ポケの細道   作:柴猫侍

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第百十七話 タイプ:ワイルド

『“ドラゴンクロー”と“つばめがえし”の激突ゥ―――ッ!! P-1グランプリを彷彿とさせる激しい攻防だぁ!!!』

 

 【かくとう】ポケモンのチャンピオンを決める祭典であるP-1グランプリ―――それを彷彿とさせるほどの肉弾戦を披露するのは、リザードンとゲッコウガだ。

 使い慣れた“ドラゴンクロー”で身軽なゲッコウガを捉えようと試みるリザードンであるが、巨大な水を身に纏うゲッコウガはスイスイと鋭い一閃を躱していく。

 

 ビュッと風を切る爪を掻い潜りながら、合間を縫って華麗な足技での反撃を喰らわせる。

 地のスピードで劣っているリザードンは無理に回避するのではなく、肉を切らせて骨を断つ精神で、カウンターを狙っていた。

 どうにかして、ゲッコウガのスピードを少しでも削れないか。

 思慮を巡らすのはライト。手持ちの中で最も早いジュカインですら劣るのだから、正面突破は悪手だろう。

 

「なら……“じしん”!!」

「飛んで躱せ、ゲッコウガ!」

「今だ! “ドラゴンクロー”で岩を飛ばせッ!!」

 

 地表に爪を突き立て、轟音響かせる揺れを生み出すリザードン。

 ゲッコウガはその攻撃を見切り、すぐさまとんぼ返りするかのようにバク転して宙に逃げるが、それこそライトが狙っていた隙。

 宙であれば、ゲッコウガ持ち前のスピードは生かすことができない。

 

 そこへリザードンが、突き立てていた爪をそのままスライドさせて地面を抉り、無数のフィールドの破片をゲッコウガへ放り投げた。

 

「“みずしゅりけん”で迎え撃て!」

 

 しかし、太腿に掌を添えたゲッコウガが、特殊な粘性の液体を用いて手裏剣を生み出す。

 次の瞬間には、放り投げられた数々の“みずしゅりけん”が、襲いかかる破片を次々に撃ち落としていく。

 当たっては弾け、また当たっては弾け―――燦々とした太陽の陽が降り注ぐ今、弾け飛ぶ水飛沫は光を乱反射し、幻想的な光景を次々と生み出していく。

 

 一方、実際に戦っている二体はと言えば、幻想的な光景には似つかわしくない表情だ。

 今も、ゲッコウガが放った“れいとうビーム”を、リザードンが“フレアドライブ”で無力化しながら肉迫しようとしている。

 

「くッ……“ハイドロカノン”を当てて回避しろ!!」

 

 螺旋するように回転して飛翔してくるリザードン。

 効果はいまひとつと言えど、喰らえば致命傷は免れないだろうという判断から、最高火力を以てして迎え撃つことに決めたアッシュ。

 

(ああ、楽しいな……この限限(ギリギリ)の感覚!)

 

 まるで、今まさにリザードンと相対しているゲッコウガのようになった気分で、事の顛末に目を向ける。

 真正面から突っ込んでくるリザードンに狙いを付けるべく、マフラーのように巻いていた舌を解き、がま口を露わにした。喉の奥からは、ゴボゴボと水が湧き出る際に浮かび上がる泡のような音が響いてくる。

 

 刹那、激流という言葉でも足りないほどの流水が、蒼い爆炎の塊目がけて放たれた。

 

 一瞬にして水気が満ちるフィールド。

 それほどまでに膨大な激流を正面から喰らうリザードンであるが、一切の速度減衰が見られない。

 

「イ……ケぇぇえええええええッッ!!!」

 

 ただ信じることしかできない。

 この一瞬ではそれしかできないライトは、あらんばかりの声でリザードンへ声を届ける。

 

 その想いが届いたのか、【みず】の究極技と謳われる攻撃を前にしても、リザードンの進撃は留まる事を知らない。

 当たった傍から、ある程度の水は蒸発していく。それだけでも相手の攻撃の威力を減らすことができている。

 

