ワンパンマン ~機械仕掛けの弟子~ 作:Jack_amano
サイタマ先生の住まいを特定するのは、思っていたよりもずっと簡単だった。
たぶん先生と出会った付近だろう。と、推測はしていたが、夜、無人街で明かりが付いていたのはサイタマ先生の住むマンションの一室だけだったからだ。
俺はサイタマ先生の強さの秘密を知るため、リサーチを開始した。
先生の部屋を覗けるベランダに面した、封鎖された高速道路にベースキャンプを張り、今日で三日目。カモフラージュテントに望遠カメラ、
が、以前、何の手がかりもないまま時間だけが過ぎて行く――― 秘密を探られまいと警戒しているのか?そろそろ何かヒントを掴みたいところだ。
何が先生の強さの秘密につながるか判らない為、俺の手元のキャンパスノートには、先生の行動を時系列で記しておいた。
6時。起床。
定職に就いてはいないようだが、毎日規則的で意外に朝は早い。
ジャージ姿に着替え、軽い運動。
内容は、ストレッチに10キロ程のロードワーク、腕立て伏せ100回、上体起こし100回、
スクワット100回。
帰宅後朝食。
この日のメニューはバナナにヨーグルト。
口一杯に頬張り、よく噛んで食べる姿は、ハムスターのようで大変
8時。テレビを点けたまま読書。
好きな番組は災害チャンネルに教育番組。
先生は漫画がお好きらしい。
そのまま昼寝。
12時。昼食。
メニューは月見うどん。
あれだけのパワーを生み出す割に摂取量は少ない。
昼食後、またもやテレビを点けたまま読書。
15時。黄色いヒーロースーツに着替えてパトロール。
の途中で買い物。(※ヒーロースーツのまま。先生は神経も太い。)
近所のムナゲヤにて、特売品の白菜と鶏肉、長ネギ、牛乳を購入。
どうやら夕方のタイムセールに合わせて出掛けているようだ。
帰宅途中、獣混合型怪人と遭遇も軽々と一撃で撃破。
反動もつけない軽いパンチで上半身が吹き飛ぶあたり、底知れぬパワーを感じる。
18時。夕食。
メニューは長ネギとワカメの味噌汁、白菜と鶏肉とニンジンの中華風炒め物、それにご飯。
煮干しと昆布を揃えてあるあたり、どうやら先生は
食材は余すところなく使い、
が、それが強い身体を作ることに繋がっているかは疑問。
夕食後、またもやテレビ。
20時。近所のコインランドリーで洗濯。
どうやら毎日ではなく、溜まったら洗濯に行くらしい。
洗っている間、置いてあった漫画で時間を潰す。
帰宅後、直ぐに外干し。
先生のヒーロースーツである、某、子ども向けヒーローアニメのモブキャラ衣装のような黄色い
つなぎと白いマント、赤いグローブはどうやら家で手洗いしている模様。
「 ……… 」
傍から見たらまるでニートのような生活。読み直してみても、どこがどう先生の強さに直結しているのかまるで解らない。
朝の運動も、洗濯物干しにかかるスクワットも、全然たいした事ではないし、食事だって、男の自炊の割にはきちんと3食食べてるなとは思うが、ごくごく普通に見える。
サイタマ先生は、歩いている姿もヒーローと聞いた時にイメージするような
だがその脱力した、どう見ても力のこもってない、ぬるいパンチで簡単に敵を爆砕する。
俺が焼却砲を打ち込みながら本気でパンチを繰り出しても、決してあそこまではならない。
自分がまるで歯の立たなかった蚊の怪人を一撃で倒すあの姿をこの目で見ていなかったら… ただの冗談だと思うだろう。
それほど本来の能力と見た目とのギャップが激しい。それにハゲだし。
しかし、何であんなデザインのヒーロースーツなんだろう? 実に勿体ない。
本当はあれほど強いのだから、もっとこう――― 筋肉を際立たせるような衣装にすればもっとヒーローっぽく―――
例えばGATの編み上げブーツに腰と太腿のラインに余裕のあるカーゴパンツ、上は鎖骨と上腕筋、胸筋、背筋を主張させる深めのタンクトップ。で、グローブは指ぬきの革とかに着替えれば、もっとそれらしく見えるのでは?
