「っ……ふぅ―――ッ!!」
肺の中に満ちていた空気を一気に吐き出したライトは晴々とした顔で、笑顔を浮かべるジュプトルへと目を遣った。
メガシンカしたクチートの威圧感に圧され、空気が重苦しいと感じていたライトであったが、既に勝敗は決したのだ。
リザードンとハッサムでさえも倒せなかった相手を、よく倒してくれたものである。
親指を立ててジュプトルにサインを送るライトであったが、次の瞬間に眩い光を放ち始めるジュプトルに目を見開いた。
ブルブルと震え始めるジュプトル。次第にその体高は高くなっていき、主人であるライトよりも頭一つ分ほど大きくなるではないか。
頭部から生えていた葉がなくなるものの、代わりに長くなった首の後ろには六つほどの玉が生え、更に尻尾は針葉樹林を思わせるような刺々しいモノへと変貌する。
「ジュカアアアアアッ!!!」
「わぁ……!」
メガシンカをした相手を打ち取った。その事実はジュプトルに対し、己への自信を付けさせる結果となり、その自信はこの場面に来て一気に解放されたようだ。
徐に図鑑を取り出して、進化を果たしたパートナーの詳細を画面に映し出すライト。
『ジュカイン。みつりんポケモン。体に生えた葉っぱは鋭い切れ味。素早い身のこなしで木の枝を飛び回り、敵の頭上や背後から襲いかかる』
「ジュカイン……えへへっ、おっきくなったね!」
「ジュカァ!」
体高的にはリザードンと同じぐらいになったジュカイン。最初に会った時とは比べ物にならないほど逞しく育っているようにも思える。
この姿を、キモリを託してくれたラコルザに見せてあげればどう感じてくれるだろうか。
ジュカインの肩をポンポンと叩きながら笑みを浮かべるライトに対し、ジュカインもまた、他の者達の活躍を無駄にすることなく主を勝利へと導く事ができたことを嬉しく思っているようであり、笑顔が尽きることはない。
そして、ちらりと観戦している一人の少年に目を遣った。
「……」
視線を向けられたことを完全に把握したアッシュは、ふうっと一息吐いてから席を立つ。そして、観戦席からバトルフィールドへとゆっくりと降りていく。
フィールドへ続く階段の中腹辺りで止まり、バッジの受け渡しを行っている二人のトレーナーを眺めながめるアッシュ。
「これがうちに勝った証……『フェアリーバッジ』やさかい。綺麗やろ」
「ありがとうございます、マーシュさん!」
「ふふっ、あんさんは女の子みとぉに笑うなぁ。あとでうちがデザインした着物、着てみぃひん?」
「え? そ、それはちょっと……遠慮したいです」
「そう言わんといてぇ~。きっと似合うやさかい」
(えぇ~……なんか複雑……)
何やらライトに着物を着せてみたいマーシュに、思わずたじろいでしまうライト。まだ十二歳のライトは、年齢的にもまだ中性的にも見える顔立ちだ。
昔、何度かブルーに着せ替え人形の如く女装させられていたが、あの時とは違ってライトも羞恥心というものを覚えている年頃である。
出来るだけ後の黒歴史ができないように気を付けていきたいとは考えていた。
引き攣った笑みを浮かべるライトに対し、顔に影を作りながら『ふふふっ』と微笑んでにじり寄ってくるマーシュ。
遠目から見ればクリンクリンと可愛らしい瞳も、こんなにも近付かれてしまえば恐怖心というものを覚えてしまう。
着物の袖の中で手をワキワキとさせながらにじり寄ってくるマーシュに対し、彼女が着ている着物ような形のバッジをバッジケースにしまい込みながら後ずさりするライト。
そこへ、
「すみません、マーシュさん。俺とのジム戦の準備を進めて欲しいんですが」
「うん? ああ、ゴメンなぁ。次の挑戦者はん、もう来はってたんやなぁ。すぐ準備するから、待っとって」
「はい」
ライトのマーシュの間に入り込む様にして階段から降りてきたアッシュが、次のバトルの準備をするように促してくる。
