ポケの細道   作:柴猫侍

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第七十話 目が、目がぁ~!あと鼻がぁ~!

 

 

 

 

 クノエシティ。ちょっぴり不思議の街。

 カロスの最北端に位置する街であり、橙色に染まった木葉はカントーやジョウトでいう秋の季節をイメージさせる。

 湿地帯でもある14番道路に近いこともありクノエシティも湿気が多く、街の到る所に木陰に大きなキノコが生えていた。

 

 もしかするとそのキノコはパラセクトやモロバレルが擬態しているモノではないか、と疑うほどの大きさだ。

 

「シイタケを炭火で焼いたのを醤油につけて食べると美味しいんだよね」

「そうなの?」

 

 キノコを見て呟いたライトに対し『ふーん……』と唇を尖らせて興味が無さそうに反応するコルニ。

 シイタケと言えば、独特の風味で一部の子供には不評な食べ物であるが、カロスではあまり食べられていない食べものであるのか、コルニはいまいちパッとしない表情のままクノエシティを進んでいく。

 

 つい先程クノエシティに辿り着いた二人。街の独特な雰囲気を目の当たりにし、キョロキョロと辺りを見渡してみる。

 湿気を含んだ独特な香りが漂う街。どことなく甘い香りも漂うが、それは食べ物というよりは花に近い香りだ。

 

 何となく胃がもたれそうな感覚を覚えながらガイドブックを開くライト。

 

(ボール工場があるのかぁ……)

 

 どうやら街の最北端には、カロス中のフレンドリィショップに出荷されるモンスターボールを製造している工場があるらしい。

 スタンダードなモンスターボールから、少し性能のいいスーパーボール。そしてプロ仕様のハイパーボール。他にもクイックボールやタイマーボールなどの特殊なボールも、全てこのボール工場で製造されているという。

 時間があれば寄ってみようと考えるライト。昨日はコルニに無理やり怖い話を聞かされたのだから、そのくらいはコルニも許してくれる筈だと考えた。

 

 そして本命は【フェアリー】タイプを扱うといわれているクノエジムだ。

 

(【フェアリー】と相性がいいのは【はがね】と【どく】……逆に【フェアリー】が苦手なのは【かくとう】と【あく】……あと【ドラゴン】だっけ?)

 

 コルニに貸してもらったポケモンの知識について色々書かれている内容を思い返しながら、ジム戦へ向けての戦略を練る。

 【あく】が不利であるのならば必然的にブラッキーは選出から除外され、逆に【はがね】を有すハッサムは試合に出す事は決定だ。

 クノエジムの試合形式にもよるが、他に出すべきポケモンは何にするべきか。

 

(【フェアリー】タイプの技は【ほのお】に効果がいまひとつみたいだから、リザードンもかな……)

 

 現在、ハッサムと並んでライトの手持ちの中で屈指の実力を誇るリザードン。ミアレで偶然発動出来たメガシンカを経て、メガリザードンXへと姿を変えてパワーアップできた彼であれば、今回のジム戦でも活躍を見込むことができる。

 未だに詳しいやり方は分からない。

 コルニ曰く、『キーストーンに触って、ビュ~ン、ビリビリ~、バシュ~ン!』という感じらしい。

 

 さっぱりだ。

 

 如何せん擬音語の多い説明は兎も角、明日挑戦する予定のクノエジムに予約に行くため、街のガイドマップを眺めながら道を進んでいくライト。

 ガイドマップを見るのに夢中になるライトであったが、前方からはホロキャスターの画面を眺める少年が―――。

 

 ドンッ。

 

「わあ!?」

「ッ……」

 

 すれ違いざまに肩がぶつかった二人。少しだけグラつく少年に対しライトは、バランスを崩して尻もちを着くように後方に倒れた。

 『大丈夫!?』と声を上げるコルニに対し、目の前でキッとした瞳を向けてくる灰色の髪の少年にライトは『しまった』という顔を浮かべる。

 

「す……すみません。大丈夫ですか?」

「……いや、俺も前を見てなかった。悪い」

 

