ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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超重量級戦車マウスVSオイ車

 

 最後の激闘の火蓋は切られた。

 

 こちらは繁子達から現場をまかされた辻隊長率いるマウス及び、駆逐戦車撃破隊。

 

 激しい砲撃戦の中、奇襲をかけ有利な条件下での戦闘に入る事ができた。だが、それでも敵は駆逐戦車とマウスを有する黒森峰女学園。

 

 ホニが放つ砲弾はことごとく駆逐戦車とマウスから弾かれる。並々ならぬこの圧倒的な圧力、装甲に辻率いる駆逐戦車撃破隊は有利な条件下での奇襲を仕掛けたにもかかわらず苦戦を強いられていた。

 

 

「隊長ぉ! ホニがまた1輌やられました!」

 

「あんの化け物戦車め! どうやれば倒せるんだ一体!」

 

「火力が違いすぎますよ! ここは一旦退きましょ…!」

 

「ダメだっ!」

 

 

 だが、隊長である辻は撤退という手段を決して取る事はなかった。

 

 今、この条件下での地理的優位を捨てて逃げ出せば立て直しは出来るだろうが、戦車の性能差が明らかな黒森峰女学園には勝てなくなる。

 

 この場所は皆が協力して作り上げた砦、確かに無農薬爆弾の効果は薄れてきたかもしれないが設置した長パイプに無農薬爆弾による撹乱。

 

 これらがうまく噛みあい、今、このように少し劣勢ではあるものの持ちこたえる事ができている。

 

 それに、ここで撤退というのは現在、部隊と無事に分断が出来た西住まほと対峙している繁子達を見捨てる事に直結する。

 

 辻達が奇襲をかけて分断し、進路を塞いだこの先の広場には繁子とまほが今、決戦を迎えている最中だ。

 

 だが、辻はどうにも引っかかっていた。

 

 隊長である西住まほがこのエリアから離脱し、不在となった黒森峰女学園はこの無農薬爆弾が炸裂したエリアから逃走しようと試みた散開から一転して、逆に陣形を整えてこちらに反抗を掛けてきた。

 

 それも、統率がとれた動きでだ。

 

 繁子達の読みだと散開した黒森峰女学園はこのエリアから離脱後、まほと合流し、それからの立て直しを行うだろうと踏んでいた。

 

 そこまで、考えた時点でマウス隊と対峙する辻はある事に気付いた。

 

 

(隊長不在の戦い方をこいつら実践してたのか…いや、そうじゃない、これほど陣形を組み直すにはやはり統率を取る人物が必要だ…、つまり)

 

 

 つまり、そう、彼女達は別れたまほからの指示を受けて散開という手段を取らず、辻隊と戦っている事から何者かの指示を受けとっている事になる。

 

 この場に居なくとも、統率が取れる人物。それはやはり、考えれば一人しか居ない。

 

 

『隊長! 現在交戦中ですが、無事に陣形整いました!』

 

「よくやった、そのまま交戦を続けろ! 敵戦車右から来るぞ! 旋回!」

 

「ちぃ! またか! ほんまに回避が上手いなぁ! まほりんは!」

 

 

 そう、一人しか居ないのだ。

 

 西住まほは城志摩 繁子と戦いながらも、通信手を通して聞いた戦況を整理したまま、黒森峰女学園の全戦車に指示を飛ばしていた。

 

 マウスの配置、駆逐戦車の有効な攻撃手段、それらの指示を苦戦するであろう繁子達の戦車を相手にしながらも平然とやってのける。

 

 この事実に至る辻は目を見開いた。そんな事が可能な者が居るのかと、だが、現実に存在している。

 

 ジェーコもアールグレイも目に届く範囲での立て直しなら難なくやってくる怪物達である。

 

 だが、黒森峰女学園と西住まほはその場に居なくとも部隊の立て直しができるほどの高い技術を備えている。

 

 知波単学園は個人戦では強いのが確かな強みだ。だが、黒森峰女学園は個人でも組織でも質が高い。

 

 これはもう素直に辻は西住まほをこう称するしかなかった。

 

 

「1年ながらにしてとんでもない化け物か…っ!? 西住まほ!」

 

 

 そう、完成された怪物、さらに、その西住まほの持つ才能の成長が留まることがない、まさに化け物。

 

 城志摩 繁子も高校戦車道において十分な化け物に違いはない、1年ながらにして、様々な作戦に時御流を使った巧妙な戦い方に試合運びは舌を捲く程の戦果を挙げてきた。

 

 だが、西住まほは同じ化け物としての性質が違う。

 

 隊長としての戦車戦での圧倒的な技量、そして、黒森峰女学園の戦車をまとめ上げる統率力、さらに、黒森峰女学園自体の組織力に個人技能。

 

 これら全てにおいて、辻は圧倒的な差を感じさせられた。

 

 

「全戦車に通達しろ! そのまま前進し、敵車輌を殲滅! ホリ車はヤークトティーガー、マウス、エレファント、パンターG型をもって確実に潰せ! そうすればその場の勝利は確実だ! 左に旋回後、停車! そして、急発進!」

