見えない壁が消え、まず感じたのは肌を突き刺すような寒さだったが、少しするとその寒さが和らいでいく。
「・・・・・・いったい、なにが」
目の前には凍結し霜の降りた地面と、キラキラと月光を反射する氷の粒。
そして氷像と化した部下達がいた。
俺たちはいったい何を間違えた。俺たちはいったい何に喧嘩を売ったのだろう、相手がこんな化け物だと知っていたら何か変わっていたのだろうか・・・・・・。
「はぁ・・・・・・」
アルフはつまらなそうにため息をつき、空を見る。
拍子抜けだ。敵の二つ名、空間斬に興味を持って次元立方体で隔離したのだが、空間斬の正体があんな小細工とは・・・・・・。
確かにあの武器、斬糸剣を使いこなすにはそれなりの技量が必要となる、それを考えるとこの世界では達人と言っても良かったのだろうか?
「うへぇ、あーちゃんずいぶん派手にやったね」
考え事をしているとクレマンティーヌが不可知化のローブを脱ぎ、姿を表した。
一応絶対零度を完全に防ぐアイテムを装備させており皆平然としている、セバスを見ると髭に霜が降っているが特に問題は無さそうだ。
「これでも地味な方だよ」
実際、派手な魔法は多々存在する。〈
「それよりこれからクレマンティーヌとソリュシャンには・・・・・・と、その前に。〈
アルフが魔法を唱えると、目の前には八本指がお偉いさんと呼んでいた者達が現れた。
強制転移させられてきた者達は自分に何が起こったのかわからない、といった風に辺りを見回している。
「大体わかると思うけど、二人でこの人達拷問して遊んでて良いよ。ついでに情報も聞きだしてくれると助かる、方法に関しては自由にヤっていい。あと、凍った死体は氷結牢獄に送っておいて」
「さっすがあーちゃん」
「畏まりました」
二人は愉しげに返事をし、クレマンティーヌはホルダーから、ソリュシャンは体から武器を引き抜いた。
「セバスは向こうにいるツアレを助けて即撤退、後は私達に任せて」
そう言いながら先程ツアレを視た場所を指差す。
「一シモベの為に御手間をとらせてしまい申し訳ございません」
「良いよ。前アルベドにも言ったけど、シモベに頼られたり頼み事されたりするのはけっこう嬉しいんだよ。皆『至高の御方々の為なら』とか言って無償の奉仕をしたがるけど、こっちとしてはもっと頼って欲しいんだ」
「シモベには勿体ない御言葉です」
「そんなことより早く行ってあげて」
アルフの言葉に従いセバスは一礼し、ツアレのもとへとむかっていった。
「さて、こちらも動くか。アウラはこのまま私に付いてきて」
そう言いながら訓練所を離れて建物に向かった。
建物内
建物内には誰もおらず、アルフの足音だけが廊下に響いている。
アルフはあることが引っ掛かっていた。
クライムと一緒にいた盗賊が『六腕が五人いる』と言っていたが、先程の場所には四人しかいなかった。ならあと一人はどこへ行った?
最後に残っているのは確か六腕最強と言われる闘鬼ゼロ。もしクライム達に当たったら間違いなく殺される。
その時、耳が剣戟の音を捉えた。
恐らくクライムと誰かが戦っているのだろう、そんな場所にゼロが現れたらまずい。
アルフは床を蹴り、音のする方へと駆けていく。
音のもとに着いたとき目に入ったのは床に転がっている盗賊と頭や口の端から血を流しているクライム、それに対峙するように立っている大男とその後ろにメイド服を着たサキュロントが血を流して倒れている。
大男は盗賊から聞いていた情報から判断するに恐らくゼロだと思う。
状況としてはゼロが奇襲をかけて盗賊を行動不能にし、ツアレに化けたサキュロントとクライムを一騎討ちさせ、今にいたるのだろう。
「・・・・・・ら、ラグナライト、様」
クライムの息は荒く、少しふらついている。
「どういうことだ?六腕がお前の相手をしていたはずだ」
「ああ、あの弱い方々でしたら全員倒しましたよ」
「何だと?嘘を言うな。俺より劣るとはいえ、あいつらも六腕を名乗らせているんだ。奴らを相手に無傷でここに来られるはずがなかろう!」
「こんな時に嘘を言ってもなんのメリットもないですよ」
「ラグナライト様、ここにいたツアレさんは偽者でした・・・・・・」
「それなら心配ありません。ツアレさんはセバス様が救出して今頃安全なところにいますよ」
そう言いながらアルフは
セバスは毛布にくるまれたツアレをお姫様だっこして路地裏を歩いてるい、どうやらうまく救出できたようだ。ツアレは頬を赤くして恥ずかしそうにしているが満更でもなさそうだ。
「無事にここを出たようですね。それでは、貴方を倒してこの騒動を終わりにさせましょうか」
アルフはそう言いながら短刀を構えた。