とのバランスが上手く行っているとクセーノ博士が言っていた。

 事実、俺はこのところ、生体と義体をの接続を安定させるアンプルを必要としていない。

 先生と頂く食事は、俺に、自分が切り捨ててきた物にも意味がある事を教えてくれた。

 

 

 

『先生!』と、何時もの様に扉に向かい声をかけようとして、俺は部屋の中に生体反応が無い事に気が付く。

 ―――? いない?

 珍しい。昨日、何処かに行くと言っていたか?

 先生との会話をリプレイしてみても、該当する項目はない。

 もしかして―――しつこく通い過ぎただろうか?

 

 そう言えば、昨日先生が…『お前ね、三国志の"三顧(さんこ)の礼"じゃないんだから、何度来ても弟子にはしないよ?』と言うので『先生、"三顧(さんこ)の礼"は目上の者が格下の者の許に三度も出向いてお願いをすることで、俺と先生は当てはまりません』と言ったら『お前は"三国無双"マニアか?』って()ねてたな。

 俺が読んだのは『吉川 英治』のですけど…いや、まさかそれ位の事で怒らないですよね?

 

 なら――― 携帯を取り出し、webニュースでヒーロー協会が出す警戒警報を開く。

 先生が災害報道番組を見て、何かを退治しに行ったかもしれないと思ったのだ。

 

 F市でテロリストの暴動か… 大した事はないな。Z市(ここ)からは離れすぎているし、先生が行かれるほどの事ではない。

 閉じようとしたその時、ヘッドラインの注意喚起(ちゅういかんき)が目に入った。

 そこにはご丁寧に、"桃源団(とうげんだん)の構成員の頭は、スキンヘッドで統一されています。外出された際にスキンヘッドを見かけたら、すぐにその場を離れて下さい"とあった。

 

 ――――――これだ。

 先生は、ご自分とテロリストのハゲが(かぶ)る事を気にされて退治しに行かれたのだろう。

 俺も行くか、上手く行けば新型バトルスーツのテロリストと先生との闘いを見れるかも知れない。

 

 

 

 

 F市――― 広大な林に囲まれた大きな神社と、歌にまでなるほど有名な川が流れている都市だ。

 ここまで来れば、騒ぎでテロリストがいる場所が判明するかと思ったが… 聴覚レベルを上げて広域音を拾ってみても、そんな様子はない。

 もう決着は付いてしまったのか?

 さてどうしよう、ツイッターででもつぶやいてみるか?

 

 そう考えていると、突然、上空で大きな破壊音がした。

「うんこが爆発した!!」

 誰かの叫び声。

 見上げると、高層ビルの屋上に設置してあった、大きな金色のモニュメントが落下してくるところだった。

 事態に気付いた人々が、パニックになって逃げまどっている。

 一人の女が、転んだ。その上に落ちてくるモニュメント。

 

 危ない!

 俺は女を(かば)う位置に飛び込むと、両腕のリミッターを解除した。

『マシンガンブロー!』

 

 後で知ったが、金色のモニュメントは、大富豪ゼニールが金運を呼び込むために自宅に設置した、金のう〇こ型開運グッツだったらしい。

 それを俺が破壊したからかどうかは知らないが――― その日を境にゼニールの株は暴落した。

 

「ありがとうございました」

「気にするな。それより、桃源団がどこにいるか知らないか?」

 女は林の方を指さした。

 …モニュメントを壊した岩が飛んで来たのもそっちの方だな。もしや、これは先生達の戦いの流れ弾か?

 何度も繰り返して礼を言う女を残し、俺は急いで林に向かった。

 

 

 

 

 無残に転がる男達の死体――― 20人ほどいるだろうか? 

 臭気センサーに反応した血液の臭いに導かれ、現場にたどり着いた時、そこには生きているものはいなかった。

 全員がニュースで言っていた新型バトルスーツを着込んでいる。

 ()ったのは先生ではないな。先生は刃物は使わない。いや、使う必要がない。

 

 きれいな切り口だ… すべて装甲がない首を切断している。

 ―――という事は、バトルスーツごと殺れるパワーはないが、それなりにスピードがある者の仕業だろう。

 武器は多分、日本刀。力で押し切る西洋刀とは明らかに切り口が違う。

 

 まだ近くにいるのか?

 スキャン範囲を広げて生体サーチをかけても、それらしき反応は無し。

 

 俺は相当出遅れたらしい。

 死体の中に、主犯格の男の姿がないのは気にかかるが――― 先生は追って行ったのだろうか?