 地面に尻もちを着くライトに対して手を差し伸ばす少年。差し出された手を掴んで立ち上がるライトは、苦笑を浮かべながらもう一度『すみません』と口にして、無表情の少年が去って行くのを見届けようとする。

 同じぐらいの背丈であるが、歳不相応の冷めていた様子を少し不思議に思いながら、再びガイドマップを見ようとするライトであったが、

 

「ポ、ポケモン泥棒だぁ―――ッ!!!」

 

 突然街中に木霊する男性の声。

 同時に街を歩む人々は一体どこにポケモン泥棒が居るのだと辺りをキョロキョロと辺りを見渡す。

 すると、歩道を全力疾走で駆けて行く黒ずくめの男が一人。

 彼の左腕にはこんもりと膨れ上がっているバッグが抱えられており、その装いと相まって彼が泥棒であることは一目瞭然であった。

 

 同時に少し大きめの建物の扉から、涙を流しながら『待てぇー!』や『あたしのトリミアンちゃんがぁ~!』と叫ぶ老若男女問わない者達が次々と飛び出してくる。

 だが、如何せんふくよかな人々の割合が多かった為か、泥棒に追いつけそうな人物は限りなくゼロに等しかった。

 

「わっ、こっちに来てるよ!? どうする?」

「どうって……が、頑張って止める! リザードン、君に決めた!」

 

 少しテンパりながらボールを放り投げたライト。直後、泥棒を遮るようにして一体の火竜が姿を現す。

 

「うぉお!? なんだ、コイツ?」

「ポケモンを返せ!」

「ちっ、ガキが邪魔しやがって……スカタンク! ぶっ飛ばせ!」

 

 黒ずくめの男は苛立った声を上げながら、懐から一つのボールを取り出してポケモンを繰り出す。

 飛び出してきたのは、四足歩行、且つ毒々しい色をしたポケモン。長い尻尾の先は頭に乗せられている。

 更にそのポケモンが飛び出してきた瞬間に、町往く人々が一斉に鼻をつまみ始め、今まさにバトルを行おうとしているライトやリザードンも、漂ってくる臭いに思わず鼻を摘んだ。

 余りの臭さに目尻に涙を溜める者や、吐き気を催し近くの店のトイレに一直線に走っていく者達も窺える。

 

(な、何この臭い!? ず、図鑑……!)

『スカタンク。スカンクポケモン。尻尾の先からひどい臭いの液体を飛ばして攻撃する。飛距離は50メートル以上』

「うっ……大丈夫、リザードン!?」

 

 問いかけるライトであったが、リザードンは漂ってくる臭いを払う為に一生懸命翼を羽ばたかせている時であった。

 その所為で鼻を摘みながら発したライトの声は届かない。

 

「へへっ! スカタンク、“えんまく”だ!!」

「“えんまく”!? しまっ……!」

 

 周囲の者達が臭いで怯んでいる間、スカタンクに“えんまく”を指示した泥棒。瞬間、スカタンクの尻尾の先に備わっている分泌腺から黒々とした煙が放出される。

 それも只の“えんまく”ではなく、スカタンクの体内で熟成された臭い付きの、だ。

 強烈な臭いというのは目にもくるものであり―――。

 

「ああ! 目に染みる!」

「へへっ! 泥棒が真面に相手するとでも思ったか!? そんじゃあな―――ッ!!」

「くっ……待て!! リザードン、追いかけごほっえ゛ほっ!?」

 

 止まらない涙でぼやける視界。さらには“えんまく”が巻かれているのだから、視界は最悪。そのような中でなんとか泥棒を追いかけようとする。

 せき込みながらリザードンに追うように指示すると、このような臭い煙の中から抜け出せるのであればと、凄まじい反射速度で上空に羽ばたいていく。

 その間にも泥棒は、街から逃げ出して行く為に走る。

 

「へへっ! やっぱりポケモン大好きクラブだな! こんなに」

 

 シュルン!

