ポケの細道   作:柴猫侍

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第百四話 身内のドヤ顔ってイラつく

 

「はい、描けたよぉ~」

「わぁ~! ありがとう、お姉ちゃん」

「うんいい笑顔。ナイスモチーフだよ」

 

 ピースサインをしている金髪の少女に、たった今描き終えたキャンバスを差し出すのは、若き天才画家マツリカ。

 嬉々とした表情で喜ぶ少女が手にするキャンバスの下の隅には、小さく『ユリーカちゃんへ』と書かれている。一方、キャンバスの中心には短時間で描いたにも拘わらず、アクリル絵の具で味のある雰囲気に仕上がったユリーカの姿。

 

「これ宝物にするね!」

「うん、そう言ってくれるとマツリカも嬉しいよ」

「いやぁ~、娘のためにすいませんね」

 

 大事そうにキャンバスを抱きかかえる後ろから歩み出してきたのは、ユリーカの実の父であるリモーネだ。

 ワイルドな見た目のナイスガイに礼を言われるマツリカは、淡々として抑揚のない声色でこう答える。

 

「気にしないで下さい。暇を持て余した画家の遊びなので。それじゃ、アタシはここら辺でドロンします」

 

 ペイントを施した髪を靡かせて、颯爽と立ち去っていく後ろ姿は風来坊そのもの。

 風に流され漂ってくるアクリル絵の具の香りは、どこか赴きを漂わせる。(一応)アート留学に来ている彼女は、またカロスのどこかに赴いて各所の観光名所のみならず、アローラ地方の感性を擽られる題材をキャンバスに描いていくのだろう。

 

 そんな彼女を見届けた二人は、仕事をしっかり務めているだろうシトロンの下へ歩んでいくのであった。

 

 一方その頃、コロシアムの観客席では―――。

 

 

 

 ***

 

 

 

「さっすが、私の弟よねぇ~!」

 

 弟の勝利に踏ん反り返る姉が一人。

 もしこれでサングラスなどをして外見を多少なりとも隠していなければ、コロシアムに来ている観客たちが“女優ブルー”のイメージを崩していたところだろう。

 だが、当の本人はそんなことはいざ知らず、上気する顔を隠す様子もなくブラコンを全面に押し出している。

 

「ほらほら、リビングレジェンド的にはウチの弟はどうなのよォ~?」

「……俺に訊くの?」

「もっちろんよ! バトルに関しては私より詳しいでしょ?」

「買いかぶりだと思うけど……」

 

 隣でストロベリーシェイクを啜っていたレッドは、にじり寄るブルーに少々困ったような表情を浮かべているが、啜りながら言う内容を頭の中で整理し始めた。

 

「……サイクループ?」

「なにその造語」

 

 突拍子もない言葉に、流石のブルーも頬を引き攣らせる。

 

「……ライト君の戦い方は、相手に対して有利なタイプのポケモンを出す。居なければ、対応できるポケモンを出すっていう、言っちゃえば基本の忠実な感じ」

「そんくらいは私も分かるわよ。それよりも、さっきの変な造語は?」

「……サイクルとループで、サイクループ」

「ほうほう。……あ、カノンちゃんも聞く?」

 

 一人で頷くブルーは、隣でソーダを手に持ちながら観戦しているカノンに尋ねるが、『お構いなく』とやんわり断られた為、そのままレッドの説明に戻っていく。

 

「で? 続きは?」

「……ライト君の手持ちは堅いポケモンが多いから、比較的後出しも簡単に出来たりする」

「まあ、そうよねぇ~」

 

 レッドの言葉に、ブルーも『それは理解している』と言わんばかりに相槌を打つ。

 ライトのが使用しているポケモンを確認してみよう。

 ハッサム、リザードン、ミロカロス、ブラッキー、ジュカイン、ラティアス、ギャラドス。この内、【ぼうぎょ】に秀でているのはハッサムだ。だが、“いかく”という特性を考慮すればギャラドスも充分【ぼうぎょ】に秀でていると言っても過言ではないだろう。

