「よう、明史」
「リンドウさん、どうしてここに?」
「どうしてって言われてもな、ここ俺の部屋の前だし」
「あっそうでしたね。すいません」
「いや、謝らなくてもいいんだが」
「すいません、リンドウさんはどちらへ?」
「あ?俺はサクヤの所に配給ビール貰いに行くとこだ」
「リンドウさんはすごいですね。こんな環境で普通に振る舞えるなんて」
「なんかあったのか?」
「いえ、大した事ではないんですよ。死者は出ていませんし」
「さっきの襲撃の事か、まあアレで済んだだけマシだな。もしお前さんがここに居なければここはもう無かったかもしれなかったんだ。あんまり深く考えるな。多少の被害は取り戻せばいい。少なからずお前さんらはアナグラとアナグラに済む人たちを守ったんだ。それは誇っていいんじゃないか?それじゃあな」
リンドウは歩いていった。
そして明史も自室に戻る。
「…クソッタレ、もっとやりようがあったんじゃないのかよ。俺は何をやっているんだ…」
確かに死者は出なかったが、外部居住区の三割が焼け野原になった。
外部居住区の住民も死者こそ出なかったものの重症患者が大量に出た。
「俺はどうすればいいんだ…」
リンクならさっさとクラウンを捜しだして帰ればいいと言うだろう。
アランなら片っ端からアラガミをぶっ殺せばいいと言うだろう
ツバメは、戦場に立たずに後方でオペレーター業務に専念すればいいと言うだろう。
ヒバリさんは戦場に立つのを止めるように言ってくるだろう。
リンドウさんならなんと言うだろうか…
「どうしたら良かったんだ」
「ねえアラン、明史隊長呼んできて」
「えっ俺!?」
「リンク隊長に頼むのはちょっとアレだから」
「ツバメが行ってくればいいだろ?明史隊長と仲いいじゃん。一緒に訓練してきたんだろ?」
「一緒に訓練したとはちょっと言えないかな。アランの方が仲良さそうだし」
「リンク隊長、なんとかしてくださいよ。」
「なんとかって言われてもな…具体的に何をどうしたらいいんだ?」
「だから、明史隊長を元気づけるんだって」
「なんでそんなことせにゃならん。第一必要ないだろ。さっきもいつも通りだったし」
「アレは空元気ですよ」
「ってツバメが聞かないんだ」
「それで俺の部屋に押し掛けてきたと?お前ら解ってるのか?この隣が山澤の部屋だって…」
「そうなんですか?」
「知らずに今まで過ごしてたのか」
「ここアナグラの壁は思った以上に紙っぺらだぞ?隣に筒抜けつまり、今の会話もバッチリ隣に届いている筈だ」
「え?」
「と言うことで態々呼びに行くまでもないな」
「そう言えば明史隊長と仲がいい人って誰だ?」
「特別仲がいい人は…」
『ヒバリさん?』
「言われてみると一番一緒にいた時間が長いのはヒバリさんですね」
「まあ、オペレーター同士だしな」
「じゃあヒバリさん呼んでみる?」
「やめとけやめとけ、ヒバリさんは忙しいから」
「そうですか…」
「ではやっぱりアランに行かせましょう」
「そんなことしないでも」
リンクは壁を三度叩く
「ちょっと来てくれ」
『ちょっと待ってくれ』
そして数分後明史が入ってきた。
「で、どうした?」
「二人がどうしても呼べって言うからさ」
「で、どうかしたか?」
「ほらいつも通りじゃん」
「なんでもお前が落ち込んでるってツバメが」
「そ、そう言うことは普通ら皆がってことにするものじゃないですか!?」
ツバメは顔を赤くして同意を求めるようにリンクとアランの顔を交互に見る
「生憎だけど俺はそんなまどろっこしい思考は持ち合わせてないんでな」
「まあツバメが心配しまくってたのは事実だし」
「心配してくれてありがと、でも俺は大丈夫だ」
明史は何気なくそう返す
「山澤?どうした?熱でもあるのか?」
「明史隊長、何処か悪いんじゃないですか?医務室まで付き添いますよ?」
ツバメは顔を赤くしたまま硬直している。
明史:(あれ?何かミスったか?)
