オーバーロード 月下の神狼   作:霜月 龍幻

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王都編
第44話


アルフ達は王都へ入り、セバスと合流する予定であったが、検問で引っ掛り、詰め所に連れてこられてから30分が経過していた・・・・・・。

 

 

 

詰所内、アルフは円椅子に座り、膝にはゲオルギウス、横にはぶくぶく茶釜がおり、目の前には兵士が一人いる。クレマンティーヌは、「取り調べ終わったら起こして」と言い馬車で寝ている。

 

 

「で、王都にモンスターを連れ込んで何するつもりだったのかな?」

 

詰所にいる警備兵は計六人、その内一人は目の前、もう一人は馬車のチェック、他の警備兵は検問を続けている。

 

「さっきも言いましたが私は冒険者で、龍とスライムは使役魔獣です」

 

「一応調べたんだけどね、王都の冒険者組合からの返答は、貴女のような冒険者は所属していないと。

それにエ・ランテルから王都までは馬にマジックアイテムを装備させ、不眠不休で走らせても7日以上かかる。

貴女の馬はゴーレムで、速力を考えれば3日で着くのはわかりますが、馬車を牽いているとなると話は別です、そんな速度で走ればすぐに壊れます」

 

ここでアルフは自分の失敗に気付いた。この世界では〈伝言(メッセージ)〉の魔法の信頼度は低く、情報のやり取りはいまだ紙で、馬で輸送している。

 

「だから、馬車には飛行の魔法が籠められていて、浮遊させて負担を無くしたんです」

 

「一応調べてはいますが、飛行の籠められた馬車と言うのは聞いたことがないものでね」

 

そう話していると、馬車を調べていた老いた警備兵が戻ってきた。

 

「うむ、確かにこの子の言う通り、馬車に飛行の魔法が籠められておるよ、あと積み荷の方は問題ない」

 

「なら」

 

「いや、まだモンスターの件がかたついていない」

 

まだ通してはもらえないようだ。アルフが冒険者として登録したと言う情報が届くのは早くても四日後だろう。使いたくはなかったが、奥の手を使うことにした。

 

「王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフさんを呼んで下さい。私は彼と面識があります」

 

アルフのその言葉を聞きいて兵士の顔色が変り、一人が慌てて詰所から出ていった。

 

 

 

 

しばらくすると、先程出ていった兵士が、ガゼフ・ストロノーフを連れて戻ってきたが、ガゼフは鎧を着ておらず私服姿、おそらく非番だったのだろう。

 

「わざわざ御足労いただいて申し訳ありません。先程モンスターを王都に持ち込もうとしたものを取り調べていたのですが、ストロノーフ様とお知り合いだと言いっておりまして」

 

ガゼフは説明している兵からアルフに視線を移すと、ゆっくりと歩いてきた。

 

「おお、貴女でしたか。ゴウン殿は元気にしておられますか?」

 

「アインズさんは元気にしてますよ。ストロノーフさんこそ元気そうで何よりです」

 

「うむ。皆よ、この者と二人きりにはしてくれないか?少し訳を聞きたい、聞かれたくない話もあるかもしれないのでな」

 

ガゼフの言葉を聞き、兵士達が詰所から出ていき、戸を閉めた。

 

「で、ラグナライト殿。何故このような状況に?」

 

「実は・・・・・・」

 

 

アルフはこれまでの事を話し、それを聞いたガゼフが謝ってきた。

 

「すまない。あの者達は職務に忠実なだけで、いいやつらなんだ」

 

「それはわかってます、私も非番なのに呼び出してすみません」

 

「いや、それは構わないとも。それより、そちらのスライム、何やら意志のようなものを感じるが、意思疎通はできるのか?」

 

ガゼフの視線がぶくぶく茶釜に向き、彼女は片手を上げ返答する。

 

「できますよ、ストロノーフさん。初めまして、私はぶくぶく茶釜と言います、ペロロンチーノとアルフさんの姉みたいなものです」

 

「これは驚いた、人語を理解するだけではなく話せるとは」

 

ぶくぶく茶釜はその反応を見て、腰に手を当て胸を張った。

 

「ところで気にはなっていたのだが。ラグナライト殿、耳と尻尾はどうなされた?」

 

アルフは変化を解き、耳と尻尾を出しだ。

 

「ちゃんとありますよ。人のいるところでは変化して隠しています。ですが完全に日が落ちると変化を維持できなくなるので、出来れば日が暮れるまでには知り合いの所に行きたいのですが・・・・・・」

 

アルフはガゼフを見るが、彼は顎に手を当てアルフを、より正確に言えばその耳と揺れている尻尾を見ている。

 

「ストロノーフさん、アルフさんの魅力的な身体に興味がおありで?」

 

ぶくぶく茶釜がいたずらっ子のような感じを出しながら言い。ガゼフは慌てたように手を振りながら言葉を発する。

 

「い、いや 決して邪なことは! ただ、その毛並みが素晴らしいと思ってな。もしよろしければさわっても良いだろうか?」

 

「良いですよ」

 

アルフはそう言うと、体の側面をガゼフに向け、尻尾を持ち上げた。ガゼフは方膝をつき、持ち上げられた尻尾に優しく触れ、なで始める。

 

「おお、これは。今まで撫でてきたどの動物より良いな。この手触り、癖になりそうだ」

 

尻尾の毛に指を通し、すくようにゆっくりと撫でる。

ふとぶくぶく茶釜を見ると、録画用のスクロールを広げていた。

 

「茶釜さん、何してるんですか?」

 

「ん?戦士長が、一部とはいえ女の子の身体をなで回しているのを録ってる」

 

その言葉を聞き、ガゼフは跳ねるようにアルフから手を離し、飛び退いた。

 

「い、いや、その決して邪なことは考えていない!」

 

「わかってますよ。茶釜さん、あまりストロノーフさんをからかわないで下さい」

 

「いやぁ、真面目な人をからかうのは楽しくてつい」

 

ぶくぶく茶釜はそう言うと、スクロールを閉じアイテムボックスにしまった。

 

「・・・・・・ゴホン、あー。ラグナライト殿、ここを通れるよう警備の者達に話をしよう」

 

「ありがとうございます」

 

そうしてアルフ達はなんとか検問を通過し、王都に入ることができた。

 

 

 

 

 

 

「戦士長、あの者達を通しても良かったので?」

 

「構わないさ、もし何かあれば私が責任をとる。おそらく後日冒険者組合からの書簡が届くだろう、心配することはない」

 

「わかりました。ですが、その時は謝罪をした方がよろしいでしょうか?」

 

「貴方は職務を忠実にこなしただけだ、ラグナライト殿もそれは理解している。もし謝る事を望むならその時は私が間に入ろう」

 

そう言いながら、ガゼフはアルフの乗る馬車を見送った。




ガゼフさん、久々の登場。

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