 更にそこからミロカロス、ラティアスだが、この二体は【とくぼう】に秀でている。更には回復技である“じこさいせい”を兼ね備えている為、長丁場にはその堅さを存分に発揮できるであろう二体だ。

 そして最後にブラッキー。このポケモンは【こうげき】や【とくこう】がいまいちである代わりに、【ぼうぎょ】と【とくぼう】どちらをとっても優れている。

 

 このように比較的受けが優れているポケモンが多いライトのパーティでは、他の選手よりも後出しで交代する回数が多いとレッドは見ているのだ。

 

「……だけど、やっぱりライト君の手持ちの要はハッサム。“とんぼがえり”で相手のサイクルを潰しつつ交代っていうのが結構刺さってる」

「やっぱり?」

 

 うすうす気づいていたようにブルーが応える。

 

「【ほのお】しか弱点が無いっていうのがミソね」

「というより、ハッサムが居ないとライト君のパーティって案外バランスが悪い」

「あ~……うん、確かにねぇ」

「結構なダメージソースを担ってるし……」

 

 言わずと知れた、【はがね】・【むし】という優れた組み合わせの複合タイプを有すハッサム。彼がライトのパーティで担っている役割は非常に大きい。

 リザードンとギャラドスの弱点である【いわ】を始め、ブラッキーが苦手とする【むし】やラティアスやジュカインが苦手とする【こおり】を受けられ、ミロカロスの弱点【くさ】も受けられる。

 つまり、パーティのポケモン達が苦手とするタイプのどれか一つは確実に受けられる耐性を有しているのだ。肝心のハッサムが苦手とする【ほのお】は、物理・特殊のどちらも受けられるような面々が揃っている為、素直に交代させれば何も出来ずやられるといった事態になり得ることはまずない筈。

 

 そんなハッサムが倒れれば、否応なしにライトは劣勢に持ち込まれるであろう危険性を孕んでいる―――レッドが言いたかったのはこうだ。

 

「……でも苦手なタイプで相手を倒しちゃうことってよくあるし、そこはライト君の腕次第ってところ……」

「実際、レッドもリザードンでカメックスをごり押しで倒したしねぇ~」

「……戦略的突破と言って欲しい」

「“ほのおのうず”でチマチマ削ってから、“もうか”で火力上げた“だいもんじ”? あれはごり押しって言うのよ」

 

 あっけらかんとした物言いに、レッドは唇を噛んで何か言いたそうな表情でブルーを見つめる。

 ライトのリザードンが物理攻撃を主とする一方、レッドのリザードンの技構成は特殊寄りだ。となれば、苦手な【いわ】や【みず】に対抗すべく“ソーラービーム”辺りを覚えさせるのがセオリーなのだろうが、当時のレッドは覚えさせていなかった。故に、カントーリーグ決勝戦でとった手段が、今ブルーが言ったものだ。

 

 最早戦略やへったくれもなさそうな力のぶつかり合いに、当時のブルーも半ば呆れた笑みを浮かべつつ観戦していた記憶があった。その横で、幼少期のライトは目を輝かせていてそれらを観戦していたのだが、それは兎も角―――。

 

「なんだっけ? 今ライトってリザードンに“りゅうのまい”を覚えさせようとしてるんだっけ?」

「……だった筈」

「んもう、山に籠って記憶力低下してる訳じゃないわよね? 私、そこんところ心配になってきたんだけど」

「……流石にそこまで衰えてはいない……筈」

「まあいいけど。“りゅうのまい”って、完全にリザードンを抜きエース用に育ててんじゃないの?」

「……多分」

「あ、あの……質問いいですか?」

「オッケーよぉ~! じゃんじゃん聞いちゃって!」

 

 二人が色々と話している間、時折チラチラと横目で様子を窺っていたカノンが、何かを尋ねたそうな瞳を浮かべながらブルーに問いかけてきた。

 

「その……抜きエースってなんですか?」

「抜きエースって言うのはねぇ、言うなればエース的な? 今のライトのリザードンで言えば、余裕があったら“りゅうのまい”で能力上げて、相手を一気に倒しちゃおー! 的なね」

