ワンパンマン ~機械仕掛けの弟子~ 作:Jack_amano
一昔前に 一人の若き天才科学者がいた。
彼は圧倒的な知力を生かし世界中に様々な貢献をしてきた。
しかし、彼は世界に絶望した。
人々は彼の天才的頭脳には賞賛の言葉を惜しまなかった。
しかし彼が
人類の文明ではなく、人類という種の人工的進化。
それが彼の実現させたい唯一の夢であったが協力しようとするものは出てこなかった―――
―――そんな出だしで始まった、アーマードゴリラの『進化の家』ジーナス博士の話は、思った通り、途中で短気を起こしたサイタマ先生にさえぎられた。
「話が長い! 俺に関係ないだろ! 要点を言え要点を!!」
確かにアーマードゴリラの話は、このまま行くと日が暮れるまで掛かりそうだ。
「先生は忙しいんだ。20文字以内で簡潔にまとめろ!」
俺は少し八つ当たり気味に、部屋の中で先生に言われた台詞を投げつけた。
あの時こいつ等さえ現れなければ…話しの流れ的にもそのまま弟子にしてくれそうだったのに。
そう思うと、
「す、すいません」
輝きを増す焼却砲に、怯えながらアーマードゴリラが続けた。
「え~ つまりですね。我々のボスが、あなたの体に興味を持ったようです」
!
「俺、オトコに興味ねーぞ…」
先生、それ真面目に言ってますか? それとも場を
凡人の俺には判りかねます。
「違います先生。先生の人類を超越した肉体を、進化の研究に利用しようと企んでいるようです。放っておけば、おそらくまた刺客を送ってきますよ」
進化の家といえば、俺も噂は聞いた事がある。
新世界の到来を唱える、排他的な宗教団体と聞いていたが……
蚊の怪人やお前たちを見ると、もっと危ない事をしているようだな。
「先生! 野放しにする訳にもいかないし、今度はこっちから攻め込みましょう!!」
「よし行くか」
気合の入ったマジ顔になった先生は、白いマントをひるがえし、スタスタと繁華街の方に歩いて行く。
「はい…… え、今!?」
「ああ、明日は特売日だから行くの無理だから」
事も無げに言う先生。先生にとって、特売とはそれ程に大事な物なんですね?
俺は慌てて先生を追いかけ―――
危ない、一番大切な事を聞き忘れるところだった。
「おい、お前」
「あ、ハイッ」
振り返ると、ゴリラは頭から出していたアンテナを慌ててしまったところだった。
…こいつ脳みそどこに入ってるんだ?
まぁいい。たとえ何処に連絡をとろうと、サイタマ先生に勝てる者はいない。
「最後の質問だ。進化の家は4年以上前からサイボーグ開発をしてきたのか? 他に何体いる? 過去に数々の町を破壊させた事はあるか?」
「? わからないが進化の家で戦闘型サイボーグは俺だけだ」
…嘘を言っているようには見えないな。
では俺の町を破壊したのはこいつ等ではなかったわけだ。
アジトの場所――― 聞いてない。
最後の質問は、もう一つ追加された。
「まさか走って現場まで向かうとは」
4時間後、俺と先生は山の中を走り続けていた。
「他にどうするんだよ」
先生のヒーロースーツには、足元まで届きそうなぐらい長い純白のマントが付いている。
だから―――
「てっきり先生なら空もとべるものかと」
「人間が空飛べるわけねーだろ」
単なる飾りだったのか。
あのスーツのおかげで特殊効果が付く訳ではないらしい。先生のヒーロースーツに対する認識を改めなければ。
「いつもよく徒歩で間に合っていますね。さすがはヒーローです」
「いや大体いつも間に合ってないけど」
先生の走り方は、お世辞にもいいフォームとは言えない。まるで小学生の子供のようだ。
なのに、最速で走る俺に易々とついてくる。フォームを改善したらどれだけ速くなるのか―― 全く見当もつかない。
「着きました。ゴリラの言っていたポイントです」
山の中腹に、不似合いなビルが建っていた。
1・2・3・4……8階建てか。どうやってこんな山奥まで資材を運び込んだんだろう?
