ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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祭り

 

 

「でも、まな板じゃ遊べないでしょ?」

 

「お前はまな板の凄さを全然わかっていない」

 

「なぁ、あんたら、それウチを挟んで言い合う事かいな」

 

 

 唐突だが、永瀬と真沙子が繁子を挟んで熱い議論を交わしていた。

 

 それはまな板がビアガーデンに必要か否かの議論である。その間には何故か繁子を挟んでの熱い議論であった。

 

 永瀬はビアガーデンをエンターテイメントみたいな感じにしようと提案。

 

 メリーゴーランドや出店に他にはディアンドルのレンタルや、カーニバルの催しをしようと考えていた。

 

 一方の真沙子は板前の腕を存分に振るい、日本伝統の居酒屋風なビアガーデンを提案。

 

 活きの良い魚を捌いたつまみに日本伝統の酒席にある料理を振る舞いたいと考え、こうして二人の意見が割れていた。

 

 割れるのは結構、大いに結構である。

 

 様々な観点からビアガーデンを盛り上げたいとする彼女達のやる気がひしひしと繁子にも伝わってきた。

 

 しかし、まな板に関する話題に関して自分を挟んで議論するのはやめていただきたい。心にくるものがあると繁子は思った。

 

 

「永瀬、まな板がどれだけすごいかあんたわかって無いでしょ? まな板はね? 時には盾に、時には武器になるとんでも板なのよ」

 

「それならメリーゴーランドだって一緒じゃん! まな板メリーゴーランドにしよう!」

 

「どこがやねん! どっちも本来のまな板の使い方明らかに間違ごうとるやないか!」

 

 

 本来の目的が遥か彼方へ。

 

 ビアガーデンを開き、両校の交友を深めるのが今回の目的である。

 

 行き着く先がなんだか途方も無いところに行きそうだと思った繁子は二人を制止する意味も込めてそう突っ込みを入れた。

 

 そんな中、立江はあるDVDを抱えて涙を拭いながらTVの電源を切っていた。

 

 

「いやー…やっぱりオデッセイは泣けるわね…」

 

「火星はいつか行ってみたいね、ぐっちゃん」

 

「ザ・鉄腕&パンツァー! 時御流は火星を開拓できるのか? …いいわね」

 

「いいけど、どのレベルから始めるの?」

 

「まずロケットを作ります」

 

「そこからっ!?」

 

「いや、それはどうでもいいんだけどさぁ…なんで学校の会議室でDVD鑑賞してるの?」

 

 

 そう言って顔を痙攣らせるアキ。

 

 だが、オデッセイを見終わった立江の横で共に鑑賞していたミカとまほはその余韻に浸っていた。

 

 彼女達は顔を痙攣らせるアキを他所に立江同様に涙を拭いながら語り始める。

 

 

「彼を見ていたらしげちゃんを思い出してしまったよ」

 

「名作だった…。いや、本当に名作だったよ」

 

「会議ほっぽって何やってるの? ミカ?」

 

「まぁまぁアキ、抑えて抑えて」

 

 

 そう言って怒りの笑みを浮かべるアキを必死になだめるミッコ。

 

 確かにビアガーデンの話はどうしたと言いたくなるアキの気持ちも分からなくもない、だが、永瀬達が繰り広げる会議はまな板の話しかしてないためどっちもどっちである。

 

 さて、その後、簡単に事の顛末を話せば、オデッセイを見終わったミカ達を含めた会議はひとまず先ほど挙げた永瀬と真沙子の案を含めてビアガーデンを開く事に決まった。

 

 

 

 

 そして、話はビアガーデン開催日前日へと移る。

 

 今回、開いたビアガーデンでは前回、鶴姫酒造で製造したノンアルコールビールを保存先から掻き集め開催する。

 

 味の鮮度をそのままに、サッパリとした喉越しにアルコールが入っていないビールの味を届ける。

 

 繁子達の情熱が込められて作られたノンアルコールビールである。

 

 

「麦から作ってるもんね」

 

「乙女麦ってやっぱすごいわねー」

 

「…どれ、ちょい味見してみようか?」

 

 

 そう言って真・乙女麦から製造したノンアルコールビールを注いだコップを持った繁子はそれをそのまま口へ運ぶ。

 

 さて、そのお味は…?

