日が傾き、茜色の光が窓から入り、部屋のなかを照らしている。
娼館を潰したあと舘に帰り、アルフは変化を解いて獣耳や尻尾を隠さず客間の椅子に腰を下し、太股にゲオルギウスをのせてその背中をゆっくりと撫でているのだが、彼はツンとした態度をとっている。
どうやら、何も言わずに置いていった事ですねているらしい。
とりあえずご機嫌をとるため、顎の下や角の生え際、翼の間、腹を撫でていく。
少しすると、尻尾を振りなら甘えたような声をあげ始めた。
うむ、意外にちょろいドラゴンである。
甘えてくるゲオルギウスを撫で回していると、部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」
入室を許可するとセバスが扉を開け、部屋に入ってきた。
「アルフィリア様、つれて参りました」
セバスの後ろには少し怯えた様子の女性がいる。
その女性の容姿は整っており、どこかで見たような顔立ちをしている。
「初めまして、私の名はアルフィリア・ルナ・ラグナライト。見ての通り、人間ではありません」
そう言いながら左手を上げ、獣化させる。
バキバキと音をたてて腕の骨格が変化し、髪と同じ艶のある黒い毛で覆われた。
「貴女の名前を教えてもらえますか?」
アルフの問にツアレはどうして良いかセバスに問うような視線を向け、セバスはゆっくりと頷いた。
「わ、わたしの・・・・・・名前は、ツアレ。ツアレニーニャ・ベイロン・・・・・・です」
アルフは成る程と納得した。
エ・ランテルで初めて店に来た冒険者チームの中に居たニニャを思い出した。
「ツアレさんに問いたいことがあります。貴女はこの先どうしたいですか?何もかも忘れて人の世に戻り普通に暮らすか。私達と共に人ではない者達と歩むか」
「セ、セバス様と一緒に・・・・・・居たいです」
少しおどおどした感じはあるが、その瞳には強い意思が感じられた。
「では、人の世に未練はありませんね?」
「はい・・・・・妹・・・・・・に会いたいという気持ちは少しあります。でももう昔を思い出したくないという気持ちの方が強いので・・・・・・」
6年以上の長い間玩具として弄ばれ、病気になるほと犯されていたのだ。やはり思い出したくないことが多すぎるのだろう。
「貴女の意思はわかりました、私の名のもとに貴女を保護いたします。もし、働きたいというのであればセバスに申し出てください。ツアレの件は私からアインズさんに報告しておきます」
「アルフィリア様、ありがとうございます」
セバスはそう言うと、ツアレを連れて部屋を出ていった。
耳を澄まし、扉の外の声を聞くと「ちくちくしました」とか「幸せなキスは初めてです」などと聞こえてくる。
こう言ったときは祝福すべきなのだろうが、心の隅ではリア充爆ぜろという思いが・・・・・・。
とりあえず、これからの予定を考えることにした。
まずはラキュース達に娼館襲撃の件を説明し、その後ツアレの事をアインズ達に説明する必要がある。
幸いアインズとペロロンチーノは王都に来ており、店にいるとぶくぶく茶釜から報告が来ている。
行動は早い方がいいだろう。
アルフは今日から店に戻るとセバスに伝え、舘を出る準備を始めた。
アルフが準備をしているのと同時刻 アルフの店
そこのリビングでは、異形の者達がテーブルを囲んでいた。
ちなみにクレマンティーヌは何時ものようにぶくぶく茶釜にいろいろされて寝室でダウンしている。
「さっきアルフさんから連絡あったんだけど、むこうの心配事が一つ消えたからこっちに戻ってくるって。それとアインズさんに直接報告したいことがあるみたい」
「俺に?」
「うん。何でもセバスに彼女ができそうらしい、と言うかキスしたって言ってた」
「はい!?本当なんですか!?」
ぶくぶく茶釜の言葉を聞き、アインズは身を乗り出して詰め寄る。
「本当みたいですよ。まぁセバスからではなく、女性の方から見たいだけど」
「セバスもすみにおけないなぁ。で、姉ちゃんはそう言う人はいるの?」
「いないわよ。強いていうならアルフさんかな、調教・・・・・・もとい教育は順調だし」
「教育、ですか」
「うん。私による私のためのアルフさん完全女性化・妹化計画」
「そういえば、最近アルフさん自分のこと僕って言わなくなってるな。それ関係してたりするの?」
「もち。ぼくっ娘も良いんだけどあの容姿なら私呼びの方が合うでしょ。普段から私呼びにしておけばボロが出にくいってもっともな理由付けたり」
「・・・・・・あまりアルフさんで遊ばないでください。で、いつ頃戻ってくるんですか?」
「所属している冒険者チームの人達にも説明する事があるから夜になるみたい。あ~、早く帰ってこないかなぁ、アルフさん成分補充したい」
ぶくぶく茶釜はそう言いながら腕を伸ばし、うねうねと動かしている。