ポケの細道   作:柴猫侍

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第百六話 真実は、いつもひとつ!

 

「よっと……ふぅ、ここなら見晴らしがいいね」

「ドンッ」

 

 バッと階段を駆け上り、コロシアムの観客席の最上席に位置する場所の上。安全の為に設置された鉄製の手すりに摑まりながら、ライトはフィールドでバトルを繰り広げているポケモンとトレーナーたちを見下ろす。

 デクシオとジーナ。

 初めてミアレで会った時から、意気がピッタリでお似合いの二人だとは思っていたが、こうしてバトルしているのを見るのは案外初めてであった。

 

 冷静沈着なデクシオ。

 

 猪突猛進型のジーナ。

 

 各々のバトルスタイルでバッジを八つ集めた彼等の実力を疑う訳ではないが、実際どれほどのものであるのかは気になって仕方がない。

 それは隣に居据わるリザードンも同じようであり、紙コップに入ったレギュラーコーヒー片手に、食い入るようにして彼等のバトルに目を遣っている。

 

 何故なら、あの二人の手持ちの中には、自分と同期のポケモンが居るのだから。

 

 やはり、他のポケモンとは一線を画すような感覚を覚えるようだ。その意思を汲んで、ライトはリザードンと一緒にフィールドを見下ろすのだが、

 

「ギルガルドかぁ……」

 

 【ゴースト】タイプは滅法苦手なライトは、遠くのフィールドに漂っている禍々しい雰囲気に当てられて身震いする。

 

「ガンピさんも持ってるのでゆーめいだよねッ、と」

 

 そこへカフェオレの入った紙コップを携えてきたコルニが、バシャーモと共にライトが掴まっている手すりに手を掛けた。

 ジムリーダー志望の少女が、四天王のエース的存在であるポケモンを把握していない訳がないと言ったところか。

 

「コルニはギルガルドのこと分かってるの?」

「んー。【かくとう】使いなら、相手にしたくないポケモンの一体だもん」

「【ゴースト】だから?」

「確かにそれもあるけど……やっぱり、“キングシールド”があるからかな」

 

 ギルガルドの特性“バトルスイッチ”を遺憾なく発揮する為に、ギルガルドのみが覚えるとされている防御技。その存在を仄めかすコルニは、横に佇むバシャーモに『ねー』と同意を求めている。

 

「“キングシールド”かぁ……」

「ケテケテケテ!」

「っと、ビックリしたぁ! え、なになに? 検索してくれたの?」

「ケテ~♪」

 

 突如としてポケットからポケモン図鑑ごと飛び出してくるロトムは、ギルガルドの項目を画面に映しだし、更には大々的に“キングシールド”の技の項目も検索してくれたようだ。

 助手的な仕事に手馴れてきた様子のロトムに、一先ず『アリガト』と感謝の言葉を述べるライト。なんというか、最近ロトムはこういった類のことに手馴れてきているように思える。

 

「それは兎も角っと……“キングシールド”は、直接攻撃してきた相手の【こうげき】をガクンと下げる……?」

「そっ! だから、物理が得意な【かくとう】にはイヤ~な相手ってことなの!」

「ほ~」

 

 合点がいく様子のライトの横では、バトルフィールドに釘づけとなっているリザードンが、コーヒーを飲むのも忘れて試合観戦に勤しんでいる。

 現在は、荒野のフィールド上でフライゴンとギルガルドが、一進一退の攻防を繰り広げているところだ。どうにも攻め手に欠けている様子のフライゴンは、出来るだけ近づかれまいと“いわなだれ”や“じしん”を放って様子を見ている。

 

(あの様子だと、補助技は持っていないみたいだなぁ)

 

 図鑑片手にフライゴンの攻撃を観察するライトは、“キングシールド”について述べられている項目の最後の文章に目を遣っていた。

 “まもる”や“みきり”のように相手の攻撃を防ぐ“キングシールド”であるが、一つ弱点がある。それは前述した二つの技のように、攻撃技以外を防げないという点だ。

 故に、“なきごえ”や“にらみつける”などといったステータス下降の技を防げず、タイミングによっては自ら隙を晒してしまうことにも繋がる。

 

 だが、デクシオのフライゴンについては補助技を覚えている気配はない。物理技と特殊技、どちらもある程度使いこなせるフライゴンであるが、その実は器用貧乏なところがある。