 

「たんまりとポケモンが……あ゛ぁ!?」

 

 突然前方から伸びてきた何か。ソレに奪ったポケモンのボールが入っているバッグを奪われ、声を荒げる泥棒。

 ふと前を見ると、不愉快そうな顔を浮かべながら鼻を摘む灰色の髪の少年と、その長い舌でボールが入っているバッグを絡め取ったゲッコウガの姿が在る。

 

「てめっ、ガキこの! 返しやが―――」

「後ろだ」

「れ……あぁ!? 後ろがなんだってんどぅわぼえ!!?」

 

 次の瞬間、襟元を摘まれて宙吊りにされる泥棒。地面から三十センチほど浮いたところで吊るされる泥棒は後ろを振り返り、これまた不愉快、且つ激高しているリザードンの顔を目の当たりにした。

 

 不味い、焼かれる。

 

「スッ、スススス、スカタンク! “みだれひっかき”だ!」

「ブッピィ~~~ブリュリュ!!」

 

 リザードンに対し“みだれひっかき”を繰り出そうと飛び跳ねるスカタンク。

 しかし、

 

「“ハイドロポンプ”」

 

 マフラーのように巻かれていた舌を解く。同時に、竜巻のように螺旋を描かれた舌が飛び出している口からは、途轍もない量の水流が放出され、鋭い爪で攻撃を繰り出そうとしたスカタンクの横っ腹を穿つ。

 消防車が放出するソレよりも強力な水流に襲われたスカタンクは、数メートル吹き飛んだ後にゴミ捨て場に激突した後に意識を失い、そのまま戦闘不能になる。

 そんな“ハイドロポンプ”を放ったゲッコウガは、放ち終わると同時にすぐさま舌を巻き始め、再びマフラーのように自分の首元に舌を巻きつけた。

 

 自分の手持ちが呆気なく―――それも只の子供の手持ちであるポケモンに一撃で伸されたことに対し、泥棒は呆気にとられる。

 暫し、じたばたと手足をバタつかせてみるも、自分の事を摘みあげているリザードンが脅すように炎を顔のすぐ横に吐き出したのを境に、動きをピタリと止めた。

 

「……ちっ。最悪の日だ」

 

 鼻を摘みながらゲッコウガが泥棒から奪い取ったバッグを持ち上げる少年。

 そこへ、ライトとコルニがやって来た。

 

「おーい! ……って君は、さっきの?」

「……ほら。これ返して来い」

「あ、ありがとう……」

 

 鼻を摘んだままバッグを差し出す少年に対し、柔和な笑みを浮かべて受け取るライト。既に鼻を摘んでいないライトであるが、数秒ほど前に嗅覚が完全にマヒしたようだ。

 そこへ、『おぉ!』と歓喜の声を上げてくる恰幅のよい低身長の老人が一人。黒いシルクハットにサングラス、そしてたっぷりとたくわえた髭がトレードマークであるように見える。

 そんな老人は、未だにスカタンクの発した煙の臭いで涙目であるものの、三人の子供達を見て大声を上げた。

 

「君達が儂達、ポケモン大好きクラブ会員のポケモンを取り戻してくれた少年少女達か!ほんと~~~にアリガトウ!!」

「いや、あの……取り返してくれたのはこっちの……」

「いえ、通りがかっただけですので。それでは」

 

 三人に対し、順々に硬く握手を交わしてくる老人。それを目の当たりにした灰色の髪の少年は何か面倒なコトに巻き込まれそうだとばかりに、早々にこの場から立ち去ろうとしていく。

 だが、そんな灰色の髪の少年の肩を掴み、サングラスをかけた老人は『ほっほっほ!』と高笑いしながら、ぐるりと少年の体の向きを変え、とある場所へと進み始める。

 

「あの」

「儂はこのクノエシティにある『ポケモン大好きクラブ』の会長なのじゃ! 会員たちのポケモンを取り戻してくれた礼を、是非返させてくれ! 勿論、君達もじゃ!」

「俺は」

「遠慮しないでいいんじゃ! いいものをやるからのう!」

「……」

 

 発する言葉を遮られてまで連れていかれる少年。そんな彼の背中を見ながら、『君達もついて来てくれい! 案内するからのう!』と言われたライトとコルニの二人は、このままトンズラするのも失礼だと考え、素直に会長であるという男性に付いていく。

 ふと横を一瞥すると、既に駆けつけたジュンサーに取り押さえられている泥棒の姿が垣間見える。

 それを確かめた所でリザードンをボールに戻したライトは、顔色を悪くしながら会長の後を追っていく。

 

(この臭い、明日にはとれるかな……?)