 相手は、リザードンのように翼が無ければ、特別空中を飛び回れるような手段を持ち合わせていない。

 そんなポケモンが宙で凄まじい反動のある技を使えば、その後どうなるかは容易に想像できる。

 

―――ここが正念場

 

 この一撃さえ凌ぐことができれば、限りなく頂点に近付くことができる。

 それを理解しているリザードンは、軋む自分の肉体に気にすることもなく前へ、ただ前へ進むことだけを意識していた。

 

 体力はゴリゴリ削られている。

 今進めているのは、ほとんど並々ならぬ気力があるからこそ。

 

 繋いでくれた。

 仲間が繋いでくれたからこそ、今この一瞬がある。

 そして、この一瞬こそが勝負の分かれ目だ。

 

「グォォォオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」

 

 最後の力を振り絞るかのように咆哮を上げるリザードン。同時に、“フレアドライブ”に伴う体に纏う蒼炎も、一層苛烈さを増す。

 そして―――視界が晴れた。

 

 水しか映らなかった視界に、攻撃を放った反動によって無防備のゲッコウガが、宙に佇んでいるではないか。

 あと少し羽ばたけば、ゲッコウガの胴体にこの一撃を決めることができる。

 その想いのままに羽ばたく―――

 

 

 

 

 

「ゲッコウガぁッ!!!」

 

 

 

 

 

 アッシュの叫ぶ声が響く。

 同時に、技の反動で気力を失っていたゲッコウガの瞳に光が戻った。

 するとゲッコウガは、ダランと垂れていた舌に力を入れ、鞭のように撓らせるようにして、迫りくるリザードンに叩き付ける。

 

 ジュワっと舌の水分が飛び、潤いが消えていくような音が聞こえるが、ほんの僅かにゲッコウガの体は横にずれた。

 

「―――ッ!!?」

 

 それが決定的だった。

 結論で言えば、リザードンの“フレアドライブ”は当たった―――のだが、僅かに攻撃の軸から逸れたことにより、攻撃はゲッコウガの左半身にしか命中しなかった。

 左半身に走る衝撃に目を細めるゲッコウガ。反動で体が横回転するが、持ち前の体幹ですぐさま体勢を整え、近くの岩壁に着地する。

 

 そんな相手を追うべく、再びその身に炎を纏おうとするリザードン。

 だが、ふとした瞬間に視界がグラついた。

 暗転する視界。身体中の力が抜けていく感覚に抗うことができず、そのままリザードンは墜落し、フィールド中央の川へ落水する。

 

 派手な水柱を上げて落水したリザードン。

 観客の中には、準決勝で見せたタフネスによって、まだ立ち上がれるのではないかと考える者も居たようだが、現実はそう甘くはない。

 

 水柱が上がったことによる霧が晴れれば、メガシンカが解け、元の橙色の体色となったリザードンが、眠っているかのように安らかな顔で倒れているのが、全員の目に映った。

 

「リザードン、戦闘不能!」

「……お疲れ様、リザードン。ゆっくり休んで」

「よくやったゲッコウガ。まだいけるな?」

 

 倒しさえできなかったが、それでも執念でゲッコウガの体力を削ったリザードンを労うライト。

 一方、執念の一撃を僅かに貰ったゲッコウガは、息を荒くしつつも戦闘続行の意思をアッシュに伝えるように頷く。

 

 残りは一体。

 疲弊したジュカインのみ。

 状況はよろしくはない。寧ろ、こちらが劣勢と言っても過言ではない状況だが、依然としてライトは笑みを浮かべている。

 今更恐れ戦いた所で状況が好転しないことは重々承知していた。

 しかし、そのような考えよりも、今は『楽しい』という感情が先行している。

 

「―――行こう」

 

 感情の変遷。

 辿り着いた先は原点。

 

 敗北は怖れていない。

 

 勝利を信じている。

 

 今こそ、決めるのだ。

 

