ポケの細道   作:柴猫侍

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第七十七話 オニドリル食いつかない系男子

「当てが外れたなぁ~」

「バウッ……」

 

 呑気に首の後ろに腕を回して呟く主人(コルニ)に、ルカリオは呆れたように溜め息を吐いた。彼女達が向かっているのは、地下から抜け出すための階段だ。

 ホテルを根城にしている不良のボスに会ってきたコルニであったが、そこで得たものといえば、ローラースケートのトリックの一つである『コスモフリップ』を教えてもらったということだけである。

 

 しかし、収穫はそれだけ。肝心の奪われたフワンテとフラベベの行方であるが、ボスの部屋に居る不良たちはここ数時間外に出ておらず、ボス主導の下手持ちを確認してもらったものの、結局のところは見つからなかった。

 ルカリオの波動によって調べてもらったものの、嘘を吐いている者達も居らず、今はこうして外に戻る為に廊下を進んでいたのである。

 

 そして今更であるが、ライトが今どこで何をしているのか心配になってきたコルニ。暗い所が苦手な彼は、今頃廊下のどこかで気絶している可能性が無きにしも非ずだ。

 いつまでも苦手な場所に置かれている者の気持ちになってみれば、一刻も早く迎えに行ってあげたい所。だが、途中で逸れたこともある為、表で待機しているかもしれない。

 

「まあ、ルカリオも居るし大丈夫だよね」

「クァンヌ」

 

 遠くに居る者の気持ちも読み取れるルカリオに道案内を任せれば、基本的に迷う事はない。

 気楽に足を運んでいくコルニが、表に出る為の階段までたどり着くにはそう時間は掛からなかった。

 

「お、出口! ひゃっふ~い!」

 

 外から差し込む光によって照らし出される階段を見つけ、一気に駆け出していくコルニ。そんな主人を追いかけるルカリオもまた、軽やかに駆け出して行き、若干かび臭かった廃墟の中から、新鮮な空気に満ちている外へと飛び出した。

 近くに流れている川によって運ばれてくる潤った空気が肺に満ちれば、生気を取り戻したようにコルニの顔には笑顔が浮かぶ。

 

「ふぅ~! 気持ちいい~!」

「……お帰り、コルニ」

「わあっ!? ラ、ライト……此処に居たんだ」

「……うん」

 

 廃墟の階段を上がった場所のすぐ近く。ボロボロな壁に寄りかかっているライトは、手持ちのポケモン達と共にたき火で暖をとっていた。

 リザードンが吐き出した炎で点けたのだろう。赤々と燃え盛っている炎は、寒そうに震えているライトを初めとしたポケモン達の体温を徐々に上げていた。

 

「どうしたの? なんか寒そうだけど……」

「ちょっと色々ありまして、はい」

「なんでちょっと丁寧な感じで話してるの?」

 

 ベストを脱いでいるライトは、若干湿っているベストを一刻も早く乾かそうとたき火に当て続けている。

 そんな彼は大分疲れているのか、げんなりとした表情のままコルニと会話を進めていた。

 なにかあったのだろう。それだけはコルニであっても察することができた。

 

「なにか怖いことでもあったの?」

「うん」

「返答早っ! それで、具体的にどんなことがあったの?」

「幽霊みたいなポケモンが洗濯機の中に入って、水を掛けられた」

「あぁ~」

 

 『それでこの状況なのか』と納得するコルニは、苦笑を浮かべる。ライト達の周りを見てみれば、彼らの体から滴り落ちたであろう水によって地面に染みができていた。

 中々災難な事に巻き込まれたものだと考えていたコルニ。しかし、ふと見慣れないポケモンを目の当たりにし、首を傾げる。

 

「あれ? そのフワンテとフラベベ……もしかして……」

「うん。多分、あの人達のポケモンだと思うよ。初めて見る僕なんかに、泣いて飛びついてきたから」

「へぇ~、とりあえず良かったぁ~!」

 

 仲良くたき火に当たっていたフワンテとフラベベは、スリスリとライトの肩に頬ずりをする。

 それだけ怖い目にあったのだろうか。しかし、取り戻せたのは僥倖。奪った本人を見つけることができなかったのは残念であるものの、本来の目的であるフワンテとフラベベは取り返せたのだから良しと、コルニは何度も頷く。

 すると、服が乾いたのか、ライトが『どっこいしょ』と呟きながら立ち上がった。

 

「さて……そろそろ、この子も返しに行かないとね」

「ケテケテ!」

「……はいはい」

 

