ザ・鉄腕&パンツァー! 没落した流派を再興できるのか?   作:パトラッシュS

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サンダース大学付属高校戦 決着

 

 

 こちらは奇襲に成功した永瀬隊。

 

 彼女達はひとまず奇襲に成功した事で撤退するルートを思案していた。というのも繁子からの指示で市街地に別働隊がやって来た報告を受けたからである。

 

 こちらもこれ以上の行動は危ない。もしかすればサンダース本隊がこちらを潰しにかかる危険がある。

 

 

「永瀬っち。どうするよ?」

 

「んー…下手に動けば的になるのは目に見えてるんだよね…」

 

「市街地へのルートは2パターンあるよね? しげちゃんはなんて言ってたの?」

 

「とりあえずダミーの通信を流して逆側のルートを通ろうかってさ、だけど、向こうは既にこちらが傍受策を勘付いてるから逆に危ないかもとも言ってた」

 

「なかなか危ない賭けだよね」

 

「だね、けどそれはそれで誘導って意味じゃ敵が居てくれた方が助かるからなんともねぇ…」

 

 

 永瀬はそう言いながら苦笑いを浮かべる。

 

 長々とここで話をしていてもはじまらない。行動に移してダメならそれまでだ。市街地ではもう繁子達が準備を終えて待っているかもしれない。

 

 自分達は自分達の役目をきっちりと果たすだけ、永瀬はそう思っていた。

 

 

「行こう! ルートは…」

 

 

 永瀬は決めたルートをみんなに話し始める。

 

 一か八か、こればかりは天のみぞ知るというやつだ。ダメならば潔く散れば良い。

 

 ルートを決めた永瀬は無線を通してそのルートを繁子達に伝えた。永瀬隊の最後の役目、それは敵の誘導。

 

 彼女達はそれを果たす為、戦車を駆る。

 

 

 

「動いたわね」

 

「メグミ隊長、ケイ達がやられたようです」

 

「…ま、予想範囲かしら、奇襲したケイ達が無傷で帰れる程に甘くはないという事ね、こちらは引き続き別働隊を叩くわよ」

 

「はい!…みんな! 隊長に続け!」

 

 

 そう言いながら、サンダース大付属高校は通信を傍受し、永瀬隊の位置を把握するとそのルートから市街地を目指す永瀬達を叩く為移動を開始する。

 

 森の中を通り、行進するシャーマン戦車部隊。このまま、永瀬隊を倒した後は残りの本隊を叩いて試合終了。

 

 そんなビジョンがメグミの中に明確に存在していた。だが、傍受したルートの逆の道に到着するも永瀬隊の姿が見当たらない。

 

 

「いませんね…」

 

(…おかしい、通信ではこことは逆のルートを指定していたはずだから居ないはずは…)

 

 

 永瀬隊が居ないことに表情を険しくする隊長のメグミ。

 

 だが、次の瞬間、メグミ達シャーマン部隊の後方から砲撃音と煙が上がった。その襲撃した者たちは言わずもがな永瀬隊である。

 

 彼女達はカモフラージュを施し、メグミ達を待ち伏せしていたのだ。シャーマンを2輌行動不能に陥り、メグミは目を見開く。

 

 

「!?…皆! あの戦車隊を追いなさい!」

 

 

 メグミはすぐさま永瀬達を追撃するように全体に通達を出す。

 

 ケホを追撃する様に砲弾を次々と撃ち込んでくるシャーマン軍団。鬼ごっこの第二回戦がはじまった。

 

 永瀬隊の役目は誘導。それさえ果たせれば問題はない。

 

 

「うっわ! 凄い!」

 

「…ケホが1輌やられた!」

 

「まだ後うちらを合わせて2輌ある! 大丈夫!やれますよ!!」

 

 

 そう言いながら、操縦している先輩を励ます車長の永瀬。

 

 幸いな事は包囲される前に逃走が出来たことだろう。そして、こちらの思惑通り敵戦車部隊は誘導されてついてきている。

 

 森を抜け、繁子達が待っている市街地の入り口に差し掛かる。ここを抜ければゴールだ。

 

 

「永瀬ちゃん! 先に行って!」

 

「…え! ちょっと!」

 

「先輩! 何やってんですか!」

 

「これだと市街地に入る前に全員的になるでしょう! …私達が盾になるわ!」

 

「先輩…!」

 

「必ず勝ちなさいよね、辻隊長としげちゃん頼んだわよ」

 

 

 そう言いながらケホの1輌が永瀬達を無事に市街地に届ける為、メグミが率いるシャーマン軍団に立ち塞がる。

 

