ポケの細道   作:柴猫侍

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第九十一話 ボスは大抵第二形態とかある

 

「“つるぎのまい”!!」

 

 すぐさま剣の形をしたオーラを周囲に躍らせるハッサム。

 並ではないクレベースという砦。それを崩す為であれば、“つるぎのまい”を何度か繰り出さなければ容易でないことを、ライトは理解していた。

 だが、それをウルップが易々と見過ごす訳はない。

 

「クレベース、“ストーンエッジ”だ!」

「ルォォォオオオ!!」

 

 咆哮を上げるクレベースは、その巨体の前足を振り上げ、そのまま地面を踏みつけた。次の瞬間、ハッサムが居る場所へ向けてクレベースの眼前の地面から、次々と尖った岩石が隆起してくる。

 轟音が二、三度連なるように響けば、ハッサムの足元から隆起した岩石が真紅の胴体を穿った。

 かなりの威力であったのか、それなりに体重があるハッサムの体は宙を舞い、放物線を描きながら地面に落ちる。

 だが、“ゆきなだれ”でフィールドに積もっていた雪がクッションの代わりとなり、着地の衝撃は和らいだようだ。

 

 すぐさまハッサムは雪の上に立ち上がり、“ストーンエッジ”の直撃を受けても尚消えることのない闘志を瞳に宿し、クレベースを睨みつける。

 

「わっはっは! あれだよ、一合で分かっちまう。そのハッサムはお前さんの手持ちの中でも特に戦い慣れてるな!」

「そうですね! 今も昔も、僕のエースです! ハッサム、“はねやすめ”!」

「うおっ!? 回復技かい!」

 

 クレベースの攻撃を受けても、しっかりと二本足でフィールドを踏みしめるハッサム。

 その堅牢さを素直に賞賛するウルップであったが、更に回復技も所有しているということには、完全に不意を突かれたようだ。

 瞼を閉じ、精神統一を図るハッサム。みるみるうちに、先程の“ストーンエッジ”のダメージも癒えていく姿に、ウルップは難しそうに唸る。

 

「こりゃ、難敵だな! クレベース、“ゆきなだれ”だ!!」

「ハッサム、“バレットパンチ”!!」

 

 【もうどく】に冒されている以上、クレベースがフィールドで戦う時間は残されていない。

 ならば少しでも相手の体力を削る事ができれば上々といったところか。

 その意思を指示と共に受け取ったクレベースは、全身全霊をかけて“ゆきなだれ”を目の前のポケモンに繰り出す。

 

 同時に、氷のフィールドに罅が入る程の脚力で駆け出したハッサムは、眼前の津波のような雪に飛び込む。

 普通であれば呑み込まれて何も出来ずに押し返されるのが関の山。

 だが、姿勢を低くして雪崩の下を潜るようにして特攻したハッサムは違った。

 

「そのまま……跳べっ!!」

「なんとっ!?」

 

 “ゆきなだれ”がハッサムを覆い尽くそうとしたその瞬間、文字通り弾丸のような殴打を振り上げるハッサム。捩りが咥えられた鋏は、目の前の雪崩の一部に穴をあけ、ハッサムはそのまま穴からクレベースの下へと跳躍した。

 

―――拳銃(チャカ)と一緒さ。弾道を安定させるにも、突破力を付けるにも回転が大事って事よ。

 

「これなら……!」

 

 リフレインするクチナシの言葉。

 以前なら、ただ真っ直ぐ突きだすだけであった“バレットパンチ”も、当てる直前に捩りを加えるだけで威力が変わる。

 これもハッサムが“テクニシャン”であるが故に、短期間で習得できた技術だろう。

 

 しかし、ウルップのクレベースも黙ってハッサムの襲撃を許す訳ではない。

 

「クレベース! “ジャイロボール”で迎え撃ってやりな!」

「っ……雪が!?」

 

 飛び掛かるハッサムに対して“ジャイロボール”を繰り出そうとするクレベース。

 すると、回り始めるクレベースの周りに積もっていた雪が、まるで除雪機から排出される雪の如く、周囲にまき散らされるではないか。

 これでは視界も充分に確保することができない。

 尚且つあれほどの回転。単純に鋏を繰り出すだけでは、容易に弾かれてしまうのが目に見えている。

 

(どこを狙う……下手に体を狙っても……!)

