ナザリック地下大墳墓 第九階層 執務室
そこには紙をめくる音のみが響き、消えていく。
リザードマン達を配下に加えてから余裕ができたアインズは、シモベやアルフ達から上がって来る情報をまとめた書類を確認していく。
情報の中にはアルフがアダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇に入ったことや、蒼の薔薇の中にプレイヤーと面識が有る者の情報も記載されている。
「アインズ様、少しよろしいでしょうか?」
「ん、どうした、ユリ。何か気になる情報でも見つけたか?」
書類から目を離し、声のする方へと視線を向ける。
そこには姿勢を正したユリの姿があった。
「いえ。私がアインズ様の御手伝いを始めて既に八時間が経過しております、お休みになられてはいかがでしょうか?」
アインズは机の上に置いてある時計を確認する。時計は朝五時を示しており、書類を読み始めて日を跨いでいるとは思わなかった。
「すまないな、長い間付き合わせて。皆に休みや休憩を取るように言ったが、言い出した本人がそれをおろそかにするとは。アンデッドは疲労がなく、睡眠が不用ゆえに時間感覚が狂いやすいな・・・・・・ユリよ、私は自室に戻って休む、お前も休憩をとるがよい」
「畏まりました」
「ああ、聞くのを忘れていた。アルフさん達は今何をしている?」
「アルフィリア様はアルベド様の部屋でドレスの最終調整を。ぶくぶく茶釜様はアルフィリア様と一緒に。ペロロンチーノ様はシャルティア様の所におられます」
「そうか、昼餐会とやらは明日だったな。引き止めて悪かった。行ってよい」
「失礼いたします」
ユリはそう言って一礼し、執務室を出ていった。
「休むと言っても疲労はないし、寝ることもできないからなぁ・・・・・・とりあえず茶釜さんとアルフさんの様子でも見に行ってみるか?」
ナザリック地下大墳墓 第九階層 アルベドの私室
国王主催の昼餐会が明日に迫り、アルベドの作っているドレスの最終調整を行っており、アルフはドレスを着てアルベドが細かな所を縫っていく。
「今さらですが、私でよろしかったのでしょうか?」
「何が?」
「私の裁縫スキルは低く、見た目だけなら完璧に出来ますが、素材を十分に生かせずランクの低い物になってしまいます」
「その事か。今回は見た目重視だから形さえ整っていれば大丈夫だよ。錬金術でも作れないことはないけど細かい所の調整はできないんだ。それに、ナザリックで裁縫できる者は居ないかデミウルゴスに聞いたらアルベドを推してきたから」
「そうでしたか。あと少しで終わりますのでもう暫くお待ちください」
それから少ししてドレスが仕上がった。
アルフは姿見に自分の姿を映す。
ドレスは胸元が開いており、濃紺で膝の辺りから右裾の方へと紫、朱、オレンジと夕暮れ時のようなグラデーションがかかっている。そこに漆黒のストールを纏って完成する。
「んー、アルフさんに似合ってるんだけど、もっと派手でも良いんじゃない?こう、キンキラでピカピカした感じで」
ぶくぶく茶釜がアルフを観察しながらそう言う。確かに映画等に出てくる貴族のほとんどは成金趣味全開のキラキラしているが、アレは大袈裟に表現したものだろう、と思いたい。
「そう言うのは私の趣味じゃないから、このままで良いよ。後はアクセサリーを2つほど」
アルフはそう言いながらアイテムボックスに手を入れ、ペンダントと腕輪を取り出す。
ペンダントは紅い宝石を包むように蒼水晶とスターシルバーで細かな細工がされており、ヒヒイロカネで作られた腕輪には黒曜石の鎖が付けられ、その先に宝石が付いている。
その両方に共通しているのは見ていると引き込まれるような血のような深紅の色をし、透き通っている宝石が使われており、その宝石は脈動する淡い光が灯されている。
「アルフさん、それって
「そうですよ」
アルフはそれを身に付け、改めて姿見を見る。
身に付けたアクセサリーは違和感がないほど馴染んでいる。
「こっちの世界だとそうなるんだ。私も龍血晶でアクセサリー作っとけば良かった」
「ならこれあげますよ」
そう言いながらアイテムボックスからバスケットボールくらいの大きさの紅い結晶を取り出し、ぶくぶく茶釜に手渡した。
「デカっ‼何これ、本当に龍血晶?」
ぶくぶく茶釜が驚いているのも仕方ない。龍血晶はドラゴンを狩ると稀にドロップするのだが、だいたいが手の平に収まるサイズしか落ちない。錬金術で複数の結晶をまとめるのは手間がかかるので割りに合わなかったりする。
「合成無しの本物ですよ。ゲオルギウスがたまに持っていることがあるので、それを貰ってるんです」
「え、それってゲオルギウスが龍血晶を作り出せるってこと?」
「はい。この世界に来て初めて血晶を作るところ見たけど、びっくりしましたよ。いきなり体をモゾモゾ動かしたと思ったらいきなり口から吐き出すんだもん」
「それ知ったらアインズさんが欲しがりそう」
「その点は大丈夫です、前にあげませんよって釘刺しましたから」
そんな話をしていると、部屋の扉がノックされ、外からアインズの声が聞こえる。
『アルベド、そこにアルフさんと茶釜さんはいるか?』
「はい、お二方ともおります」
『うむ。少し話したいことがあるので入ってもよいか』
「あ、アインズ様が私の部屋に・・・・・・少々お待ちください!」
アルベドの顔が惚けたあと、慌てて部屋を片付け始め、アインズ抱き枕やぬいぐるみをベッドの中に入れていく。その時アルベドが頬を赤く染めていたが、たぶんアインズを模した物を自分のベッドに放り込む事で、本物をそうしてみたい、と言う思いでも湧いてきたのだろう。
「お待たせしました。アインズ様、どうぞ御入りください」
アルベドが扉を開け、アインズを部屋に入れた。
「うむ、早い時間にすまないな」
「いいえアインズ様、私は何時でも大歓迎です!」
アルベドの瞳は情欲に濡れ、今にもアインズに襲いかかりそうな雰囲気を纏っているが、何やらこちらを見てどうしようか迷っているようだ。
こちらとしてはそのまま襲ってことに及んでも構わない、むしろその方が面白そうだが、こう言ったときには過剰な読みの深さは発揮されないのだろうか。
「・・・・・・あ、ああ、そうだ。アルフさんに話があるんだった」
アインズは身の危険を感じたのか少し後退り、アルフに話をふった。