「へぇ……」

「こういうのって足が速い且つ火力があるポケモンが適任なんだけどね。そうねぇ……ライトの手持ちで挙げるならジュカインかなぁ。でも、先制技持ってるハッサムも該当する筈ね。でも、“りゅうのまい”は【すばやさ】だけじゃなくて【こうげき】も上げるから、積み業として優秀なのよね」

「は、はぁ……?」

「よーするに、なにかされる前に上からドンドン叩いちゃおうっていうのが抜きエースってコト!」

 

 かなりざっくりとした説明に、カノンの目は点となっている。

 強ちは間違っていない。強ちは。

 尤も、ポケモンバトルにそれほど詳しくないカノンが聞いたところで、直ちに『成程』となる訳がない。

 後で直接ライトに聞けば話が早いだろうと思うカノンは、ブルーの説明もほどほどにバトルの観戦に戻る。

 

 素人目から見ても激しいバトル。地形を崩すほどの大技を繰り出すポケモンも居れば、逆に地形を利用して相手を翻弄するポケモンも居る。

 それぞれがトレーナーのバトルスタイルなのだろうが、カノンが思うことは只一つ。

 『凄い』。

 全員がジムバッジを八個集めた者達なのだから、当たり前と言えば当たり前かもしれない。

 しかし、心の奥底に訴えかけられるかのような気迫を感じさせるポケモンバトルの数々は、芸術肌のカノンのインスピレーションを充分に刺激していた。キャンバスなどの画材があればすぐにでも描き出してしまいたいカノンだが、それは幼馴染が優勝した時の為にとっておこうと自制する。その度に笑みが浮かんでしまうのは、最早脊髄反射と言っても過言ではない。

 

(でも、ライトのポケモン大丈夫かな?)

 

 脳裏を過るのはマルマインの“だいばくはつ”を諸に喰らったジュカインの姿。

 ポケモンの技とは思えないほどの爆撃を真正面から受ければ、これからの試合に支障が出てしまうのではないかと危惧するカノンは、今すぐにでもライトの元に駆け付けたい衝動に駆られるものの、まだ敷地内を把握していないにも拘わらず飛び出ていくのは迷子になるフラグ以外の何物でもない。

 

(後で訊きに行こっと……)

 

 一方その頃、当の本人はと言うと。

 

 

 

 ***

 

 

 

「コルニ、僕がラティアスのマッサージをしている件についてみて考えて」

「トレーナーは頑張ったポケモンを労わなきゃ!」

「そうだけど。うん、確かにそうだけど」

 

 コロシアム内ポケモンセンター前のソファにて、ライトはラティアスのマッサージをしていた。硝子のような体毛のラティアスの背中を、ツボを押すようにギュッと指で押す。良いツボに入る度に、ラティアスは『クゥ~♡』と身悶える。

 第二試合で大健闘を見せてくれた彼女への労いと言う意味では、この程度のマッサージをすることなど訳はないが―――。

 

「クゥ~♪」

(ドヤ顔がイラってする……)

 

 普段温厚なライトでも、少しばかりイラッとするドヤ顔を見せてくるのだ。

 例えるならば、『アタシ偉いでしょ!』と踏ん反り返る妹を見るような気分だ。可愛らしいと思うかもしれないが、実際目の当たりにしてみると腹が立つ。

 しかし、頑張ってくれたのもまた事実。後ろの席では回復を終えたジュカインがポロックを摘みながら、露店で売っていた木の実ジュースを飲んでいる。“だいばくはつ”の傷も癒えた。ポケモンセンター様様と言っておこう。

 

「クゥ~」

「……どうしたの?」

「クゥ~!」

「……まさかポロック?」

 

 片腕を差し出してきて、何かを要求するラティアスの挙動にすぐに察したライトは、目を光らせ―――。

 

「さっき食べたでしょうがぁ~~~!」

「クゥ~~~!?」

 