 刹那、ライトのズボンのポケットからにゅっと飛び出してきたポケモン。突然現れたそのポケモンに、コルニは『えっ?』と眉を顰める。

 だが、そのポケモンを見ても尚、ライトは憔悴しきった顔のまま、ポケモンを図鑑の中に戻るよう促す。

 現れたポケモンはケラケラと笑いながら、ライトが差し出した図鑑の中へとスルリと戻っていく。

 

「な、何? 今のポケモン……?」

「ロトム。居候になった」

「いそーろー?」

 

 とりあえず、大変なことはあったのだろうと確信したコルニなのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 フワンテとフラベベを、姉妹の下へ返しに行った後は、次なる街であるフウジョタウンを目指して歩んでいく二人。

 その途中で、一体ライトに何があったのかを訊いたコルニ。

 要約するとこうだ。

 

 野生のシャンデラとランプラーが襲いかかってきて、そのまま戦闘に入った。

 バトルしている途中、野生のロトムがシャンデラを倒してくれた。

 その後、ウォッシュロトムにフォルムチェンジしていたロトムが、ライト達に向かって水を掛けるというちょっかいを仕掛けてきた。

 流石に怒ったライト達であったが、ロトムが図鑑に逃げ込んだ為、手を出すにも出せない状況となり、一先ず表に出ようと歩き始めた所で、ホテルの中を彷徨っていたフワンテとフラベベを発見し、保護した。

 その途中、何故か廊下に転がっていた二体のボールを運よく発見できた為、外に出てきて暖をとり始めた―――という感じだ。

 

 自分が居ない間に、中々ハードなことを体験していたものだと感じたコルニは、ライトに同情の笑みを浮かべることしかできなかった。

 特にボールで捕まえたという事実は無く、ライトが言う通りにポケモン図鑑の中に居候し始めたロトム。

 扱いとしてはまだ野生なのだろうが―――。

 

「ケテ♪」

「……なぁに?」

「ケテケテケテ♪」

 

 電化製品に入り込むことによって悪戯をするロトムは、ハイテクな機器の一つとして数えられるポケモン図鑑を酷く気に入った様子であり、図鑑が入っているライトのズボンを中心に周囲をフヨフヨと漂っていた。

 そんなロトムに対し、ライトは溜め息を吐くばかり。

 

(な~んか、辛気臭いなぁ)

 

 このような空気は苦手なコルニも、自然と暗い表情になる。

 だからこそ、きりっと顔を引き締めてライトの肩を強く掴んだ。突然、歳も変わらない少女に肩を掴まれたライトは、一体何事であるかと目を大きく見開く。

 それに対してコルニは『えへへっ』とはにかみながら、ボールと一つ取り出してこう言い放った。

 

「バトルしよ!」

「……今?」

「今!」

「……オッケー。気分転換にちょうどいいしね!」

 

 コルニの勢いに呑まれるように頬を緩ませたライトは、先程と打って変わってハキハキとした声色となり、ボールを一つ取り出す。

 

「リザードン!」

「ワカシャモ!」

 

 互いに【ほのお】タイプを繰り出し、場に出た瞬間に攻撃を仕掛け始める。ワカシャモが軽い身のこなしで“にどげり”を繰り出せば、リザードンはそれを“ドラゴンクロー”で防いでから反撃に出る。

 毎日毎日特訓しているだけあって、立ち上がりの流れは非常に流暢だ。

 15番道路でバトルを繰り広げる二人。

 

 轟々と燃え盛る炎を纏いながら激突する二体は、遠くから見てもはっきり見える程の激闘を繰り広げている。

 本気のバトルでなければ経験はモノにならない。そう心に言い聞かせるコルニの本気にライトが手を緩める筈が無い為、毎度このような激闘になるのだ。

 

 中々の迫力のバトル。それは上空からも臨むことができる訳であり―――。

 

「およっ?」

 

 二人がバトルを繰り広げている場所の上空で、ピジョットと共に並走するように飛ぶ一人のトレーナーが居た。

 エモンガを思わせるような飛膜を腕から腰辺りまで付けているという特殊なスーツを纏ったトレーナーは、ヘルメットの奥の瞳で、ワカシャモと戦うリザードンの事を凝視している。

 

(あのしなやかな身のこなし。豪快な技の繰り出し方。そして大きな翼! そんでもってあの首に掛かってるのはメガストーン!これは―――)

「来たぁ―――――ッ!!!」

 

 突如、大空に響き渡る大きな声。

 それに驚いたライト達は、すぐさま頭上に目を遣った。

 すると、自分達がバトルを繰り広げている場所目がけて滑空してくる二つの影を目の当たりにし、思わず目を疑ってしまう。

 ピジョットは見て分かる。問題なのは、ピジョットと並走する人間だ。あのままでは地面に激突し、潰れたトマトのように―――。

 

