ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
ここは知波単学園の模擬戦場。
現在、東浜雪子との凄まじい訓練が繰り広げられている戦場である。
激戦に続き、休息なき厳しい戦闘。
手抜きという言葉は一切見当たらない、鋼と鉄の匂いで満たされたその戦場にはまさに鉄血という言葉が相応しい。
「真沙子ォ! 右!」
「よっしゃあ! 任せな! 立江!」
「…甘いッ!」
「ぐぅ…!」
「本当にバケモンか…何かかしらあの人達…」
そして、その光景をボロボロになったオイ車から出て目の当たりにした知波単学園の女生徒はそう呟く。
主砲が当たらないなら、車体をぶち当てる。
車体が掠らないなら挟み込み、履帯が壊れてもなお東浜雪子の乗るIS-3戦車を本気で倒しにかかっていた。
いや、あれは、倒しにかかっているんじゃない。殺しにかかっているのだ。
其れ程までに凄まじい気迫と勢い、そして、鬼気迫る模擬戦だった。
何事にも本気だが、本当の意味でも彼女達が戦車道に命を懸けている事がわかる。
「車体のぶち当て方が足んない! 横転させるつもりでぶつけなきゃ無理!」
「はいっ! 次はしっかりぶつけます!」
「気張れお前ら! 死ぬ気であの戦車潰すわよ!」
「マサねぇ! 主砲はどうする!?」
「んなもん当たんないんだったら一緒よッ! なら至近距離でぶちかますしか方法ないわ!」
「そう言うと思った!」
そして、それに感化されて立江、真沙子の乗るチヌ二輌に乗る知波単学園の女生徒達も目が明らかに変わっていた。
本気の本気。レジェンドである東浜雪子に対して彼女達は全くの容赦なしである。
尊敬し、リスペクトするどころの話ではない。
滾る気持ちとアドレナリンが溢れ出る。明らかに正常とは言い難い。だが、その真沙子と立江の指揮はそれでいても的を得たものばかりであった。
真沙子が車体を東浜の乗る戦車にぶつけて進路を妨害すればそれに呼応するように立江が東浜の戦車を仕留めに掛かる。
がしかし…。
「バックオーライ、多代子、すぐにハンドルを右に切って、砲撃手発射」
「…か、簡単に言いますねッ! 本当にッ!」
東浜の指示に従った多代子がこれを紙一重でかわしきる。
間一髪だというのにも関わらず。凜とした表情を東浜は一切崩さない。挟撃をかわされた立江と真沙子は顔を曇らせる。
「しまっ…! あそこでバックなんてする!? 普通ッ!」
(…ッ! 挟撃を読んできた! やばい横に回られる!)
だが、立江とてそれだけで黙ってやられる訳ではない。すぐに東浜の動きを察知し、すぐさま指示を飛ばす。
「ハンドルを左に切って回避!」
「ひ、左ですか!?」
「そうよ! 早くッ! ッ…クソッ!」
しまったと立江は瞬時に気がついた。
ハンドルを左に切り返すのは無理だったのだ。
挟撃の為、車体の感覚を遮蔽物とスレスレに車体を寄せての真沙子と段取りを取っていた。その遮蔽物がこの時になって立江の首を絞めたのである。
右側に主砲を構えた雪子の戦車がその牙を立江へと向ける。
「はい、おしまい」
ズドンと慈悲のかけらもない一撃が立江の乗るチヌを粉砕した。
それと同時に真沙子が乗るホリから放たれた主砲を難なく雪子はかわす。まさに、後ろに目があるかのようなそんな錯覚さえ感じさせられた。
まるで、戦車を乗りこなすという言葉がそのまま体現されたような動きである。
「バケモンね…! 本当に!」
「主砲、対象、ホリ車。 あとは真沙子だけだからちゃっちゃと終わらせるわよ」
「いやー大将は慈悲がないねー」
「常に全力が私のモットーだからね」
そう言いながら、多代子にホリの追撃を命じる雪子。
それからホリが雪子が乗るIS-3から沈黙させられるまで時間はさほどかからなかった。
主戦場にはその戦闘の激しさを物語るかのように辺りには弾頭の砲跡がいたるところに刻まれている。
それから数時間後。
「帰ったよー」
「はぁ…マジで戦車ここまで引いてくるの疲れたー」
「足腰の鍛え方が足りないわね、スクワットする?」
「鬼ですかっ!?」
「おー、おかえりーアネェ! しげちゃん帰ってきてるよー!」
「お! 本当!? リーダーどこいんの?」
「ここやで」
「うわぁ!?」
「どこから顔だしてんのよ…」
「多代子は今日はピンクか」