 

 考える時間の猶予は残っていない。

 ハッサムが回転するクレベースに攻撃を当てるまで―――そして、当てられるまで、あと数秒。

 

―――ピカチュウ! “アイアンテール”!

 

「っ、頭!」

「―――!」

 

 たった一言。

 しかしその意図をくみ取ったハッサムは、鋏を横に振るった。胴体に当てるには些か速過ぎるタイミングだ。そう、胴体に当てるには。

 

「ッルェ!?」

 

 直後、回転していたクレベースの頭部がハッサムの鋏に激突する。自分で回転している勢いと、ハッサムが振るった勢い。二つの勢いが生み出す衝撃というのは並みのものではない。

 顔面に攻撃が命中して脳を揺らされ、平衡感覚を失ったクレベースは回転の軸を一定に保つことができなくなり、そのままグワングワンと左右に揺れた後に、大きな音を立ててフィールドに崩れ落ちた。

 

「クレベース、戦闘不能!」

「よし……! ナイス、ハッサム!」

 

 指示に従い、見事クレベースを打ち取ったハッサムに賞賛の声を上げるライト。

 彼の脳裏に先程過ったのは、三年前のカントーポケモンリーグでの試合だ。今のトーナメント形式とは違い、三年前のポケモンリーグは決勝リーグに四天王四人を混ぜるという、他地方に比べれば異例なトーナメント形式をとっていた。

 そんなカントーリーグの第八試合、四天王シバVSレッドの試合で、レッドのピカチュウが見せた技―――四本の腕で拘束されながら“じごくぐるま”を喰らう中、“アイアンテール”でカイリキーの頭部を狙い、相手の拘束を緩めるという神業。

 録画したビデオテープが擦り切れるほど見た白熱のシーンだ。

 相手が技を繰り出している時に限って、案外大事な頭部が護られていないということを裏付けるシーンでもある。

 

 クレベースが“ジャイロボール”を繰り出している間、クレベースは頭部を守るモーションなどは一切見せていない。寧ろ頭部も攻撃部分の一部だと、そのままにして回転を続けていた。

 それは、カメックスのように甲羅の中に頭部を仕舞いこむことができない体構造が理由だ。

 頭部に当たれば脳が揺れる。さすれば、平衡感覚を失って隙が生まれる。

 そう考えて出した指示であったが、どうやらハッサムは隙を生むどころか、止めをさしてくれたようだ。

 

(つくづく、キミはエースだって思うよ……!)

 

 ライトのパーティの大黒柱だけのことはある活躍だ。

 

(……ウルップさんの最後のポケモンはなんだろう?)

 

 こちらに残るポケモンは二体。

 対してウルップが残すポケモンは一体であるが、リザードンもハッサムも若干疲労しているのに対し、ウルップの最後の一体は体力が満タンだ。

 ジムリーダーは交代することができないというルール上、必然的にそうなることが当たり前なのかもしれないが、やはり最後の一体が分からないということになると緊張はするものである。

 だが、

 

(心が、躍る―――!)

 

 これこそがポケモンバトルと言わんばかりに、ライトの心は躍るに踊っていた。

 確かに、相手の手持ちを全て把握していた上で対策を練ることも一興。しかし、何が来るのか分からない上で、それを仲間と打ち倒していくのも、ポケモンバトルの醍醐味だ。

 そのように昂ぶる中で浮かぶ笑みを咎める者などは、誰一人としていない。

 

「わっはっは! いいぞ! 熱くなってきやがった! そうら、オレの最後のポケモンだ! 出て来い、ユキノオー!」

「ユキノオー……あのポケモンか!」

 

 クレベースよりは一回り小さい。それでもハッサムより大きい体を有すポケモン。

 フロストケイブでも戦ったことのあるじゅひょうポケモン―――ユキノオー。

 

「……ッ!」

 

 以前同じ種族と戦ったことがあるだけ、冷静さを保っていたハッサムだが、突如として自分の体に降りつける霰に驚く。

 

「“ゆきふらし”……ですか。ハッサム、霰で体力が減るから速攻で決めるよ!」

 

 ユキノオーの特性“ゆきふらし”。天候が霰状態になることによって、【こおり】タイプを持たないポケモンは降り続ける霰によってダメージを受け続ける。

 だが、今迄に何度かあったことのある状況だ。

 

(“ふぶき”には気を付けないと……!)