そして、
携帯のバイブが振動する。
見なくても分かる。相手はクセーノ博士だ。博士に撮り貯めていた映像と、先生が食べていたメニューを分析してもらっていたのだ。
「結果が出ましたか? ありがとうございます博士。では一旦戻ります」
ヒーロースーツの素材を調べるのはまた後だ。
俺はどうするべきなのか、そろそろ本気で決めなければならない。ここでモタモタしていては暴走サイボーグとの闘いが遠ざかるばかりだ。
「結論から言うと――― 彼の食事もいたって普通で常人と何も変わらんわい」
「 ……… 」
クセーノ博士から手渡された分厚いプリント用紙をパラパラとめくる。そこにはサイタマ先生が食べていた全ての食事においての摂取栄養素、総カロリー、栄養バランスが記載され、クックパッドに類似したメニューがある事まで記載されていた。
……結局、何も解らなかったか。
「やはりサイタマ先生は、俺と同じサイボーグという事なのでしょうか?」
「いや、映像を見た限りではそうとも言えん。彼の体重は踏み込み具合からしてもせいぜい70㎏がいいとこじゃろう。その重さであのパワーはありえんよ」
とすると
いや、でも、俺は先生の産まれたままのお姿を拝見してしまったが、そんな継ぎ目はどこにもなかった。
では、一体何処からあのパワーが生み出されるというのだろう?
まさか本当に只の人間なのか?
あのあり得ないような強さは、サイボーグだと言ってくれた方がまだ
サイボーグの開発技術は、生き馬の目を抜くような過酷な世界で作られる。俺が、俺の身に何かあったら、クセーノ博士の技術が流出しないよう自爆を考えているように、サイタマ先生もサイボーグである事を隠し通しているのだろうか?
だとすれば、いつまでも外から見ているだけではらちがあかない。
これは―――然るべき手段をとるしかないようだな。
調査5日目。俺は無人街にある、築20年の鉄筋コンクリートマンションの玄関前に立っていた。
大きく息を吸い、気持ちを落ち着かせる。
この時間、いつもと同じなら、先生はテレビを見ている筈だ。
俺は腹を
「先生!!」
俺の呼びかけに、しばらく間をおいてからドアノブが回り―――ヒーロースーツ姿のサイタマ先生があらわれた。
今日も先生は輝かしい。特に頭の装甲は素晴らしい映り込みだ。
「……………マジで来やがったか」
少し迷惑そうな顔をされたが、俺は自分の言った事を覚えてもらえていて嬉しかった。
「 え―――っと」
だが、
「ジェノスです サイタマ先生!!」
「……その先生っていうのやめてもらえる?」
「師匠!」
「師匠はやめろ」
文句を言いながらも部屋に通してくれる。俺はサイボーグなので表情に出づらいが、内心ほくそ笑んだ。
脈はある。本当に弟子入りが迷惑だったら、玄関先で追い払えばいいのだから。
上げた時点で俺の勝ち。
「飲んだら帰れよ弟子なんか募集してねーし」
そう言いながらも、先生は俺に上座の席を勧め、修学旅行で絵を描いたような『果報は寝て待て』と書いた湯呑にお茶を入れてくれた。
サイタマ先生、言ってる事とやってる事が逆です。
「あれ?お前ケガ治ってね?」
「はい、体の大部分は機械なのでパーツさえあればすぐに」
俺の故障をケガとは―――そう言えば、修理と言われた事はあったが、救急車を呼ぶ―――と言われたのは先生が初めてだったな。
「変わってんなお前」
変わってるなで済まされるのは、やはり先生もサイボーグだからですか?先生?
俺は意を決してずっと聞きたかった事を口にした。
「先生はどのようなパーツを使っているのですか?」
「使ってねーよ」
はぁ??
「え?じゃあその頭部の肌色の装甲は?」
「いやこれ肌だから」
肌? その美しい映り込みの頭が肌?!
