トレーナーとポケモンが絆を深めあう祭りが開催された次の日。
四人はポケモンセンターへと向かい、四人が寝泊まりできる部屋を借り、そのままぐっすりと眠っていた。
朝の陽ざしがカーテンから漏れ出す時間帯、ジリリリと鳴る目覚まし時計を止めるコルニは、キャタピーのように布団の中から出て来る。
すると、
「ポケモーニンッ!」
朝からテンションがMAXのジーナが、溌剌とした声で挨拶を口にする。
コルニも寝起きながら『おはよー!』と挨拶を返し、他の者達がどこに居るのだろうと見渡すが、デクシオは確認出来るもののライトの姿が見当たらない。
「んぁれ? ライトは……?」
「ライトなら、レポートを提出しにエントランスの方に行っていますわ」
「そうなんだ。今日は先越されちゃったなぁ~」
欠伸を堪えながら話をするコルニは、早速パジャマから出かける用の服に着替え始める。それを見たジーナは、『お待ちなさいな!』とコルニを制止し、駆け足で未だ眠っているデクシオの下へと寄っていく。
「デクシオ、ポケモーニンッ! もう朝ですわよ! レディーが着替えますから、貴方は廊下で少し待機して下さいまし!」
「ん……なんで、ポケハウスの挨拶……?」
「それはいいですの! 日曜朝八時から始まる番組の事は兎も角、レディーの着替えを覗くなど不名誉な称号を与えられたくないのであれば、お早くに廊下へと行って下さいまし!」
「わ、わかったけど……」
ジーナの声に否応なしにたたき起こされたデクシオは、眠そうに目を擦りながら廊下へと向かって行くデクシオ。
デクシオが出ていったのを確認するとジーナは、『お待たせ致しましたわね!』とコルニの着替えの再開を催促する。
それを見て早速と言わんばかりにパジャマを脱ぎ始めるコルニは、頭の中でとあることを考えていた。
(そう言えば今日、ヒヨクジムに挑むんだっけ……ライト)
***
「はぁ……はぁ……! なんでジムがこんな高い所に……っていうか、誓いの樹の上にあるのさ!」
「以前も登りましたが、流石に足に来ますわね……」
ポケモンセンターを後にした四人は、現在誓いの樹の頂上に当たる部分に存在するポケモンジムを目指していた。
しかし、現在も成長を続けている誓いの樹にエレベーターやエスカレーターを設置することはできていないらしく、旨い具合に樹に巻きついている太い蔓を上っていくという方法で進んでいくしかない。
一応、道案内の看板は建てられているものの、出来る限り自然の形のまま残している道のりはかなり険しいものとなっている。
「本当……キツイなぁ~……!」
「いや、ライトがきついのはブラッキーを背負ってるからだと思うんだけど……」
「え?」
デクシオの言葉にライト以外の全員の視線は、一人の少年の背へと向けられる。あろうことかライトは、昨日進化したばかりのブラッキーをおんぶしながら、この険しい道のりを歩んできているのであった。
一人だけ完全に労力が桁外れなコトをしているライトに、ジーナが頬を引き攣らせながらこう言い放つ。
「完全にドMプレイですわね……」
「僕はそんなつもりは全然ないんだけど」
「27キロですわよ!? 血迷っているとしか思えませんわよ! ちょっとした登山に持っていく荷物の重さですわ!」
「まあ確かに重いけど……」
ふーっと息を吐くライトに対しおんぶされているブラッキーは、終始リラックスした顔を浮かべている。
三十センチから約三倍の大きさである一メートルへと成長したブラッキーは、到底ライトのフードに収まる大きさではなく、更に増えた体重によって朝に悲劇を起こしてしまったのだ。
『ブラァ―――ッ!』
『ちょ、ブラッキー!? それでフードになんか入ったら……!』
ビリッ。
現在、ブラッキーを背負っていることにより見る事は出来ないが、今日のライトの服のフードは破れて無くなってしまっている。
フードを破ってしまったこと。そして、自分が以前のようにフードに入る事ができない事を悟ってしまったブラッキーは、この世のすべてに絶望してしまったかのような顔を浮かべた。
そこで、見るに堪えないパートナーの姿を目の当たりにしたライトが行ったことが、ブラッキーを背負うというものであったのだ。
ジムに挑戦するには、この誓いの樹を登らなければならないことを知っていたデクシオとジーナの二人は必死に止めさせようとした。
だが、最終的には『最初だけだから』と口にするライトは、そろそろ誓いの樹の最上部に来るであろう高所に来ても尚、ブラッキーを背負ったままであったのだ。