その言葉に少し残念そうに眉をひそめたマーシュであったが、にっこりと微笑んで最初に出てきた廊下の方へと歩んでいった。
特徴的な振り袖を纏ったマーシュが去って行くのを見届けたアッシュは、再び溜め息を吐いて、緊張した面持ちで佇んでいるジュカインにキッと瞳を遣る。
次の瞬間、少年の唇はこう動いた。
―――俺達のバトルを見て行け
「ッ……!」
「ん? どうしたの、ジュカイン?」
「……ジュカ!」
「え、あ、ジュカイン!?」
突然凄まじい跳躍力でバトルフィールドを発ったジュカインは、コルニが座っている観戦席のすぐ隣に飛び降り、そのままドサリと席に座り込んだ。
それだけを見れば、ジュカインがこれから始まるであろうバトルを観戦したいという意思が窺えた為、ライトは特に深く考えることもなく観戦席へと階段を上がっていく。
「お疲れ、ライト! いいバトルだったよ!」
「うん、ありがと! ……あのさ、コルニ。この後のバトルも見てっていいかな?」
「観戦ってこと? アタシは全然大丈夫だけど……」
ライトの申し出にきょとんとしたまま了承の意を見せるコルニ。それを確認したライトは、真剣な表情でバトルフィールドを見下ろしているジュカインの隣へと座り込む。
同時に、観戦席へとやって来た白い振り袖を身に纏った女性が『ポケモンを回復致しますか?』と質問してきた為、よく戦ってくれたリザードンとハッサムのボールを託す。
「ふぅ……あの人のバトルが気になるの?」
不意に投げかけた問いに、ジュカインは無言のまま頷く。
観戦したいという意思の奥に潜む真意までは分からないものの、観戦することもまた経験であると割り切ったライトは、バトルフィールドの端でジッと佇んでいる少年に目を遣る。
「あの人、アッシュって言うんだって!」
「へぇ~」
何故か名前を知っているコルニに、ふんわりとした反応を返すライト。
赤と青と黒を基調とした帽子に、灰色の髪。帽子の陰から鋭く光る赤い瞳は、見るものの威圧させるかのようなプレッシャーを感じる。
同い年ぐらいに見える筈の少年にそれだけのプレッシャーを感じてしまったライトであるが、それは無理もない話であった。
ライト達の預かり知らぬ所であるが、彼の所持しているジムバッジは七つ。ライトの所持数よりも一つ多く、カロスで残すジムバッジは既に一つという状況であったのだ。
今まで順調にジムバッジを獲得していたライトだが、本来ジムバッジ獲得はそれほど簡単なものではない。
彼には旅に出る前と出た後にも着々と身に着けた知識と、毎日同レベルの相手と特訓できるという環境があったからこそだ。
ライトの他に旅に出たデクシオとジーナも、プラターヌ研究所で助手をして身に着けた知識があったからこそ、この短期間でバッジを獲得できたというところがある。
だが、バッジが増えていく度に相手をするジムリーダーの繰り出すポケモンの強さも比例して強くなるという形式は、ポケモンリーグを目指すトレーナーに対し、大きな壁となって立ちはだかるのだ。
最初は順調に勝ち進めたものの、半分を過ぎてからバッジを勝ち取ることができなくなり、そのままリーグ挑戦を諦めることはざらにある。
ジムバッジを七つ持つという事の意味。それは、並々ならぬトレーナーとしての資質があるということだ。
シンと静まりかえるバトルフィールドは、ジムトレーナーたちが繰り出すポケモン達によって手早く整地され、すぐにでもジム戦を行えるように整備された。
それから数分後、先程まで激戦を繰り広げていたジムリーダー・マーシュが、新たなポケモンを携えてフィールドにやって来る。
「ふふっ、じゃあ、始めましょか。クレッフィ、お出でまし」
「よろしくお願いします。ガブリアス、出番だ」
マーシュが繰り出したのは、幾つかの鍵を輪っかに通したかのような不思議な形状のポケモン。
対してアッシュが繰り出したのは、水中を泳ぎそうなヒレを有していながらも、雄々しく大地に足を着けて立っている竜だ。