 マッサージから、全力の擽りにジョブチェンジ。

 一度味わったことのあるコルニは、顔面を蒼白にして息も絶え絶えとなって泣き笑うラティアスを、一歩下がった場所で眺める。

 思いだすだけで身震いしてしまいそうだ。

 

 触れるか触れないかという絶妙な掠り具合と焦らし具合。空気が撫でているかのようなその感覚で体を捻れば、待ち構えていた指にチョンと触れてしまい、また身を捩らせる。それらの繰り返しとなる地獄―――一度味わえば、彼の指を見てしまうだけで体が反応してしまうだろう。

 

「太っちゃうでしょうが! 丸くなって浮いてるって、それはもう風船だからね!?」

「ク、クゥ~……」

「太って辛くなるのは自分なんだから……美味しくたって程々にしないと、栄養バランスっていうのが―――」

(トレーナーって言うよりお母さんみたい)

 

 一人と一体のやり取りを眺めるコルニはそう思った。

 

 折檻も済み、バトル後のケアも程々済んだところでライトは、このエントランスに備わっている中継テレビに目を遣った。

 今頃、次にライトが戦う相手が決まっている頃だ。

 見れば今は、カエンジシとウインディが砂上のフィールドで激しい攻防を繰り広げている所であった。

 

 互いに【ほのお】タイプを有す二体は、得意とする技で相手を圧倒することはできない。となれば、おのずとサブウェポンである技で仕掛けていくのが普通の流れ。

 現に二体は、【ほのお】ではない技を繰り出し合いながら、砂塵を巻き上げている。

 ウインディは砂場を物ともせず“しんそく”でフィールドを駆け巡り、カエンジシを圧倒していた。すると途中で砂場に向かって炎を吐き、砂塵を巻き上げて視界を不良のものとする。

 

「“みがわり”?」

「うん、多分……」

 

 コルニが今のウインディの動きを“みがわり”か尋ねれば、同じことに思慮を巡らせていたライトが頷く。

 “みがわり”は自身の体力を四分の一削らなければつくることができないという欠点こそあるものの、相手を嵌めた際のメリットは非常に大きい。そのメリットを手に入れる方法の最たるものとして、相手の目を眩ますという戦術がある。恐らく、今のウインディの行動もソレだろう。

 

 しかし、カエンジシのトレーナーの方が一枚上だった。

 

『カエンジシ、“ハイパーボイス”よっ!!』

 

 エリートトレーナー然とした少女が声を上げれば、山彦の如くカエンジシが咆哮を上げる。

 その音波は巻き上がる砂―――さらには作り上げられた“みがわり”を突き抜け、衝撃波としてウインディの体を貫く。

 

 既に満身創痍であったウインディはその一撃を喰らった後、力なく砂上に叩き付けられるように墜落した。同時に試合の勝敗も決したようであり、審判が旗を上げる。

 

『ウインディ、戦闘不能。よって、アヤカ選手第三回戦進出!』

 

 巻き起こる歓声の中、駆け寄り合うアヤカとカエンジシは、喜びを分かち合うかのように抱き合う。

 

「“ハイパーボイス”……かぁ」

「う~ん、確か音波系の技って“みがわり”貫通するんだったんだよね?」

「そうだね。だからジュカインの“みがわり”戦法も使えないと思う……というより、カエンジシを相手にするんだったら、“きあいだま”を叩きこんだ方が無難だと思う」

 

 ライトのジュカインは“みがわり”を使える為、音波系の技を繰り出す相手には気を付けざるを得ないが、元よりタイプ相性的に不利であるが故、余程追いつめられることがなければそのような対面にはならないだろう。

 問題なのは、相手のトレーナーが何を繰り出してくるか、だ。

 

 アヤカとはバトルシャトーで一度相対したことがある。

 あの時は互いに駆け出しのトレーナーであった筈だが、よくここまで駆け上がれたものだ……という感慨深さは置いておき、対策を講じることにしよう。

 