「シュタッ、です!」

「おおっ……」

 

 しかしそんなことはなく、地面に降りる寸での所で一回転してフワリと減速したところで、そのまま華麗に着地したトレーナーらしき人物。

 その光景に驚きやら感心やらを含んだ声を漏らすライトは、

 

(すっごいスーツ着てるなぁ)

 

 率直な感想を頭に思い浮かべてみる。あのようにピッチピチのスーツを着ようものなら、身体のラインが浮き出てスタイルが丸見えになってしまうだろう。

 パッと見中性的な外見であるが、隠しきれていないその巨乳。どう見ても女性であろうトレーナーは、ボンキュッボンな体形を恥じることなく悠然と佇む。

 とてもじゃないが、自分は着ることができないだろうなと思う様なスーツを着ている人物を目の当たりにしたライトは、『ふふふっ』と笑みを浮かべるトレーナーに話しかける。

 

「えっと……どちら様で?」

「アナタっ!」

「はい?」

「スカイバトルに興味ないですか!?」

「スカイ……へっ?」

 

 『スカイバトル』という聞き慣れない単語を耳にしたライトは、目が点になる。

 すると、女性は惜しむことなくその大きな胸を揺らしながらライトのリザードンの下へ駆けて行き、目を輝かせながら橙色の竜に抱き着いた。

 初対面であるにも拘わらず抱き着いてくる相手に『面倒な人間が来たな』と言わんばかりの表情を浮かべるリザードン。

 だが女性は、抱き着いたままリザードンの首に何度もキスをする。

 

「わぁ~! いいリザードンです! これならスカイバトルでも十二分に戦えるですよ!」

「あの……だからどちら様ですか? あと、スカイバトルって……」

「オオ、ごめんなさいです! では、早速説明を致しますのです!」

 

 スーツの腰部分にあったボールを携える器具から、スーパーボールを五つ取り出す女性。それらを放り投げれば、中に納められていたポケモン達が顔を表した。

 クロバット、チルタリス、ドンカラス、シンボラー、ビビヨン。どれも共通しているのは、空を飛ぶポケモンであるということ。

 恐らく【ひこう】タイプに関するトレーナーであるということは、ここに降り立つ前より共に空を飛んでいたピジョットからも見て取れた。

 

 そして女性は徐にゴーグルを外し、つぶらな瞳をライト達に向けてこう言い放つ。

 

「ボクこそ、フウジョタウンが生んだトップオブスカイトレーナー・ガーベラなのです!」

「トップオブ……」

「スカイトレーナー?」

 

 ハモる二人。

 『トップオブ』と言っている辺り、地位的には上の方の人物であるのは理解できるが、まずスカイトレーナーが分からない。

 仲良く首を傾げる二人と二体。

 それを見たガーベラと名乗る女性は、ピジョットの頬に軽くキスをした後に、俊敏な動きでライトを指差す。

 

「スカイトレーナーとは、飛行服(ウイングスーツ)を着用してポケモンと共に飛んで戦うトレーナーのことなのです!」

「ほお」

「アナタのリザードン、見込み有りなのです!」

「なんと」

「という訳ですので、バトルを申し込むのです!」

「なにゆえ?」

 

 一通りの流れを聞いた上で首を傾げるライト。

 『ポケモントレーナーたる者、目が合ったらバトル』という言葉もあるが、目の前に居る女性の申込はまさにソレ。

 別に断る理由もないが、勢いに圧されるライトは終始上半身を若干のけ反らせている。

 どこかコルニに似たシンパシーがあるが、勢いだけで言えばこの女性の方が上だ。

 

 そのようにして、ライトが聞き手に徹している間、コルニはガーベラの大きな胸を凝視していた。

 

 ムニムニ。

 

(……負けた)

 

 成長期であるとは言え、こうも差があると敗北感に苛まれてしまうのは仕方のないこと。

 コルニが自分の胸のサイズを推し量っている間、ライトとガーベラの会話はどんどん進んでいた。

 

「もしかしてアナタ、オニドリル食いつかない系男子なのですか!?」

「なんですか、それ?」

「ボクがオニドリルを話題に出したら、大抵の人は食いついてきますのです!」

「はぁ……そうなんですか」

 

 肉食系男子でも草食系男子でもない単語―――『オニドリル食いつかない系男子』という言葉を出してくるガーベラに、ライトはなんとなしに話題を流すことしかできなかった。

 そんな雰囲気を感じ取ったのか、ガーベラはコホンと一度咳払いをしてから、ニヤリと口角を吊り上げる。

 