「ここが 進化の家……!!」
ビルに向かって生体サーチをかける。1階から8階まで、人間の反応はない。
つまり――――――罠か。
俺は、大きく振りかぶったモーションから、最大出力の焼却砲を両手でビルに撃ち込んだ。
思った通り、ビルは後ろの山をも巻き込んで簡単に吹き飛ぶ。
危ない仕掛との誘爆があったからか、爆炎が晴れた後にはビルはもう跡形も残っていなかった。
「いや いきなり何やってんのお前」
「はい? これが一番効率よく一網打尽にできると判断したのですが」
別に相手が仕掛けた罠に、わざわざ掛かってやることもない。まだ帰りの道も4時間かかるのだから。
「いやそうだけどさぁ… 相手も色々準備してただろうにえげつないな お前」
そうですか? 攻撃は最大の防御と言うではありませんか。
もしかして――― どんな仕掛けがあるか楽しみにしてましたか? でしたら申し訳ありませんでした。
「ん? 地下へのふたっぽいな」
先生の声に目をやると、床の方隅に
それも親指と人差し指だけで。
「階段…ですね」
「行くか」
周囲を警戒しながら階段を下る―――とそこは延々の続く地下通路だった。
配管ががむき出しの天井に、規則的に連なる蛍光灯。規模は違うが、クセーノ博士の
「地下めっちゃ広いじゃん。テンション上がるな」
そうですか先生? あまり表情は変わらないようにお見うけしますが…
不意の攻撃に備えて起動していたセンサーに、生体反応が現れる。
「この奥に生体反応… ! 先生! 二体ほどこちらに近づいてきます」
急速接近!
光の帯に照らされて明るかった通路が、連続した破壊音と共に奥から徐々に暗くなっていく。何かが蛍光灯を破壊しながらやって来る?!
巨大なカブト虫の様な姿を認識した途端、俺は、強烈な打撃を受けた。
視覚モニターに砂の嵐が走る。
『system error』
画面表示と共に、俺の世界は暗転した―――――
『修正プログラム正常終了』
起動音と共に、視界がクリアーになる。
周囲の生体反応は、床に倒れた見知らぬ男が一人。サイタマ先生の姿はない。
俺はめり込んだ壁の中から抜け出しながら、画像検索をかけた。
油断した。敵が近付いているのは分かっていたのに。
くそっ、一体何があった?
記憶が途切れる前後5分間の映像と音声をサブモニターで早送りする―――
飛ぶように走って来るカブト虫のような男―――――― の強烈な一撃。
画面が消える。そして―――
『ジェノス!?』
先生の声だ。
『俺は阿修羅カブトってんだ。戦闘実験用ルームがあるからよぉ そこでやろうぜ~』
こっちは俺を殴った奴の声か?
『ジェノスを現代アートみたいにしやがって 上等だ!』
現代アート――― 情けない。
先生にはみっともない姿を見せてばかりだ。こんな事ではますます弟子への道は遠のいてしまう。
まだ時間はそれほどたってない。
先生をサーチ――― いた、地下の大きなドーム! あいつと一緒!?
先生を追わねば!
俺は床に倒れている男を放って、
「広いだろ~ この施設で一番でけえ場所だ 戦力として使えるかどうかここで戦わせて実験してんだ」
通路の奥から、野太い阿修羅カブトの声が反響して聞こえてくる。
良かった、まだ戦闘は始まってない。
「んじゃ 殺し合いますか」
させるか!!
不意打ちで、チャージしてあった焼却砲を撃ち込む、阿修羅カブトは平然と振り返った。
「まーだ生きてやがったのか」
効いてないだと?!
ならば――― 接近戦だ。
加速! 俺は、敵が攻撃してくる事を想定して、ジグザグに走行しながら拳を―――
だが、阿修羅カブトは余裕の表情で俺を見ているだけだった。
「ブァ~~~カ」
ふざけやがって!
『マシンガンブロー!!』
加速をかけた連続パンチを、息をつく間も与えず打ち込む、打ち込む! 打ち込む!!
おかしい! これだけヒットしていて、何故奴はさがらない?!
と、突然、敵の重い右フックを頭にくらい、俺は、バウンドして空中に放り出された。
『 Camera-eye:L ▶lost 』
視界にレッドアラートが表示される。くそっ、左目が破損した?!
地面にぶつかると思った寸前に、サイタマ先生の手が柔らかく俺を受け止めた。
歯を食いしばっていた口から、逆流したエネルギーが焦げた煙となって噴き出す。
「不覚」
「顔壊れてんぞ!」
サイタマ先生の心配そうな声。
このままで終われるか、俺は、まだ奴に何のダメージも与えてない。
「あいつは…… 俺が」
「もう無理すんなって」
急速チャージ! 全てのエネルギーを左手に!!