 『万能』と称さず『器用貧乏』という所以は、物理か特殊か、どちらかに特化しなければ技の威力が痒い所に手が届かないものとなるからだ。

 

 そういった傾向があるフライゴンだからこそ、デクシオは物理特化で育て上げたのだろうが、些かギルガルドには相性が悪い。勿論弱点をつける【じめん】タイプの技を繰り出してはいるものの、『シールドフォルム』のギルガルドに対しては決定打足り得ていないのが現状。

 

(僕だったら、手持ちの選択にもよるけど一旦下げるけれど……)

 

 ライトがそう思った時だった。

 デクシオのフライゴンが、どっしりと構えているギルガルドの盾に向かって突撃し、そのままボールの中に戻っていくのが見えたのは。

 

 

 

 ***

 

 

 

 流石はジーナ。自分の思考をよく読んでくる。

 

長い間、研究所で一緒に助手をしてきただけのことはあるとデクシオは素直に感心した。やや直情的で我の強いところはあるが、しっかりと戦略を練ってバトルに出向いている。

 ポケモンリーグなのだから、それが当たり前だと言われたらそこまでではあるが。

 

(このまま突っ張ったらジリ貧だからね……)

 

 引き所を見極めてフライゴンに“とんぼがえり”を指示したデクシオは、三体選出した内の最後の一匹を場に繰り出す。

 

『デクシオ選手、ここでカメックスを繰り出したぁ―――ッ!!』

 

 最初に選んだポケモンの最終進化形。カメールの頃のふさふさとした耳と尻尾の毛はなくなったが、遥かに図体は成長し、要塞のような威圧感を放つ個体へと進化した。

 肩から覗く砲塔は、まさに攻撃するために備わった部位。外から補給した水は甲羅の中のタンクへと溜められ、攻撃の際にはこの砲塔から放出される。その威力は岩石を砕くほど。

 一方、それだけの放水に耐えうるだけの体重によって、機動力は落ちてしまっているという一面もあるが、他方では放水を利用して移動するという離れ業をやってのけるカメックスたちも居る為、一概に【すばやさ】が下がったという訳でもない。

 

 そんなデクシオのカメックスであるが、額に巻かれているベルトには、水色と茶色が基調の宝石が、陽の光を反射して燦然と輝いている。

 

「カメックス、メガシンカだッ!」

「ガメェェエエエッ!!!」

『おぉっと! ここでもまたやメガシンカぁ―――ッ! 一体、どのようなシンカを見せてくれるのでしょうか!!?』

 

 デクシオが、左腕に身に着けていた白のメガリングを掲げれば、嵌められていたキーストーンと、カメックスのメガストーンが呼応し、幾条の光が結び合っていく。

 このカロスポケモンリーグの名物とも呼べるメガシンカ。実況者や観客たちのボルテージも最高潮に上がっていく中、カメックスの体はどんどん変わっていく。

 

 背中の甲羅が肥大化したと思えば、二門あった砲塔が一門の巨大な砲塔へと変化していく。更には手の甲にも甲羅らしき手甲が出現し、小さいながらも重厚さを漂わせる砲塔がそれぞれ一門ずつ生える。

 合計三門に増えた砲塔。さながら機動要塞のような見た目にも似たカメックスの姿は錚々たるものであった。

 

 攻撃面、防御面のどちらにおいても強化されたカメックスは、『ガシャリ』という効果音が付きそうな挙動で、三つの砲塔の狙いをギルガルドに定める。

 

「―――“ハイドロポンプ”ッ!!!」

「させませんわ! “キングシールド”!!」

 

 【みず】タイプの代表格の技である攻撃に、即座に防御を指示するジーナ。瞬時にギルガルドの前に張られていく水色の防御壁は、三門の砲塔から鮮烈とした勢いで放たれる水流を受け止める。

 が、余りの威力に逸れた水流はギルガルドの周囲の地面をどんどん削り取っていく。地面に跳ね上がる水飛沫は、ギルガルドの後ろに佇んでいるジーナの視界さえも奪って行き―――。

 

「もうっ、レディーの扱いがなってなくて!? ギルガルド、“かげうち”!!」

 