 

「はい!」

 

「あったらない! なんなの!!」

 

「相手、私達の動きを読んでるの!? すんごい紙一重でかわしてるよっ!?」

 

 

 そして、繁子の乗る戦車からの砲撃をかわし続けるフラッグ戦車、西住まほの乗るティーガーはまるで予測したようにことごとく四式中戦車、山城からの砲撃を回避していた。

 

 この光景には四式中戦車に乗る砲撃手の真沙子も装填手の永瀬も目を開くしかない。

 

 西住まほの回避はそれほどまでに研ぎ澄まされ、無駄の無い動作で弾頭をかわしてきている。

 

 それは、対峙する繁子達も同じだ。同じようにティーガーから放たれる砲弾を操縦手の多代子の腕をもってしてかわし続けている

 

 だが、この時、繁子とまほの大きな違いはまほは通信を通しながら、紙一重の戦車の指揮を行いながら、全戦車の指揮を同時に行なっているという部分である。

 

 技量の高さは明らかに黒森峰女学園の練度が高い、現にその通信を通した指示のみで陣形を立て直してきている。

 

 そして、戦車の性能差は向こうが上。

 

 地の有利と策略ならばこちらが上回る。今、辻達が上回るものをここで捨てて逃げ出せば残されたのは敗戦の二文字だけだ。

 

 だが、次第に黒森峰女学園がこの状況での戦車戦に慣れてきている。この地の有利もいつまでもつかわからない。

 

 しかしながら、辻達はこの状況でも決して諦めてはいなかった。

 

 それは、繁子達の時御流の教え、活路は自らの手で作り出す。この言葉が辻達に戦う闘志に火をつけていた。

 

 どんなことにも全力で、自分達の戦車道を貫き通す。

 

 

「このまま潰されて堪るか! 皆! 踏ん張るぞ!」

 

「了解です!」

 

「あんな戦車に勝てるかなぁ…」

 

「勝てるかじゃなくて勝つんだ! やるべきことを最後までやり遂げろ!」

 

 

 辻の激励の言葉に気持ちを引き締める知波単学園の生徒達。

 

 そう、今迄培った経験は無駄なんかではない。辻はアールグレイとの戦いでそれを学んだ。だから、皆にもこれまでの試合、練習、経験を全てこの試合でぶつけて欲しかった。

 

 圧倒的な火力に性能の戦車、確かに相手の戦車の性能は高スペックだ。

 

 だが、繁子達は戦っている。そんな化け物じみた戦車を率いる隊長、西住まほに戦車に乗る仲間ともに力を合わせて抗っている。

 

 ならば、知波単学園の隊長である自分や仲間たちも必死になって挑戦する事を諦めてはいけない。

 

 

「右から来る駆逐戦車に警戒しつつこの場所を死守するぞ! 根性見せろよ! お前達!」

 

 

 だから、自分達も彼女達の頑張りに応えてあげないといけない。

 

 ここまで、知波単学園の仲間たちと力を合わせて勝ち上がって来た。負けるかもしれないというところまで追い詰められた事もある。

 

 だけど、それを乗り越えて来た今なら自分達が黒森峰女学園に劣っている何て事は決して無い。

 

 

「辻隊長!! マウスが突っ込んできます!」

 

「…ぐぅ…! 撃て! 撃てぇ! 通すな!」

 

 

 弾かれるのをわかっていながらも辻はマウスに砲撃を繰り返す様に告げる。

 

 だが、無情にもそんな抵抗をものともしないマウスは圧倒的な威圧感を押し出しながら進軍してくる。

 

 それに続く様に左右に控える駆逐重戦車のエレファントやヤークトティーガーといった戦車が続いてやってくる。

 

 もはやこれまでか、その場にいた知波単学園の生徒達はそう思った。

 

 だが、辻はそれでも目が死んでいなかった。まだ、負けたわけではない。やられた訳ではない。

 

 そして、辻はわすれてはいない、知波単学園にもまだ城志摩繁子という怪物がいる事を。

 

 

『辻隊長! いつでもいけます!』

 

「その言葉をずっと待ってたんだ! 今だ! オイ車隊! 発進!」

 

 

 次の瞬間、突如として駆逐重戦車、エレファントの車体が轟音と共に吹き飛ばされた。

 

 何が起こったのか、いきなりの出来事に目を見開くマウス、駆逐重戦車に乗る黒森峰女学園の女生徒達。

 

 すると、マウスが横を通過しようとしたお化け屋敷が壊れ中から同じ様な大きさのとてつもなく大きな車体が現れた。

 

 そして、マウスは横から現れたその戦車に車体をぶつけられ進行が止まる。

 

 さらに、その逆側からは露店を押しつぶし、同じ様な大きさの戦車がヤークトティーガーの側面から現れると主砲を放ち車体を吹き飛ばした。

 

 

「うわ! なんなのあの戦車は!?」

 

「マウスと同じくらいの大きさあるよ!」

 

「マズイ! マウスが挟まれた! 挟撃かっ!」

 

 

 そう、全てはこの時のために。

 