(あの人の手持ちはアブソル……しかもメガシンカする。他にはニャオニクスと、今使ってたカエンジシ。他はまだ分からないけど、一番危険なのはアブソルだ。なら、【あく】の弱点を突けるハッサムを選出しておくべきなんだろうけど……)

 

 得も言えぬ不安感が胸の内からせり上がってくるような感覚を覚えるライトは、その額にじっとりとした汗を浮かべる。

 

(四日目は正念場なんだ。第三試合と準決勝……しかも準決勝はフルバトル。一番ハードな日程の日なんだから、少しでもハッサムの負担を……)

 

 自覚はしていた。

 自分はハッサムに依存していることを。心の拠り所にしていることを。

 長い付き合いから生まれる信頼感は、例えどのような相手を前にしても、心のどこかに余裕を抱かせてくれていた。

 いわば、ライトの精神的支柱とも言える彼を失えば、どれだけ自分が試合で揺らぐか推し量ることができない。それはカロスジム攻略において、八つのジム戦すべてにおいて選出したことから分かるだろう。

 それは他の手持ちが増え、実力が付いてきた今でも変わりはない。所々でタイプ相性などを理由にして選出しなかった時こそあれど、正念場においては絶対に必要とも言える存在にまで昇華している。

 

(でも、なんだろう……負けるんじゃないかとか、そういうのじゃない。もっとこう……全部をごっそり持っていかれそうな、そんな不安が……)

「―――ライト? どうしたの? すっごい怖い顔してるけど……」

「え? あっ、う~ん……いや、ちょっと」

「まあ試合で緊張するのは分かるけど、こういう時こそリラックスリラックス! ポジティブに行かなきゃ!」

「コルニのをなんていうか知ってる? 楽観的って言うんだよ」

「はうっ!? なんか急に毒が……」

 

 歯に衣着せぬ物言いに、若干ショックを受けたが、自分に毒を吐けたことによって友人の緊張が解れるのであれば本望だ。

 

「くっ……なんならもっと罵って!」

「……きゅ……急に何に目覚めたの?」

「そういう意味じゃなくって!」

 

 ドン引きする余り声が裏返るライトに、すぐさま訂正を入れる。

 張り切れば張り切るほど悪い方向に向かう例だ。

 

 閑話休題。

 

「ほらさ、ライトには優勝してもらわなきゃね! チャンピオンになったら、まず最初にアタシがバトル申し込むのっ!」

「気が早くない?」

「早くない早くない! 寧ろ遅いくらいだって!」

「そうかなぁ……?」

「なぁ~に言ってるの! 三回戦で勝って、準決勝で勝って、決勝で勝てばチャンピオン!」

「ノリが軽くない?」

「あぁ~~~、もうまどろっこしいなぁ~~~!」

「っつ!?」

 

 二回戦を勝った後だと言うのに、やけにしおらしい様子のライトに業を煮やしたコルニは、神妙な面持ちのままライトの肩に手を置いた。

 ロビーに響き渡る程に強く置いた手には熱が籠っている。それは紛れもない、コルニの心中の熱なのだろう。

 手を通して伝わってくるコルニの熱にギョッとするライトであったが、真っ直ぐな彼女の瞳から目を逸らすことができない―――否、させてもらうことを許されない。

 

「ライトはもうここまで来たの」

 

 肩に置かれる手が、ギュッと服を握りしめる。

 

「振り返る暇があったら、テッペンまで走れ」

「っ……!」

 

 少し突き放すかのように肩から手を放したコルニは、メガグローブを嵌めている左手を突きだしてきた。

 その拳に、ライトも迷わず拳を突きだす。

 

「最初っから、走ってるつもりだよ」

 

 コツンとぶつかり合う拳。

 

 そうだ、天辺まで振り返らずに登り切った後、後ろに佇む自分の“軌跡”という名の光景は格別なものだろう。

 後三回。されど三回。

 だが、手を伸ばせば届く。そして自分の横には共に走って来てくれていたポケモン達が。後ろには、自分を応援してくれている人たちが居るのだ。

 

 少年は今ここで新たに固く誓う。

 

 頂点をとると。

 


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