アルフと戦士達は休憩の間、演習場の端で雑談している。
「ラグナライトさんはどういった理由で王都に?」
「エ・ランテルが物騒になってきたので一時的にですが、王都で稼ごうかと思いまして」
「ちなみにどういった職についているのですか?」
「マジックアイテムの販売や武器への能力付与を行ってます」
雑談は主に、戦士達が質問し、それにアルフが答えると言う形で行われている。
「ほぉ。マジックアイテムはどんな能力を持ったものがあるんだ?」
「不眠や不労、体力の持続回復とかですかね」
それを聞いた戦士達が固まった。
それを見たアルフは不思議そうに首を傾げた。
「ち、ちなみにいくらで売っている?」
「だいたい金貨70から100ですね」
再び戦士達が固まる。アルフが心配そうに見ていると、その中の一人が苦笑いをしながらリ・エスティーゼ王国の五宝物の事を教えてくれた。
そこで自らのミスに気付いた。六大神、八欲王、十三英雄と、ユグドラシルプレイヤーと思われる者が下位のアイテムを流しており、アイテムのレベルは高めだと思っていたが、まさかこれほどマジックアイテムの性能が低いとは思わなかった。
「・・・・・・あー、ラグナライトさん、正直に答えてください。貴女にとってこの国の宝物の効果どう思われます?」
「・・・・・・正直言って、初級から中級の者が使うものだと思ってました」
実際、ユグドラシルで不労は装備の一部に組み込むか、スキルでどうにかしており、HPの持続回復はダメージ量の多い上級になると効果が薄くなり、アダマンタイトは極端な話、バターみたいな物で神級の武器が相手になるとその防御力と耐久値は有って無いような物だった。
「売ったらダメでしたか?」
「ダメってわけではないですが、敵国の将に渡ると厄介ですね。一応冒険者だけに売っているんですよね」
「はい、いまのところ不眠と不労の装備は三人しか売れてませんが、相手は冒険者でした。次売るときは刻印打って本人以外には使用不可にしておきます」
「それは助かります」
そう話しているうちに、ガゼフが見知らぬ少年と青年のちょうど境目ぐらいの年齢の男を連れて戻ってきた。
「ラグナライト殿、紹介する。この者はクライム、王女付きの兵士だ。強者との戦闘経験を積ませてやろうと思ってな」
「初めまして、クライムと申します」
外見年齢のわりにしわがれた声をしていた。
「初めまして、私はアルフィリア・ルナ・ラグナライト、
そう言いながら微笑んだ。
クライムの紹介の後、しばらく雑談してこの世界でのマジックアイテムの能力の平均を学んだり、この世界の英雄譚等を聞き、休憩時間が終了した。
「では、これよりラグナライト殿との手合わせをおこなう。志願するものは前に出ろ」
ガゼフの言葉を聞き、半数程の者が前に出た。勿論クライムもそのなかに入っている。
「ラグナライト殿、得物はどうする?」
「得物はそこにある木剣を貸してもらえますか?」
「別に構わないが、杖でなくてよいのか?」
ガゼフがそう言いながら木剣を差し出し、アルフはそれを受け取った。
「大丈夫ですよ。私は近接戦闘ができる魔法詠唱者ですので」
アルフは木剣を握り、具合を確かめながら軽く振る。
「先ずは俺が相手をしよう」
その声と共に、志願した兵士の一人が前に出た。
そして、アルフは戦士達と一人づつ手合わせをした。
もちろん、一方的に倒すのではなく。数十回打ち合い、相手が疲れはじめてから一撃を入れて倒す、と言う方法をとり、相手に経験を積ませるように相手をした。
その結果、戦士達はなにか身になることがあったらしく、満足そうな顔をしていた。
「それにしてもラグナライトさんはすごいな、こちらの攻撃を全て受けきってからの一撃」
「ああ。あれで魔法詠唱者って言うんだから、世の中は広いな」
志願した戦士達との手合わせを終え、彼らはそれぞれの感想をのべていた。
「次はクライムだ。ラグナライト殿、休憩はしなくても大丈夫だろうか?」
「大丈夫ですよ、このまま続けましょう」
「うむ。ではクライム、相手をしてもらえ」
「はい!」
ガゼフの言葉を受け、クライムがアルフの前に立ち、木剣を下に構え、盾で隠すように半身で構えた。
「ラグナライト様、よろしくお願いします!」
クライムから、この手合わせで得られるものは全て吸収しようという気迫を感じるのだが、なんか堅すぎる印象も受ける。
「私は堅苦しいのは苦手なので様付けはやめてほしいな」
「いえ、ストロノーフ様の御客人なので」
その言葉で堅さの理由を、彼は真面目過ぎるのだろう、と理解し、呼び方を変えさせるのを諦め木剣を構える。
「準備は良いな。では、始め‼」
ガゼフの掛け声と共に、クライムが駆け、距離を詰めて突きを放つ。
アルフはその突きを木剣の柄で弾き、次の下段からの一撃を受け止める。
クライムは木剣を引き、そこから連撃を放つ。
上段、突き、左薙ぎ、袈裟斬り。アルフはその全てを弾き、盾に向かって一撃を入れる。
クライムは流し切れず仰け反り、体勢を崩してしまうが、アルフは攻撃を仕掛けなかった。
「ラグナライト様、何故攻撃を仕掛けなかったのですか」
クライムの責めるような声が響く。
「私はここに訓練の手伝いで呼ばれてるから、相手が学べるように加減しないといけないと思ったんだけど、ダメだったかな」
「隙があったなら攻撃していただいて構いません、一撃で倒されても学べることはございます」
アルフの答えに、クライムは満足しなかったようだ。
「なら、ここから少し本気を出すから。気を付けてね」
クライムは肌で空気が変わるのを感じた。ピリピリとした空気が辺りを支配する。
クライムが木剣と盾を構え直した瞬間、アルフのが目の前に迫っていた、それは転移の魔法でも使ったかのような速度で。
クライムは慌てて盾で防御するも、アルフの初撃で盾が砕け、二撃目で木剣が折られ、衝撃で仰向けに倒れたクライムの首に木剣が突き付けられた。
「クライムさん、大丈夫ですか?」
アルフはそう言いながら木剣を引き、手を差し伸べる。
「はい。大丈夫です」
クライムはその手を取り、引き上げられるように立ち上がった。
「ストロノーフさん、訓練用の武具壊してしまってすみません」
「いや、それは構わないが。それより先程の攻めは見事だった」
「ありがとうございます」
「それでラグナライト殿。私ともお手合わせ願えないだろうか?」
「良いですよ」
アルフはガゼフの申し出を受け、手合わせをすることになった。