クレッフィもそうであるが、ガブリアスも初めて見るライトは、その姿と情報を一致させて自分の糧にしようと図鑑を取り出す。
『クレッフィ。かぎたばポケモン。カギを集める習性。敵に襲われるとジャラジャラとカギを打ち鳴らして威嚇する』
『ガブリアス。マッハポケモン。体を折り畳み、翼を伸ばすとまるでジェット機。音速で飛ぶことができる』
(クレッフィが【はがね】・【フェアリー】で、ガブリアスが【ドラゴン】・【じめん】……どっちもどっちな相性だけど)
【ドラゴン】タイプの攻撃を無効化できる【フェアリー】を有すクレッフィ。だが、ガブリアスはクレッフィの【はがね】に相性がよい【じめん】を有す。
どちらも相手の弱点をとれるタイプではあるが―――。
「それでは、クノエジムリーダー・マーシュVS挑戦者アッシュのジム戦を開始します!」
「クレッフィ、“イカサマ”や!」
悠然と佇むガブリアスの懐に攻め入るクレッフィ。“イカサマ”―――コルニのヤンチャムが繰り出したことのあるその技は、相手の【こうげき】に依存する【あく】タイプの技だ。
となると、クレッフィ自体の【こうげき】はそれほど高くなく、相手を利用して戦うのが得意なのか。
クレッフィの小さな体がガブリアスの胴体に激突し、ガブリアスはぐらりと仰け反る。
「―――フィッ……!」
「ッ、クレッフィ!?」
「ガブリアス」
―――“じしん”だ
ガブリアスに攻撃を仕掛けたクレッフィが逆に怯んだ瞬間、その隙を逃さずにガブリアスは両腕に備わっている鋭い爪をフィールドに突き立てた。
刹那、ガブリアスを中心に轟音と激震が奔る。
「うわわわわっ……!?」
「な、なんて“じしん”なんだ!?」
建物全体が激震に包まれ、ガブリアスの目の前でグラついていたクレッフィに対しては凄まじい衝撃が襲いかかる。
小さな体が大きく跳ね、ジャラっと音を立ててフィールドに落下するクレッフィ。
揺れが治まると同時に静寂に包まれる室内。
「……アサミ。コールを」
「え、あ……クレッフィ、戦闘不能!」
茫然と立ち尽くしていた青色の振り袖を身に纏う女性であったが、マーシュの声によって正気に戻り、クレッフィが戦闘不能になったことを宣言する。
直後、リターンレーザーを照射されるクレッフィはマーシュが握るボールへと戻っていき、その線を追うと浮かない顔のマーシュの姿が佇まっているのが見えた。
「……“さめはだ”。随分珍しい特性やねぇ」
「次のポケモンをお願いします」
「そう焦らんといて。メレシー、出番や」
「……戻れ、ガブリアス。行け、ルカリオ」
マーシュが繰り出したのは、ライト達も映し身の洞窟で見たことのあるほうせきポケモン―――メレシーだ。
対してアッシュが繰り出したのは、コルニも有しているルカリオである。
今度は完全に相性が良いポケモンを繰り出したアッシュに、マーシュの細い眉は顰められた。
しかし、そのようなマーシュの表情に構わずアッシュは、腕を伸ばしてルカリオに指示を飛ばす。
―――“きあいだま”、と。
***
結果だけ言おう。
勝者はアッシュであった。ジムバッジが五つであったライトとは違い、六対六のフルバトルという形式で行われたジム戦であったが、アッシュが繰り出したのはガブリアス、ルカリオ、ブーバーの三体だけであった。
特にルカリオの活躍は目覚ましく、メレシーを倒してからは、次々と出てくる相手のポケモンに対し“きあいだま”と“ラスターカノン”で倒していったのだ。
他にも、“りゅうのはどう”と“あくのはどう”で繰り出される攻撃を相殺したりと、まさしく『はどうポケモン』という分類に違わぬ攻撃方法で相手を翻弄していた。
始めから終わりまで食い入るように眺めていたライトは、ジム戦が終了すると同時にようやく『息をする』という事を思い出す。
流れるような試合展開に呑まれていたライト。
凄い、という言葉しか出てこない中、胸の奥底で少しだけこう思っていた。
ポケモンリーグには、あのような強者が出てくるのか、と。