「それでは、早速バトルに移るのです!」

 

 ピジョットの爪に掴まれて空に飛び立っていくガーベラは、ある程度の高度に達した瞬間にピジョットから離れ、空を優雅に飛び回り始める。

 人間離れしているように思える光景に感嘆の息を漏らすライトであったが、隣に佇んでいたリザードンにアイコンタクトをとった。

 次の瞬間、リザードンは落ち葉が舞い上がるほどの風圧を、その翼で巻き起こしながらピジョットが佇む高度まで飛び立つ。

 すると、

 

『ピジョット。とりポケモン。美しい羽を広げて相手を威嚇する。マッハ2で空を飛び回る』

「……情報ありがと、ロトム」

「ケテッ♪」

 

 セルフで図鑑を起動し、相手のピジョットの情報を読み上げてくれたロトムに礼を述べるライト。

 そして、リザードンとピジョットの舞う空を見遣った。

 二体から少し離れた場所では、エモンガの如く巧みに吹き渡る風をその身に受け、ガーベラが悠々と空を舞っている。

 

(……危なくないのかなぁ、って余計な心配かな? でもまあ、トップオブスカイトレーナーって言うんだから、そこら辺は承知してる感じだと思うけど……)

「そっちが来ないなら、こっちから行くですよ! ピジョット、“エアスラッシュ”です!」

 

 大きく美しい翼を羽ばたかせ、風の刃をリザードンに繰り出すピジョット。視認できるほどの風の刃は、その凄まじい威力を物語っていた。

 直後、やや不承不承といった様子でバトルを引き受けたライトの目の色が変わる。

 

「リザードン! “ドラゴンクロー”で弾いて!!」

 

 空に響き渡る声量の指示はすぐさまリザードンに届き、自分に迫る風の刃に対しリザードンは、その凶刃な爪を以てして打ち砕いた。

 “エアスラッシュ”を“ドラゴンクロー”で打ち砕いた瞬間、鞭でも打ったかのような鋭い音が空に響き渡っていく。

 

―――あのピジョット……強い!

 

 流石は最終進化形といった強さではあるが、何やらそれ以上の強さというものがヒシヒシと伝わってきた。

 タラりと頬に汗を垂らすライト。

 そんな少年を見下ろす女性は、フッと微笑んでピジョットを見遣った。

 

「見込み通りの実力……やはりここは、全力でいきたい所ですね! ピジョット、メガシンカです!」

「ッ……メガシンカ!?」

 

 突如として、空に瞬く幾条の光。ピジョットの胸元辺りから発せられる光は、ガーベラの右手辺りから発せられると結合し、瞬く間にピジョットは変貌していく。

 頭部から後ろに向かって生えている羽は、メガシンカ以前よりも長く、そして滑らかに伸び、一房だけ前の方に垂らされた。

 大きな翼の端の方は青色に染まり、尾の羽もまた先端の方が鮮やかな青色に染まる。

 

(ピジョットもメガシンカするなんて……!?)

 

 カントーやジョウトでも、よく見ることのできるピジョット。

 だが、今ライトの視界に映っているのは、普段のピジョットより何倍も美しく、勇ましい姿をしていた。

 余りの美しさに目を奪われそうになるも、そこへガーベラの大きな声が響いてくる。

 

「さあ、アナタのリザードンもメガシンカさせるのです! 心行くまで、この大空での戦いに心を奮わせるのです!」

「……リザードン!!」

 

 メガシンカを催促するガーベラ。

 メガシンカした相手には、メガシンカしたポケモンでなければパワーで押し負ける筈。勿論、パワーだけでポケモンバトルはどうにかなるものではないが、できるだけパワーはあった方が良い。

 一日二日の特訓で、メガシンカのパワーを扱えるなどとは到底思っていない。

 だが、有り余るパワーを扱う為には、その身に滾る力の大きさを体で覚える方がいい。

 そう考える主人に対し、今や今やと『その時』を待ちかねているリザードンの瞳を地上から見たライトの出す答えは一つだった。

 

「―――光と結べ! メガシンカ!!」

 

 距離としてはかなり離れている。

 それにも拘わらず、ライトのメガリングから発せられる光は、リザードンのメガストーンから放たれる光と数秒の内に結びつき、リザードンの体色を漆黒へと変貌させた。

 蒼い炎を口の端から燃え盛らせるメガリザードンX。その姿に、ガーベラは驚嘆の声を上げる。

 

「おおっ! 流石メガシンカ! 大・迫・力!! です!!」

「“アイアンテール”だ!!」

「おっと、感動の余韻も無し……“ねっぷう”です!」

 