 対マウス用最終兵器、別名、スズメバチキラーフルセット着た戦車部隊。オイ車隊がマウスを挟撃するために突如現れたのだ。

 

 そして、その出現に浮き足立った黒森峰女学園の隙を辻は見逃さない。

 

 ホリ車は残りのパンターG型に照準を合わすと主砲を放った。

 

 

「撃てぇ!」

 

 

 そして、ホリ車から放たれた砲弾がパンターG型に吸い込まれてゆく。

 

 直撃した弾頭は炸裂し、パンターG型は白旗を揚げて完全に沈黙した。残りはマウスを残すのみだ。

 

 

「撃てぇ! 黒森峰のマウスがこのまま黙ってやられるか!」

 

「うわぁ!」

 

「新庄!! クソ! ホニ車、チヘ、チヌはこれで全滅か!!」

 

 

 だが、マウスは一筋縄ではいかない。

 

 最後のホニ車がマウスから放たれた砲弾の餌食になってしまった。残りはオイ車2輌、繁子達の山城、そして、辻のホリ車だけである。

 

 辻は真っ直ぐにマウスを見据える。このままでは例え、オイ車2輌であってもマウスを倒し切るのは困難であるだろう。

 

 その証拠にマウスが徐々に主砲を移動させ、オイ車の車体を捉えていた。

 

 このままなら、やられる。辻はオイ車が挟み込んでいるマウスの後方へと回りこむことにした。

 

 

「耐えろ! お前達!」

 

 

 背後からなら装甲が薄い箇所があるはずだ。

 

 ホリ車の弾頭ならば、そこを必ず抜ける。今、動かなければオイ車はこのままマウスの餌食となる。

 

 マウスの背後に回り込んだ辻は砲撃手にすぐさま砲弾を放つ照準を合わせる様に告げた。勝負は一瞬、今、外せばマウスがオイ車の拘束を解きオイ車は2輌とも壊滅させられる。

 

 真っ直ぐに主砲がマウスの車体を捉える瞬間を待つ辻、そして…。

 

 

「今だ! 撃てぇ!」

 

「はい!」

 

 

 ホリ車の主砲が火を噴いた。

 

 放たれた砲弾は風を切り、真っ直ぐにマウスの車体へと飛んでゆく。オイ車の車体はそれと同時にマウスの主砲により吹き飛ばされ撃破された。

 

 オイ車からの拘束が解けるマウス、だが、その時にはもう、ホリ車から放たれた砲弾がマウスに直撃していた。

 

 マウスの後方から火の手があがる、そして、白旗が挙がると黒森峰の最終兵器、マウスは完全に沈黙した。

 

 

「…やった…のか…?」

 

 

 その光景を目の当たりにした辻は戦車から顔を出すとマウスが完全に沈黙したのかどうかを確認する。

 

 戦車があの駆逐重戦車とマウスから次々と狩られていく光景を目の当たりにして正直なところ、マウスはかなりの脅威だった。

 

 だが、その脅威を乗り切り、こうして沈黙するまでになんとか持っていくことが出来た。これならば、繁子達の応援にもいける。

 

 そう、この時の辻は思っていた。

 

 

「隊長! 後ろです!」

 

「なんだと! ぐっ…!」

 

 

 だが、それは叶うことはなかった。

 

 背後から現れたティーガーから辻のホリ車は撃ち抜かれ、完全に沈黙してしまったからだ。

 

 そして、その辻の戦車を沈黙させたティーガーにマウスと戦い生き残ったオイ車の1輌が主砲を放ちすぐさま撃破する。

 

 

「隊長!」

 

「あぁ、大丈夫だ。大事ない」

 

「まさか生き残りがいたなんて…」

 

 

 そう言って、沈黙させたティーガーを見つめる知波単学園の女生徒達。

 

 背後からまさか撃ち抜かれやられるとは辻も予想外だった。そして、繁子達の応援に向かおうとした矢先の出来事。

 

 残ったオイ車で繁子達の応援に行くとしても…。

 

 

「…オイ車ではしげちゃん達の応援には行けませんね」

 

 

 オイ車から出てきた車長を務める女生徒は撃破されたホリから顔を出す辻にそう告げる。

 

 オイ車は超重量級の戦車、今、繁子達の応援に行っても、もはや間に合わないだろう事はこの場にいる全員が理解出来た。

 

 移動にも時間がかかる。その前に勝負はついてしまうだろう。

 

 結局は、知波単学園の命運は繁子達に託すしか方法はなかった。

 

 

「…繁子…、頑張れよ」

 

 

 撃破されたホリから今、まさに西住まほと激突している繁子の武運を祈る辻。

 

 マウスはどうにか倒した、あとはフラッグ車である西住まほだけである。

 

 いよいよ、黒森峰女学園VS知波単学園の戦車道全国大会決勝は最終局面を迎える。果たして、勝つのはどちらになるのか。

 

 積み上げてきた思い、意地、そして、仲間が繋いでくれた思いを胸に挑む宿敵との対決。

 

 時御流は果たして現代最強流派西住流を倒し、流派を再び復興することができるのだろうか。

 

 


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