 

 

 

 ***

 

 

 

「シュシュプ、“アロマミスト”じゃ!」

「シュ~」

 

 『ポケモン大好きクラブ』と書かれた表札が掲げられている建物に入った三人。彼らの前には、一見魚ポケモンのような見た目でありながらも、ふわふわとした体毛を有すポケモンがふよふよと漂っていた。

 会長の指示を聞いたシュシュプは、三人に向けていい香りのする霧を噴射する。

 先程までスカタンクの“えんまく”を受けて強烈な臭いを嗅ぎ、嗅覚が痺れていたライトであったが、漂ってくる芳醇な香りにだんだん嗅覚が元に戻っていく。

 

「ほっほっほ。一先ずこれで臭いの方はなんとかなったと思うが……今日はちゃんと洗濯することを勧めるぞ」

「はぁ……」

 

 今日は絶対に洗濯はする。

 そう固く誓うライト。他二名も大体同じ事は考えているだろうと思いながら、何やらゴソゴソと棚の中を探している会長の背中を眺めた。

 

「あのう……ポケモン大好きクラブって、どういう組合なんで―――」

「おお、あったあった! 是非、君達にはこれを受け取ってもらいたい!」

 

 ライトの質問を大きな声で遮った会長。悪気はないのだろうが、もやもやとした気分に陥る。

 そんな少年に『具合でも悪いのかね?』と一度尋ねる会長であったが、『い、いいえ』と引き攣った笑みを浮かべたのを見て、両手に携えていたカードとボールを三人に手渡す。

 

「……これって」

「それはポケモン大好きクラブ名誉会員にだけ渡される特別カードじゃ! 大事にとっておいてくれ!」

「そ、そうなんですか……あとこれは?」

「それは~~~……一昨年ぐらいじゃったかな? クノエシティのボール工場が創業五十周年を記念して配られた限定品のボールで『プレシャスボール』と言うんじゃ! じゃが、貰ったものの使う機会もないしのぉ~……いや、決して押し付けてるつもりはないんじゃよ!? プレミア品じゃから、価値はそれなりにあるしのう!」

「はぁ……」

 

 マシンガンのように言葉を連ねていく会長に苦笑を浮かべるライト。ふと隣を見てみると、コルニも同じように苦笑いしており、もう一人の少年はつまらなそうに棒立ちしている。

 すると突然、会長の瞳がキラリと光った。

 いや、サングラスを掛けている為、実際に瞳が見ることができた訳ではないが、なんとなくそういう雰囲気の視線を感じ取ったのだ。

 

「ほれほれ~! カワイイポケモン達をそんな窮屈なボールの中に閉じ込めておかんで、み~んな出すんじゃ~!」

「え? あ、ちょ!?」

 

 俊敏、且つ手慣れた動きで、三人の腰のベルトに装着されているボールの開閉スイッチを押していく会長。

 恐らくこういった手口の事は何度か行っているのだろう。

 流れるような動作で開閉スイッチを押されたボールからは、一斉にポケモン達が部屋の中に飛び出してくる。

 

 三人が会長の行動に驚き、糾弾する間もなく、部屋のあちこちで好き勝手に会話をしていた者達が、この場に現れたポケモン達を目の当たりにしてワラワラと群がってきた。

 

「うおおおお、リザードンかっけえ!」

「きゃああ、キュートなブラッキー!」

「もふもふな子もたくさん!」

「ねえ、触ってもいい!?」

「逞しそうなポケモンだなぁ!」

「カ、カワイイんだなぁ……」

「ああん、もう! 目に入れても痛くないくらいカワイイ子だわさ!」

 

 嵐のような言葉。

 その言葉に揉まれていくのは三人と、その手持ち達。知らない者達に撫でられるポケモン達の反応は十人十色だ。

 『ねえ、この子どこで捕まえたの!?』や、『坊主、イカしたポケモン持ってるな!』などの言葉を投げかけられるライトは、ふと灰色の髪の少年の周りに佇んでいるポケモン達を眺める。

 

(ゲッコウガにブーバー……ルカリオにエレザードと……ガブリアス。あと、トゲキッスだったけ?)