これぞマサラクオリティ。
傍から見ればドMの所業にしか見えないことであっても、彼らにとっては至って普通のことの部類に入るものなのだ。
それは兎も角、息を切らしながら登り始める事三十分。漸く、最上部であると思われる場所に出てきた四人は、広大なバトルフィールドを目の当たりにした。
樹の上であるにも拘わらず土が敷き詰められており、樹の上に生い茂る木というのは中々妙な物である
バトルフィールドの真上はちょうど木葉が退けられており、燦々と降り注ぐ太陽の光が降り注いでいた。
逆にそれ以外はというと、鬱蒼と生い茂る木葉が木陰を作りだし、バトルフィールドとは打って変わって涼しい場所を作り上げている。
自然に囲まれるという部分ではハクダンジムに通ずるところがあるが、向こうが整備された自然であるのに対し、ヒヨクジムは完全に自然と一体化しているといったところか。
瑞々しい空気を吸いこみながら、額に滲み出ていた汗を拭うライトは、ジムリーダーがどこに居るのだろうと辺りをキョロキョロと見渡す。
すると―――。
「おやおや……まさか、ここに登ってくるまでずっと背負ったままじゃったのかい?」
「え? あ……はい。えっと、貴方がフクジさん……ヒヨクジムリーダーですよね? 僕はライトって言います」
茂みの中から大きな鋏を携えながら、【くさ】タイプのポケモン達と姿を現す老人―――『フクジ』に一礼するライト。
「そうじゃ。わたしがここでジムリーダーを務めておるフクジじゃ。君とは、昨日街中でも会ったな」
「はい! その度はありがとうございます。お蔭で、イーブイがこの子……ブラッキーに進化したんです!」
紹介するようにフクジに対して背を見せつけるライトは、背負われているブラッキーを見せつけた。
背負われているブラッキーを目の当たりにしたフクジは、溌剌とした笑い声を上げながら嬉しそうな様子を見せる。
「はっはっは! そうか、それはよかった! ライト君じゃったな? 此処に来るという事はジム戦に来たのじゃろう……昨日の祭りで絆も深まった事じゃろう。今日のジム戦を期待することにしようかの」
「ジム戦、よろしくお願いします!」
「うむ、元気がいいのう。じゃが、いきなりジム戦も
木々の手入れ用の鋏を腰からぶら下げているケースに仕舞った後に、ウツボットやワタッコなどの見慣れたポケモンと共に、バトルフィールドの奥にある場所へと招くフクジ。
その際、メェークルを逞しくしたようなポケモンに身軽に飛び乗るのを目の当たりにしたライトは、折角であるのだからと図鑑を翳してみる。
『ゴーゴート。ライドポケモン。ツノを握るわずかな違いからトレーナーの気持ちを読み取るので、一体となって走れるのだ』
(ゴーゴート……パワーがありそうなポケモンだなぁ)
屈強な身体を見るだけで、かなりのパワーを有していることは理解できる。
(強敵だな……)
恐らく、ジム戦でも繰り出してくるであろうポケモンを目の前に、ライトの表情は凛としたものになる。
だが、フクジに招かれるがままに進んでいく先から漂ってくる茶の香りにハッとして、一先ずは休憩に勤しもうと穏やかな笑みを浮かべた。
***
「あぁ~……久し振りの緑茶、美味しいです」
「そうか、それはよかった。緑茶にはカテキンも多いし、ビタミンCもある。紅茶も旨いが、わたしはやはり緑茶の方が好きじゃのう」
「そうですね。お茶漬けとかも美味しいですし……」
「茶漬け……? ああ、白米に熱々の茶を掛けて食べる料理のことか。カロスでは余り見ない食べ方じゃが、実際どうなのかね?」
「梅干しとか漬物とかと一緒に食べると美味しいですよ。塩味が程よくなるのと、お茶の風味がお米とよく合うんで……」
「ほう! なら今度、米を取り寄せて試してみようかの」
バトルフィールドの奥の部屋にあるのは、普段フクジがよく休憩に来るという書斎のような部屋であった。
円を描くように丸い部屋の壁には所せましに本棚が敷き詰められており、様々な種類の本が垣間見える。
おもに草木の本が多いが、ポケモンの事や歴史についての本もあり、フクジが様々なジャンルに気を掛けていることが理解できた。
そんな書斎の中央に置かれている丸型のテーブルの周りに座る四人とフクジ。その中でも、隣り合って座りながら茶を啜るライトとフクジの話は盛り上がっている。
「(なんかライト、おじいちゃんみたいだね……)」
「(お茶漬けとはなんですの?)
