ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
激突した継続高校と知波単学園の両戦車。
大掛かりな立江達を使った陽動作戦を仕掛けた繁子は作戦遂行の為の下準備に取り掛かっていた。
繁子が考案した巨大水鉄砲、及び、ダケットを使った大胆な作戦、これを実行する為に立江達は今、必死に戦っている。
「そこ! 早く穴掘って!」
「工作隊! 木材組み立て急げ! 早くしないと市街地に継続が流れ込んでくるぞ!」
「はい!」
「こちらのスタンバイは大丈夫です!」
その大掛かりな仕掛けを作る為に残った知波単学園の工作隊の精鋭達は奮起していた。
今回の仕掛けにはちょっとした工夫を用いており、その仕掛けを作るには迅速かつ、正確な設計が必要となる。
繁子は自分が書いた設計図を見ながら各隊員達に指示を飛ばしていた。少数精鋭で組まれた彼女達に円滑な指揮を執るにはやはり繁子が現場の監督を行わなければならない。
本来なら、立江が得意とする分野だが、今回は陽動作戦の主軸に彼女を据えた為、それは、無理な話である。
はたから見れば、工事現場。
戦車道の試合だというのに工事現場の光景がそこには広がっている。しかも、その作業員は全員女子高生である。
「ここはこうして…埋め立て時にはなるべく崩壊しやすく空洞に」
「なるほど、わかったわ」
そして、工事現場の監督は城志摩 繁子。
黄色いヘルメットが今日もキラリと光る。知波単学園の女生徒達の作業が円滑に進んでいるのはやはり、繁子のリーダーシップの賜物だろう。
知波単学園の女生徒達は効率的に動き、さっさと作業を済ませていく。彼女達は手先が器用で中には整備科から機甲科に変更した者も中には混じっている。
そんな彼女達には時御流の考えは浸透しやすい、互いの意思の疎通化もより高いレベルで行うことが出来る。
「ダケットもスタンバイ完了しました!」
「巨大水鉄砲も大丈夫です!」
「部品バラして持ち込んだのが吉と出たね」
そして、その器用さは戦車だけでなく、時御流を学ぶに連れ、農業、建築、土の知識など多岐に渡り活躍する幅が広がった。
此れ程までに心強い繁子達のアシスタント達は居ない。
継続高校との決戦の地盤は着実に水面下で固められていた。
その頃、ミカ達継続高校本隊の足止めを担い、交戦中の立江達は思いの外、苦戦を強いられていた。
継続高校の戦車の機動力もそうだが、ミカの指揮の高さがこれまた凄まじいのである。
立江も隊を率いて奮闘しているものの、変幻自在なその戦い方には掴み所がなく、撤退、待ち伏せ、散開、挟撃など多種多様な戦術を見せつけられた。
「撤退! 散開しながら、退散するよ」
「くっそ! また撤退!? 正面から掛かって来なさいよ!コラァ!!」
「…君達がそれを言うのかな?」
そう言って吠える立江に苦笑いを浮かべるミカ。
確かにミカの言う通りである。正面から戦う正攻法など戦車道においてはカモがネギを背負ってやってきてるようなものだ。
多種多様な戦術を駆使して、いかに自分達の戦車の数を減らさず敵を殲滅するか、それが、戦車道に勝つ為の戦い方だ。
ミカはそれを熟知している。正直な話をすれば、今回、立江達がこうして正面からやって戦車での殴り合いに来たことに関しては不意を突かれたところだ。
それに、ミカはなんとも言えない違和感を立江達と交戦しながら感じていた。
繁子達は何かを企んでいる。
それがうっすらながらミカの脳裏にあった。今までの知波単学園の戦い方を見ていればそれが至って普通に感じるのである。だからこうして、撤退などの戦術を駆使しながら慎重な戦いを選んでいるのが現状なのだ。
(…どうにもきな臭い…、立江の戦い方は確かにこんな感じだったけれど、本来の目的は一体…)
先ほどからずっとミカは立江達を相手に戦車の全指揮を執りながらそのことについて考えている。
この場に繁子が居ないのが異様に不気味なのだ。
ほぼ敵は本隊をほぼ全て曝け出し、ぶつけて来た。向こうは繁子のフラッグ車を含めた数輌の戦車しか残しては居ない。
もし、こちらが繁子達に対して分隊を出していたらどうなっていただろうか? そう考えれば、繁子達の取ったこれは大博打もいいところである。
(…って事は今はフラッグ車が狙い時か…、ここは一つ私達も博打に出る必要があるだろうか…)
そして、ミカの考え出した案は手薄になっている今の繁子を直接強襲するプランだった。
立江達はこちらに出て来ている。III号突撃砲G型、IV号戦車J型、T-34などを使い立江達を足止めしてもらう。
そして、その間にBT-42などの高機動の戦車を用いて振り切ってしまえば後は繁子を倒すだけだ。
BT-7、BT-42の機動力なら十分可能だとミカは踏んでいた。
「ミッコ」
「なんだい? 今やっこさんが相当運転上手いから、割と冷や汗ダラダラなんだけどね」
そう言って苦笑いを浮かべてミッコはミカに告げる。
立江が指揮を執り、しかも、多代子が操る戦車に背を向けると言う意味をミッコは理解している。
だからこそ、仲間を信じて背を任せるかと言う部分で彼女には不安要素があった。
もし、ここで足止めに失敗して立江達に背後を突かれれば捌ききる自信は正直、ミッコには無い。
「博打に出ようかなと思う」
「へぇー、それは実に興味深い話だねっ…!」