「見んな!? てか何やってんのリーダー!」
そう言いながら、下からニョキっと生えてきた我らがリーダー城志摩繁子にツッコミを入れる多代子。
整備服と煤だらけの顔を見る限り大体は想像つく。大方、永瀬の乗っていた戦車の整備を手伝っていたのだろう。
戦車の下を見るために横になっていた繁子はスパナ置いてその場から立ち上がるとパンパンと服を叩いて汚れを落とし、立江達に改めて向きなおる。
「てなわけで帰って参りました。あ、みんなにお土産買ってきたでー」
「お、気が利いてるじゃない、繁子」
「あ、東浜さんご無沙汰振りです」
「よう、相変わらずちんまいなぁ…」
「…そこはコンプレックスなんで触れないでくださいよ…」
そう言いながら東浜の一言にズーンと落ち込む繁子。
確かにスタイルが良い他の四人と比べれば繁子はちんちくりんであるがそれは今に始まった事ではない。
というよりも同性から受けが良いチャームポイントであるためそこは誇るべきである。
「んで、お土産って何さ?」
「お、良くぞ聞いて頂きました! なんと今回のお土産はこちらです!」
そう言いながら、繁子は雪子の問いに自信ありげに応えると自分の荷物から継続高校から持ち込んできたお土産を取り出しはじめる。
なんとそれは…いくつもある缶詰であった。
これには立江達も首を傾げるばかりである。
「何これ」
「世界で一番臭い食べ物らしいです。これ食べたらきっと、くー!最高っていう事間違い無いですよ、臭いだけに」
「ねぇ? 立江、この娘しばいていいかしら?」
「えぇ、雪子さん存分にしばいてください」
「ちょっ!? じょ、冗談ですやん!? いい感じの親父ギャグでしたやん!」
そう言いながら、手をパキポキ鳴らしはじめる雪子に慌ててそう弁解する繁子。
疲れて帰ってきたら寒い親父ギャグが待ち構えていたのだ。そうなっても致し方ないだろう。こればかりは立江達にもフォローのしようがなかった。
しかも、継続高校からのお土産が世界で一番臭い缶詰めとなれば尚更だろう。
厳しく激しい戦車戦をこなし、疲れた彼女達には嫌がらせかと思われても致し方ないのである。
城志摩繁子、渾身のギャグ炸裂せず。
その後、雪子のアイアンクローが代わりに繁子の頭に炸裂する羽目になった。
それからしばらくして。
繁子が持ってきた世界一臭い缶詰め、シュールストレミングを知波単学園の一同はどうするかを考えていた。
臭いとは言えど食べ物には違いない。しかしながら引っかかる事がある。
「これ、普通に考えてスウェーデンのお土産よね?」
「ぐすん、立江〜、雪子さんめっちゃゴリラやったー」
「はいはい、しょうもない親父ギャグは控えなきゃね」
「誰がゴリラよ、次はサソリ固め行くわよ」
「ごめんなさい! ちゃうんです! ゴリラって優しいやないですか!?」
「しげちゃん、それフォローになってないよ…」
「あれ? ゴリラって私じゃなかったっけ?」
「永瀬、あんたはそれでいいのか…」
そう言いながら繁子の言葉に首を傾げる永瀬に対して苦笑いを浮かべる多代子。
繁子もゴリラを引き合いに出した時点でもう弁解のしようがないのであるが、話が脱線しそうなのでこれはこの際、とりあえず置いておくことにしておく。
「てか、継続高校ってフィンランド色強いじゃん。というかフィンランドじゃん。なんでスウェーデン?」
「なんか貰ったものをお裾分けしてもろうたわ、ミカ達はキツくて食えんかったらしいで」
「で? 誰が食べんの? 食べたい人いる?」
そう言いながら立江は後ろを振り返って知波単学園の生徒達に呼び掛ける。
しかし、知波単学園の生徒一同は全力で顔を横に振り食べる事に挑戦することを拒否した。それはそうだろう、誰が好んで世界一臭い缶詰めに挑戦するというのか。
だがしかし、これも時御流を極めるための試練。貰ったものを食べないことは食べ物に対しても頂いた側にも失礼に値する。
「立江、繁子、行きなさい」
「ゔぇぇ!?」
「ちょ! な、なら東浜さんもやりましょうよ!」
「嫌よ!? なんで私が臭い食べ物なんか…」
「指導官ですよね! レジェンドなんですよね! 行けますよ! ほら見てください永瀬のこの期待に満ち溢れた顔を!」
「東浜さんすごいなー憧れるなー」
「ぐ…あんた達は本当に…」
「愛弟子からのお土産ですから! ねっ!ねっ!」