明らかに格上のトレーナーを目の当たりにし、僅かながらに戦慄したのだった。
そして後に知った事は、彼が去年のシンオウリーグでベスト8に輝いたトレーナーだったということだ。
***
「ふぃ~! いいお湯だったぁ~!」
夕食をとった後、少し早めの入浴を終えたシャワールームからジャージ姿で出て来る。髪をゴシゴシとタオルで拭きながら歩くコルニは、宿泊部屋のベッドの上でのんびりしているルカリオを見て、きょとんとした顔を浮かべた。
「あり? ライトは?」
「バウッ」
「外? どれどれ……」
窓に手を差し伸ばすルカリオに、既に閉めていたカーテンをどけて外のバトルコートを眺める。
するとそこには、ブルーが買った洒落た服は脱ぎ捨て、上半身は黒い肌着だけの姿でジュカインに指示を出すライトの姿が見えた。
ジュカインと相対しているのはリザードン。勿論、ライトのリザードンであることは明白であったが、汗を滴らせながら指示を出すライトの姿にコルニは、食い入るようにその光景を眺め続けていた。
「……頑張ってるなぁ」
逐一指示を出してジュカインに、リザードンの攻撃を躱すよう指示を出しているのだろう。
並々ならぬ指示の多さにライトの口が休まる事は無い。
一部の人間は、トレーナーはポケモンに指示を出すだけだと勘違いしているが、それは大間違いだ。
現に、パートナーの第二の目となるべく状況把握に努めているライトは、鬼気迫った顔で指示を飛ばし続ける。
一瞬の逡巡が勝敗を分けるポケモンバトルの世界。それを今回のジム戦で。そして、アッシュというトレーナーを目の当たりにして、刺激されたのだろう。
だが、ライトの顔には必死さはあれど、焦燥は浮かんでいない。全力でスポーツに挑んでいるかのような晴々とした笑顔を浮かべていた。
迸る血潮は声となってフィールドを駆ける。
ポタポタと顎から滴り落ちる汗を、肌着の胸の部分で拭い取る姿はスポーツマンそのものだ。
「……」
ツンツン。
「……」
トントン。
「……」
「……バウッ!」
「え!? ちょ……ルカリオ、どうしたの?」
突然咆えられた事に驚くコルニ。
しかしその前には、何度も肩を軽くというプロセスを経ていた為、どちらが悪いかといえばコルニが悪い。
『はぁ……』と溜め息を吐くかのようなルカリオの顔に、何故そのような顔を浮かばれているのか分からないコルニは眉を顰めるばかりだ。
そんなにライト達の事を凝視していた事が、ルカリオにとっては呆れることなのだろうか。
(別に、ちょっとカッコいいなぁなんて思って見てただけなのに……ん?)
カッコいい?
視線の先に居るトレーナーの姿を見て『カッコいい』と感じてしまったコルニは、変な突っかかりを覚える。
彼のどこがカッコいいのだろう、と。
ポケモンバトルに一生懸命なところか。
ポケモンと共に努力を重ねる姿か。
それとも、彼という存在がカッコいいのか。
共に過ごして一か月が過ぎた筈だが、友人としては見てきたが異性として見たことは一切ない。
そもそも、自分自身がどのような相手がタイプであるのかも把握していないコルニ。
もやもやとする心中は、コルニの表情を曇らせる。
だが、このような事を考えている事自体、自分らしくないと考えたコルニは己の頬をパンパンと叩いた後に、すっきりした顔でルカリオに目を遣った。
「よっし! アタシ達もライトのトコ行って特訓しよ!」
「バウッ!!」
風呂上りで汗を流したばかりであるのに、早々に汗が流れる様な事に足を突っ込もうとしているコルニ達。
彼女達らしいと言えば彼女達らしいことだ。
何故ならこの旅は、ライトの為だけの旅などではなく、共に高みを目指す為に同じ時を過ごすというものだからである。
傍らにいる少年が特訓しているのであれば、自分もそれに付き合ってみせよう。
そう考えたコルニは、髪も充分に乾かぬまま―――シャンプーやボディーソープの香りを放つ体のまま、外へと駆け出していくのであった。