『焼却!!』
俺の渾身の焼却砲は、光の渦となって、阿修羅カブトを完全に捕らえた。――― 筈だった。
だが阿修羅カブトは大きく息を吸い込むと、俺の渾身の焼却砲を――――――
「息で吹き返された!? そんな―――」
勢いよく返された炎の渦を浴び、化学繊維が焦げる臭いがする。
「ジェノス!! 大丈夫か!?」
「は……い… 」
死ぬかと思った。
「いや大丈夫じゃないだろその頭」
…?その頭…?
「くっくっくっ」
余裕な表情で嗤う阿修羅カブト。ダメだどうすればこいつに勝てる? こいつはアーマードゴリラとは格が違う。
俺を床に横たえ、ゆっくりと…サイタマ先生が立ち上がった。
「野郎~~ずいぶんと俺を期待させる演出してくれるじゃね―――か!!」
「そーかい。んじゃとっとと来な、全力でなぁ」
奴の挑発に、先生の表情が――― 変わった。
白いマントを
本気だ。こんな先生は今まで見た事がない。
「お、わかる…わかる!! おめー強えなあ」
強者には強者が分かるのか、嬉しそうに阿修羅カブトが叫んだ。
「ガッカリさせんなよ? お前ここの最終兵器なんだろ? 今朝の奴らと明らかに違う、自信に満ちた表情してっからな」
先生の言葉を聞くなり、阿修羅カブトの姿が掻き消える。
―――速い!
瞬時に先生の背後に現れる阿修羅カブト、大きく拳を振り上げ―――
?! 殴らずに大きく後ろに跳んだ?! 何故?
奴の体温が一瞬にしてさがっている。恐怖?! 逃げたのか?? あの阿修羅カブトが?!
「何してんだ? おい?」
先生の呆れたような声が、委縮している阿修羅カブトに追い打ちをかけた。
「貴様ァアア それほどまでの力!! 一体どうやって手に入れたんだよォォォ」
奴は拳を振るうあの一瞬で何を感じとったのだろう?
「お前も知りたいのか? いいだろう。ジェノスもよく聞いとけ」
気がつくと、俺の隣には廊下に倒れていた眼鏡の男が、満身創痍という感じで立っていた。
この男も進化の家の関係者なのだろう、地下にいたところを見ると、かなり上の地位の者かも知れない。
この場で教えてもらえるのか?
先生の 強さの秘訣を…
危険だ
止めなくていいのか!? こいつらにそんな事を教えていいのか!?
「いいか、大切なのはこのハードなトレーニングメニューを続けられるかどうかだ」
だが聞きたい、これを逃したら何時教えてもらえるか分からない。
先生は、俺の苦悩などお構いなしに先を続けた。
「いいかジェノス、続ける事だ。どんなに辛くてもな。俺は3年でここまで強くなった」
だが、その後に続いた言葉に俺も、阿修羅カブトも、眼鏡の男も、全ての者が驚愕した!
「腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10㎞これを毎日やる!!!」
はぁ??!
「もちろん 一日三食キチンと食べろ。朝はバナナでもいい。
きわめつけは、精神を鍛えるために、夏も冬もエアコンを使わない事だ。
最初は死ぬほど辛い。一日くらい休もうかとつい考えてしまう。
だが俺は強いヒーローになるためにどんなに苦しくても、血反吐をぶちまけても毎日続けた。
脚が重く、動かなくなってもスクワットをやり、腕がブチブチと変な音を立てても腕立てを断行した。
変化に気付いたのは一年半後だった。俺はハゲていた。そして強くなっていた。
つまりハゲるくらい、死に物狂いで己を鍛えこむのだ。それが強くなる唯一の方法だ。
新人類だの進化だのと遊んでいる貴様らでは決してここまで辿り着けん。自分で変れるのが人間の強さだ!」
先生……あなたという人は――――――
「ふざけないでください!」
俺は思わず立ち上がっていた。
「それは一般的な筋力鍛錬だ、しかも大してハードでもない通常レベルだ! 俺は……俺は強くならなければならないんだ、そんな冗談を聞くためにアナタのもとに来たのでは断じてない!! サイタマ先生の強さは明らかに体を鍛えた程度のものではない! 俺はそれが知りたいのです」
なんで俺が怒っているのか分からないと言う様に、サイタマ先生が口を開いた。
「ジェノス。んな事言われても他に何もねーぞ」
「!」
先生、冗談ですよね? その他に何かあるでしょう? 冗談だと言ってください!!
