振り下ろした
攻撃を防いだ蟲をよく見ると巨大なムカデで、相手の袖から伸びている。
「ずいぶん硬い蟲だな、アダマンタイトで出来てるのか?」
「そんな柔な物じゃないよぉ」
ガガーランは戦鎚でムカデを払いのけながら後方に跳び、距離をとる。
直後、自分がいた場所に剣のような角を持った蟲が突き刺さった。
「あっぶねぇなぁ。手を出すなとか言われてるの嘘じゃねぇのか?」
「そんなことないよぉ」
視界の端で何かが動いた。武器を構えながらそちらに目線を向けると、建物の隙間からうじゃうじゃと様々な蟲がわき出している。
「・・・・・・多勢に無勢か。にしても気持ち悪ぃな!」
様々な方向から飛んでくる蟲を刺突戦鎚で潰し、弾くが数が多く、頬や鎧をかすめて切り傷が増えていく。
「ックソ、切りがない!」
そんな時、自分とメイドの間で爆発が起こり蟲の攻撃が止み、蟲はメイドを護るように辺りを警戒している。
「わりぃな、ティア。助かったぜ」
「ガガーランにも赤い血が流れていたんだ」
「・・・・・・俺の事何だと思ってんだ、てか前に俺が怪我したとこ見てんだろうが」
「そろそろ青い血が流れてパワーアップしているころかなと思っていた。まだならアルフィリアにその手のアイテム有るか聞いてみよう」
「本当に持っていそうだからやめてくれ。俺はまだ人間でいたいんだ」
「まだ?ゆくゆくは異形種になる予定と」
そう言いながらティアは何処からか出したメモ用紙に何やら書き込んでいる。
「言葉のあやだ、なる予定はない。で他には来てるのか?」
「イビルアイが上に」
相手から注意をそらさず上を確認するとそこにはイビルアイがおり、魔法を発動させていた。
「
イビルアイの放った結晶散弾はメイドを護っている蟲を貫き、削っていく。
「ガガーラン、大丈夫か」
「何とかな。これで形勢逆転だな」
「おや、こんな所に居ましたか」
突如上から声が聞こえ、視線を上に向けるとそこには男がいた。
この辺りでは見ることのない、南方で着用されているスーツなる物を着ており、顔には仮面。
男の背には蝙蝠のような翼、腰からは尻尾が生えている。
「・・・・・・悪魔、か」
男はゆっくりと地上に降り、メイドを背に隠すように立ち塞がる。
「ここは私に任せて、貴女は持ち場に戻ってください」
そう言われるとメイドは一礼し、蟲を引き連れて建物の影に消えていった。
「ガガーラン、まずいことになった」
「あ?どういう事だ」
「あの悪魔の強さ、あのメイドの比ではない」
ガガーランの顔が険しくなり、刺突戦鎚を握り直している。
「何だってあんなもんがここにいるんだ?」
「わからん。だが、ガガーランとティアは逃げてこの事を皆に伝えろ‼」
「そうはいきませんよ」
そう言いながら悪魔は火球を放った。それは今まで見たことの無いほどの力持ち、直撃すれば跡形もなく消し飛ぶだろう。
だが、ただでは終わらん。せめてティアとガガーランを逃がし、この事を他者へ知らせなくては。
無駄だとわかっているが、少しでもダメージ減らすため〈
が、それは杞憂に終わる。
悪魔から放たれた火球は水晶防壁に当たることなく。空から降ってきた何者かに両断され、何事もなかったように消えてしまった。
火球を両断した者は立上がり、両手で持つような大剣を片手で持って悪魔に向ける。
月の光をうけて淡く輝く漆黒の鎧、夜風にたなびく燃えるような深紅のマント、その姿は最近よく吟遊詩人が語る英雄と重なった。
「とっさに魔法を潰してしまったが・・・・・私の敵はあれで良いのかな?」
「漆黒の英雄、私達は蒼の薔薇だ!同じアダマンタイト級冒険者として要請する!協力してくれ!」
「承知した」
そう言うと漆黒の英雄は手に持った剣を握り直し、目の前の悪魔と対峙する。
対峙した悪魔がゆっくりと頭を下げる。高貴な相手に従僕が頭を下げるよう深い敬意に溢れた礼だが、悪魔は漆黒の英雄に対して敬意など持っているはずがないので、これは皮肉であり、悪魔の慇懃無礼さを物語っているのだろう。
「これは、これは、よくぞいらっしゃいました。まずはお名前を伺ってもよろしいでしょうか? 私の名前はヤルダバオトと申します」
その名を聞き、思考を巡らせる。
過去の文献、伝承、伝説、民話、童話、自分の知るありとあらゆる物語の悪魔の名前をあげてみるが引っ掛かるモノがない。あれほどの力を持つ悪魔なら記録が残ってない方がおかしい。
「・・・・・・ヤルダバオトか、分かった。私はモモン。彼女が言ったようにアダマンタイト級冒険者だ」
誤字の指摘ありがとうございます。
凡ミスが多いです。
更新が遅れたのは積みゲー消化とプラモ組みが原因です、はい。