 メガシンカしてパワーアップしたリザードンは、鋼の様に硬い尾をピジョットに振るおうとする。

 そこへピジョットは大きく翼を振るい、文字通り身を焦がす程の熱を持った強風を吹かせた。

 吹き荒ぶ“ねっぷう”は、リザードンが繰り出そうとする“アイアンテール”の勢いを劣らせる事に成功したものの、効果がいまひとつのリザードンの進撃を完全に止めることはできずに、“アイアンテール”自体はピジョットに命中する。

 だが、どこか違和感を覚えたライトは『もしや』とガーベラに問いかけた。

 

「“ノーガード”ですか? メガピジョットの特性って」

「その通りです! 鋭いですね……まるでピジョットの目の様なのです!」

(……褒められてるのかなぁ?)

 

 命中率の低い“アイアンテール”が、“ねっぷう”で勢いを衰えさせられた上でピジョットに命中した事に、シャラジムで相対したカイリキーの特性“ノーガード”を思い起こしたライトの読みは当たっていた。

 特性が“ノーガード”であると使い手自身が堂々と言うのだから、やることは只一つ。

 

―――高威力な技を相手に叩き込むのみ。

 

「“だいもんじ”!」

 

 今、リザードンが覚えている技の中でも最高火力である技を指示するライト。

 直後、リザードンはその口腔から蒼い爆炎を解き放ち、空を優雅に舞う様に飛ぶピジョットを撃ち落とそうとする。

 

「成程です! “ノーガード”のポケモン相手には命中率の低い技であろうとも必ず当たる……ですがそれは、こちらが何のアクションもしなければの話です! ピジョット、“はかいこうせん”ですっ!!」

「っ!」

 

 突如、ピジョットの口腔から解き放たれた一条の光線は、宙を奔る爆炎の中心を穿ち、爆散させる。

 そのままの勢いで“はかいこうせん”は、リザードンへと命中し、空中で大爆発を起こした。

 余りの爆発に、宙を舞っていたガーベラも爆風に煽られて一瞬体勢を崩すものの、すぐさま宙返りをして体勢を立て直す。

 

「どうです!? これがメガシンカしたピジョット……メガピジョットの火力です!」

「……“ドラゴンクロー”!!」

「にゃに!?」

 

 己のポケモンの強さを誇らしげに謳うガーベラであったが、黒煙を突き破ってピジョットに爪を振るうリザードンを目の当たりにし、ゴーグルの奥の瞳を大きく見開いた。

 全身の筋肉が万遍なく膨れ上がったピジョットの体を一閃するリザードンの爪。岩やコンクリートであれば容易く砕く事のできるだろう一撃を喰らったピジョットは、そのままヒュルヒュルと錐もみ回転しながら堕ちていく。

 それを追うようにリザードンも急降下していき、ピジョットに追撃するべく、何時でも“ドラゴンクロー”を繰り出せるよう身構えた。

 

 だが、地面に激突する寸前でピジョットは、大きくとんぼ返りをして体勢を立て直し、そのまま着地することに成功する。

 華麗に着地するピジョットに対しリザードンは、着地する寸前に大きく翼を一度羽ばたかせる事による減速のみで降りた為、地に足が着いた瞬間、周囲には轟音と震動が伝わっていく。

 余りの豪快な着地に、空で旋回していたガーベラも『トレビアンです!』と感心した声を上げながら、二体が降り立つ地面へと舞い戻って来た。

 すると何を思ったのか、右手をパッと掲げてピジョットのメガシンカを解く。

 

「え?」

「ありがとうございますです! いいインスピレーションを受けたのです!」

「あの……バトルの続きは?」

「それはまた今度ということでお願いしますのです! 明日、フウジョタウンでイベントがあるので、是非是非来てくださいです! それでは!」

 

 そう言ったガーベラは、ライトがスッと伸ばした手にも気づかないまま、ピジョットと共にフウジョタウンがある方角へ飛び立っていった。

 一人のトレーナーを先頭に、綺麗にV字を描くように陣形をとるポケモン達は、教育が行き届いているということなのだろう。

 

 それはそうとして、置いていかれた方としてはたまったものではない。

 

「……なんか、嵐みたいな人だったなぁ」

 

 ライトもまた、リザードンのメガシンカを解いて、小さくなっていく影を見遣る。

 そして、ふと近くに佇んでいるコルニに視線を向けると―――。

 

 ムニムニ。

 

「……何してるの?」

「はっ! なんでもない!」

(説得力が皆無なんだけど)

 

 自分自身の胸を揉んでいたコルニを目の当たりにし、引き攣った笑みを浮かべることしかできなかった。

 


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