 

 副次効果であるが、霰の時は【こおり】タイプの特殊技の最高峰“ふぶき”の命中率が、必中といっても過言ではないほど上昇する。

 下手に守れば、身体中を氷漬けにされることは間違いなし。

 今は“つるぎのまい”で上昇した【こうげき】を無駄にすることなく、攻勢に転じるのが無難だ。

 

「“バレットパンチ”!!」

「“ウッドハンマー”で迎え撃ってやりな!」

 

 再び肉迫するハッサム。

 それに対してユキノオーは、丸太のように太い腕を振るい、ハッサムの“バレットパンチ”を迎え撃った。

 周囲に降り積もった雪が舞い上がる程の衝撃。それだけで、両者の膂力がどれだけ凄まじいものかは理解できるというものだ。

 

 その後から、一歩も退くことなく鋏と腕を振るい続ける二体。最初の方はハッサムがやや優勢であるように思えたが―――。

 

(? なんだか動きが―――?)

「鈍くなってきたんじゃねえか? そろそろ」

「ッ!! ハッサム! 下がっ―――」

 

 

 

 

 

「―――――“ぜったいれいど”」

 

 

 

 

 

 体感としては、周囲の気温が五度ほど下がった気分がしたライト。

 ほんの一瞬。ほんの一瞬の内に、フィールドには見慣れぬ一本の氷柱が出来上がっている。

 その中には一体のポケモンが閉じ込められていたが、直後氷柱が砕け散ることにより、辛うじて自由は得る事ができた。

 しかし、動くだけの体力は残されていない。ピクリとも動かないハッサムの姿に、審判は持っていた旗を大きく振り上げた。

 

「ハッサム、戦闘不能!」

「……お疲れ様、ハッサム」

 

 よくやってくれた。

 そう言ってボールに戻し、最後の一体であるリザードンのボールに手を掛ける。

 すると、ウルップが腕を組みながらライトの向かって口を開く。

 

「あれだよ。お前さんのハッサムは強敵だ。ジムリーダーとして……それとトレーナーとして相手に敬意を払うのは勿論だが、流石に悠長に事を進めるのは危ないと思ったんでね。ちょっとした賭けに出させてもらった」

「……褒め言葉、ですかね?」

「おうよ」

「“バレットパンチ”と”ウッドハンマー“のぶつかり合いの時、霰に紛れて”こごえるかぜ“を放っていたのは中々気付けなかったんですけど……」

最初(ハナ)っから気付かれてたら、オレの立つ瀬がないってことよ。オレのユキノオーの“ぜったいれいど”を使わせたことは、他の奴等に誇っていいぞ」

(それって今後も“ぜったいれいど”を使うっていうフラグじゃ……)

 

 文字通り、絶対零度の冷気で相手を凍らせ、一撃で戦闘不能に陥れる【こおり】タイプの技“ぜったいれいど”。

 何度も使える技でもなく、命中率も不安定であるが、その分威力は絶大。

 幾ら残りのポケモンがリザードンで、タイプ相性でユキノオーより優位を誇ることができようとも、油断はできないということだ。

 無論、油断をするつもりなど最初からないが、今迄以上の細心の注意を払わなければならなくなった。

 トレーナーへの精神的圧迫という点でも、一撃必殺技の存在は強大だ。

 

「だけど……何度も困難は乗り越えてきた!! リザードン、もう一度キミに決めた!!」

「グォォォオオオ!!!」

「光と結べ、メガシンカ!!!」

 

 最後の最後まで来て出し惜しみはしない。

 そう言わんばかりにメガシンカを発動するライト。

 

「ほう……こりゃあ、あれだよ」

 

 白い空間に現れる、漆黒の火竜。

 その姿にウルップは、徐にロケットペンダントを取り出し、中に埋め込まれているキーストーンを見えるように出した。

 

「こっちも、全力だしてやらんとな! あれだよ、失礼だもんな! 牙を剥け、凍てつく力よ! メガシンカ!!」

「ノォォォオオオ!!!」

(ッ……やっぱりメガシンカを!)