 

 

「…カッー! 美味い!! これ、あれやね、めっちゃビーフジャーキー食べたくなるわ」

 

「え? どれどれ?」

 

 

 そして、繁子の言葉につられて真沙子もビールを口へと運ぶ。

 

 真・乙女麦の麦を1から使い、鶴姫酒造で作り上げた自慢のノンアルコールビール。どうやら繁子の話を聞く限りでは成功のようだ。

 

 さて、真沙子もまたそんな繁子に続いて味見に入る。皆が作り上げたノンアルコールビール、その喉越しに違和感は…。

 

 

「うわっ! うっま! いやぁ! 麦から作っただけあるわね! つまみが欲しくなる!」

 

 

 無い、違和感は無い上に見事、狙い通りのサッパリとした喉越しを再現していた。

 

 その真沙子の言葉を聞いた繁子はニンマリと笑顔を浮かべる。思った通りの味に無事に仕上がったようだ。

 

 初挑戦にしてこの出来は上々であると言える。

 

 

「やろ? やろ?」

 

「…どれどれ? …んっ…! これは」

 

「ね? まほりん! めっちゃ美味いやろ?」

 

「馬刺しが食べたくなるな」

 

「うん、おいしいね、私はスルメが食べたくなってきたよ」

 

「なんか聞いてるとさっきから会話がめっちゃおっさん臭いんだけど気のせいかな?」

 

 

 ノンアルコールビールを飲んでほっこりとした表情を浮かべるまほとミカ、そんな二人にアキは苦笑いを浮かべそう告げる。

 

 おっさん系女子高生、新しいジャンルだが果たして需要があるかどうかは不明である。

 

 さて、話は戻るがこうして味もしっかりと確認し、ノンアルコールビールの準備も整った。

 

 食材も真沙子や繁子が用意をし、そして、このビアガーデンのために今回、秘密兵器を持ち込む事にした。

 

 それは…?

 

 

「ジャガイモ?」

 

「ジャガイモだね」

 

「ジャガイモの生命力を舐めたらダメだぞ、火星でも育つスーパー食材なんだからな」

 

「まほりん、それオデッセイの見過ぎだから」

 

「じゃあ私達は火星に田んぼ作ろう!」

 

「いいねーそれ」

 

 

 そんな他愛の無い会話を繰り広げる繁子達の手にはよく育ったジャガイモが握られていた。

 

 ジャガイモはポテトサラダにするもよし、ポテトチップスにするもよし。蒸してじゃがバターにして食べるも良しとビールにはとても相性の良い食べ物である。

 

 上でまほが挙げた様に火星でも栽培できるスーパー食材なのだ。

 

 

「ジャガイモも準備できたし、あとは…」

 

「ディアンドルだな!」

 

「…まほりんの目がすんごい輝いてる」

 

「しげちゃんの衣装を見たいから、当然だよ」

 

 

 そう告げるまほはニコリと笑みを浮かべて繁子を見つめる。

 

 繁子はそんなまほの言葉に顔を痙攣らせるばかりである。まぁ、本来の彼女の目的でありビアガーデンを他校との交友という名目で予定した理由でもある。

 

 さて、その肝心なディアンドルだが、ファッション担当、立江が既に衣装を用意済みである。

 

 

「じゃーん! 可愛いっしょ!」

 

「ほほう…これはこれは…」

 

「可愛い! すっごい可愛い!」

 

「ん? ミカっちにアキ、どう? 着てみる?」

 

「え! いいの!?」

 

「どうせ明日着るんだし別に良いわよ」

 

 

 用意したディアンドルに目を輝かせるアキに立江はそう言って頷き応える。

 

 ディアンドルは様々な種類が用意されているが立江が用意してくれた衣装は可愛い町娘を連想させる様なそんな衣装ばかりであった。

 

 背中は綺麗に晒され、そして、着れば可愛いフリルが付いた胸元が強調されるセクシーな衣装、女の子ならば誰でも着たいと思うだろう。

 

 ただし、胸元が強調されるにはある程度の胸が必要な事もここに付け加えておく。

 

 

「…ん、ど、どうかな?」

 

「あ、可愛いじゃん! 似合ってるよ! アキ!」

 

「ほんと!? えへへ、なんだか嬉しいな…」

 

 

 そう告げる立江の言葉に照れる様に告げるアキ。

 

 下町の娘、アキのディアンドルを着た姿はそんな姿を体現した様な可愛らしい格好であった。

 

 そして、ディアンドルに着替えを終えたミカも皆の前に姿を現わす。

 

 

「…んぅ…、立江、この衣装、ちょっと胸元が開き過ぎじゃ…」

 

「……………牛かな?」

 

「アキ、目が死んでる! 戻って来て!」

 

 

 しかしながら現実は非情である。

 

 二度とミカと共にはディアンドルを着まいとアキは密かに心に誓うのであった。

 

 確かにディアンドルに強調されたミカの胸元は破壊力満点だろう。現にそれを目の当たりにした繁子も目が死んでいた。

 

 そして、繁子は隣にいる目を輝かせるまほの胸元に視線を移す。明日のことを考えただけで繁子は二度、精神が死ぬこととなった。

 

 アキの気持ちがよくわかる。あんな胸に囲まれるなんてなんの拷問だろうか。

 

 ディアンドル、恐ろしい破壊兵器だと繁子とアキは改めて認識させられた。

 

 さて、準備が順調に進み、話はビアガーデン開催日へと移る。

 

 

「しげちゃん! 三番テーブルノンアルコール追加だって!」

 

「よっし! 任せい!」

 

