セバスが助けた娘はツアレと言う名前だそうだ。
ツアレを助けてから数日、彼女の生い立ちがすこしづつわかってきている。
彼女には妹がおり、両親を早くに亡くして二人で暮らしていた。
13歳で貴族に妾として拐われて6年間玩具として扱われ、その貴族が飽きると娼館に売られて今にいたる。
本当にこの国はどうなっているのだろうか、貴族は領民を守るの者のはずだがそれが民を拐い、弄び、飽きたら棄てる。中にはちゃんとした貴族もいるのだろうが、自分の犯した罪は権力で握り潰せばいいと思っている奴等がイメージを悪くしているのだろう。
元いた世界でも貴族のイメージが本来の意味からかけ離れていた。
そんなことを考えていると、屋敷の扉がノックされた。
アルフは誰が来たのか確認するため、部屋を出て壁に体を寄せて相手から見られないようにして玄関を見る。
来客にはセバスが対応しており、相手は恰幅の良い男とその後ろには王国の兵士二人、そして最後に・・・・異質な男がいた。
「私は巡回使のスタッファン・ヘーウィッシュである」
先頭に立った太り、脂ぎっている男が多少トーンのハズレた甲高い声で、自らの名を名乗る。
「王国には、知っていると思うが奴隷売買を禁止する法律がある。・・・・・ラナー王女が先頭に立って立案し、可決されたものなのだがね。今回はその法律にこの館の人間が違反しているのではないかと言う話が飛び込んできてね。確認のために来させてもらったのだよ」
アルフの予期していた事が起こったようだ。
ヘーウィッシュを含めた四人はセバスと少し話したあと部屋に案内されていった。
その後、アルフは玄関とセバス達が入っていった部屋の中間にある待合室の椅子に座り、本を開いて読むふりをしながら全神経を耳に集中させて、セバス達の会話を盗み聞きした。
やはりアイツ等はツアレをダシに金を搾り取るつもりのようだ、会話が演技がかっておりイライラする。
あげくの果てにソリュシャンを代わりに差し出せと言っている。
その後、会話が終わりセバスが四人をつれて待合室の前を通った時、ヘーウィッシュの足が止まり視線がこちらに向いた。
「ほぉ、この館にはこんなに美しい女性もいたのですか。先程の話、この女性でも構いませんよ?」
そう言いながら、こちらの全身をなめ回すように視線が動く、はっきり言って気分が良いものではない。
「いえ、この方はお嬢様と商談されるためにこられた方で・・・・・・」
セバスが少し言葉に詰まったときソリュシャンが現れ、
言葉を発する。
「待たせたわね、アルフィリア。こちらに来てちょうだい」
「はい、お嬢様」
アルフは本を閉じて椅子から立ち上がり、ヘーウィッシュの横を通りソリュシャンのもとへ歩を進めたのだが、
あの男からツアレの匂いと血の匂いが微かにした。
アルフとソリュシャンは部屋に入り、扉を閉めたとたんソリュシャンは膝片膝をついた。
「アルフィリア様、先程の御無礼お許しください」
ソリュシャンは頭を深く下げ、体が強張り、少し震えている。
「大丈夫、怒ってないよ」
そう言いながらソリュシャンの頭を優しく撫でる。
「それより、あのヘーウィッシュと言う奴に眼と耳を付けておいて、後であのサキュロントとの会話の報告をお願いね」
「畏まりました」
ソリュシャンに指示を出したあと、アルフはセバスとリビングで向かい合って座っていた。
「アルフィリア様、私が招いた厄介事に巻き込んでしまい申し訳ありません」
セバスはそう言いながら深く頭を下げた。
「気にしなくて良いよ。遅かれ早かれアイツ等とはぶつかる予定だったんだ」
「しかし・・・・・・」
「真面目なのは良いことだけど、たまには頭を柔らかくして物事を考えないと。散歩でもして息抜きしてきたらどうですか?」
「畏まりました」
セバスはそう言うと立ち上がって玄関に向かっていった。
セバスが館を出ていったあと、アルフは蒼の薔薇が泊まっている部屋に来ていた。
理由は今回あったことを話すためだ、本当は今すぐにでも殴り込みをかけて潰したいが、それで蒼の薔薇に迷惑をかけてはいけないと思い、いろいろ手順をふんでから潰す方法を選んだ。
もちろん自分とセバスの関係はごまかし、取引先の執事さんと言うことにしてある。
「そんなことがあったの・・・・・・相手の名前はわかっているのかしら?」
「巡回使と名乗っていた男はスタッファン・ヘーウィッシュ、依頼人らしき男はサキュロントと名のっていました」
蒼の薔薇はサキュロントの名を聞いたとき顔を少ししかめた。
「その執事さんはずいぶん厄介な奴に絡まれたな」
「知っているんですか?」
「知っているもなにも、八本指警備部門・六腕の一人だ。何でも六腕はアダマンタイト級冒険者に匹敵する強さって話だ」
「私達も自由に動けたら良いんだけど、貴族が絡んでるとなると下手に動けないのよ」
「今のまま娼館潰すと国王派の貴族の首がしまる」
「派閥のパワーバランスとかいろいろ面倒」
この話は思った以上にめんどくさい事になりそうだ。
「もしもの時は貴女一人で行動してもらうかも知れない、その辺りはこっちで手を回しておくわ」
「ありがとうございます」