王都外壁より離れた人目の無い平原。
そこにはアルフと蒼の薔薇の四人がいる、今回ぶくぶく茶釜とクレマンティーヌはお留守番だ。
「こんなところで何するつもりだ?足なんてどこにある」
ガガーランは辺りを見回し、そう言った。
「今回移動にはこの子を使います」
そう言いながらゲオルギウス抱き直し、その頭をゆっくりと撫でる。
「いっちゃ悪いが、幼龍なんぞに五人ぶら下げて飛ぶ力なんて無いぞ」
ゲオルギウスの本来の姿を見たことなければ、その反応も頷ける。
「実はこの子は成龍で、前足に着けている二つの腕輪で体を小さくしています」
アルフの言葉に蒼の薔薇の四人がゲオルギウスの前足に視線を向ける。ゲオルギウスはフンスと鼻から息を吐き、得意気にしている。
「まぁ実際に見てもらった方が早いですかね」
アルフはゲオルギウスの右前足に着けている腕輪に触れ、その効果を停止させ空に向かって放り投げる。
少しして巨大化したゲオルギウスが ズンッと音をたてて地面に着地した。
「・・・・・・これは、すごいわね」
「確かにこれを見られたら騒ぎになるな」
「ああ、指を噛み千切られなくてよかったぜ」
「一度くらい千切られてもガガーランなら大丈夫」
蒼の薔薇の四人は少し驚きながらもじっくりと巨大化したゲオルギウスを観察している。
子犬程の大きさの龍が、鼻先から尻尾の先まで約20メートル程の大きさになればそうなるのも仕方ないか。
「今から鞍つけるから、着け終わったら出発します」
アルフはそう言うと、魔法を発動させた。
〈
魔法によって創られた5つの鞍をゲオルギウスの背に着け、蒼の薔薇とアルフはそれにまたがる。
「では行きます、振り落とされないようにちゃんと掴まっていてください」
手綱をしっかりと握りしめ、ゲオルギウスに翔ぶよう指示を出す。
その指示をうけ、ゲオルギウスは軽く助走し、その大きな翼を羽ばたかせ飛翔する。
「おお、すごいな。王都がもうあんなに小さくなってら!」
「そうね、この早さなら夕方辺りには着きそうね」
そう言いながら、流れていく景色を眺めている。
夕刻 目的地上空
「うわぁ、随分多いな」
「これを全部倒すのは骨がおれそうね」
上空から下を見ると森との境い目に獣系モンスターが溢れている。モンスター達は怯えるような仕草をし、森に戻るか平原に出るかで迷っているようだ。
「冒険者がいない、一時撤退でもしてる?」
ティアの指摘であらためて周辺を見回す。壊れた剣や盾、モンスターの屍体も複数ある、ティアの言う通り一時撤退して、体勢を立て直そうとしているのだろうか?
考えていても仕方ないのでモンスターから少し離れた平原にゲオルギウスを着地させ、背から降りてモンスターと対峙する。
モンスター達は唸り声をあげている。こちらを威嚇しているのだろうが逃げ腰気味だ、やはり龍が恐ろしいのか襲いかかって来る様子はない。
「ラキュースさん、今回の依頼はモンスターの全滅でいいんですよね」
「ええ。だけどこの数は多すぎる・・・・・・」
見た感じでも200を超えるモンスターがひしめいている、何かから逃げるように今も少しづつ増えている。
「ならこの子に任せて良いですか?」
アルフはそう言いながら頭を下げているゲオルギウスの頬を撫でる。
「構わないけど、大丈夫なの?」
「大丈夫です。ゲオルギウス、出来るだけ消し飛ばさないように手加減してね〈
アルフの言葉を聞き、ゲオルギウスは頭をあげ、敵の上に向かって口から火球を5つ放つ、それが敵の真上に来ると弾けて数十の破片となって降り注ぐ。
破片が当たると同時、大爆発を起こし、モンスターは消し飛び、焼かれ、破片からさらに飛散した火礫に撃ち抜かれ倒れていく。
「・・・・・・あれで手加減かよ」
「まさかあの一手で終わるなんて」
目の前にはモンスターの屍体が散乱している、中には体に大穴が空いてたり、半分しかなかったり、炭化したり、バラバラになっているのもある。
「モンスターの気配が散っていく」
ティアの言葉に皆が森の方を見る、森の中からがさがさと色んな音が遠ざかって行く。
「しかし、何だって森から出てきたんだ。こいつらは森の奥の方に住んでる奴らだ、何か強大なモンスターにでも追いやられたか?」
アルフはそれを聞き、一つ思い当たることがあった。
それはアウラが作っている偽ナザリック、たぶんあれが原因かもしれない、そう思うとなんだか申し訳ない気分になってくる・・・・・・。
「今夜は念のためここでモンスターが森から出てこないか見張るか?」
「そうね、夜行性のもいるし」
そしてアルフと蒼の薔薇はモンスターから耳や尻尾を切り取り、森から他のモンスターが出てこないかその場で一晩過ごす事になった。