ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
いよいよ始まった戦車道全国大会
各地の強豪校が自慢の戦車を並べ、知波単学園もそんな強豪校がひしめき合う中で、自校の日本戦車をズラリと並ばせて開会式に参加していた。
課題であったエンジンはどうにか間に合い、山城とAD足立を始めとした戦車に実装。
名付けて、時御式小型大馬力空冷ディーゼルエンジン。
様々な工夫と試行錯誤を重ね、繁子の母、明子が残してくれた設計図を元に完成し、実装した画期的なエンジンだ。
馬力はミーティアと同じく600から650、さらに、このエンジンを実装する戦車には、車輪の大きさの改良、操縦性能の調整を各自戦車に施し完成させた。
よって、ずらりと並んだ知波単学園の戦車には各校も目を丸くしていた。
以前ならば、チハがただ陳列していたことが印象的だったのだが、去年といい、知波単学園の戦車が年が明けるごとに強大になっている。
「見てよ、あれ…」
「うわ、すっごい強そう」
「知波単学園だよね? 前まであんな戦車見たことなかった」
「去年の準優勝だからね…、やっぱり今年は本腰入れてきたんでしょ」
そう噂する各校の女生徒達の話がちらほら聞こえてくる中、繁子は静かに瞳を閉じて山城に寄りかかり開会式を聞いていた。
なんにしろ、今年が勝負の年だ。
明子から残された設計図と託された思い、そして、仲間達や他校の友人が紡いでくれた絆がこの戦車達には詰まってる。
「…さてと、プラウダ、サンダース、聖グロリアーナ、マジノ、アンツィオ、それに継続に黒森峰。まぁ、こんだけ戦車が雁首揃えて来れば流石に盛大ね」
「…ハッ…。どれに当たっても私らがやることなんて最初から決まってんでしょ? アネェ?」
「全部ぶっ倒して! 優勝! だね!」
「さぁて、そんな簡単にいくかは腕の見せどころだけどね?」
そう言いながら、ずらりと並んでいる各校の戦車を見渡しながらAD足立(五式中戦車)の上で話をする立江達。
言わずもがな、他校の強豪校の戦車とて強大なものばかりだ。
その証拠に黒森峰からはマウス、聖グロリアーナからはトータス、サンダースからはT28超重戦車、プラウダからはT-42が持ち出されている。
かつて、重戦車がこんな風に並ぶ事は珍しかったが、おそらく、開会式からの牽制や力の誇示を示す為の一種のデモンストレーションだろう。
「全部、100t近くある戦車だよ。なんつーもんを持ち込んで来てんだあいつら!」
「てか、市街地で開会式って言ってたのってこういう事だったんだねー、ウチらはオイちゃん置いて来たけど」
「あんなん市街地戦で持ち出されたら堪んないわね…、てか市街地以外使い道無いだろうけどさ」
ぶっ壊れ巨大戦車大集合! みんな集まれ!戦車道全国大会開会式!もいいところである。
なんでもデカければ良いというもんではないが、自分達もラーテだとかP1500モンスターだとか作ろうとかしていた経緯があるのであまり言えた義理ではない。
というよりも、こんな戦車を開会式で持ってくるのは良いが、持ち帰るのが大変そうだなと素直に4人は感じるのであった。
「はーい! シゲーシャ! タツーシャ! 久しぶりー!」
「ん…?」
「あ、ノンナにカチューシャじゃん…ってそれに…!」
繁子達の姿を見つけて、まず声をかけに来たのは馴染みのあるプラウダの制服を着た女生徒達だった。
特にノンナとカチューシャには繁子達4人は面識はあるが、あと1人の少女は未だに面識がなく珍しそうに見つめていた。
見た限りでは外国人、それも綺麗なプラチナブロンドの綺麗な長い髪が特徴外人の美少女だ
立江は久々に会うロシア人少女の姿を見つけてAD足立から飛び降りると嬉しそうに駆け寄っていく。
「…Добрый день、Давно не виделись!Как дела?(こんにちは、久しぶりね! どう調子は?)」
