ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
継続高校への作戦もひとまず纏まり。
繁子達はひとまず、それについての下準備の為に学園艦にある市街地へと赴いていた。
作戦で使用する資材の買い出しやら諸々と必要なものがあるからである。
「巨大な水鉄砲を組み立てるかー…あれだよね? 昔ながらの押し出す感じの…」
「ところてんとかに使う奴よね! 名前は忘れちゃったけどポンプ式だったはず!」
「ダケットの設計図は真沙子、多代子が作っとるしその材料をはよ買わなあかんな」
綺麗な髪を束ねた繁子は立江、永瀬に笑みを浮かべて告げる。
以前に比べて、何というか色気が備わって来たのか、同じ女性の永瀬も立江もそんな繁子の笑みに一瞬ドキッとした。
もう高校二年生、中学生の成長期を終えたとはいえ、まだまだ伸び盛りだ、そう考えると繁子は何処となく以前よりも大人びてきた様な気がする。
一年生の時はちんちくりんだと言ってはいたが、継続高校から帰って来て一年生達の面倒を見て、さらに、知波単学園の隊長として責任感も強くなり一回り、二回りも成長したのは明らかだ。
その証拠に立江はここである事に気がついた。
「あれ? しげちゃん、ちょっと胸おっきくなってない?」
「ん? なんや急に」
「あ…、ほんとだ、てか身長も1月に比べて伸びてきてるんじゃない?」
「ここに来て成長期かな、まさか」
そう言われてみれば、確かに視線もなんだか永瀬や立江ともさほど変わらなくなってきている気がする。
繁子はその言葉に眼を丸くしながら、自分の胸や伸びてきた身長を改めて確認した。
前まではなんだか胸やらなんやらにコンプレックスが強かった気がするが、あくまでネタや冗談の類だとわかっていたし、仲間や自虐ネタに使ったりもした事がある。
それがふとした拍子にもはや無くなったと聞かされるとそれはそれで繁子としてもなんだか寂しい気がした。
「…なんやろうね? 特に意識はしとらんかったんやけど」
「明子さんも胸は元々おっきかったし、ようやく遺伝した部分が成長してきたんじゃないかな?」
「なんだか寂しいけど、育ててきた畑の作物を見ているような心境だよ」
「わかる! わかるよ! ぐっちゃん!」
「なんやのそれ?」
そう言いながら、繁子は苦笑いを浮かべ2人にそう告げる。
今の胸のサイズ的にみれば、明らかにCだとわかるくらいには大きくなっている。だが、これを見る限りではまだ発展途上だと立江達は睨んでいた。
もう少し時が経ちさえすれば、この繁子の『まな板にしようぜ!』と呼ばれていた胸がそのうち、『でっかいスイカだよ!これ!』と言われる日はそう遠くないだろう。
「発展途上のしげちゃんか…いいね」
「いひひ、ドイツ行ったらまたおっきくなって帰って来るから楽しみにしとき」
そんな他愛のない事を談笑しながら歩く一同。
来年は繁子がドイツから帰って来たら海に行こうなどと話しているうちに目的の場所に辿り着いた。
見た限りここでは木材を取り扱っているらしい、あちらこちらに繁子達の目的の資材が散らばっている。
すぐさま、永瀬はその工場に突撃を図った。
「こんにちはー」
もはや定番である。
中から現れたおじいさんは突然現れた女子高生3人に眼を丸くしながら首を傾げていた。まさか、こんな場所に女子高生が来るなど露とも考えた事がなかったからだろう。
すると、永瀬はいつもの様に可愛らしい容姿を利用しながら爽やかな営業スマイルを浮かべておじいさんに話を続け始めた。
「私達、時御流のものなんですけど…、実はこちらで余ってる木材があるかどうかをお伺いしたくて」
「…おー、なんかと思ったが、あんたら時御流ね? いきなりでびっくりしたわ」
「すまんなぁ? おじいさん、驚かすつもりはなかったんやけど…」
「ええよ! ええよ! そんで木材の余り物かい?」
「えぇ、良ければありますか?」
「ちょうど余っとったんがあってな! ほれ、そこら辺の」
そう言いながら、おじいさんは指し示して必要無くなった木材を繁子達に教える。そこにあったのは明らかに丈夫そうな木材ばかりだ。
それも大量にある。見た限りこれならこの余った木材の一部だけでも全然足りる!