「(カントーとかジョウトの、ご飯にお茶を掛けて食べる料理だった筈だけど……)」
「(……カロスで言うところの、コーンスープにパンを浸して食べるようなものですの?)」
「(う~ん、まあ……主食を飲み物に浸すという点ではあってると思うけど)」
盛り上がるライトとフクジとは打って変わり、ひそひそと会話を繰り広げている三人。お茶漬けが何たるかを訊いてくるジーナに、各地方について博識なデクシオが答えていく形で話は進むが―――。
「(あと、梅干しってなんですの? 話を聞く限り、しょっぱそうな食べものに聞こえますわ)」
「(確か……梅の果実を干した後に塩漬けした物の筈だよ)」
「(あたし食べたことあるよ! ……めちゃくちゃ酸っぱくて、ピクルスの比じゃなかった……)」
祖父に勧められて食べたことのある梅干しの味を思い出し、思わず口をすぼめてしまうコルニ。
その顔を見てジーナは戦慄する。
「(ピクルスの比じゃない酸っぱさの物を……!? 中々チャンレンジャーな方が多いのですわね、向こうの方々は……)」
勝手にカントーとジョウトのイメージが築き上げられる瞬間であった。
***
緑茶を用いてのティータイムは終了し、ライトとフクジの二人はバトルフィールドの両端で準備運動をしていた。
温かい陽気の中でも、時折吹いてくる風がフィールド全体に心地よさをもたらしていく。
コルニ達三人については、フィールドから少し離れた場所に設置されている観戦席に佇んでおり、これから始まる一人の少年の戦いの行く末を見守ろうとしていた。
「ライト君のジムバッジは四個じゃったな?」
「はい!」
「それじゃあ、今回のバトル形式は手持ち三体を用いてのシングルバトル……バトル中の交換は挑戦者のみに認められる。後者については今まで何回も聞いておることじゃろう」
「ジムリーダーの方も、交代技でならありだとは聞いています」
「その通りじゃ。それをどう利用するかは、君次第ということじゃな」
ここにきて不敵な笑みを浮かべるフクジに、同じく不敵な笑みを浮かべるライト。念を押してくるという事は、今から戦うジムリーダーがそういった戦法を扱うのを暗に示していることであった。
その事を考慮しつつ選んだボールを片手にするライトは、既に臨戦態勢に入っており、闘志滾る瞳をフクジへと送っている。
フクジもまたボールを片手に握ると、審判であるジムトレーナーにアイコンタクトをとった。
「これより、ジムリーダー・フクジ対挑戦者ライトのジム戦を行います!」
「ファイトですわよ、ライト!」
「かっ飛ばせぇ―――!」
ドンドンドン、パフッ、パフッ!