 

 …………探すだけムダだな。

 俺は死体の見分を終えて立ち上がった。

 もし先生が追っていたとしても、もう一撃でケリが付いているだろう。

 

 携帯を取り出す――― 注意喚起はまだ解除されてなかったが、この様子ではもうじきだ。

 やれやれ、無駄足だった。

 でも、まぁ一人は救えたからヨシとするか。

 

 …どうやらこの界隈(かいわい)では、神社の参道で売っている"雷おこし"と"人形焼き"が定番の土産(みやげ)らしい。

 明日の手土産はこれにしよう。

 

 

 

 

 机の上にはお茶と、俺が持参した人形焼。

 いつもならすぐに手をつけるのに、今日のサイタマ先生はロダンの考える人の像の様に(こぶし)を口元にあてたまま動かない。

 

「音速のソニック? 誰ですか? その頭痛が痛いみたいな名前の人物は?」

「わからん なんかいきなり現れてライバル宣言して去っていった」

 先生の話では、桃源団のボス"ハンマーヘッド"と戦い改心させた後、そいつを追って突然現れた忍者に勝負を挑まれ、成り行きで股間に拳をヒットさせてしまったそうだ。

 先生の拳ならさぞ痛かっただろう。もしかしたら女になってしまったかもしれない。

 まぁ、自業自得(じごうじとく)なんだが―――

「先生がお困りなら俺が消しますが」

「お前も厄介だな」

 何処の馬の骨かは知らないが、ただの忍者(ごと)きで先生のライバルを名乗るとは10万年早い。

 弟子志願のこの俺にボロボロにされて、身の程を思い知るがいい。

 

「てゆーか何でまた来たんだよ。帰れよ他人なんだから」

 そう本当に思うなら、家に上げてお茶まで出すのは間違ってますって先生。

「先生、俺は強くならなければ――― 」

「うるせええええええ」

 どうしたんだろう? 今日の先生は本当に何時もの余裕がない。

 

「俺は重大な問題に気づいてショックを受けてる最中だ! 今日は帰ってくれ! 頼むから!」

「重大な問題? 先生程の人が抱える重大な問題とはなんですか? 教えて下さい」

 これほど完璧な強さを誇る先生に、今更(いまさら)ながらの金欠とハゲ以外に何が問題あるというんだ?

 

「知名度が低い」

 

 あっ!

 

「俺が趣味でヒーローを始めてからもう3年たつ…… 今まで色んな怪人だの地底怪獣だのテロリストだの悪の軍団だのを退治してきた…

 他のヒーローが俺くらい活躍をしてる現場なんて見た事がない…!

 もはや誰もが俺の存在を知ってていいんじゃないか? もっとファンとかいても不自然じゃないだろ…! むしろこんなゴーストタウンで細々と暮らしてる現状がおかしいだろ!」

 

 確かに――― 俺もヒーロー活動を4年も続けているが、先生のようなヒーローの話は聞いた事もなかった。

 これ程までに強いのだ。都市伝説のような形ででも、噂になっていてもおかしくはない。

 

「昨日なんて言われたと思う?『お前など知らん』だってよ。あの街の住人も俺の事を完全にテロリストだと思い込んでやがった。前に怪人が出た時にやっつけたのは俺だというのに誰も覚えていなかった…!」

 

 何故だろう? ハゲに黄色いヒーロー・コスチュームなんて、一度見れば忘れないと思うのに。

 

「今朝のニュースだってそうだ。桃源団をやったのは"無免なんちゃら"ってやつと、名も告げず去っていった"金髪のサイボーグ"って事になってる」

 ……そう、今朝のニュースをみたら、桃源団を撃退したのはサイタマ先生でも音速のソニック(笑)でもなく、『無免ライダー』というヒーローと『金髪のサイボーグ(たぶん俺)』だという事になっていて驚いた。

 女に桃源団の居場所を聞いたのが不味(まず)かったらしい。

 

「…お前――― 本当に桃源団の手下ども、全員なで斬りにしたのか?」

 ?

「この菓子、あそこの神社の名前だよな?」

「確かに行きましたが――― 俺が行った時にはもう終わってました」

 どうしたんだろう? 先生がマジ顔だ。

「絶対だな?!」

「俺にブレードは装備されていません」

 あからさまにほっとした表情でサイタマ先生が目を()らした。

「ならいい」

「あの、それはどういう…… 」

 俺が先生の手柄を盗った形になるから怒った? いや、そんな小さい事にこだわる先生では―――

 

「怪人はともかく、人を裁くのはヒーローのすることじゃないだろ。勝手に死刑執行するような奴なら2度とうちに来んな」

 まさか、俺が人を殺したと思って怒った?!