 

 リザードンに続き、光の殻に包まれて姿を変えていくユキノオー。次第に肥大化していき、只でさえ巨大であった体はまるで巨木のようになる。

 自重に耐え切れなくなったのか、腕を前脚代わりにして四つん這いとなったユキノオー。

 その背中からは、メガシンカの溢れ出るエネルギーを表すかのように、二本の太い氷柱が

 

「これが……メガユキノオー!」

「おう! それじゃ、始めようか! “ふぶき”!!」

「“だいもんじ”!!」

 

 霰が降り続く中、ユキノオーの口腔から放たれる極寒の冷気。それを迎え撃つべくリザードンも青色に変わった爆炎を吐き出す。

 炎の色の変化は温度の変化。赤から青へと変わっただけで、その温度変化はかなりのものだ。

 例え、霰の中吹き荒れる“ふぶき”を真正面から相殺できる程度には―――。

 

「リザードン、直ぐ来るよ! 横に逸れながら“アイアンテール”!!」

 

 フリージオ戦の時のように、冷気と炎の激突でフィールドに水蒸気がはびこる。

 相手すら見えなくなった視界の中、水蒸気を掻い潜って丸太の様な腕を振り下ろしに肉迫してくるユキノオー。

 だが、事前の指示を出していただけあって、リザードンはすぐさま“ウッドハンマー”を回避することに成功した。それに留まらず振り下ろされたユキノオーの腕に“アイアンテール”を命中させることにより、自分が横に回避するために加速にも利用する。

 以前までのメガシンカのパワーに頼り切った戦いとは一線を画す立ち回りだ。

 

「相手は足が遅い! 近付かれないように気を付けて!」

「ほう、それも良い考えだ! だが、それで霰の中いつまで持つかな!?」

「くッ……!」

 

 腕を脚代わりに使う程体重が増えているのだから、足は決して速くはない。

 ならば遠距離で地道に体力を削っていくよう立ち回るのが無難のように思えるが、それでは霰のダメージがどんどん蓄積していき、こちらが不利な状況になる可能性は否めない。

 

(だから隙を見つける! あの技を確実に決める、大きな隙を!)

 

 功を焦れば、その隙を突かれる。

 焦らずその時を待つライトは、最小限のダメージで済むようにリザードンとユキノオーの距離感を図る。

 

(向こうに隙ができるとしたら、あの瞬間しかない……!)

 

 チラリと天井を一瞥するライト。

 未だ振り続ける霰も、最初にユキノオーが現れた時よりかは勢いが弱まっている。

 そうしてライトが天候を確認している間にも、リザードンとユキノオーは激戦を繰り広げていた。

 ライトに言われた通り、距離をとってユキノオーの猛攻に応戦するリザードン。時折ギリギリまで肉迫された時は、“ドラゴンクロー”や“アイアンテール”で受け流すような立ち回りを見せる。

 

 その巨体あってか、肉迫された際はかなりの迫力だ。しかしリザードンは臆することなく、ライトが指示を出すその時まで耐え忍ぼうとする。

 

「ユキノオー!」

「リザードン、離れて!」

「“ぜったいれいど”!!」

 

 刹那、再び天井まで届きそうな氷柱がフィールドに出来上がる。

 しかしその氷にリザードンは囚われることなく―――しかし、頬に冷や汗を垂らしながらライトの目の前まで舞い戻ってきた。

 矢張り一撃必殺技は肝が冷える想いをする。

 そう言わんばかりに『ふうっ』と息を吐くライトは、バッと天井を見上げた。

 

(霰がもうすぐ止む……)

「良く避けたな! 良い動きだ!!」

(チャンスは―――)

「なら今度はこいつでどうだ!!」

(―――その時だ!!)

「“ふぶき”!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リザードン―――……“フレアドライブ”ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リザードンの口の端から溢れ出る青い炎。それが螺旋を描きながら、黒い体を瞬く間に覆っていく。

 そして一つの炎の弾丸となったリザードンは、力強く羽ばたき、眼前から押し寄せる“ふぶき”に臆することなく突っ込んでいった。

 リザードンの体を凍てつかせようとする氷も、身体中に纏う青い炎に溶かされ、思う様なダメージを与えることはできない。

 その光景に、ウルップは驚きの色を隠せない。

 

「なッ……!!」

(ウルップさんは【こおり】のエキスパートだ……霰が降っている時の【こおり】タイプの優位性も、“ゆきふらし”からどのタイミングで霰が止むのかも把握してる筈……!)