 それは、永瀬を繁子と辻の元へ届ける為、彼女が選んだ選択がそれだった。どちらにしろこのままでは2車輌とも的になるのが目に見えている。

 

 ケホの機動性を駆使しながら突撃をかける殿を承った先輩達。しばらく奮戦した後、メグミが乗るシャーマンから主砲を撃ち込まれそのケホは沈黙した。

 

 それと同時に、永瀬のケホが市街地に入る。

 

 バリケードがきっちりと成されルートが決められた市街地。備えは十分、この街全体が繁子達が即席で作り上げた要塞だ。

 

 永瀬を追い、市街地に入ってくるシャーマン軍団。

 

 バリケードが成された市街地を見たメグミはその奇妙な光景を目の当たりにし、表情を渋らせる。

 

 

(…市街地…。なるほどね…やっぱり元からここに私達を連れてくるのが目的か…!)

 

 

 市街地の奥へと消える永瀬のケホ。

 

 いつどこで砲撃を浴びるのかわからないこの市街地。メグミ達からすれば同じ会場、同じ環境に居るはずなのに完全にアウェーの場所に引きずり込まれた様なそんな錯覚さえ感じる。

 

 そして、その錯覚はすぐさま間違いではなかった事をメグミは知らされる事になる

 

 

「とりあえず進軍するしか無いわね…。散開して…」

 

「隊長、道が塞がれてます!」

 

「主砲を使ってバリケードを破壊すれば良いじゃない」

 

「それが…」

 

 

 そう言ってメグミに報告しにくそうにする隊員。

 

 だが、しばらくして彼女の話した報告はメグミにはとても信じられない様な内容であった。

 

 

「…主砲を撃ちこみましたがビクともしませんでした…」

 

「なんですって?」

 

「あのバリケード、特殊な造りで…やるのならばT30重戦車で破壊しないと…」

 

 

 そう話す隊員の言葉は正しくその通りであった。

 

 特殊な造りで張られたバリケードは破壊不可の代物だった。瓦礫の山と何やら特殊な造りで加工された鉄壁。

 

 しかもこれが簡単に並べられている。一体どんな手品を使ったら試合中にこんなことができるのか、メグミは驚きが隠せなかった。

 

 そして、次の瞬間。後ろから付いてきていたシャーマン1輌が謎の砲撃を受けて爆ぜた。

 

 

「…! なんですって!…馬鹿な!一体どこから!」

 

 

 予想外の事態に目を丸くするメグミ。

 

 だが、見渡しても辺りに戦車の姿は無い。彼女は唖然としていた。しかも、撃破されたのは戦列の中央にあったシャーマン。

 

 これでは前方と後方の部隊が分断させられる。幸い、ファイアフライは前方に配置していたがT30重戦車が後方に置き去りだ。

 

 一体どうやって…。彼女は周りを見渡しているうちに奇妙な光景を見つける。それは…。

 

 

「…!? あ…あれは…!?」

 

 

 上の建物から妙に伸びているパイプの様なもの。

 

 その先には、ちょうど大会規定の実弾が通るであろう幅くらいの片面だけ切断されている長いパイプがくの字で曲がりこちらに向いている。一体これはなんなのか…。

 

 だが、その答えはすぐにわかった。

 

 

「第二そうめん! 発射や!」

 

「あいよ! 発射!」

 

 

 ズドンッ!と主砲を放つ音がメグミを含めたサンダースの生徒達の耳に聞こえてくる。

 

 そして、その実弾はくの字に曲がった長いパイプを通って屈折し、下にいるT30重戦車の真上に直撃、爆ぜる。流れるように飛び出す砲弾に動きが制限されている重戦車が避けられる筈もない。

 

 T30重戦車からは行動不能の白旗が挙がる。この光景にはメグミも唖然とするしかなかった。

 

 

「あのパイプを使って建物の向こう側から弾頭を当てるだなんて!そんな…無茶苦茶な!?」

 

 

 そう建物の向こう側にいる敵戦車からの砲撃。

 

 だが、これは長い主砲を括り付けているわけでは無い、あくまで弾頭の軌道を長パイプで変えているだけである。

 

 繁子達が持ち込んでいた特殊加工された長パイプの部材を組み合わせて作り上げたものをそうめん流しの要領で設置し、使用したにすぎない。

 

 主砲の発射する弾頭の威力を殺さず、そうめん流しの如く建物を突き抜けた特殊長パイプで屈折させ敵車輌に撃ち込む。これが時御流の秘儀、名付けて。

 

 

「そうめんを飛ばすしかない作戦大成功や!」

 

『落っことして下で拾う』

 

『そうめん空飛ぶよ』

 