そう言いながら派手に戦車の操縦を行い、ミッコは敵戦車からの砲撃を躱す。
余裕など無い、だが、このままでは潰し合いは必須であり、フラッグ車を連れていない知波単学園の相手をこれ以上していても状況は不利に働く一方だ。
アキは2人の話を聞きながら神妙な面持ちで入り乱れる知波単学園の戦車と継続高校の戦車をBT-42の中から覗いた。
その事は3人とも現時点で把握している。今の知波単学園の戦力は継続高校の戦車を上回る。
ならば、博打に出ない事には戦況は変わらない。
「行くっきゃ無いよね、ミカ」
「半か丁か…さて、何がでるかな」
「……さぁね、それじゃ通信入れるよ!」
3人の意見の一致により、ミカ達が取る手段は決まった。
博打に出る。すなわち、この入り乱れた戦線を機動力を活かした突破で強引に立江達を振り切って大将首である繁子の戦車を獲りに行く。
これは、背後を取られる可能性があるが、もし、成功すれば一気に勝敗に大手が掛かる。
「散開した機動力のある戦車はフラッグ車に集まれ! 残りは足止めだ!」
『!? …わかりました!』
『了解です! すぐに向かいます!』
通信手を通して、継続高校の全戦車にその旨を伝えるミカ達。
もう、ここからは引き下がれない、生きるか死ぬかだけだ。
ミカ達の戦車散開して撤退していた機動力のあるBT-42とBT-7、T-26といった戦車達と合流する。
そして、残りの戦車は手薄な知波単学園の一点に対して攻撃を集中させ、血路を開く事に努めながら、そのまま殿を行い立江達を足止めする。
これが、ミカ達が取った大博打の内容である。
「クソ! ミカ達強引に突っ切るつもりだ!」
「絹代! 援護に入れ! 手薄い箇所が集中的に狙われてる!」
「!? は、はい! …っわぁ!!」
すぐさま、その事を察した立江が指示を飛ばすが、T-34の砲撃が絹代が乗っていたチヌを吹き飛ばしてしまう。
そして、手薄な知波単学園の戦車の手薄な箇所に一点に集中した継続高校の強引な突破は功を奏した。
本来、知波単学園は守備的な陣形は取る事は少ない。
突撃などの攻撃的な知波単学園の伝統も理由として挙げられるが、大きな理由としては今回の継続高校のように一点突破という手段に対抗できるほどの装甲を持つ知波単学園の戦車は限られているのだ。
突破されれば、できる事は背後からの追撃だけだ。
そして、ミカが踏んだ通り、機動力は継続高校の方に分がある。
確かに知波単学園とまともにやり合えば個人的な技量や戦車の質からしてもどうなるかはわからない。
だが、戦い方に工夫をすれば、戦車の性能次第でこのように状況をひっくり返す事も可能なのである。
「やらせるかぁ!」
「やらせて貰うよ、立江」
フラッグ車に乗るミカ達の背後から怒涛の追撃を始める知波単学園。
しかし、T-34をはじめとした殿を務める戦車からの砲撃が飛んでくる為、なかなか、上手くミカ達の追撃に入れない。
「…ちぃ! 突破された!」
『これは…相手の狙いはリーダーか…!?』
「そうみたいね…」
冷静な声色で通信を通して真沙子と連絡を取り合う立江。
手薄い箇所からの一点突破、さらに、そこから本丸の繁子を狙う事に戦法をすぐさま変えたミカの手腕に思わず感心してしまいそうになる。
「やっぱり、あいつは相当頭がキレるのよね…やられた」
「どうする? このまま追撃すんの?」
「いや…このまま追撃しても足止めくらってしげちゃん達にはミカ達が先に着く…」
そう言って、立江は表情を険しくし、今の状況を整理し始める。
今のまま、知波単学園の戦車の追撃を承知で突破してきたミカ達の追撃を始めれば、向こうの戦車の数は減らせるだろうがこちらよりも間違いなくミカ達が先に繁子に辿り着く。
だが、だからと言って、このままミカ達を見逃せば不味い事は立江達も理解している。
だからこそ、立江はある手段を取ることに決めた。
「こっちにあと2人乗り換えるわ! 多代子!!」
「オーケイ!」
『!?…わかった! ならそっちに合流するわ!』
そう、立江達だけAD足立に乗り換えて最短経路で先回りして先に繁子達に合流するという戦法だ。
他の知波単学園の戦車には引き続き追撃を行なってもらい、向こうに背後を警戒させて少しでも到達時間を稼いで貰う。
その間に自分達は繁子に合流し、ミカ達を迎え撃つという戦法を取る。これならば上手くいけばミカ達を追撃隊と共に挟み撃ちにできる筈だ。
戦場の立地の下見は既に済ましてある。ミカ達は背後を警戒しながら追撃戦を行なう必要があるし、自由に動けるこちら側の方が先に着く可能性は高いはず、立江はそう思っていた。
「さぁ飛ばせ! 国舞 多代子!」
「しゃあ! アネェ任せな! カップラーメンより早く着いちゃる!」
「お腹減ってきたね」
「永瀬…お願い、少しは緊張感持って…」
そう言って永瀬の間の抜けた一言に思わず苦笑いを浮かべる真沙子、繁子達の工事の進行具合も把握できてない今、彼女達の危機感は募る一方だ。
そして、戦車を乗り換え、4人を乗せて繁子達の元へと走り出すAD足立。
果たして、繁子の元へと辿り着くのはどちらが早いのだろうか、少なくとも、早く着いた方に勝利は傾く事は間違いないだろう。
互いの勝利を賭けたミカ達と立江達の怒涛のレースがこうして幕を開けた。
強敵、継続高校。勝敗の行方は…!?
その続きは、次回、鉄腕&パンツァーで!