 刹那、ギルガルドの影がぬらりと伸びていって地面を颯爽と駆けたと思えば、カメックスの前に出てきた一本の剣らしき影がそのまま袈裟切りにする。

 影を縫うかのような不意を突く攻撃に一瞬怯んだカメックス。それに伴い弱まる水流を見て、ジーナは畳み掛ける様に指示を出した。

 

「今ですわ! “せいなるつるぎ”!!」

 

 剣そのものが本体であるギルガルドの身に、青白い光が包み込む。どこか神々しさを醸し出す闘気を身に纏ったかと思えば、その闘気が瞬く間に伸び、鋭い剣の形へと形作られる。

 自身が技自身となったギルガルドは、ブーメランの如く横回転しながら、未だ宙を奔る水流を横に切り裂いていく。

 このままいけば、“かげうち”による袈裟切りを喰らったカメックスの胴体に一文字が刻まれる。

 

 が、

 

「拙速だね」

「む……なにか仰いましたか!?」

「功を焦るのが君の悪い癖だ、ジーナッ!」

「はっ、まさか……!?」

 

 この時を待ち望んでいたとでも言いたげに口角を吊り上げるデクシオに、『嵌められたのでは?』とハッとした顔になるジーナ。

 だが時既に遅し。

 跳ね上がったり切り裂かれることによって宙に舞い散る水飛沫は、霞の如く視界に白い靄を発生させている。

 そんな霞の先には、水とは思えぬ黒い物体が窺えた。

 一体何事かと思った瞬間、土砂のように轟々とした漆黒の波動が“せいなるつるぎ”を繰り出すギルガルドの体を包み込んでいく。

 

「ギ、ルガルドッ!?」

『ジーナ選手のギルガルド、カメックスの“あくのはどう”の直撃を受けてしまったァ―――!! 効果はばつぐんだが、勝敗は如何に!?』

 

 禍々しい色の波動が色を潜めれば、“ハイドロポンプ”によって泥水のように濁った水溜りに力なく体を浮かばせているギルガルドの姿が見えた。

 【ゴースト】タイプのギルガルドに、【あく】タイプの“あくのはどう”は効果が抜群。更に言ってしまえば、『ブレードフォルム』に変化することに伴う防御面の低下があったので、耐えているという望みは薄かった。

 

「ギルガルド、戦闘不能!」

「お疲れ様でしたわ、ギルガルド。ゆっくり休んで」

 

 バトルの熱で自然と紅潮し、一筋の汗が流れる頬の筋肉を行使し笑みを作り上げるジーナ。

 

(なんていう威力でしたの……)

 

 しかし、内心は今のカメックスが繰り出した技の威力に驚愕していた。

 バンギラスも“あくのはどう”を繰り出していたが、それと同等―――否、それ以上だったかもしれない。【とくこう】がカメックスより劣っていることを差し引いても、余りにもメガシンカしたカメックスの放つ“あくのはどう”の威力が納得できないのだ。

 

 『メガシンカして極端に【とくこう】の能力値が上昇した』。それもあり得る可能性ではあるが……

 

(なにはともあれ、バトルを続けるに越したことはありませんわね)

 

 今の絡繰りをはっきりさせるべく、未だフィールドに出していない一体が収まっているボールに手を掛ける。

 

「頼みましたわよ、フシギバナ!」

『ジーナ選手の最後の一匹はフシギバナだァ!! 相性ではカメックスに有利だが、果たしてメガシンカポケモン相手にどれだけ立ち回―――』

「メガシンカを使うのはデクシオのカメックスだけではなくてよッ!」

 

 大きな花を背負った蛙のような外見のフシギダネの最終進化形―――フシギバナを繰り出したジーナ。

 そんなフシギバナの登場に実況者は声を荒げるも、遮るようにジーナが誇らしげに声を上げ、左腕のメガリングを掲げる。

 

「薔薇のように絢爛に、刺々しい立ち回りを見せますわよ! メガシンカッ!!」

「バァナァァアア!!」

 

 直後、傘と見間違えるほど巨大な花弁の影に隠れていたメガストーンが露わになり、ジーナが持つキーストーンから放たれる光と結び合う。

 

『ななな、なんとジーナ選手のフシギバナもメガシンカだぁッ!! これは激しいバトルになりそうだぁ!!』

 

