オーバーロード 月下の神狼   作:霜月 龍幻

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第43話

あの店での戦争から三日後の昼、城塞都市エ・ランテルと王都リ・エスティーゼを繋ぐ街道を行く馬車が一台。

 

馬車を牽く馬は生き物ではなく石で出来ており、一定のスピードで歩を進める、その馬車の御者台にはアルフが座り、その膝で黒龍・ゲオルギウスが丸まって寝ており、

荷台には胡座をかいて壁にもたれ掛かり、脚の上に乗っているぶくぶく茶釜を摘まんだり揉んだりしているクレマンティーヌ、それと幾つかの木箱が乗っかっている。

 

クレマンティーヌがここにいるのは、目標のレベルまで上がったからだ。今の彼女のレベルは55、ここまでレベルを上げるのに自分の持つユグドラシル金貨を少し使ったがその分早く終わり、最初は王都で合流予定だったが、昨日の夜から馬車旅に同行する事になった。

 

 

 

アルフは物珍しさから、流れていく景色を眺めている。

 

「アルフさ~ん。エ・ランテルから出てもう二日だけど、飽きないの?転移するならもう少し王都の近くでも良かったんじゃない?」

 

ぶくぶく茶釜はつまらなそうな声を上げながら、クレマンティーヌの脚の上でデロンとダレている。

 

アルフ達がエ・ランテルを出て、馬車ごと王都との中間辺りに転移し二日ほど馬車を走らせている。

 

最初は王都内に転移すると言う案が出たが、面倒ごとにならないようにと正規の方法で王都に入ることになった。そこで馬車ごと転移して移動時間を短縮する案が出て、王都との中間辺りに転移した。

 

最初の頃はぶくぶく茶釜も喜び、アルフと同じように景色を眺めていたが。同じような平原ばかりで飽きてしまったようだ。

 

「僕は楽しいよ、もとの世界じゃ見れないものばかりで飽きが来ない。それに王都近くに出て他の人に見られて面倒事にならないよう、中間に転移するのぶくぶく茶釜さんも賛成したでしょ」

 

「そうだけどさぁ、こんなに暇になるとは思わなかったんだもん」

 

「じゃあ、これでも弄っててください」

 

アルフはそう言いながら、アイテムボックスから一辺六センチの立方体を取り出し、ぶくぶく茶釜に放り投げ、彼女がそれをキャッチした。

 

それはアルフがユグドラシル内で、時間経過で進むクエストでの暇潰しにと買った物だ。

 

「それってルビクキュー?」

 

それを見たクレマンティーヌが反応する。

 

「これのこと知ってるの?」

 

「知ってるのって言うか、法国で売ってるよ。なんでも六大神が広めたとか、そんな話がある」

 

名前が変わっているが、同じものがあるらしい。

 

 

「そういえば気になってたんだけどさ、あーちゃんが首から下げてるのって冒険者のプレート?」

 

「そうだよ」

 

そう言いながら、アルフは金色のプレートを持ち上げる。

 

「なんで冒険者になったの? 店の稼ぎって相当なものでしょ、それにいきなり金プレートなのはどうして?」

 

「まぁ、理由は茶釜さんをつれ歩くためかな」

 

アルフはその経緯をクレマンティーヌに話した。

 

アルフは、店の中だけではぶくぶく茶釜が退屈するだろうといつも思っていた。だが彼女の見た目は完全にモンスター、つれ歩くには問題がある。

そこで、冒険者になりぶくぶく茶釜を使役する魔獣として登録すればアインズが連れているハムスケのように町に連れ出しても怪しまれないと考えた。

 

だが、冒険者登録の時に問題が起きた。

本来アルフのみで登録に行く予定だったが、アインズが暇になり、登録に付いていく事になった。

 

そこでアダマンタイト級冒険者となったアインズが太鼓判を押す人物であるならと所属する冒険者と手合わせをし、アルフの力を見た冒険者組合長はオリハルコンかアダマンタイトのプレートを渡そうかと言ってきた。

アルフは無用な妬みは買いたくないと、魔獣の登録が出来れば銅でもいと言ったのだが、組合長は下がらず、ならば金プレートでと懇願されたため、仕方なく金のプレートをつけている。

 

魔獣登録の時、一緒にゲオルギウスも登録したのだが。

 

ゲオルギウスが冒険者組合の待合室に飾ってあったアダマンタイトの塊を噛み砕いたり、溶かして遊んでいるのを見て、冒険者達が騒然となったり、職員が気絶したりといろいろあったが、なんとか登録して今に至る。

 

「そんなことがあったんだ」

 

「うん、この子が難度200オーバーとか言われたときは、登録出来るか心配だったけど。無事登録出来て良かったよ」

 

「そして、私は晴れて正式なアルフさんのペットになりました~。それで私は反旗を翻しアルフさんにエロ同人のような酷いことを!」

 

「しないでください‼」

 

ぶくぶく茶釜の発言にアルフは御者台から身を乗り出し、反論する。

 

「もう飛ばしますよ」

 

アルフはそう言うと、馬車に籠められた飛行(フライ)を発動させ、馬型ゴーレムに指示をだし速度を上げた。

 

 

 

 

 

 

翌日の朝、アルフ達の乗る馬車は王都リ・エスティーゼの見える位置まで来ていた。

 

「あーちゃん、なんでこんな格好しなきゃいけないの?」

 

その問いに、アルフは振り返ってクレマンティーヌを見る。

 

彼女はいつもの鱗鎧(スケイルメイル)ではなく、そこらにいるような町娘の格好をしており、自分の格好を確認している。

 

「あのプレートびっしりの鎧だと見つかったとき面倒でしょ、検問で『これは何なんだ!』『お前、冒険者殺しをしたのか!』って詰め寄られたい?」

 

アルフの言葉を聞き、クレマンティーヌはふるふると首を振る。

 

「鎧はマリアが貴女の戦闘スタイルを生かせるのを造ってるから、それが出来るまではその服で我慢して。一応デザインは前に着てたのとあまり変わらないようにって言ってあるから」

 

そう言いながら、アルフは手綱を握り直し、スピードを上げた。


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