「え!? あんなに!? まだ使えますよね!」
その永瀬の言葉に困ったように苦笑いを浮かべるおじいさんはその言葉に静かに頷く。
木材は確かに数カ所、痛んでいる部分はあれど処分されるのが不思議なくらいにまだ有効に使えそうに感じられた。
しかし、おじいさんはにこやかに笑いながら驚いた表情を浮かべている繁子達に続けてこう告げた。
「ここの全部持っていきんさい」
「!?」
「しげちゃん! しげちゃんこれって…!」
「セーフです」
繁子がそう言った瞬間、2人共「しゃあ!」と声をあげてガッツポーズを決める。
これが様式美、これが時御流、0円の極意である。
ミカ達は手強い、だからこそ、この棄てられる筈だった木材は非常に有難い、これさえあれば作戦に大きな力になるだろう。
「そんじゃリーダー! これ積むからトラックとって来よう!」
「せやな、あと人手がいるしな」
「私ら合わせて6人くらいいれば足りんじゃない?」
「おじいさんありがとう!」
「ええんよええんよ、その代わり次の試合勝ちんさいね」
「もちろん!」
優しいおじいさんから頂いた木材、これを試合に使い必ずミカ達を倒す。
そう心に誓いながら繁子は笑顔でおじさんに応えるように拳を掲げてみせた。
こうして、プロジェクトJは水面下で動き出す。
そう、繁子だけではない、一方、その頃、松岡真沙子と国舞多代子の2人はダケットを作るためにある場所を訪れていた。
「丈夫な紙だよ、これ」
「いいねーダケットに使えるじゃん」
それは、ダケットに使う和紙の調達。
その和紙は以前、訪れた鶴姫酒造の徳蔵のおじいさんが作ってくれた梶(楮)の木から作った美濃和紙。
今回はそれを少しだけ分けてもらいに訪れたわけだが、徳蔵さんは笑顔でそれを快く2人に分けてくれたのだ。
はるばるまた長野まで戦車を使い足を運んだ甲斐があったというわけである。ありがとう!AD足立。
「ははぁ、また大それたことを…流石は時御流でございますなぁ」
「まぁ、私らにとってみればこれは通過点に過ぎないですから」
「前はダケットを高度数十m程度まで飛ばしたことあるしね」
「いつかは自分達の作ったロケットで火星に行くのが目標です」
そう言い切る2人の笑顔は清々しいほど眩しかった。
ダケットに全てを賭けていると言っても過言ではない、本題を完全にそっちのけである。
とりあえず、何はともあれダケットの部品の一つを難なく手に入れた2人はその後、鶴姫酒造からAD足立(五式中戦車)に和紙を詰めるとそれに乗り込み颯爽と長野を後にした。
残る部品の美濃和紙は手に入れた、あとは設計図通りダケットの製造に取り掛かるだけだ。
「それじゃ徳蔵さんありがとうね!」
「またいつでもお待ちしてますよ」
「今度はしげちゃん達連れてきますから!」
そう言いながら、AD足立に乗り込み別れの挨拶を済ませる真沙子と多代子の2人。
とりあえず一仕事は終えた、これから知波単学園に帰って本格的なダケットの製造に取り掛からなければならない。
それに、ダケットをどう有効活用させるのかの打ち合わせも繁子達とも行う必要もある。
「ふいー、とりあえずやることやったって感じだよね」
「馬鹿、こっから本腰でしょうよ」
「そうだった、よし! がんばろっ…て、あれ? 誰から連絡来てる」
そう言って多代子は戦車の運転をしながらチラリと携帯端末のメールに気づいてそれを確認する。
それを横から見ていた真沙子は首を傾げてこう訪ねた。
「多代子、なんだった?」
「んにゃ、大したことないよー、中学生の頃にお世話になった長居先輩から、アイドルのプロデューサーする事になったから今度時間あったら設営できんべ?だってさ」
「あーあの人プロデューサーなったんだ」
「歌下手なのにね」
「リズム感あるから大丈夫じゃない?」
そんな他愛ない会話をしながら2人は先輩のことをふと思い出す。
確かに一時期、私は貝になりたいとか異様に落ち込んだ時期もあったがどうやら立ち直っていたようだ。
そんなことよりも、今は早く帰ってダケットを作らなければならない、おそらく繁子達はもう部材を見つけて運び込んでいることだろう。
「おっと、無駄話し過ぎた、飛ばすよー!」
「おーいけいけー!」
2人はこうして、皆が待つ知波単学園へ徳蔵製、0円美濃和紙を持って帰ることに成功した。
果たして、この0円で手に入れた部材を5人はどう使うのか…。
それから1日が経過して。
知波単学園へ帰還した繁子達は互いに成果を報告しつつ、今回のプロジェクトJについての詳しい概要を皆と共に打ち合わせることにした。
まず、ホワイトボードに立江が敷く陣形を描き加えていく、それを知波単学園の機甲科の同級生、先輩、一年生は静かに見つめた。
ホワイトボードに描き終えたところで繁子が今回の作戦について皆に語り始める。
「さて、今回の作戦やけど…。今回は市街地戦になる。 というか市街地戦に持ち込む」
そう言い切る繁子の言葉に顔を見合わせる一同。
水を用いた市街地戦、それならば水場でも良いではないだろうか? そういった疑問が少なからずあったからだろう。
確かに今回は市街地の他にも湿原や湖、海の近くと水を補給できる場所が数多く存在している。
繁子の言葉を聞いていた絹代は声をあげて改めてこう訪ねた。
「し、市街地戦でありますか?」
「せやで、今回はプロジェクトJについては市街地戦を行うんや」
「いや、でも…」
「まぁ、最後まで聞きなさいって」
立江は動揺している一同に何事もないようにウインクしてそう告げる。
そう、本題はここからだ。市街地戦で戦車相手に水鉄砲をどう使うのか? これが、不可解な疑問なのである。
戦車相手に水鉄砲など効果が無いに等しい、どうやっても想像がつかないのだ。
繁子はそんな疑問を浮かべている皆の顔を見て穏やかな口調でこう語り始めた。
「これは水鉄砲を使った罠を張る。まず、ウチらが今回持ち帰ってきたこの木材を使って市街地に押し出すポンプ式の巨大水鉄砲を作る」
「!?」
「し、市街地に巨大水鉄砲!?」
「せやで、巨大水鉄砲や」
そう言いながら言い切る繁子に全員が目を丸くする。
巨大水鉄砲、それは組み立てには結構な時間がかかる作業になる。しかも、できたとしてもそれは果たしてどんな用途で使うのか?