「ジュカイン、キミに決めたッ!!!」

「ジュルァァァアアアアアアッ!!!」

『ライト選手、最後の一体を繰り出したぁ!!! 正真正銘、最終決戦です!!! 果たして今年度のカロス地方ポケモンリーグチャンピオンに輝くのは、どちらの選手かぁ!!? 目が離せません!!』

 

 現れる若草色の体。

 己を鼓舞するかのように咆哮を上げる様は、リザードンの姿が重なる。

 

「……」

 

 その姿を一瞥するアッシュは、何を思っているのか、数秒瞼を閉じる。

 

「―――勝つぞ」

「コウガッ!!」

 

 透き通った水がゲッコウガの体を再び覆う。

 

「“あくのはどう”!!」

「“きあいだま”!!」

 

 漆黒と光弾が激突する。

 

 複雑な色合いの波動とエネルギーは混じり合い、絡み合い、互いを呑み込むかのように喰らい、刹那的に弾け飛んでいった。

 

「どっちも負けるなぁ!!!」

「ライトォ!! お姉ちゃんは信じてるわよォ!!」

「行けぇ、ゲッコウガァ!! ジュカインもだ!!」

「負けたら承知しませんわよぉ!!」

「野暮かもしんないけど……頑張れぇ!! それしか言えねぇ!!」

「ファイト! ファイトォ!!」

「ピッカァ!! チャァア!!」

 

 熾烈なバトルに呼応するように、歓声もヒートアップしていく。

 これこそが王者の祭典(ポケモンリーグ)決勝戦(ファイナル)の熱というものだ。夏の暑さにも負けぬ、人とポケモンの昂ぶりは留まることを知らずに、胸の内を焦がしていく。

 このバトルは、今コロシアムに居る者のみならず、電波を通じて世界に発信され、多くの者の目に映る。

 

 彼等に伝播する熱は、次第に広がり、新たなトレーナーたちの心に火を熾す。

 聖火の如く次世代に引き継がれ、弱弱しく、やがて激しく燃え盛る炎となりえる種火を!

 

 互いにヒットアンドアウェイを得意としているのか、刹那の剣戟を交えては離れるといった動きを見せる二体。

 この試合中、一度はゲッコウガに為す術なく退いたジュカインであったが、自分の背に全てが掛かっているという自覚から、普段の数倍以上もの集中力で、辛うじて直撃を免れていた。

 

 迫る“れいとうビーム”は、最小限の動きを以て、紙一重で躱す。

 牽制に放たれる“みずしゅりけん”は、“めざめるパワー”で相殺する。

 止めを刺そうと繰り出される“つばめがえし”は、普段滅多に使わない腕の鋭利な葉で防ぐ。

 

 一挙一動に、二択三択を迫ってくる。

 

 今も、辛うじて防ぎ、反撃の隙を窺うことしかできない。

 だが、予想していたことだ。

 こうでなければ意味がない。

 

 ジュカインの瞳には、氷のように燃え盛る闘志が宿っている。

 

 冷静に、且つ情熱的に。

 後ろから聞こえてくる指示に、ほぼ反射的に体が動く。以前であれば、極度のプレッシャーから、体が動くことすらままならなかったことだろう。

 それでも今は、落ち着いて相手の動きを捉えられている。

 

 

 

―――遥か前方を歩いていたように思えていた背中を

 

 

 

―――今は、もう少しで追い越せる場所まで

 

 

 

―――手を伸ばせば、届く!

 

 

 

 カッと目を見開いた瞬間、ほぼ零距離で“みずしゅりけん”が放たれる。

 一直線に繰り出される一撃。

 

「ッ!?」

 

 だが、ゲッコウガの繰り出した攻撃を完全に捉えたジュカインは、首を傾げるように倒し、“みずしゅりけん”の一閃を回避した。

 相手が疲弊したことによる攻撃速度の低下か、はたまたジュカインの極限の集中によるものか。

 

 だが、千載一遇の好機(チャンス)が訪れたことには変わりはない。

 

「ジュカイン、“きあいだま”ぁあ!!!」

 

 すかさず良く通った声が響く。

 

―――ショウヨウジムでも聞いたことがあるような気がした

 