「そーかい」
今まで蚊帳の外に置かれていた阿修羅カブトが怒りを押し殺した声を上げた。
俺の隣で、眼鏡の男が怯えたように後ずさる。
「おい阿修羅カブト!? よせ… また暴走っするつもりか!?」
暴走?! 突然、部屋の中にアラームが鳴り響き、警戒ランプの点滅と共に、隔壁が下りていく。
阿修羅カブトはメキメキと音を立てて、気味の悪い紫色に変色しながら何倍にも大きく膨れあがっていった。
「秘密を教える気がねえなら構わねえぜぇ!! どうせ俺よか強くはねぇんだ!! ただしムカついたからテメェは
「阿修羅モード!!」
明らかな筋肉の増加! 角は鋭さを増し、牙はめくれ上がり、見るからに凶暴さが増し、より化け物じみた姿に変化している。
「ふぅううう…こうなるともう丸一週間は理性が飛んで闘争本能が静まる事はない。お前を殺した後は町へ降りて来週の土曜までは大量殺戮がとまらねぇぜ」
阿修羅カブトの台詞に衝撃を受けたのか、サイタマ先生はただ茫然と立ち尽くしていた。
「強いヒーローだったら俺を止めてみろ」
重い一撃をノーガードで受けてしまう先生、先生の姿が宙に舞い、そこをすかさず連打で狙い打ちされる。
先生………!?
先生でもこいつには敵わないのか?
だが、その時俺は気付いた。
壁にぶつかろうと、床にぶつかろうと、先生は普通の生き物のように、潰れたトマトみたいになっていない。
「死死死死死死死死死死死死死ィィツ」
気合と共に阿修羅カブトの乱打が飛び、先生はそのまま地面に打ち付けられ――― 大破する床。
俺が喰らった一撃より、あきらかに先生の喰らった阿修羅モードの方が破壊力が大きい。それは床の壊れ方を見ても一目瞭然だ。
それを何発も受けているのに先生にまるで損傷はない。
なら何故―――― 反撃しない?
"ひらり" 先生の白いマントが優雅に
「今日が―――スーパーの特売日じゃねーか!」
先生の軽いアッパーカット、 阿修羅カブトが瞬時に弾け飛んだ。
「うおおおおお しくじったああああ」
どう戦うかではなく――― スーパーの特売日の事を考えていらしたのか。
サイタマ先生はなんて大物なんだ。
阿修羅カブト如きでは、最初から敵として認識するレベルではないという事か。
悔しいが、事実として、俺は阿修羅カブトに勝てなかった。
たとえ、最初は先生の言う通り、さっきのトレーニングが始まりだったとしても、先生の桁外れの強さは本物だ。
きっと何か――― 本人も気付いていない何か秘密がある筈。
やはり俺は、サイタマ先生について行こう。
「先生、スーパーの閉店は22時です。片道4時間かかる道のりです。かなり急げばまだ間に合いますが」
「かなり急げば間に合うんだな?!」
「はい」
「行くぞジェノス!」
「はい、先生」
分厚い隔壁を一撃でぶち壊し、夕焼けに染まった外へと飛び出した俺達は、スーパーへとひた走った。
4時間後――――
スーパーの鏡張りの鮮魚売り場で、俺は自分の髪がアフロヘア―になっていた事実を知り驚愕した。
すいません。今回はかなり長くなっちゃいました。
やっとここで『進化の家』編終わりです。原作沿いもいったん終わり。
次はやっとオリジナル編です。
ここまできっちり書こうか迷ったのですが、「腕立て伏せ100回、上体起こし100回―--- 」
なんて言われて、どうして弟子入り止めなかったのか?と思ったら書いた方がいいかな?と。
「腕立て伏せ100回、上体起こし100回、スクワット100回、そしてランニング10㎞これを毎日やる!!!」の下り、書いて超辛かった!
サイタマ先生!そのメニュー、部活でやりました!でも、なりませんでした!それどころか、部活引退したら太りました!!
私に残されたのは黄金の太腿だけです。もう戻りません。あぁ、何書いてるんだろう自分。
次回もジェノスの弟子入り奮闘記続きます。