 先程のカメックスのメガシンカ時から興奮冷めやらない実況者。

 更なるメガシンカポケモンの登場に鼻を鳴らし、その変貌を瞳に焼き付ける。

 

 その変化は『成長』という表現が正しい例えだろうか。やや肥大化した肉体は逞しい印象を与え、背中から生える花の幹も太く長く変化した。他にも花弁の陰に蔓が垣間見えるようになったり、額の部分に六花をあしらったような花が一輪咲き誇る。

 想像していたよりは大きな変化は見当たらない。それはバトルスタイルにも大きな変化を来さない程度とも取れるが、実際のところは如何なるものか。

 

 観客などがそのような考えを抱いている最中、二体の鋭い睨みあいは続いている。

 共に同じ研究所の出で、主人の初めてのポケモンに選ばれたという自覚から、他の手持ち以上のモチベーションを抱いているということは想像に難くないだろう。

 数多くのポケモントレーナーが居るが、矢張り最初の一体というものは思い入れが強く、大抵の者は『エース』として育て上げることが多い。

 この二体の場合、その要因に『メガシンカ』出来るという事実も加わっているのであるのだから、その身から放つ気迫は並々ならないとだけ言っておこう。

 

 【でんき】タイプが否にも拘わらず、ビリビリと張りつめているフィールド。

 先手を仕掛けたのはデクシオであった。

 

「カメックス、“れいとうビーム”だッ!!」

 

 【みず】タイプであれば定石とも言える技。苦手な【くさ】に対抗するべく覚えさせる“れいとうビーム”をカメックスは、三つの砲塔で三角形を描く、その中心に巨大な冷気の塊を収束させる。

 直後、大気に満ちている水の一部が溢れ出した冷気で六花に変貌したかと思えば、鮮やかな光が閃き、フシギバナに一条の光線が襲いかかった。

 

『あぁ―――ッ、カメックスの“れいとうビーム”がフシギバナを直撃したぁ!! これは流石のメガシンカしたフシギバナでも耐えられないかぁ!!?』

「ふッ……メガシンカしたフシギバナだからこそですわよ。氷を振り払いなさい!!」

「バァナァッ!!」

 

 冷気によって身体が氷に包まれていくフシギバナであったが、ジーナの指示を受けた後に体を大きく振るわせ、纏いついていた氷を砕きながら振り払った。

 【くさ】タイプを有すフシギバナが堪えた様子を一つも見せずに、氷を振り払う姿。観客の誰もが信じられないように瞠目する。

 

(タイプが変わったのか? いや、特性のお蔭という可能性も……)

「考えてる時間があって!? “はなふぶき”!!」

「ッ、“あくのはどう”で迎撃!!」

 

 思慮を巡らせていたデクシオに畳みかけるよう“はなふぶき”を指示するジーナ。

 一瞬にして百花繚乱が宙を奔りカメックスに襲いかかろうとすれば、それを撃ち落とすべく三門の砲塔を向けるカメックスが、三つの黒い波動を繰り出す。

 光を反射しない黒い衝動が、華やかに乱れ咲く“はなふぶき”を呑み込み、僅かに撃ち漏らしはあるものの、フシギバナを捉える。

 

 相手に技を繰り出させ続けない為の攻撃。同時にそれは、自身にも攻撃が届くことを認めることを意味していた。

 細かい花弁がカメックスに襲いかかり、思わず怯んで“あくのはどう”の照準がフシギバナから逸れる。

 

「くッ……カメックス、大丈夫かい!?」

「ガメッ……ガメェ!?」

「ッ、それはッ!?」

 

 無事だと応える為に腕を掲げようとするカメックスであったが、何かが自身の腕に絡みついており、上手く動かくことができない。訝しげな色を顔に浮かべていたカメックスであったが、自身を縛る正体が何かを把握し、驚愕の色を浮かべた。

 

『おぉっと、デクシオ選手のカメックスに細い寄生木が幾つも絡みついているゥ―――ッ!!』

(今の技の隙間にし掛けられていたのか……)

 

 “やどりぎのたね”。時間ごとに体力を吸い取られる技は、長期戦においてはこれ以上厄介なものはないと言わせしめるほどのいやらしさだ。

 

「ふふッ、何時放ったかお分かり?」

「いいや、正直感心したよ。ジーナがこんなに細かいことができるなんてね」

「……褒められてる気がしませんわ」

 