「真沙子! 馬刺し! ポテト追加で!」

 

「あいよ!」

 

「わぉ、大盛況じゃん! すごーい!」

 

 

 ビアガーデンは上々の大盛り上がりを見せていた。

 

 というのも繁子達の作ったノンアルコールビールを一目見ようと知波単学園、黒森峰女学園、継続高校の他にもタンカスロンを行う戦車チームや他校が足を運んできたのが大きい。

 

 特に立江が持ってきたレンタルのディアンドルが飛ぶ様にレンタルされていた。衣装が可愛らしいことがどこかの噂で流れたという。

 

 さて、今日はまほの希望通り、繁子もディアンドルに身を包み、可愛らしい町娘としてノンアルコールビールを振舞っていた。

 

 

「はい!三番テーブルに持ってってや!」

 

「いえす!あいどぅー!」

 

「永瀬、そこは普通ドイツ語なんじゃないかな?」

 

「私、ドイツ語さっぱりなんだよね」

 

「英語もさっぱりやないかあんたの場合は」

 

「そうだった」

 

 

 そう言ってミカと繁子からのツッコミに『てへ』っと舌を出して誤魔化す永瀬は繁子からノンアルコールビールを受け取ると、着ているディアンドルから更に強調される豊満な胸にビールから溢れる泡を溢しつつ笑みを浮かべる。

 

 そして、そんな中、繁子の傍らにはまほやミカが笑顔を振りまきながらノンアルコールビールを配っていた。そんな三人に囲まれた繁子は胸元を見比べながら自分の胸へと視線を落とす。

 

 決して貧乳ではない、貧乳ではないがなんだか無性に虚しくなって涙が出てきた。

 

 

「あかん、泣けてくるわ…」

 

「ん? どうしたしげちゃん?」

 

「なんでもあらへんわ!」

 

 

 そう告げる繁子はノンアルコールビールをせっせかと注ぐ。

 

 アキはそんな繁子を生暖かい眼差しで見つめていた。気持ちはわかる。女としてのプライドがあそこは地獄だと本能的にアキに訴えてきてるのがわかった。

 

 そんな中、ブレない人物がいる。板前衣装に鉢巻の真沙子である。

 

 ビアガーデンの洋風な雰囲気がなんのその、いつもの様に知波単学園の誇る板前さんは料理を存分に振舞っていた。

 

 

「はい! カルパッチョ! そんでもって熊本産馬刺しに! ムニエル!」

 

「炭火焼のサザエもあるよー、秋刀魚もあるよー」

 

 

 その傍らにはパタパタと団扇を扇ぎ、炭火を使って七輪で秋刀魚とサザエを焼いている多代子の姿が…。

 

 奇妙な事に何故かこのビアガーデンにおいてミスマッチだろう異質なこの出店が異様な人気を誇っていた。

 

 確かに異質ではあるものの味は間違いなく一級品。そんな真沙子の料理の腕や多代子の木炭が上質だという事だろう。

 

 それから数時間、ビアガーデンもひとしきり盛り上がり、無事に終わりを迎えることが出来た。

 

 一通り、忙しい時間帯を乗り切った繁子達は全員で集まりひと段落つける。

 

 

「ふぃー。ようやくおわったね〜」

 

「せやなー、ま、乾杯でもしようや」

 

「お、いいね! やろうやろう!」

 

 

 そう告げる繁子の言葉に皆は作ったノンアルコールビールをそれぞれ手元に用意する。

 

 最初はビールを作るところから始まったノンアルコールビールのビアガーデン。

 

 知波単学園と黒森峰女学園との交友が目的だったが、予想外に盛り上がってしまい大変になってしまった。だが、それも乗り切り、皆でこうして無事に一つの事を成し遂げる事が出来た。

 

 

「そんじゃ、みんなの頑張りに!」

 

「「「カンパーイ!」」」

 

 

 ガチャンと掛け声と共に繁子達の持ったノンアルコールビールの入ったジョッキが勢いよくぶつかり合うと共に花火が打ち上がる。

 

 新たに知り合った仲間とそして、親友達。

 

 繁子はこのビアガーデンでの準備の過程でなんだかまた大切な事を思い出した様な気がした。

 

 己の手で作ったノンアルコールビールを一気に飲み干しながら、繁子は思う。

 

 そうだ、最初もそうだった。何もないところから1から始まったのだと。

 

 

「花火、綺麗だね」

 

 

 ミカはノンアルコールビールを飲みながら静かにそう告げる。

 

 ノンアルコールビールを麦から作るために秋田、長野と移動した。大変な道のりに遠回りだったがそこには確かに達成感があった。

 

 もしかしたら、そんなところは戦車道も一緒なのかもしれない。ミカは儚く散る花火を眺めながらそんな事を密かに思う。

 

 

 繁子達の開いたノンアルコールビール祭り。

 

 

 それは、改めて彼女達に戦車道で大切な何かを思い出させる良い機会になったのかもしれない。


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