「……二人はどこからそれを持ってきたんだい?」
どこからともなく取り出した応援グッズを目の当たりにしたデクシオは、やんわりとした声色でツッコんでみるものの、二人は一切気にせずに応援を続けている。
その間にも、審判の指示で二人はボールを放り投げて一体目のポケモンをフィールドへと繰り出した。
「ハッサム、君に決めた!」
「ワタッコ、行きなさい」
ライトが繰り出したのがハッサムであるのに対し、フクジが繰り出したのは頭部と手にタンポポの綿毛を有すポケモン。
一見、ハッサムと比べると余りにもひ弱そうなポケモンに見えてしまうが、それでも選出したことを考慮すると、何かしらの役割を有しているのか。
それは戦ってみなければ分からないことであるのだが、戦ったことのあるデクシオとジーナの表情は何やら浮かないものとなっていた。
「これは……」
「ハッサムでは、不味いかもしれませんわ」
「えっ?」
予想外な二人の言葉に思わず声を上げるコルニ。タイプ相性的には圧倒的優位を誇るハッサムだが―――。
「それでは、試合開始!!」
コルニの疑問が解けぬまま、審判の声が響き渡ることによって戦いの幕開けが否応なしに知らされることになった。
刹那、審判の視界を奔り抜ける一陣の紅い風。
「“バレットパンチ”!」
「なんとっ!」
試合開始と同時に駆け出したハッサムは、弾丸のように速い拳をワタッコに突出し、その小さい体を殴り飛ばした。
大きな鋏で殴り飛ばされたワタッコは数メートル程宙を飛んだ後に、何とか両腕の綿で空気を受け止めて停止するものの、かなりの体力を削られたのかその表情は険しい。
開幕直後の“バレットパンチ”に驚くフクジであったが、ニヤリと口角を吊り上げてワタッコに指示を出す。
「“コットンガード”じゃ!」
次の瞬間、ワタッコの有す綿毛から凄まじい量の綿が宙に放たれ、ワタッコの周囲は綿毛で埋め尽くされていく。
もふもふする物を好む者であれば歓喜を見せる光景であろうが、“コットンガード”の技の能力を把握していないライトは逡巡するように顎に手を当てていた。
(ここは一先ず……)
「“つばめがえし”で切り裂いて!」
【くさ】の弱点を突ける【ひこう】技である“つばめがえし”を指示したライト。
ハッサムは再びワタッコが居るであろう綿の集合体へ向けて駆け出し、綿ごとワタッコを斬りつけようと鋏を振りかざした。
しかし、
(ッ……届かない!?)
ザンッ、と綿を大きく切り裂いたハッサムであったが、肝心のワタッコに鋏が届くことは無かった。
どれだけの量が凝縮しているのかと疑いたくなる光景だが、驚くライトを目の当たりにしたフクジは畳み掛けようと声を張り上げる。
「“にほんばれ”じゃ!!」
切り裂かれた綿毛の中から飛び出してくるワタッコは、燦々と日光が降り注ぐ位置まで飛翔に、空に向かって両腕を掲げた。
その瞬間、フィールド上に降り注ぐ日光の勢いが強まり、ライト達が居る場所の気温がぐんぐん上昇していく。
余りの熱さに額からタラりと汗がにじみ出るが、それを拭いながらライトは上空に対空しているワタッコを指差した。
「ハッサム、“とんぼがえり”!!」
ハッサムの“つばめがえし”ですら切り裂く事の出来なかった“コットンガード”という技を、【ぼうぎょ】を各段に上昇させる補助技だと断定したライトは、一先ずハッサムを下げることを画策して“とんぼがえり”を指示した。
指示通り“とんぼがえり”を繰り出そうと宙へ飛翔していくハッサム。
直線での移動であれば、ストライクの頃と大差ない速さを出す事のできるハッサムはものの数秒ほどでワタッコに接近し、トレーナーの下へと戻る勢いを付ける為にワタッコに攻撃を仕掛けようとするが―――。
「“まもる”じゃ、ワタッコ」
「ッ!」
あと一歩、というところで防御壁に繰り出した攻撃を防がれてしまったハッサムは、翅を上手く羽ばたかせてフィールドへと着地しようとする。
「そこじゃ、ワタッコ! “とんぼがえり”!」
先程とは逆に、ワタッコの方からハッサムへと突撃していく。
(速いッ!?)
只でさえ速かったワタッコの動きが更に鋭さを増しているのを目の当たりにし、ライトは瞠目する。
そうしている間にもワタッコはハッサムの体に激突し、そのままフクジのボールの中へと戻っていく。
攻撃を喰らったハッサムであったが、大したことのないダメージであったのか、特にバランスを崩すことも無くフィールドに着地した。
そして、ワタッコの代わりにフィールドに姿を現したのは、大きなツボのような植物ポケモン。
「頼んだぞ、ウツボット」
(ウツボット……!?)