 怒号にも似たような声。

 だが、そこに赤黒い感情は窺うことはできない。

 寧ろ、全幅の信頼を以て願っているかのような、全力で背中を押してくれるような空気の震え。

 

 気付いた時には、バリバリと限界まで収束し切った光弾を、零距離で地面に叩き付けていた。

 ゲッコウガはと言うと、寸での所で跳ねて回避し、今は宙に留まっている。

 

「追撃!!」

 

 今こそ、決着の時。

 ライトはパチンとフィンガースナップを慣らしつつ、追撃の指示を出す。

 

 太腿に力を込め、ギャロップ顔負けの跳躍でゲッコウガへ肉迫するジュカイン。だが、彼の顔面へ影が掛かる。

 

「―――“つばめがえし”ッ!!」

 

 ムーンサルトキックの要領で放たれる“つばめがえし”が、跳躍したジュカインの顔面に叩き込まれた。

 跳躍した筈であるにも拘わらず、数秒後には真下の川へ叩き込まれる。

 間欠泉の如き水柱が上がった。霧散する水は日光で虹を描く。その中を滑空するゲッコウガは、今や今やと水面に注意を向けていた。

 

 そして、

 

「ジュカインッ!!!」

「ゲッコウガッ!!!」

 

 健在であったジュカインが、水面から顔を覗かせた。

 その瞬間、ゲッコウガは俊敏な動きで印を組み、狙いをジュカインへ定める。

 

「“リーフ―――」

「“れいとうビーム”ッ!!!」

 

 一条の光線が、水面目がけて放たれた。

 バキバキと宙に霧散する水さえも凍らせる“れいとうビーム”は、瞬く間にジュカインへ命中し、その四肢を氷結させていく。

 

 五秒もすれば、立派なジュカインの氷像が出来上がる。

 

 漂う白い冷気。

 動かない氷像に、観客の誰もが言葉を失った。

 

(―――勝った)

 

 時間の流れがやけに遅く感じられる。

 ゲッコウガの着地が、コマ送りのように見えてくるほどに。体操選手のように翻るゲッコウガが、滑らかな動きで地に足を着けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、氷像が砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ジュルァアアアアアアアアッ!!!!」

 

 咆哮、旋風。

 一瞬何が起こったのか、アッシュには理解できなかった。

 

 だが、辛うじて目に見えたのは、砕け散った氷像の真下から飛び出してくるジュカインが、両腕に木の葉渦巻く旋風を纏わせている姿。

 

「ッ、“みずしゅ―――!!?」

 

 迎撃の指示を出そうとするアッシュであったが、予想よりも素早い動きで肉迫するジュカインに、間に合わない事を直感してしまった。

 よく見れば、ジュカインの体の至るところから水が尾を引いている。凍っていたのであれば、体が濡れていることなど有り得ない。

 

 つまりジュカインは、飛び出す直前まで水の中に身を潜めていたということ。

 

(囮を―――“みがわり”を使って隙を……ゲッコウガの着地を狙ったのか!?)

 

 他人の知る由もない事象。

 ライトは、自身が指を鳴らした時は“みがわり”を使うようにとジュカインに教え込んでいる。

 しかし、ライトが指を鳴らしたのはジュカインが跳躍する前。

 『水の中に身を潜めろ』とはこれっぽちも口にしてはいない。

 

 だが、ジュカインは主の意思を汲んだ。

 直前のリザードンの戦闘を見て学習し、自分に順番が回って来た時にソレを生かした。

 

 これを成長と言わずとしてなんと言うのか?

 

 そして、ライトたちの狙いはもう一つ。

 ジュカインが体に帯びている淡い緑色のオーラが―――“しんりょく”が理由だ。

 

(この一撃に全てを賭ける!!!)

