オーバーロード 月下の神狼   作:霜月 龍幻

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第6話

「いい加減にしたら・・・・・・」

 

重く低い声に初めてシャルティアは反応し、嘲笑を浮かべながらアウラを見た。

 

「おや、チビすけ、いたんでありんすか? 視界に入ってこなかったから分かりんせんでありんした」

 

ぴきりとアウラは顔を引きつらせ、それを無視するようにシャルティアはマーレに声をかける。

 

「ぬしもたいへんでありんすね、こな頭のおかしい姉をもって。こな姉からは早く離れた方がいいでありんす。そうしないとぬしまでこなになってしまいんすよ」

 

マーレの顔色が一気に悪くなる。シャルティアが自分を出汁に姉に喧嘩を売っていると悟っているためだ。

 

だが、アウラは微笑む。そして

 

「うるさい、偽乳」

 

爆弾が投下された。

 

「・・・・・・なんでしってんのよー!」

 

「あ、キャラ崩壊」

 

モモンガはぼそりと言葉を発する。

 

素を出したシャルティアに、先程までの間違いだらけの(くるわ)言葉はどこにもない。

 

「一目瞭然でしょー。変な盛り方しちゃって。何枚重ねてるの?」

 

「うわー! うわー!」

 

発せられた言葉をかき消そうとしているのか、ばたばたと手を振るシャルティア。そこにあるのは年相応の表情だ。それにたいしてアウラは邪悪な笑みを浮かべる。

 

「そんだけ盛ると・・・・・・走るたびに、胸がどっかに行くでしょ!?」

 

「くひぃ!」

 

びしっと指を突きつけられ、シャルティアが奇妙な声を上げる。

 

「図星ね! くくく! どっか行っちゃうんだー! だから〈転移門〉なんだー」

 

「黙りなさい! このちび! あんたなんか無いでしょ。わたしは少し・・・・いや、結構あるもの!」

 

シャルティアの必死の反撃。その瞬間、更に邪悪な笑みを浮かべるアウラ。シャルティアは押されるように一歩後退する。さりげなく胸をかばっているのがなんというか悲しい。

 

「・・・・・・あたしはまだ七六歳。いまだ来てない時間があるの。それに比べてアンデッドって未来が無いから大変よねー。成長しないもん」

 

シャルティアはぐっ、と呻き、さらに後退する。アウラは亀裂のような笑みをさらに吊り上げ、もう一言追撃する。

 

「今あるもので満足したら? ぷっ!」

 

「おんどりゃー! 吐いた唾は飲めんぞー!」

 

その台詞と同時、シャルティアとアウラが戦闘体勢に入る、

 

「平和だなぁ」

 

「平和ですねぇ」

 

その光景を見ていたペロロンチーノとアルフからそんな台詞がこぼれる。

 

「サワガシイナ」

 

声が飛んできた方、そこには何時からいたのか、冷気を周囲に放つ異形か立っていた。

 

二・五メートルはある巨体は二足歩行の昆虫を思わせる。 冷気がまとわり付き、ダイヤモンドダストのように煌めく、ライトブルーの硬質な外骨格は鎧のようだった。

 

それはナザリック地下大墳墓第五層の守護者であり、凍河の支配者 コキュートス。

 

「御方々ノ前デ遊ビスギダ・・・・」

 

「この小娘がわたしに無礼を働いた 」

 

「事実を 」

 

「あわわわ・・・・・・」

 

再びシャルティアとアウラがすさまじい眼光を放ちながら睨み合い、マーレが慌てる。モモンガはさすがに呆れ、意図的に低い声を作ると二人に警告を発した。

 

「・・・・・・シャルティア、アウラ。じゃれ会うのもそれくらいにしておけ」

 

びくりと、二人のからだが跳ね上がり、同時に頭を垂れた。

 

『もうしわけありません!』

 

モモンガは鷹揚に頷き謝罪を受け入れると、現れたものに向き直る。

 

「良く来たな、コキュートス」

 

「オ呼ビトアラバ即座ニ」

 

白い息がコキュートスの口器から漏れている。それに反応し、空気中の水分が凍りつくようなパキパキという音がした。

 

「オヤ、デミウルゴス、ソレニアルベドガ来タヨウデスナ」

 

コキュートスの視線を追いかけると、そこには闘技場入り口から歩いてくる人影が二つ。先に立つのはアルベドだ。その後ろに付き従うように一人の男が歩く。十分に距離が近づくと、アルベドは微笑み、モモンガに対して深くお辞儀をする。

 

男もまた優雅な礼を見せてから、口を開いた。

 

「皆さんお待たせして申し訳ありませんね」

 

身長は一・八メートルほどもあり、顔立ちは東洋系、オールバックに固められた髪は漆黒、丸眼鏡をかけており、来ているものは三つ揃えであり、ネクタイまでしっかり締めている。

後ろからは銀プレートで包んだ尻尾が伸びている。

その男こそ 炎獄の造物主 デミウルゴス。

ナザリック地下大墳墓第七階層の支配者であり、防衛時におけるNPC指揮官という設定の悪魔だ。

 

呼んだ皆が集まり、忠誠の儀が行われる。

モモンガを中心に、右にぶくぶく茶釜、左にペロロンチーノ、ペロロンチーノの少し後ろにアルフが立ち。

モモンガ達の目の前に、守護者達が並び、一人一人が名乗りを上げて臣下の礼を取り、更に口上を述べた。

 

 

「素晴らしいぞ、守護者達よ。お前達ならば私の目的を理解し、失態なくことを運べると今この瞬間、強く確信した」

 

モモンガは守護者全員の顔を見渡す。

 

「さて多少意味が不明瞭な点があるかも知れないが、心して聞いてほしい。現在、ナザリック地下大墳墓は原因不明かつ不測の事態に巻き込まれていると思われる」

 

守護者各員の顔は真剣で、決して微妙にも崩れたりしない。

 

その後、モモンガの説明が続く、ナザリックのあった沼地は無くなり、今は草原のど真ん中にいると、その原因に心当たりはないかと守護者達に聞くが、満足できる回答はなかった。




忠誠の儀まで意外に長いですね、

ようやっとアルフを自由に動かせそうです。

もう1話分はテンプレ内容がありますが、次々回こえた辺りから、デミウルゴスへのトラウマの内容吐露、コキュートスとの試合等オリジナル要素を増やしていく予定です。

今更ながら、主人公であるアルフの情報が
中身は男性、アバターは女性、獣人の魔法詠唱者(マジック・キャスター)としか無い。

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