【くさ】・【どく】の複合タイプであるハエとりポケモン『ウツボット』。“バトンタッチ”で能力を引き継ぐわけでもなく飛び出してきたポケモンに、ライトは得も言えぬ違和感を覚えた。
記憶の限り、ウツボットにはハッサムに対抗できるような技は持っていなかった筈だが―――。
「ハッサム、ここは“つばめがえし”で行こう!」
耐久はそれほどなかった筈。“テクニシャン”の補正が掛かっているハッサムの“つばめがえし”であれば、ほぼ一撃でウツボットを下すことができると判断したライト。
指示を受けたハッサムは、ドンッとフィールドを蹴ってウツボットに向けて飛翔してくる
それを見たフクジは、かつてない程に口角を吊り上げて腕を前へと振るった。
「“ウェザーボール”じゃ、ウツボット!!」
次の瞬間、ウツボットの口の部分とそれを覆い隠すように生えている葉の間に、一つの光弾が収束されていく。
始めはただの白い光弾であったが、みるみるうちに赤く、そして熱く変化していった。
赤熱する光弾を目の当たりにしたライトは、ゾクリと背筋が凍ったかのような感覚に陥る。
「しまった! ハッサム、避け―――」
「遅い!」
回避するよう指示したライトであったが、予想以上に動きが速いウツボットは直線状に飛来してきたハッサムに“ウェザーボール”を解き放つ。
ウツボットの動きに比例するように高速で解き放たれた光弾は、そのままハッサムの体に直撃し、フィールドに爆発を巻き起こす。
明らかに【くさ】技ではない攻撃。それは、ハッサムの唯一の弱点であった。
爆炎の中から一つの影は、姿を現すと同時にそのまま力なくフィールドに崩れ落ちる。
「ハッサム、戦闘不能!」
「ッ……!!」
「どうじゃね、ライト君。これこそが、【くさ】の真髄の一つじゃよ」
瀕死になったハッサムをボールの中へ戻しながら戦慄しているライトに、目元に影を浮かべながら語るフクジ。
そこには既に、優しい老人の姿はなく、挑戦者に相対すジムリーダーが悠然と佇まっていた。
「【くさ】は一般的に天候に支配されやすいタイプじゃと言われておるが、それは間違い……天候を支配できるタイプこそ【くさ】。この母なる大地に深く寄り添いながら生きてきたポケモンの『力』じゃよ」
「くっ……!」
「“ウェザーボール”は天候によってタイプと威力が変動する技……あとは、言わずとも分かるじゃろう?」
「……“にほんばれ”で晴れにしたから、【ほのお】へと……ですね」
「明答」
ライトの答えに笑みを浮かべながら正解であることを伝えるフクジ。それが心理的圧迫を与える作戦であるのかどうかは分からぬが、ただ一つ理解できたことはある。
ジュプトルを繰り出したところで、弱点を突かれて一方的に倒されるのみであるということ。
恐らくウツボットやワタッコの特性は“ようりょくそ”。晴れの時、【すばやさ】が倍になる、【くさ】タイプのポケモンに多い特性だ。
ジュプトルも【くさ】はあるものの特性は“しんりょく”。尚且つ、元の【すばやさ】が速かろうと相手はそれ以上の速さを有している。
繰り出した直後に“ウェザーボール”で返り討ちにされるのは目に見えていた。
(なら、リザードで攻めるべきなんだろうけど……悪手かもしれない)
晴れの恩恵を受ける【ほのお】を繰り出そうかと考えたライトであったが、その考えは切り捨てられた。
【すばやさ】の速い相手に上から“ねむりごな”や“しびれごな”を撃たれることを危惧したからである。
(状態異常を回避できて、尚且つ天候を味方にする【くさ】を相手どるには……この子しかいない!)
腹が決まった所で一つのボールに手を掛けたライト。
繰り出したのは―――。
「ブラッキー、君に決めた!!」
昨日進化したばかりの頼もしいパートナー。