「いや しかしそれでは先生が若くしてハゲているという事に… 」
「ハゲてんだようるせーな!! 何なんだテメーは!!」
やっぱりハゲを気にされていたのか。堂々と世間に
「俺?俺の話を聞いてくれますか?」
「いや… いい」
いいと言われたが、俺は有無を言わさず話を続けた。ここは押し切った方が後々有利だろう。
ここは俺のターン!だ
「4年前…
俺は15の頃まで生身の人間でした。
こんなしみったれた世の中でも家族と共に平穏にまぁまぁ幸せな毎日を送っていました。
しかしある日、暴走してイカレたサイボーグが俺の町を襲ってきたんです。
暴走サイボーグ…おそらく身体改造を失敗して異常が発生したのでしょう。
奴は全てを破壊し尽くしていきました。
公園、学校、ビル群、俺の家…
そして…家族の命までも…
奇跡的に生き残った俺は当時まだ15歳で弱く、廃墟の町でたった独り、力尽きる寸前でした。
そこに偶然通りかかったのがクセーノ博士。
クセーノ博士は町を襲った暴走サイボーグの凶行を止めるため旅を続けている正義の科学者でした。
そして俺はクセーノ博士に頼み込み、身体改造手術をしてもらったんです。
そして俺は正義のサイボーグとして生まれ変わり、いつかあの暴走サイボーグを破壊する事をクセーノ博士と約束したのです。
あれから4年の月日が経ち、19歳になった俺は悪を排除しながら町から町へと旅を続けていました。
これまで倒した怪物や悪の組織は数知れず…しかし例の暴走サイボーグにつながる手掛かりは全くすかめず苛立ちと焦りの日々を過ごしていました。
いつからか俺は暴走サイボーグの虚像を追いかけて悪と対峙していたのです。
そして一週間前…あの蚊の化け物が現れたとき、俺は完全に油断していました。
もはや、あの暴走サイボーグ以外には負ける訳がないと思い込み、敵のデーター分析もせずにただ正面から攻撃を開始していました。
結果はご存知の通り、底力を見せた化け物に返り討ちにされ、サイタマ先生がたまたま通りかからなかったら確実に破壊されていました。
俺はサイタマ先生に命を救われたのです。
クセーノ博士に一度救われたこの命、サイタマ先生に再び救済された事によってさらに重く責任の増したものになりました。
こうなったらなんとしても暴走サイボーグを破壊するまで死ぬ訳にはいかない。
そのためには再び奴が俺の前に現れるまで正義のサイボーグとして悪と戦い続けなければならない。
……強くならなければならない!
先週、サイタマ先生の一撃を見たとき、俺はこの人の下で学ぶしかないと思いました。俺もこれほど強くなれたら…
サイタマ先生、俺には倒さなければならない宿敵がいるんです!
これは俺一人の戦いじゃない
俺の故郷やクセーノ博士の想いも背負っているんです。
自分が未熟なのはわかっている…しかし今は何としても巨悪を粉砕する強大な力が必要なのです!
クセーノ博士は俺に――― 」
「バカヤロウ 20文字以内で簡潔にまとめて出直してこい!」
え?!先生、 20字以内ですか? 漢字は一字に入りますか??
………
「先生言葉をまとめてきました」
俺はよくよく考えて厳選した20字を先生にぶつけた。
「先生のように強くなる方法を教えてください」
「ふむ……」
先生は腕を組み、考え込むようなポーズをとった。
「ジェノス」
「はい!」
名前を呼ばれ、勢いよく返事をする
「お前いくつだ」
「19です」
「若いな…お前ならすぐに俺を超えるだろう」
「本当ですか」
「俺は今25だけど トレーニング始めたのは22の夏だった」
「!!?」
たった3年間で?! どれだけ厳しい鍛錬を積んだらそこまで強くなれるんだろう?
「教えてやってもいい……だが辛いぞ ついてこれるのか?」
「はい」
強くなるためなら、
その時―――頭の隅でアラームが鳴った。
何かが物凄い速さでジグザグに近づいてくる
この反応は―――どこからだ?! 窓か? 玄関か??
俺は、訳がわからないサイタマ先生を放って戦闘の構えをとった。
「高速接近反応………来る… 」
何かが、激しい音を立てて分厚いコンクリートの天井を打ち抜く!!!
……だが敵の出現ポイントは、俺の予想していた場所ではなかった。(/_;)泣き
進化の家にまで行けるかと思ったら行けませんでした。
表情変えずに黙っているジェノスの、脳内垂れ流したらどんなだろうと思ったのが、この話を書こうと思ったキッカケです。
でも、そままじゃなんなので捏造ぶっこんでます。
~ショートショート~の二人とは別物だと思ってください。
私的にはあっちの方がかなり楽です。