「明史隊長がデレた…」
「あっそういうやつね…」
「あの無愛想な明史隊長が珍しい…」
「ほんとに頭打ったんじゃないか?」
「やっぱり俺嘘ついた。なんか調子悪いから今日の所は部屋に戻るわ。」
「山澤、もしかして今回の戦闘で出た被害のことか?」
「死者は出ていない…だが」
「それでも外部居住区にかなりの被害が出たのは事実だ。だがお前が居なければ被害は更に拡大し死者も三桁じゃ足りないぐらい出ただろうな。それでもお前は自分を責めるって言うのか」
「俺はこの世界を甘く見ていたんだ。俺はこの世界が俺のよく知るあの世界だからと言ってなめすぎていたんだ。ここは紛れもなくゴッドイーターの世界であり今の俺達の現実なんだ。それを今回の戦闘で思い知らされた。そして今まで手を抜いて来たことを後悔した。俺にはもっと出来ることがあったのに。アラガミ防壁が破られる十分前、俺はあのゲーム機の力で既に極東支部に接近中のアラガミの種類、数、速度を知っていたのに誰にも言わなかった。戻ったらアナウンスが入ることも予測していて俺達なら楽に片付けられると踏んでいた。全ては俺が手を尽くさなかった為に生まれた被害なんだ」
「なら、その罪を償え。これからの行動でな」
リンクはまるで明史を見ないようにするかのように視線をずらした。
アランとツバメは自分達の存在を無視した会話の流れについていけずに石像のように固まっている。
明史は右手にゲーム機をぶら下げて立ち尽くした。
『明史、いるか?』
リンドウさんが明史の部屋に来たようだ
『留守か』
「リンドウさん、隣ですよ」
『ああ、そっちか』
明史はリンクの部屋から出る
「よう、お前も配給ビール飲むか?」
「遠慮します。まだ未成年なんで」
「そうかそうか、ならこっちにしとけ」
リンドウはソーダを差し出してくる。
「ありがとうございます」
「じゃまするぞー」
リンドウがリンクの部屋に入る
「おう、チーム揃って飲み会か?ちと空気が違うな。なんかこう葬式みたいな空気だな。じゃあ、あれか?皆揃って反省会か?んな詰まらんもんやってないで飲み会にしようぜ」
「すいません、リンドウさん今はそんな気分じゃ…」
「抜かせ、先輩に付き合うのも、後輩の大事な仕事だぞ?それにお前らはまだ若いんだ生い先長い人生だ反省会なんかしてても損だぞ?どいつもこいつもバタバタ死んでくここでは生きてる内に楽しまないと後悔するぞ?」
「じゃあ俺は一っ飛び夜の散歩に行くんで後はそっちでやっといてください。部屋は使ってもらって構わないので」
リンドウはリンクの襟をガッシリ掴む
「よーし、宴会の空気を悪くする虫を捕まえたぞ」
「そんな強引な…」
「そこにいる宴会の空気を悪くする虫も捕まえとくか?」
「いえ、俺は大丈夫ですよ。もう既に飲んでるんで」
「そうだったな、アラン。お前ちょっと飲み物と食いもん適当に買ってこい。金は後で払ってやるから」
「しょうがないなー」
アランは出ていった。
「にしてもお前らは喋らんな~お前らはまじめすぎなんだよ。もっとこうパーっと楽しくやるのが幸せに生きるコツだぞ?なあ明史?そう思うだろ?」
リンドウは隣に居る青髪の少年の肩を叩く
「あれ!?明史はどこいった?」
「いつの間にすり替わって」
「明史ならさっきアランの後ろにピッタリ張り付いて出ていきましたよ」
「おいおい、逃げ足は俺の十八番だって言うのに」
「ヤバクなったから逃げたんでしょ。そんで隠れますよ」
「それから隙をついてぶっ殺すんですよね?」
そして全員の視線が蒼次に向く
そして気づく、神機と腕輪が無く代わりにゲーム機を持っていることに
「山澤のやつ神機なんか持ってどこに行くやら」
「こいつの神機って外れたのか…」
リンドウは興味深そうに蒼次を見ていた
明史は走っていた。
神機を右手に持って外部居住区の瓦礫の山を駆けていた。
神機とより深い所で適合することで体を更に強化して走っていた。
目指すは瓦礫の山の影になっている場所
そこにたどり着くと瓦礫の山が崩れて白い尾が出てきた。
「見つけた」
明史はその尾の持ち主の胴に剣を突き刺した。
白い尾の持ち主は咆哮を上げてその体を横たえた。
明史はそれの鬼の仮面を切りつけて砕いた。
「取り残しがあったか…」
咆哮を聴いたオーガテイルがわらわらと出てくる。
「さあ、俺を殺してみやがれ。ちょっとやそっとじゃ死んでやらねーぞ」
明史は剣を振り、銃を射ち、オーガテイルを喰らった。
瓦礫の山の所々から硝煙と霧散したオラクル細胞による黒い霧が立ち上っている。
そして明史は屍体に囲まれた血の海の上に立ち尽くしている。
どの屍からも黒い霧が立ち上っている。
この霧は何処かへと風に流されていき、何処かで再びオーガテイルとして生まれ直して再び俺の前に立ち塞がるのであろう。
瓦礫の山が音を立てて崩れ、オーガテイルが跳んでくる
明史はそれを上回る高さに跳びオーガテイルの首を一閃する。
オーガテイルはあっさり切断され、血潮を振り撒きながら血の海に転がり海を拡げた。
明史は血の海に降り立ち、次なる敵を求めて歩きだした。
「俺はこの現実を生き抜いて見せる。見てろよクラウン…この世界の誰よりも生き抜いてやる」
明史は瓦礫の山の間を歩いていった。
「おい、これヤバイんじゃないのか?」
明史が置いていったゲーム機には赤い点が幾つも点在しおり、そのなかに緑の点が一つ存在している。
きっとこれが明史だろう。
そして緑の点に近づいた赤い点が次々に消えていくのだ。
「おいおい、こりゃ助太刀に入った方がいいんじゃないのか?」
「行きましょう」
「俺は待ってるよ。今二機を出すのは得策じゃない。アランが戻ってきたら言っとくからそっちは頼むな」
「わかりました」
ツバメとリンドウはゲーム機を持って走っていった。