「クラーラじゃんか! Неплохо、Очень радПознакомиться!(まぁまぁね! 会えてとても嬉しいわ!)」
そう言いながら、そのクラーラと呼んだ少女に抱きつく立江。
以前、ジェーコ達と共には戦車道全国では見かけなかった女生徒だが、どうやら、立江はこの娘とも面識があるようであった。
それを見ていたノンナは柔らかく微笑みながら立江にこう話をしはじめる。
「今年からウチに留学することが正式に決まりましてね」
「ふふん! クラーラが来てくれたおかげで私のプラウダがもっーと強くなるのよ! どう? 羨ましいでしょ!」
「Tы как всегда (あんたは相変わらずね)」
「ちょっと! 日本語で話しなさいよ! なんでロシア語で言うわけ! タツーシャ!」
そう言いながら、敢えてロシア語でジト目を向ける立江に声を上げて憤慨するように告げるカチューシャ。
プラウダの隊長なのに未だに彼女はロシア語には疎いようである。多分、この調子だったならシベリア教室送りもジェーコからされたに違いないと一同は思った。
すると、立江は普通にクラーラに向き直るとため息を吐き、仕方ないといった具合にこんな風に話をしはじめた。
「らしいわよ? クラーラ? 日本語で話せってさ」
「…もうちょっとロシア語で話したかったんですが、立江がそう言うなら仕方ありませんね」
「2人とも、直さずともロシア語で構わなかったのに…」
「ちょっと待って? ねぇ? ちょっと待って? 」
そう言いながら、ペラペラと急に流暢に日本語を話し出したクラーラに度肝を抜かされたのか待ったをかけるカチューシャ。
しかし、ノンナとクラーラと立江は顔を見合わせて首を傾げる。なんのおかしなところはない、至って普通だと言わんばかりだ。
だが、一方のカチューシャは目を丸くしたままワナワナと震えていた。
「クラーラめちゃくちゃ日本語流暢に話してるけど? ノンナ? 私が今まで通訳頼んだのってどう言うこと?」
「………………」
「なんで無言で目をそらすの!? ちょっと!説明しなさいよ! 日本語かなり上手いじゃないの!」
そう言いながら問い詰める自分から目を逸らすノンナに涙目になりながら訴えるカチューシャ。
今までの苦労はなんだったのか、わざわざロシア語がわからずに涙目になりながら通訳をノンナにお願いしていた日々は一体どういうことなのか。
そんな様々な苦労した思いがあったのだが、どうやらそれは本来要らない苦労だった事に気付いたカチューシャは涙目になる他なかった。
「…ん…あ…カチューシャにノンナやん? 久しぶりやね…?」
「え!? 今更!?」
「いや、考え事してて気付かへんかった。堪忍な…?」
そう言いながら、目を瞑り考え込んでいた繁子はようやくその3人の姿に気づき、改めて声をかける。
見た限り、何かしらいろいろと隊長として考える事があっだのだろう、明子の最後の設計図を受け取り、挑む2回目の戦車道全国大会だ。
その様子を見た永瀬は繁子に近寄ると心配そうな表情を浮かべて肩を叩く。
「大丈夫? しげちゃん? もしかして昨日あんまし寝てないんじゃない? 眼の下に隈があるし」
「ん…、あぁ、平気や、いろいろ作戦とか連携とか考えてただけやから大したことないで」
「それならいいんだけど」
そう言いながら、にっこりと微笑む繁子に永瀬は不安げな表情を浮かべていた。
繁子がリーダーとして、自分達を纏め、知波単学園を纏めている。
そんな、彼女の責任感の強さは皆が良くわかっていた。
プレッシャーもあるだろう、どんなに取り繕っていようとも長年共にやっていた仲間だから分かる。
そんな、繁子の様子を眺めて異変に気がついた立江はため息を吐くと真沙子にこう告げ始めた。
「真沙子、山城の中でリーダー横にさせてて」
「いや、立江、ウチは大丈夫やから…」
「ダメ、顔見りゃみんな分かるよリーダー。ウチらのリーダーなんだから体調はしっかりしてもらわないとさ」