 

 皆が繋いだ努力によって実が結ぶように、少年は叫ぶ。

 

 

 

 

 

「―――ストォォォオオオム”ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 木の葉状のエネルギーが吹き荒ぶ。

 ゲッコウガの肢体を、彼が身に纏う激流さえも振り払うように、木の葉は天を衝かんばかりに巻き上がっていく。

 

 

 

―――舞い上がる

 

 

 

―――切り裂いていく

 

 

 

―――全部、晴らしていく

 

 

 

 あの日、悲しさと寂しさを代弁するかのように降り注いでいた雨。流れる涙もはっきり窺えない中、独りトモダチを見送ることとなった自分の不甲斐無さへの怒り。

 

 濛々と心の中に立ち込めていた湿気った感情は―――たった今、消え去った。

 

 フィールドを呑み込まんばかりに巻き起こった旋風は、何時しか止んでいた。

 代わりに、依然二本足で大地に立つジュカインと、大地に手足を放り出して倒れているゲッコウガの姿がはっきり見える様になっている。

 

 静まり返るコロシアム。

 

 嵐の前の静けさと言うべきか。

 

 

 

 

 

「―――ゲッコウガ、戦闘不能! よって勝者、ライト選手!!!」

『き……決まったぁぁぁあああ!!! 今年度カロスリーグチャンピオンの誕生ぉぉぉおおおッ!!!!』

 

 

 

 

 うぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

 

 

 

 ビリビリと肌を突き刺す震動が、水面の波紋のように広がっていく。腹の底に響く轟音が、二人のトレーナーを現実世界へと引き戻す。

 

 一人は未だに呆けている様に口をあんぐり開け、一人は目の前の結果に満足したかのように息を吐く。

 

「勝った……? 僕―――」

「ジュカァァァアアア!!!」

「ぐぇほぉッ!!?」

 

▼ジュカインの すてみタックル!

 

▼きゅうしょに あたった!

 

「う゛ぇっほ!! う゛ぇ……おぉぉお……み、鳩尾……!」

「……大丈夫か?」

 

 もんどりうつように倒れ、腹部に手を当て暫し悶絶しているライトに、ゲッコウガに肩を貸すアッシュが心配するかのようにやって来た。

 些か場違いなのほほんとした空気に呆れ顔のアッシュだが、ライトの横で滂沱の涙を流して喜んでいるジュカインを一瞥し、フッと微笑んだ。

 

「ジュカイン」

「ッ? ……ジュカ?」

 

 突然声を掛けられたことにより、ジュカインがビクッと肩を跳ねさせて、アッシュの方へ顔を向けた。

 涙でぐしゃぐしゃの顔だ。

 だが、自分が育てていた時には垣間見ることもなかった強い表情に、アッシュは呼吸を整えから告げる。

 

 何を言うべきか?

 

 謝った方が良いか?

 

 褒めた方が良いか?

 

 それとも―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――強くなったな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 たったそれだけ。

 それだけ告げて、アッシュはゲッコウガと共にフィールドから去っていった。

 

 そんな彼の背中を見送る形になったジュカインのダムは決壊する。

 

 

 

―――どれだけ頑張っても、期待されるような結果を出すことができなかった

 

 

 

―――最後の最後には見限られるようにして置いていかれた

 

 

 

―――にも拘わらず、最高の場で相手として打ち負かし、成長を称賛された

 

 

 

―――ただ単純に、一言で

 

 

 

「ジュ……ジュァ~~~!!!」

「ジュ……ジュカイン?」

「ジュァァアアアア~~~~~……ッ!!!」

 

 勝ったことへの歓び。

 仲間たちの夢を代わりに果たせたことへの安堵。

 忌まわしき過去を払拭せしめる、元主の一言への感慨。

 

 様々な感情が入り乱れたジュカインは、ただただ涙を流し、空を仰ぎながら声を上げる。

 

 一方、ジュカインとアッシュの因縁など知る由もないライト。喜びに打ち震えつつも、子供のように泣き喚くジュカインにそっと腕を回し、『ありがとう』と小さく呟いた。

 

 それによって更にジュカインの涙腺が決壊するのだが、こう言わずには居られなかったのだ

 

 

 

 

 

 彼等を称賛し、新たなるチャンピオンを歓迎する声は何時までも響き渡っていく。

 何時までも、何時までも―――。

 


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