オーバーロード 月下の神狼   作:霜月 龍幻

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第52話

「・・・・・・」

 

ラキュースが アイテムを買った翌日の夕刻。客がいなくなった店内、アルフの前にはカウンターを挟んでガガーランとティアが真剣な顔をして立っている。

 

「・・・・・・あのー、ご用件はなんでしょうか?」

 

「用件と言うほどのものじゃないんだが、ちょっと相談事かあってな・・・・・・」

 

ガガーランは深呼吸をし、言葉を発する。

 

「今朝からリーダーの様子がおかしいんだ」

 

「おかしいって、どんな感じなのですか?」

 

「どっかしらで手に入れた短剣をにやにやしながら眺めたり、鞘から抜いてブツブツと何か呟いてたり。なんか心配でよぉ。あんたマジックアイテム取り扱ってるだろ?だからそういった武器に心当たりはないかと思ってな」

 

ガガーランの隣のティアも同意しコクコクと首を縦に振る。

 

「・・・・・・」

 

アルフはばつが悪くなり、考えるふりをしながらゲオルギウスを見る。彼はガガーランが謝罪の品として持ってきた肉の塊にかぶり付き、ご満悦のようだ。

 

ラキュースに売ったアイテムは危険性はほぼ皆無で、喋ってもデメリットはなさそうなので正直に話すことにした。

 

「アインドラさんが持っていた武器ですが・・・・・・私が売ったものです。あれは私が昔使っていた物なので危険はないはずです」

 

一応嘘は言っていない、ユグドラシルでレベル20~40の頃、聖属性のモンスターばかり出る狩り場で使っていた。

 

「それなら安心なんだが。なら、あの行動は何なんだ?」

 

「・・・・・・それは、彼女は闇に関する武具に並々ならぬ関心があるようでアイテムを指定するとき、闇の力を宿した武具はないか、と言ってました」

 

「キリネイラムと特色を合わせようとしたのか?確かにそういった武具はなかなか手に入らないしなぁ・・・・・・」

 

アルフの言葉を聞き、ガガーランは顎に手を当て独り言を呟きながら考える。やがて何かに行き着いたのか懐から金貨を一枚だしてパチンとカウンターの上に置いた。

 

「迷惑かけてすまなかったな。これは相談料と迷惑料みたいなものだ、受け取ってくれ」

 

「はい・・・・・・」

 

ガガーランはアルフの返事を聞き、背を向ける。

 

「じゃあな、物が入り用になったりアイテムでの相談事があったらまた来る」

 

そう言いながら片手をあげて立ち去る姿はまさに漢、ゲオルギウスに持ってきた肉はこの辺りで手にはいる最高級品と気前がよく、些細なことでも仲間を心配してくれる、亜人種の村を守るために戦ったこともあるらしい。

冒険者の客達が言うように、兄貴と慕っているのも頷ける。

 

 

 

「アルフさん、あの人漢でしたね、今度兄貴って呼んだらどうですか?」

 

「怒られそうなのでやめときます。それにしてもアインドラさんがいろいろ手遅れな気がする・・・・・・」

 

「短剣を見ながらブツブツ言ってたのって、たぶん技名考えてたっぽいですよね。暗黒炎閃(ダークフレイム・スラッシュ)とか?」

 

「本当に末期ですねぇ・・・・・・」

 

「アルフさん、ふと思ったんですが中二病って行き着くとこまで行ったらどうなるんですかね?

元の世界では魔法はなく、現実(リアル)と言う枷があっていつかは普通になる。だけどこの世界では現実に魔法がある、ストッパーのない中二病がどうなっていくのか見てみたい」

 

ぶくぶく茶釜はそう言いながら手をワキワキと動かしている、ラキュースに中二病アイテムを与えてその究極体を見たいと言うのはわかる気がする。

 

「じゃあ今度、追加外装アイテム・黒翼も渡してみます?」

 

「それ良いですね」

 

そこには国の英雄、生きた伝説たるアダマンタイト級冒険者チーム、蒼の薔薇リーダーのラキュースを堕とそうとする悪魔が二人いた・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、蒼の薔薇の四人がまた来ている。

ラキュースの腰には闇の短剣、手首にはバーサークリングが付けられている。

 

「で、答えは変わったかしら?」

 

「貴女達は暇人なんですか?」

 

「そんなことない、ちゃんと半日から1日程度で終わる依頼を受けてる。私は貴女の事が気に入ったの、仲間になってくれるまで何度でも来るつもりだ」

 

ラキュースの目は本気そのものであり、本当に何度でも来るだろう。

 

「・・・・・・わかりました。蒼の薔薇に入りますよ。ただし、私は討伐や殲滅等の時間のかからないのしか受けませんからそのつもりで」

 

「わかった。ならさっそく冒険者組合に申請をしに行こう」

 

 

そしてアルフは蒼の薔薇の一員に加わり、そのまま依頼を受けることになった。

依頼の内容はトブの大森林から現れた大量のモンスターの討伐と言うものだ、今のところ被害は出ていないが近いうちに街道を行く馬車等を襲い、更には村や町を襲うだろうとの事だ。

 

蒼の薔薇は準備を整え、馬を連れていくため、冒険者組合の建物を出て拠点に戻ろうとしていた。

 

「アインドラさん、今から行く場所って馬で往復どれくらいかかりますか?」

 

「そうね、早くて4日、長くて5日はかかる。それからわ私の事はラキュースかリーダーって呼んでいい」

 

「わかりました、では足は私に任せてもらえないですか?任せてもらえるなら往復1日ですみます」

 

蒼の薔薇は驚いた表情でアルフを見る、馬を使っても4日かかる場所を1日で往復するとなればその反応も頷ける。

 

「分かりました、移動手段は貴女に任せます」

 

「では、王都を出ましょう。私の移動手段は人目につくと騒ぎになるので」

 

そしてアルフは王都の外へと向かう道を歩き始めた。


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