 

「先生、お言葉を返すようですが、悪人は、高確率で怪人になります。犯罪被害を減らすためには――― 」

「人は変われる。それを信じなくてどう自分を信じるんだ。勝手に決めつけて終わりにすんな」

「!!」

 今の言葉、しっかり胸に刻んで、後でノートに写しておこう。

 

 

「わりぃ… ちょっと八つ当たり入った」

「いえ…」

 先生は間違っていません。確かに俺は、そうやってすべての悪を排除してきました。桃源団にはしていないというだけで―――

 今回も、出会っていたら、確実に殺る気でいました。

 

 …先生のお話は納得できます。

 ですが――― そんな状況になった時、俺は自分の腕を止められる自信がありません。

 でも努力します。それが弟子入りの条件ならば。

 

 ……………………

 

「先ほどの件ですが、先生」

「先生はヒーロー名簿に登録されてないんですか?」

「ヒーロー名簿?」

 俺は、先生にノートパソコンをお借りして『ヒーロー協会』のホームページを検索してみせた。

 

 『ヒーロー名簿』とは、全国にあるヒーロー協会の施設で体力テストや正義感テストを受けて、一定の水準を超えれば正式にヒーローと名乗る事を許され、登録される名簿だ。

 そうして協会に認められた者は、職業(プロ)ヒーローとして協会の募金に寄付された金額が、働きに応じて支払われるのだ。

 世間一般でいうヒーローとは、名簿に登録された職業(プロ)ヒーローの事であり、いくら個人で活動していても自称ヒーローでは妄言(もうげん)を吐く変態としてしか認識されず白い眼でみられる。

 俺は後者なのだが――― 幸い、まだ変態扱いされたことはない。

 

「………しらなかった」

「プロのヒーローが出てきたのは丁度3年前からです。大富豪アゴーニの孫が怪人に襲われたとき通りがかりの男性に助けられたらしく、その話を孫から聞いた時にこの制度を思いつき、私財を投じてヒーロー協会を設立したんだとか」

「ジェノスは登録してんのか?」

「いえ、俺はいいです」

 組織に組み込まれるのは面倒だ。

 正義活動だって、自分がやりたいからやっているだけで、別に人様に認めてもらいたい訳でもない。と言うか、俺にとって、見も知らぬ人間と馴れ合うのは苦痛でしかない。

 第一、俺にとっては復讐が目的で、正義活動は経験値稼ぎを兼ねた自己満足だ。

 

「登録しようぜ! 一緒に登録してくれたら弟子にしてやるから!」

 弟子に?!

 先生の鶴の一声。

「いきましょう!」

 俺は、一も二もなく賛同した。

 

 …あれ? このノリ、何かに似ているな。なんだろう?

 昔――― 高校時代にこんな光景を何度か見た事あるような―――

 そうだ。休み時間にトイレに行く女子高生だ。

 

 

 

 後日――――――

 先生と俺が、ヒーロー認定試験(ごと)きに落ちる筈がない。

 俺がS級、先生がC級認定というどうしても納得できない腹立たしいこともあったが、とにかく、俺達は職業(プロ)ヒーローになった。

 

 そして――― 俺はとうとう念願叶い、晴れて正式にサイタマ先生の弟子となったのだった。

 ようやくスタートライン、これからは気兼(きが)ねなく先生の強さを探る事が出来る。

 

 まず、手始めにサシでの手合わせをお願いしてみよう。クセーノ博士にお願いしていた、対サイタマ先生仕様のパーツはもう出来ている。

 

 先生。今後も指導のほどよろしくお願いします!

 

 

 

 

 




ジェノス君、着々と先生を餌付け中です。
きっと、毎日毎日毎日やってきてるんでしょう。
人慣れしてなかった奴が、毎日毎日手土産持って弟子入りさせてくれって尊敬の眼差しで言われたら心も動くってもんです。

先生ちょろいです。

そう言えば、村田先生のマンガだと、「うんこが爆発した!!」って言ってるのはキングですよね?チャランコもいて、何しにわざわざF市まで行ったんだろう?
秋葉原でドキシスのイベントでもあったのかな?


次回、先生と手合わせになります。よろしく~



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