 

 強そうな面構えのポケモン達。

 全員が凛とした佇まいのまま、大好きクラブの会員たちに為されるがまま撫でまわされている。

 唯一ガブリアスは、『君、“さめはだ”?』と言われて軽く頭をポンポンと触れられるだけに終わっているが―――。

 

「ライト君! ささッ、是非君のこの子達の思い出を儂に話してみてくれ!」

「ふぇ? あ、はい」

 

 じっくり観察する間もなく近くにあったソファに座らされるライト。その間にも、ライトの手持ちは会員たちに撫でまわされている。

 べた褒めされながら撫でられる反応は各々違う。そんな中、一体だけ浮かない顔で撫でまわされるポケモンが一体。

 

「ジュプ……」

 

 目線を落として床をジッと見つめるジュプトルの様子は、まるで誰かから意図的に視線を逸らしているかのようだ。

 

 ザッ……。

 

「おや? 君も彼のジュプトルを撫でてみたいのかい!?」

「……」

 

 ふと、ジュプトルの前に立ち尽くす少年。

 未だに視線を落とし続けているジュプトルの前に立つ彼は、黙ってジュプトルを見下ろした。

 ピクリと動く彼の手。

 氷が解けていくようにゆっくりと開かれる彼の掌は、ジュプトルの頭に近付いていく。

 

 

 

「―――……」

 

 

 

 何かを呟こうとして開かれた口であったが、何も発することもできずに少年の動きは止まった。差し出した掌も徐々に握りしめられる。

 すると、不意に少年は踵を返して出口に向かって行く。

 

「おや? もう帰るのかな?」

「……俺が好きなのはポケモンバトルです。別にポケモンが好きな訳じゃない」

 

 少年が口にした言葉に、場の空気が一瞬にして凍りつく。

 それに対し、出て行こうとする少年に声を掛けた会長がソファから立ち上がり、コツコツと少年の下に歩み寄っていった。

 

「……まあ、そういう子も居るじゃろう。君ぐらいの年頃なら、そういう子が居てもおかしくはない」

「……それでは」

「じゃが、ルカリオやトゲキッスを手持ちに加えている子の言葉とは思えんのう」

「っ!」

 

 会長の言葉に、少しだけ少年が肩を揺らすのをライトは見逃さなかった。

 ルカリオは、リオルから“なつき”によって進化するポケモンだ。トゲキッスに関しては、進化前であるトゲチックがなつき進化によってトゲピーから進化した種族である。

 これでも、果たして少年はポケモンが好きではないと言えるのだろうか。

 会長は、そう少年に問うていた。

 

「……」

「ほっほっほ。バトルが好き。それもよいことじゃろう。じゃが、そのバトルによって君はポケモンから信頼を得ている。儂にしてみれば、これだけで充分じゃ。しかし、ポケモンバトルが好きというのも、ポケモンが好きであることには変わりはないと儂は思うのじゃ」

「……失礼します」

「いつでも来てよいんじゃぞ~」

 

 一言だけ言い残して去って行く少年。彼に続くように、手持ちのポケモン達もぞろぞろと外へ出て行く。

 その途中―――。

 

「……コウガ」

 

 最後に出て行ったゲッコウガが、一体のポケモンに寂しそうな瞳を向けた。そして、その瞳のまま奥のソファに座り込んでいる少年を見つめる。

 今のジュプトルの主人。

 優しそうな―――否、実際優しい心を持つ少年の瞳を見つめたゲッコウガは、後ろ髪を引かれる様な表情のまま大好きクラブの建物を去って行った。

 

「?」

 

 そのようなゲッコウガに見つめられたライトは、一体何が起きたのかと首を傾げつつ、哀愁漂うジュプトルの背中を見つめる。

 

「ジュプトル……?」

 

 

 

 

 


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