ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか? 作:パトラッシュS
たたら炉の作り方。
繁子達が製造する炉の寸法はだいたいの大きさで手軽な物という事で簡単に作ったものだ。
さて、かき集めた砂鉄をこのたたら炉を使い加工していくわけだが、ここで、このたたら炉を作るまでの過程を紐解いていかねばならないだろう。
まず、たたら炉になる素材、それはレンガの調達から行う。幸いにもこの地は時御流発祥の地。
レンガの調達にはさほど苦労はしなかった。
コンクリートレンガと断熱性のレンガを組み合わせなければいけない。レンガの溶接には耐火モルタルを使う。この時、炉の温度を上げるための送風管と砂鉄や素材を炉に入れる為の長パイプの設置も忘れてはならないだろう。
「レンガの小さいのと大きいのを積むやり方、日本はしないんだよねー。もともと」
「そうなんだー、へー」
「こんな感じにレンガを積み上げて炉を作るのよ」
そう言うと真沙子は積み上げたり、モルタルで接合させて製造する炉を示しながら知波単学園の生徒達に説明する。
今回はレンガを用いたケラ押たたらを作った。
炉はたくさんあった方が良い、知波単学園の生徒達にも同じように簡単に作れるたたら炉を繁子達は協力して作ってもらう。
木炭は多代子が家から作って来たものを今回使用する。多代子が持って来た木炭は松炭、別名、カラマツ炭と呼ばれるものだ。
積み上げたレンガのたたら炉の上に木炭を敷き詰めて火をつける繁子。もちろん、加工する砂鉄は設置済みだ。
玉鋼を作るにはそれだけの手間が必要である。
それからしばらく時間をおいて、炉の上部から 1木炭が下がった時点で、砂鉄 、炭酸カルシウムや貝殻粉を挿入する。この時、炉の上部から火炎が立ち昇り、上端の炎が 600 °C 以上であることを確認しとかないといけない。
それから木炭の挿入と砂鉄の挿入を繰り返し、炉底の不純物取り出し口から鉄の棒を用いて炉から砂鉄の不純物を取り出す作業を行う。
「あっつーい!」
「まぁ、たたら炉だしねー」
「ファイト〜」
そんな感じに暫しの間、砂鉄から不純物を取り除いて鉄の塊の製造を行う繁子達。
しばらくして、ある程度、不純物を取り除き終わり、他の炉も同じようにして作業を終える。そして、しばらくして木炭が炉の半分まで落ちるのを確認すると耐火レンガを耐熱手袋を使って上から1つずつ外し、ハンマーなどを用いて完全に解体する 。
すると、中から出てきたのは…洗練された鉄の塊。そう、玉鋼である。
「よし! これなら問題無く加工して使えるわね!」
「みんなーちゃんとできたー?」
「こっちもできたよ!」
「わぁ、こんな風に鉄って作るんだね!」
こうして、次々と完成する玉鋼、繁子達はこの玉鋼を残らず回収すると次の作業に取り掛かり始める。
そう、次の黒森峰女学園戦に使うトラップ用の刃を製造する為だ。まず、真沙子がお手本を見せるため製鉄所にある場所に知波単学園の生徒達で加工法を披露する。
普段から包丁を手作りしている真沙子の手際は見事なものでその光景には知波単学園の生徒達はただただ目を輝かせるばかりである。
「まぁ、私は普段から自分が使う包丁はこうやって打ってるけどねッ!」
「うひゃー…ほんとにもけもけ姫みたいだ」
ガツン! ガツンと、槌を振るい熱いうちに炉を用いて玉鋼の形を変えていく真沙子。
そして、出来上がった刃をさらに研いで形に持っていく。この時、切れ味を上げる為に工夫した打ち方で綺麗な形に整える事を忘れてはならない。
砂鉄は、採れる産地により成分が違い、産地により砂鉄の色も違う。チタンが多い砂鉄や酸化が進んだ砂鉄など千差万別で室町期以前の日本では、その場所、土地で採れる砂鉄で鋼を作り、その土地の刀鍛冶がその鋼を使い日本刀を造っていた。
真沙子が打ってる包丁もまた日本刀の様に切れ味の良い包丁ばかり、なぜなら彼女は包丁にこだわりを常に抱いているからだ。
「すごく…勉強になる…」
「しげちゃんも包丁を100本くらい打てる様にならなきゃね? 主婦目指すなら包丁くらい作れるようにならないと」
「いや…近くのホームセンターで包丁くらい売ってるだろう」
「私達に買うっていう発想は…」
「うん、無いんだよな、知ってる」
立江の言葉に間髪入れずに突っ込む辻。
その言葉を聞いた辻は苦笑いを浮かべて顔を引きつらせてそう頷くしか無い、だいたいこの娘達のやり方がわかっている、ホームセンターなんて発想がある訳が無かった。
一連の作業も無事に終わり、こうして、真沙子が作り上げた業物の包丁が出来上がる。
「綺麗、こんな包丁見たことない」
「ま、私の手にかかればこんなもんね」
「残った玉鋼はどうしよっか?」
「後は戦車の部品に変えときましょう? 要領としては包丁作りとさほど変わらないっしょ」
「玉鋼戦車かぁ、なんだかすんごい戦車になりそうだね!」