そう言いながら、真沙子は隈ができている繁子を宥めるように肩を掴みながら話す。
多分、こう言っても繁子は話を聞かないだろう事も真沙子と立江は理解している。無理に身体を推してでも隊長としてこの開会式を終えるまでこの場に留まるつもりだろう。
だが、それでは本戦や今後の訓練に関わるのは明白であった。
「あんまし心配せんでええ、ウチは…隊…」
「…っ!?…しげちゃん!」
その場で意識が遠退き、繁子はその場で眼を瞑ったまま、真沙子に寄りかかるようにして意識を失った。
昨日今日、夜遅くなんてレベルじゃない、多分、この様子だとこの数日間、まともに寝ていなかったのだろう。
明らかに倒れ方、意識の失い方がおかしかった。
繁子は雪子の訓練をし、新しい戦車を組み立て、山城を改造し、エンジンを組み立て、その上、隊長として作戦や行動、戦法を練るために寝らずに組み立てていたのだとこの時、立江達は悟った。
幾ら、自分達のリーダーとはいえどやり過ぎである。
下手をすれば過労死してしまうようなハードなスケジュールだ。
まともに2日3日丸々寝てないとなればなおさら不味い。
「しげちゃん! しげちゃん! 大丈夫!」
「…! 雪子さん呼んで来て! しげちゃんが倒れた!」
そう声を上げて、倒れた繁子に声を掛ける立江とそっと抱き抱えたまま雪子をすぐに呼んでくるように告げる真沙子。
この事態に永瀬は眼を丸くしていた。まさか、繁子が目の前で倒れるとは思いもよらなかったからだ。
カチューシャもノンナもいきなり倒れた繁子の様子を目の当たりにして唖然とした様子で見つめていた。
「シゲーシャ!!?」
「立江!」
「救護班がもうすぐ来るみたいだから! 大丈夫!」
「リーダー! リーダー!」
「ぶっ倒れるまで我慢するなんて本当に馬鹿なんだからあんたは!」
そう言いながら、真沙子は繁子の小さな身体をなるべく動かさないように持っていた。
幾らなんでも身体に負担をかけ過ぎだ。
自分達の隊長だというのに何故こうも無茶をするのか、立江達は倒れた繁子の小さな身体を見つめてそう心の中で問いかける
理由はわかっている。わかってはいるが納得はできなかった。
「救急車が来ました!」
「立江! 繁子が倒れたんですって!」
「雪子さん、はい、意識を突然失ってそのまま…」
「そのままゆっくり真沙子と一緒に繁子の身体を担架に乗せて頂戴! ゆっくりよ!」
「はい!」
「わかりました!」
そして、ようやくここで繁子達の指導官である雪子が到着し、救急車が来たという話を聞いてすぐさま近くにいた救護班に指示を飛ばす。
この突然の出来事に会場にいた生徒達も騒めきはじめた。
いきなり、女生徒が開会式中に倒れ救急車で搬送となればそうなるのも致し方ない事だと言える。
その場に居合わせたカチューシャ達もそうだが、継続のミカ達や黒森峰の隊長であるまほ達も同様にすぐさま救急車へ搬送されている繁子の元へとやって来た。
「しげちゃんが倒れたんだって!」
「大丈夫なんだろうね」
「大丈夫です。さぁ、下がって」
そう言いながら、救急車から出てきた隊員達はすぐさま繁子を救急車に乗せるとそのまま車を発進させる。
それを不安げに見送る一同。
まさか、繁子がいきなり倒れて病院に運ばれる事態など予想すらできなかった。
「山口副隊長…繁子隊長は…」
「大丈夫よ、多分ね…。私らも病院に行くからここは絹代に任せといていいかしら?」
「!? …はい、ひとまず開会式に持ち出した戦車の撤収などはこちらでやっておきます!」
「よろしい、先輩たちがサポートしてくれるから後はよろしくね?」
そう言いながら、この場をひとまず絹代に任せた立江は急いで真沙子達と共に雪子が回してくれた車に乗り込む。
そして、繁子が搬送された病院へと車を走らせるのだった。
いきなり訪れたハプニング、波乱の戦車道全国大会はこうして幕を上げる。
幸先が不安になる中、繁子達は無事に大会を勝ち進んでいくことができるのか?
その続きは…。
次回! 鉄腕&パンツァーで!