***
「はぁ……はぁ……!」
息を切らしながら膝に手を着くライト。彼が見やる先には、同じく息を切らしているジュカインとリザードンの姿がある。
何時になく真剣な眼差しを浮かべる二体。
彼等の為に、こうして夕食の後に特訓を行っているライトには、二つの目的があった。
一つは、リザードンの基礎能力の向上。
もう一つは、ジュカインの技の習得。
前者は、マーシュが口にした通り、メガシンカしたリザードンがその有り余る力に振り回されているという事実に基づくものであった。
最近、最終進化形へと進化を果たしたリザードンであるが、まだまだその飛行能力や巨大になった体格に慣れていない節が垣間見える。
それはメガシンカしたクチートとの戦いで嫌と言う程認識した。
故に、メガシンカのパワーに振り回されるのであれば、まずはメガシンカする前の状態で充分に戦えるようになるべきではないかとライトは考えたのだ。
基礎失くして、応用が出来る筈も無い。
そして後者についてだが、これはジュカインがアッシュの試合を凝視していたことに始まる。
最初から最後まで真剣な眼差しで眺めていたジュカインであったが、特にルカリオの時は目の色を変えて試合を―――と言うよりも、ルカリオの繰り出す技を眺めていた。
特にジュカインが目の色を変えて見ていたのは、ルカリオが“きあいだま”と“りゅうのはどう”を繰り出した時。
そこからライトは察した。
ジュカインは、ハッサムがコルニのルカリオの“バレットパンチ”をラーニングしたように、その二つの技をラーニングしようとしているのではないか、と。
根拠のない考えであったが、“りゅうのいぶき”を覚えているジュカインが“りゅうのはどう”を覚えていても何の違和感も無い。
まずはやってみなければ分からないとばかりに、リザードンの基礎能力の向上と同時進行で、何かを掴むことができないかと模擬戦を行っていたのだ。
「はぁ……やっぱ、そう簡単にはいかないね」
「ジュカァ……」
「……グォウ」
「でも、大丈夫さ」
少し気落ちした表情を浮かべる二体。
しかし、そんな二体に年相応の屈託のない笑顔を浮かべ、少年が語る。
「明日は今日よりも良くなる! 今日の積み重ねで、明日は上手くいくかもしれない! そういうポジティブシンキングで行こう!」
グッと拳を掲げてみせる少年に、二体のポケモンもグッと拳を掲げてみせる。
夕暮れの落ち着いた雰囲気の中に訪れる明るい雰囲気。そのような雰囲気を作りだした少年をジッと見つめるジュカインは、フッと微笑んだ夕暮れの空を仰ぐ。
あの夕暮れの紅色も、もうすぐ黒一色へと染まりいくだろう。
以前であれば、その夜の静かさが恋しくて、ずっと眠って居られたらと考えていた。だが、今は違う。
あの夕暮れの―――そして、夜の先にある『明日』が待ち遠しい。
付いていって良かった。この少年に。
そうでなければ、一日がこんなにも短いという事実を完全に忘れ去ってしまうところだった。
夕日を眺めて立ち尽くすジュカインは、今迄を軽く振り返った後、視線を向かい側に居るリザードンへと戻す。
「よっし! もっかい行ってみよ!」
「ラ~イト~! アタシとバトルしよぉ~!」
「ん? コルニ……とルカリオ。よし、じゃあジュカイン! 進化したパワー、見せつけてあげよう!」
颯爽と現れたコルニは、瞬く間にバトルコートに立って臨戦態勢に入る。気合い充分なコルニとルカリオの姿を見たライトは、少し休憩して息が整ったジュカインに声を掛けた。
夕暮れに照らされる緑と青は、すぐさま身構えて臨戦態勢に入る。
その間にリザードンはライトの下に戻り、今から始まろうとするバトルを見届けようと、ボールに戻らないまま凛として佇む。
こうして、成長した仲間を後ろから眺めるのも悪くない、と考えながら。
報告
・活動報告『年末と年明けの更新予定』を書きましたので、読んで頂けると幸いです。