日本刀の強度はさほど強くはない。
切れ味は良いが、戦車の装甲になると、この玉鋼をさらに強度があるものに変えていかなくてはならないだろう。
チタン、特殊鋼をこの玉鋼と共に混ぜて部品を作り上げていく。チタン製の装甲ならば強度は申し分なさそうだが…。
「重さが足んないね」
「やっぱり減損ウランかなぁ、玉鋼と混ぜれるかどうか分かんないけど」
「マンガンやニッケル、コバルト、モリブデン、タングステンとか? 表面に浸炭処理すればさらに強度は上がる様な気もするかな?」
「いや、それより複合装甲(コンポジット・アーマー)とかどうかな? セラミック、劣化ウラン、チタニウム合金、繊維強化プラスチック、合成ゴムとか使うんだけど」
「あーそれねぇ、装甲を作る時に玉鋼を混ぜればいっか」
「ケージ装甲とか、後はそうだねぇ、天板装甲とか増加装甲も付ける?」
そう言いながら余った玉鋼をなんの装甲に使っていくのか作戦会議が行われた。
増加装甲や空間装甲を取り入れた知波単学園ならではの戦車を作る。日本の伝統ある文化と近代的な技術の融合。
時御流の戦車作りはまず、これらの戦車の部品を集めてからだろう。
「玉鋼だけじゃ無理だね」
「また全国回って素材集めかぁ」
「わくわくするね!」
そう言って満更では無い意見が飛び交う真沙子達。
そして、繁子と立江は戦車を作るに当たって、どんな風に作っていくのかの話し合いをしていた。
まずは装甲の加工の仕方からだ。
「立江、装甲は表面硬化装甲でええんやな?」
「んーそうだね、後は浸炭装甲の製法取ろうかと思ってるんだけど」
「いやぁ、でも強度が足りん気がするなぁ」
繁子はそう言って立江に苦笑いを浮かべた。
表面硬化装甲とは焼き入れなどの加熱処理によって、表面だけを高硬度の鋼鉄とする製法である。小銃弾や小口径の砲弾から内部を防護すればよいだけの装甲の時代には、装甲表面の硬さによってこれらの弾丸を破砕するように設計されていた。
今回、繁子達もこれを取り入れるか否か迷っている訳である。
立江が出した案、浸炭装甲はそんな表面硬化装甲の加工の一つで、浸炭装甲は、所定形状に加工済みの低炭素鉄鋼の板を加熱し、片面を高温炭素ガス雰囲気中に曝すことで表面から炭素を拡散浸透させて表面だけを炭素の豊富な高硬度の鋼鉄とする製法なのである。
だが、繁子はこの作り方よりもまだ良い方法を思いついていた。それは…。
「やっぱり複合装甲にしようか? 均質圧延鋼装甲か迷ったんやけどね」
「あのさ、お前達、第二次世界大戦の戦車を作ってるんだよね? 複合装甲って…」
「まぁ、車内は特殊なカーボンコーティングが施さなあかんですからね大会規定で」
「それ以外何作ってもいいって話じゃないぞ! おい!」
そう言って辻は声を上げて複合装甲を用いて戦車を作ろうとしている繁子と立江に突っ込みを入れた。
だが、繁子達とて、それは重々把握している。大会規定で定められた出来事を逸脱して魔改造戦車を作る訳では無い。
とりあえず、繁子は大会規定で定められた項目を照らし合わせながら辻隊長にこう話をし始めた。
「えーと、参加可能な戦車は1945年8月15日までに設計が完了して試作されていた車輌と、それらに搭載される予定だった部材を使用した車輌のみで、左記の条件を満たしていれば、実在しない部材同士の組み合わせは認められる…と書いてありますからつまり」
「搭載予定の部材を使ってれば装甲の作りはあまり限定されないって訳ですね、はい」
「へ、屁理屈過ぎる!? アウトスレスレもいいところだろ!」
「まぁ、あれです、つまり外見さえあれなら戦車の装甲の鋼材にオリハルコン混ぜてもOKっちゅうわけですね」
「伝説の鋼材を使うの!? …えぇ!?」
「いつか作りたいな、立江!」
「ねー!」
そんなとんでも戦車が許されるのか。
しかしながら彼女達にとっては非常にありがたい話であるだろう。ちなみにオリハルコンなんて伝説の鋼材は存在しない、いつか作りたいという繁子達の願望である。
そんな訳で繁子達はひとまずこの玉鋼と装甲についての話し合いを一旦、終えることにする。
加工をするにしてもまずは素材集めからだ。戦車を作るには材料が足りない。理化学研究所とかいろんなところに『こんにちはー!』と突撃するところから始めないといけないだろう。
もちろん突撃隊長は永瀬である。
「さて、ほんじゃ玉鋼を持って帰りますか」
「さらば! 我が故郷!田種村!」
「あれ? 永瀬、あんたここ出身だっけ?」
「いや違うよ?」
「だったらなんで我が故郷なんて言ったんですかねぇ…」
そう言って、いつの間にか田種村を故郷と明言しはじめる永瀬に突っ込みを入れる多代子。
どちらにしろ、またこの村を訪れる日もそう遠くは無いだろう。また、戦車の装甲を作りに来訪する日を彼女達は心待ちにするのだった。
装甲作りの続きは! また、改めて! ザ・鉄腕&パンツァーで!