『おそらく世界で最初に観測されたであろう空飛ぶそうめんだね!』

 

『あれ、そうめんじゃないから! 弾頭だから!』

 

 

 そう言いながら『そうめんを飛ばすしかない作戦』が上手くいき、通信を通して車内にいる真沙子と多代子にハイタッチを交わす繁子達に冷静な突っ込みを入れる辻隊長。

 

 なお、このそうめん流し、もとい、実弾流しは角度も長さも調整が利くため建物の向こう側にいる戦車は狙い放題である。

 

 敵戦車の位置はカモフラージュしたチヘが随時報告を上げてくれるので繁子としても非常にありがたい。

 

 

『果たして…こんなめちゃくちゃ許して良いものか…』

 

『だって、戦車道ルールに試合中そうめん流し作ってはいけませんなんてルールどこにもないじゃん、辻隊長』

 

「これは後でまた加工して竹の素材を表面につけてそうめん流しに使うんやし、平気平気」

 

『えっ!? これまた使うのか!?』

 

『私達に捨てるって発想はない』

 

 

 そう言いながら頭を抱える辻に追い打ちをかける様にそう告げるホリに乗る立江。

 

 なんやかんやで、敵シャーマン部隊も混乱している様だ。後方の部隊はこれでは前進もままならないだろう。

 

 そして、繁子はさらにそこに追撃をかける。

 

 

「立江!辻隊長! 後よろしくな!」

 

「りょーかい!しげちゃん!」

 

 

 そう言って、分断した後方の部隊の壊滅を立江に指示する繁子。

 

 当然、前方の部隊は後方からの支援には回ることはできない、何故なら、支援に回るその道には死のそうめん流しが待ち構えているからだ。

 

 そうなれば、メグミ達はバリケードが張られている道をできるだけ回避しながら前に進まなくては行けない。

 

 しかしながら、その先に待っているのは…出口でなく。

 

 

「嘘…でしょ…?」

 

 

 スズメバチ退治用にフルセット着たようなごついオイ車が待ち構えている。

 

 サンダース大付属高校が市街地戦にと持ち込んで来たフルセット超重量戦車オイ車に対抗できるであろうT30重戦車は既に謎のそうめん流しにより行動不能に。

 

 サンダース大付属高校を待ち構えていたオイ車は凄まじい音を立てて、主砲を一発撃ち込むとファイアフライを戦闘不能にしてしまった。

 

 そして、他のシャーマン戦車も次々と主砲を撃ち込まれ戦闘不能に陥る。

 

 そして、メグミもこのままで終われないとオイ車からなんとか逃れるため引き返そうとする。

 

 がしかし、そこに待ち構えていたのはカモフラージュを解いて後ろからついてきていたチヘと永瀬が乗ったケホ。そして、繁子の乗る四式中戦車に囲まれた。

 

 

「さぁ! 真沙子! 今やで!」

 

 

 当然、引き返そうとシャーマン戦車が方向を変える隙を繁子は見逃さない。

 

 ケホ車、オイ車からの砲撃が繰り返し行われその中で晒されるメグミのシャーマン戦車。だが、メグミもここで終わるわけにはいかないと方向転換しながら戦車を移動させ砲撃を躱そうと試みる。

 

 しかし、四式中戦車の砲身はきっちりとメグミのシャーマンを捉えていた。繁子は真沙子に指示を飛ばし、主砲を発射する準備を整える。そして…。

 

 

「右に避けなさ…!」

 

「撃てぇ…!」

 

 

 ズドンッ!と山城(四式中戦車)の主砲が火を噴いた。

 

 発射された弾頭はまっすぐにメグミが乗るフラッグ車のシャーマンに吸い込まれてゆく、そして、直撃。

 

 煙が上がり、フラッグ車の方からは白旗が上がる。

 

 

『サンダース大付属高校! フラッグ車行動不能! 勝者! 知波単学園!!』

 

 

 その瞬間、知波単学園の勝利を確定させるアナウンスが全員に響き渡る。

 

 繁子達はその報を聞いて戦車から飛び出ると嬉しそうに笑みを浮かべた。そして、車内から出てきた多代子、真沙子と繁子はハイタッチを交わし、ケホ車、チヌ車、ホリ車に乗る永瀬、辻隊長、立江と合流し抱擁を交わす。

 

 全員で勝ちとった勝利。皆が一丸となって二つの作戦を成り立たせて勝つことが出来た。

 

 強豪、サンダース大付属高校撃破。

 

 初めての全国大会で戦った強豪からの勝利を掴み取った繁子達。

 

 次は準決勝の舞台へと駒を進める…。

 

 


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