 

 降り積もった雪と霰。それらを溶かし尽くしながら突き進むリザードン。

 

(なら、霰が止む直前は“ふぶき”を確実に当てる機会をむざむざ捨てない為に、“ふぶき”で仕掛けてくる……僕ならそうする!!)

 

 ユキノオーに近付く程強烈になる冷気。

 しかし、止まることはない。

 

(逆に、“フレアドライブ”を仕掛けるなら、そのタイミングだ!!)

「進めッ!」

 

 ユキノオーの眼前まで肉迫することができたリザードン。

 しかし、ユキノオーは“ふぶき”を繰り出すだけに留まらず、自重を支えるためについていた腕を持ち上げ、リザードンの翼を抑えつけようとする。

 しっかりとつばさを掴みこんだユキノオーは、そのまま拘束しようと力を込めた。

 このままでは受け止められ、“ふぶき”の反撃を喰らう。

 観戦するコルニはそのような光景を脳裏に過らせてしまったが、彼女の耳にリザードンを信じ続ける少年の叫びが轟いてきた。

 

「進めェェェエエエ!!!」

「グォォォォオオオオ!!!」

 

 

 

―――あっ……

 

 

 

 思わず漏れてしまった、吐息のような呟き。

 その呟きを口にしたのはコルニ。

 

 少女の瞳に映ったのは、ユキノオーの腕を振り払い、胴体にその身を叩きつけるリザードンの姿。

 天井に向かって突き上がる二体。

 そして、リザードンが身に纏う炎によって溶かされる雪と霰が水となって宙に散って、描き出される―――

 

 

 

 

 

―――七色の虹

 

 

 

 

 

 我に返ったのは、ユキノオーの巨体がフィールドに叩き付けられた際の振動と轟音が響いてきた時。

 精根尽き果てたユキノオーはメガシンカが自動的に解除され、元通りの姿に戻るが、目はグルグルと回って戦える状態ではないということを如実に示していた。

 

「ユ、ユキノオー、戦闘不能!! よって勝者、挑戦者ライト!!」

「……そうか。オレが負けたか」

 

 フィールドに横たわったユキノオーを見ながら、ウルップはそう呟く。

 どこか呆けたような。しかし、納得したような。だが、まだ物足りないような様子だ。

 

「……はは、わっはっは!! あれだよ、お前さん!! ちょっといいか!?」

 

 突然笑いながら声を張り上げるウルップに、勝利の余韻に浸る時間もなかったライトは呆気にとられたように瞠目する。

 ライトが目にしたのは一つのボール―――プロ仕様のハイパーボールだ。

 

「えっと……それは?」

「ジム戦はお前さんの勝ちだ!! だからこっからは公式戦外に……あれだよ、オレの我儘になるな!! 出て来い、フリーザー!!」

(フリーザー!?)

 

 ウルップが叫んだ名に、ライトは驚きの余り声に出さずに心の中で声を上げる。

 放り投げられたボールを視線で追い、そのまま中から飛び出してきたポケモンを瞳に写し、ヒュッと息を飲んだ。

 確かにウルップが繰り出したポケモンは、伝説のポケモンであるフリーザーであった。

 まるで氷の結晶のように儚げで煌びやかに輝く羽毛。羽ばたく度に氷の破片のようなものが散っていき、光を反射する。

 驚きの余り声を出しかねていると、ウルップが続けるように叫ぶ。

 

「どうだい!? こんなに熱いバトル、まだ終わらせたくはないだろう!! お前さんは残りの手持ち全部使用していい!! オレはこのフリーザーだけだ!! どうだ、二回戦を始めるか、始めないか!? どっちにする!?」

「っ……!」

 

 このまま続ける道理はない。

 しかし、こちらをジッと見つめてくるリザードンの瞳に宿る闘志。

 そして何より、自分の胸で昂ぶる想いに嘘を吐く事などできはしない。

 

「―――お願いします!」

「よし来た!」

 

 バチンと上腕二頭筋を掌で叩くウルップ。

 それに対してライトは、かつてない程拳を握って目の前を華麗に飛行するフリーザーを見据える。

 ミアレで戦ったことのあるサンダーと同等のポケモン。

 あの時は勝てなかったが、今は違う。

 

 

 

 

 

「サンダーじゃないけど、相手にとっては不足無し……リベンジだ!!」

「グォウ!!」

 

 

 

 

 

 エイセツジム戦は、佳境に入る。

 


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