「ねっ! じゃないわよ! わかったわよ! やってやるわよ!」
「よ! さすがMs.パーフェクト!」
こうして、どうやら繁子が持って帰ってきた缶詰めシュールストレミングを食べるメンバーは決まったようである。
知波単学園の生徒一同はこのシュールストレミングに挑戦する繁子達を応援、もしくはどんなものかを見るべく、缶詰めと向き合う3人を囲うように興味津々の眼差しを向けていた。
世界一臭い缶詰めとは、どれほどのものなのだろうか。
「永瀬っちは聞いたことある?」
「んー全然、てか初めて聞いたよ」
「私も〜、どんな臭いか気になるよね」
そして、その缶詰めを食べるべく臨戦態勢を整えた繁子達3人はゴクリとから唾を飲み込む。
覚悟を決め、今、その封印されし缶詰めの蓋を解放するべく缶切りでその缶詰めに刃を入れた次の瞬間…。
「おぅぇゔぇ…。ゔぇぇぇ!!」
「うわ! くっさ! やばい! これはやばいっ!?」
強烈な臭いが知波単学園の車庫に広がった。
かつてないほどの臭さ、缶詰めを開けた瞬間その強烈な臭いが鼻に突き刺さる。レジェンドたる東浜雪子さえ女性が普段出さない様な声でその場から逃げ去るほどの強烈な臭さだった。
これには繁子も立江も雪子と同じくして嘔吐しそうになる声をあげながらその場から避難した。
その場で見ていた永瀬達も顔を曇らせて鼻を摘んでその場から離れる始末である。
「やっば…! これはすごいわ…」
「絶対無理、うち食えへん」
「あんたが持って帰っててきたんでしょうが!」
「は、鼻を摘みながらならいける! 口にさえ入れれば」
「よ、よっしゃ…いくで!」
「ちょっ!? …あんた達本気で食べる気!?」
「さぁ! 東浜さんも! さぁ!」
「あーくそ! こいつらの指導官引き受けるんじゃなかったっ!」
そう言いながら繁子から催促され再び世界一臭い缶詰めに挑戦し始める東浜。
だが、物は箸で掴むものの、なかなか口には運べない。それはそうだ、臭くてそれどころではないのである。その強烈な臭いは納豆の比ではない。
そして、勇気を振り絞って繁子がそれを口に運ぼうとした瞬間に悲劇は起こった。
「…おゔぇ…っ!? やっぱムリィっ!?!」
「ちょっ…ばっ…! あんた…!! ふざけんなー! もうっ!」
なんと繁子が缶詰めの具を投げ捨てた瞬間、その汁の一部が東浜雪子の服の袖に付いたのだ。
当然ながら汁は強烈な臭いを発している。つまり東浜の袖は強烈な臭いに包まれた。
東浜雪子はMs.パーフェクト。そして、本人はかなりの潔癖症である。
東浜は涙目になりながら服の袖から漂う強烈な悪臭に顔をしかめて真っ先に水道へと駆けた。
「すんません…ほんますいません…」
「すんませんじゃないよっ!? すんませんで済んだら私はこの缶詰めに挑戦せんわ! あーもうくっさーい!これ! 絶対臭い取れないわ」
「やばいね、これはやばい、食べれる気しないわ」
阿鼻叫喚となりつつあるこの知波単学園の車庫。
そして、このキツイ臭いを漂わせる缶詰めに鼻を摘みながら顔を曇らせる立江。
この缶詰めをお土産に持って帰ってきたのは明らかな失敗であった。というより何故これに挑戦しようと思ったのか今考えればよくわからなくなってきた。
しかしながらその時である。なにやらその光景を見守っていた真沙子はあることに気がついた。
それは…。
「世界一臭い缶詰め…。アンツィオ戦……。…はっ! …閃いた!!」
「…なんか閃いたみたいだね、マサねぇ」
「なんかロクでもなさそうなんだけれど」
「これはいける。うん、後で繁子と要相談ね」
それから数時間の格闘の後。
結局、繁子達が世界一臭い缶詰めを口に運ぶことは叶わなかった。ちなみにこの世界一臭い缶詰め、シュールストレミングだが、スウェーデンでは親しまれよく食べられている缶詰めである。
スウェーデンへご旅行の際は一度お口に運んではいかがだろうか?
それはともかく、繁子達は臭い缶詰めの臭いが充満した車庫の臭い消しに追われる羽目となってしまった訳であるが…、どうやら、今回の出来事で新たな戦術を真沙子が考えついたようである。
アンツィオとの練習試合は近い。
果たして、世界一臭い缶詰めからヒントを得た真沙子が思いついた戦術とは一体…。
気になる続きは…。
次回の鉄腕&パンツァーで!