 デクシオの言葉にむくれるジーナ。

 だが、すぐさま気を取り直してピンと立てた人差し指をカメックスの方へ向けるジーナは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて独白を始める。

 

「あたくしの麗しい名推理を聞きたくて? ええ、構いませんわ」

「え? いや、急になに……」

「フシギバナが“はなふぶき”を繰り出した時、咄嗟に貴方は“れいとうビーム”ではなく“あくのはどう”を指示しましたわね。これは直前にフシギバナが苦手なはずの【こおり】技を喰らったにも拘わらず、大してダメージを受けた様子が見られなかったから……違くて?」

「……」

 

 ジーナの推理を聞いてデクシオが返したのは『沈黙』。

 

「肯定、という訳ですわね。では続きを……大してダメージがなかった。それはつまり相性が等倍と見た。等倍の攻撃を繰り出すのであれば、素直に元の威力が高い技がいいですわね」

 

 若干演技めいた振る舞いに観客たちは騒然としているが、意外にも似合っている為、誰もが釘付けになってジーナの推理を耳にしている。

 すると次の瞬間、ジーナは頬に指をピトリと当て、ぶりっ子めいた態度で続けた。

 

「あら、おかしいですわ~? 元の威力でしたら、“あくのはどう”よりも“れいとうビーム”が高いですもの。もし後に残っているドサイドンに対処したくて、という理由があったとしても、【みず】タイプの“ハイドロポンプ”がありますもの。“れいとうビーム”を使わない理由には足りませんわね」

「……筋は通っているね」

「でしょう? であれば、何故【みず】タイプであろうカメックスが通常の威力よりも強力な“あくのはどう”を放てるか……それはメガシンカしたことによる特性の変容。その答えは、メガカメックスの姿と“あくのはどう”という技のセレクトに出ていますわ!」

 

 どこぞの名探偵のように指を再び突きだすジーナは、迫真の演技をした上で声高々に叫ぶ。

 

「メガカメックスの特性……ウデッポウやブロスターの有す特性“メガランチャー”と見ましたわよ!!」

 

 『デデーン☆』という効果音が付きそうだ。

 それは兎も角、“メガランチャー”という特性は今の所ウデッポウとブロスターというポケモンに確認されている特性であり、“はどうだん”や“みずのはどう”などといった波動系の技の威力を高めるものだ。

 具体的にはタイプ補正が付いていると同等の威力を波動技限定で発揮できるものだが、もしその通りであるのならば“れいとうビーム”で迎撃せず“あくのはどう”で行ったことに理由がつく。あくまで『その可能性が高い』という程度のものであるが、観客席の者達のほとんどはジーナの推理に納得してしまっている。

 

 『おぉ~!』と巻き上がる歓声と拍手は、ジーナの高揚を煽るには十分足り得た。

 フフンと鼻を鳴らすジーナは、沈黙していたデクシオに向けて言い放つ。

 

「さあ、続けましょうか」

「……ふふッ、イグザクトモン(その通り)! 流石はジーナだね。じゃあ、こっちからも一言……」

「え?」

「メガフシギバナの特性は“あついしぼう”だね」

(結構早くバレましたわ―――ッ!?)

 

 ショックを受けたような表情を浮かべるジーナであるが、ここで気圧されてはいけないと何とか持ち直して冷や汗ダラダラの顔のまま問いかける。

 

「な……なな、何を以てそのような答えに辿り着いたんですの?」

「【こおり】技が効いていないのと、メガシンカ前よりぽっちゃりした体形からかな?」

(あたくしよりも数倍短い説明で結論を導きだしましたわ―――ッ!?)

 

 先程の自分の演技がバカバカしく思えてきた。今なら頭頂部からやかんのように湯気が出てきそうだ。

 だが、そんな羞恥心を押し隠すように強がってみせる。

 

「バ、バレてしまっては致し方ありませんが、それでも“やどりぎのたね”で体力を徐々に奪うことはできましたわよ! あたくしの作戦通りですわ!」

「狡猾……言うなれば、セコイというか……」

「黙らっしゃい!」

 

 どこぞのカップルの痴話げんかの一部始終を見ているようだ。

 後に、眺めていたライトはそう語るのであった。

 

 のほほんとした空気。しかし、バトルは終局へ向かっていく。

 

 


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