皆が首を傾げていた。
今迄ならそうめん流しや無農薬爆弾、落とし穴、バリスタ等、非常にわかりやすかったが今回はなぜわざわざ水鉄砲なのか、そして、市街地戦なのか…。
「弾は数発のみ、けど、この水鉄砲は戦車相手に使うもんやない」
「え? じゃあ何に…」
「市街地にある道のコンクリートを引っぺがして大量に敷き詰めた泥水になりやすい土の地面を作る、そこに…」
「多量生産したダケットに水風船をくくりつけて一気に湿らせたり、巨大水鉄砲で一気にビシャビシャにしてしまうの」
「あらかじめ水を泥水になりやすい土にはある程度水分を含ませておいてな」
そう言いながら、繁子は皆にわかりやすいように説明しながら説明をする。
それを聞いていた一同は納得したように頷いた。それならツルハシが今回、必需品になるのは間違いない。
それにコンクリートを引っぺがすなら戦車も使えばそれなりに楽に作業が進みそうだとも思った。
「敷き詰める土はどうする?」
「これから取り行くとこかな、湿地とかの近くならあるでしょ?」
「そんでもって以前使ったバリケード策も使うで、今回はある程度やけどな、わかりにくい程度にバリケードを張る」
「迎え討つといよりは自然と誘い込む形が理想的よね、コンクリート引っぺがしたとこにさ」
そう告げて立江は肩をすくめた。
ミカ達は勘が鋭い、誘い込むや誘導するといったこちらの手にはなかなか乗りづらい可能性があり、用心深く戦ってくることが予想される。
だから当初は戦車を分けて一部だけ市街地に向かわせて戦闘の流れでそのままミカ達を市街地に連れ込む必要がある。
「ケホ隊3輌、そんでもってツルハシの腕に自信があるやつがこの作戦の別働隊ね」
「あと、ケホ隊には永瀬、真沙子、立江がおるからそのままコンクリートと土の敷き詰め、水鉄砲、ダケット、バリケードを迅速に作れる人員を絞るわ」
そう、今回は迅速かつ素早い作業完了が求められる作戦だ。
立江達が引き連れる人員もまたその作業を遂行できる人間が好ましい、今迄、時御流を目の当たりにし共に戦ってきた仲間達だからこそこの作戦が可能だと繁子は確信していた。
そして、立江は一通り話を聞いた彼女達に改めて今回選抜した人員が書かれた資料を渡しながら話を進める。
「よし、まずは選考した人員だけどその資料見ればわかるから当日は私達とケホに乗り込んで頂戴、こんなとこかな」
「せやな、作戦概要はこれでとりあえず終了や」
立江の言葉に頷く繁子。
そして、とりあえず作戦概要を説明し終えた2人はホワイトボードを片付けるとスコップを手に持ちはじめる。
そう、作戦のミーティングは終わった。後はそれの準備に取り掛かるだけだ。
スコップを手渡された知波単学園の一年生達は目をまん丸くしているが、上級生達はこれから何をするのかわかっているかのように準備を終えていた。
「ほんじゃ今から土を回収しに行きます」
「だろうと思った」
「え?…え?」
「何ボサッとしてんの一年生、貴女達も早く行くわよ」
「「どこに!?」」
立江の言葉に驚いたように声を上げる一年生達。
勿論、作戦に使う土を仕入れに行くのである。現に時御流に長年付き合っている上級生達はもう流れるかのように準備をし終えていた。
その後、催促された一年生達もまた作業服に着替えるとプロジェクトJに使う土を回収しに向かうことになるのであった。
果たして、繁子の建てたこの作戦は上手く勘の良いミカ達を嵌めることができるのか?
その続きは…。
次回! 鉄腕&パンツァーで!