「この子がすみません。ゲオルギウス、あんなのかじったらお腹壊しちゃうよ?」
あれから、ガガーランの指をかじっていたゲオルギウスを引き剥がし、今はアルフが抱き抱えその頭を撫でている。
ゲオルギウスを見ると、自分の体に身を寄せ、再び寝ようとしている。
今はこうして普通を装っているが、ゲオルギウスがガガーランの指をかじったときは指を噛み千切るのではないかと内心ひやひやしていた。実際ゲオルギウスが 激怒していた場合ガガーランが消し炭になっていた可能性がある・・・・・・。
「こちらこそごめんなさい。ガガーラン、あまりよそ様の子にちょっかい出したゃダメよ?」
ガガーランを見ると、かじられた指を舐めており、その指にはクッキリと歯形が付いていた。
「ああ、すまねえ、俺が悪かったよ」
「本当にごめんなさいね。また日を改めさせてもらうわ」
そう言うと、蒼の薔薇は店を出ていった。
なんか精神的にどっと疲れた気がする・・・・・・。
少しすると、店の外に出ていた客達が戻ってきた。
「嬢ちゃんすごいな。あの蒼の薔薇にスカウトされるとは」
「ラグナライトさんは蒼の薔薇に入るのかい?」
「いいえ、私にはこの店がありますし。冒険者になったのもこの子を外に連れ出すためですので」
そう言いながら寝ているゲオルギウスを優しく撫で、カウンターの下にいるぶくぶく茶釜に視線を移す。
「そうか、残念な気はするが仕方ないか。まぁ、俺ら冒険者としてはありがたい」
その言葉を聞き、他の冒険者達が同意するように頷いている。
それから、午前、午後と客を捌き、閉店時間が近づき今店の中に客はいない。もうそろそろ店を閉めようかと思ったとき、ドアベルが鳴り、一人の客が入ってきた。
その客は長いローブを身に纏い、フード目深にかぶっており、外に誰かいないか仕切りに確認している。
ずいぶん怪しげな人物ではあるが、今朝嗅いだ匂いがする。
外に誰もいないことを確認した客は、フードを取りながら、カウンターへ歩いてくる。
フードが取られ、露になった顔は想像していた人物、蒼の薔薇リーダー、ラキュースだった。
「いらっしゃいませ。アインドラさん、日を改めて来るのではなかったんですか?」
「あれは蒼の薔薇としてよ、今は客としてここに来たの」
ラキュースはカウンターの前で立ち止まった。
「率直に言うわ、闇の力を宿した武具や、攻撃的な性格になる装備品はあるかしら?」
「・・・・・・なくはないですが」
「では、それを見せてもらえないかしら」
アルフはカウンターの下にある無限の背負い袋から、鞘に入った紫色の短剣と血のように赤い腕輪を取り出し、カウンターの上に出した。
「こちらの短剣が闇の力を付与した物です」
そう言いながら、短剣を鞘から引き抜く。その短剣の刀身は黒く、紫色の炎を纏い、様々な紋様が刻まれている。
「主な効果は聖属性のモンスターへの特攻、四分の一の確率で相手の防御力を15%ダウンさせます。
こちらの腕輪にはバーサークが込められており、五分の間攻撃力と素早さを30%上昇させる代わりに、防御力が15%ダウン、凶化して敵への物理攻撃しかできなくなります」
「いただくわ」
「350金貨になります」
「35白金貨でいいですね?」
ラキュースは懐から袋を取り出し、そこから35枚の白金貨を取り出し、カウンターに置いた。
「確かに」
アルフはそれを確認し、短剣を鞘に戻して腕輪とともにラキュースに渡すと、それを抱き抱えて店を出ていった。
「アルフさん、今のってまさか・・・・・・」
ぶくぶく茶釜はカウンターの上に上り、アルフと同じく店の出入口を見ている。
「あんまり信じたくはないですが、あの感じはねぇ・・・・」
闇の力を欲し、自身に二面性を持たせる。朝には気づかなかったが、彼女の指にはなんの効果も無さそうなアーマーリングが複数つけられていた。
「次来たらこれでもすすめてみようかと思います」
アルフはそう言いながらアイテムボックスから黒いアーマーリングを取り出した。
「それって悪ふざけで魔改造したやつですよね」
「はい。アインズ・ウール・ゴウンに所属する中二病患者達が産み出した黒歴史アイテムの一つ。これに食いついたら中二病の疑いが濃くなりますね」
最初このアーマーリングは普通だった。銀色をしていて飾り気はなく、効果は相手の弱点が見えるようになると言うもの。それをスパイクを付けたり、色を黒くしたり、最終的には効果を発動すると左目に青白い炎が灯るようにデータをいじった。
だが、実際にありうるのだろうかと思う。いや、魔法やマジックアイテムが実在するからこそ、そういった方向に走ったのかもしれない。
「考えてても仕方ない。今日は店を閉めてもう寝ようか」
ラキュースさん、闇の短剣とバーサークリングお買い上げ。
誤字の指摘ありがとうございます。