次の……最後の一手。これを確認すれば、すべての予感が確信に変わる、今自分達が置かれている状況、現実と非現実の狭間から、その天秤がどちらかに傾く。
だから、これはしなくてはならないことだ。
モモンガは意を決して口を開く。
「アルベド……む、胸を触っても良いか?」
「え?」
「「「はい?」」」
空気が凍ったようだった。
アルベドは目をぱちくりとさせ、ギルドメンバー達は「ああ」と、どこか納得したような顔をしている。
モモンガは言ってから、悶絶したい気分に襲われていた。
仕方無いとはいえ、女性に向かって何を言っている。自分は最低だと叫びたい気分だった。
上司としての権威を利用したセクハラなど最低で当然だ。
しかし仕方が無い、そう、これは必要なことなんだ!
自分に強く言い聞かせ、精神の安定化を試みる、上位者としての威圧を精一杯に込めて言う。
「構わにゃ……ないな?」
全然無理でした!
そんなモモンガの言葉に、アルベドは花が咲いたような輝きを持って、微笑みかける。
「もちろんです、モモンガ様、どうぞお好きにしてください」
アルベドがぐっと胸を張る、豊かな双胸がモモンガの前につき出された。
もし唾を飲むということが出来たなら、確実に何度も飲み込んでいただろう。
大きくドレスを持ち上げている胸、それを今から触る。
ギルドメンバー、アルフとペロロンチーノは挙動不審なモモンガを見てニヤニヤしており、ぶくぶく茶釜の表情は分からないが二人と同じ雰囲気がする。
ちらりとアルベドを窺うと、なぜか目をキラキラさせながら、さぁどうぞといわんばかりに胸を何度もつき出してくる。
興奮なのか、はたまた羞恥なのか、震えそうになる手を意思の力で押さえ込み、意を決し、モモンガは手を伸ばす。
ドレスの下には僅かに固い感触があり、その下で柔らかいものが形を変えるのがモモンガの手につたわる。
「ふわぁ……あ……」
濡れたような声がアルベドから漏れる中、モモンガは実験を終了させた。
ユグドラシルに限らず、全年齢対象のDMMORPGであれば18禁に触れる行為は禁止だ、下手したら15禁でもアウトだ、違反すればアカウント停止、最悪削除されかねない。
今回の行為は通常であれば警告が出てくるはずだ、だがそれが出てこない。
……仮想現実が現実になった。
受け入れ難い事ではあるが、こうなってしまっては受け入れるしかない、
よくよく考えてみると、モモンガにとってはそう悪いことでは無いように思えてくる、家族も恋人もなく、ユグドラシル以外の趣味もなく、家と会社を往復する毎日……。
モモンガはようやくアルベドのふくよかな胸から、力なく手を下ろす。
十分すぎる時間揉んでいたような気がするが、確かめるために仕方が無かったことだとモモンガは自らに言い聞かせる。
決して柔らかかったから手が離せなかった、とかいう理由ではない、……おそらく。
「アルベド、すまなかったな」
「ふわぁ……」
頬を完全に赤く染め、アルベドが体内の熱を感じさせるような、息を吐き出す。それからモモンガに問いかけてきた。
「ここで私は初めてを迎えるのですね?」
「……え?」
モモンガは言葉の意味を一瞬だけ理解できなかった。
「服はどういたしましょうか?」
アルベドが矢継ぎ早に問いかける。
「自分で脱いだ方がよろしいでしょうか? それともモモンガ様が?、着たままですとあの……汚れて……いえ、モモンガ様がそれが良いと仰るのであれば、私に異存はありません」
アルベドは完全に暴走していた。
「あー、うん……、僕たちは邪魔なようだから席外しますね、アルベドは初めてらしいので優しくしてあげてください」
「モモンガさん、設定変更した責任はとってあげてくださいね」
アルフとぶくぶく茶釜はそう言い残すと巨大な扉に向かって歩き始めた。
最後に残ったペロロンチーノは。
「3クリックで終わらせちゃダメですよ」
そう言いながら親指を立てた。
「ちょっ、まっ! よ、よすのだアルベド」
モモンガはあわててギルドメンバーを呼び止め、アルベドの説得を行う。
「は? 畏まりました」
「今はそのような……いや、そういうことをしている時間はない」
「も、申し訳ありません! 何らかの緊急事態だというのに、己が欲望を優先させてしまい」
ばっと飛び退くと、アルベドはひれ伏そうとする、それをモモンガは手で抑える。
「よい。諸悪の根源は私である、お前のすべてを許そう、アルベド。それよりは……お前に命じたいことがある」
「何なりとお命じください」
「各階層の守護者に連絡を取れ、六階層の闘技場まで来るように伝えよ。時間は今から一時間後、それとアウラとマーレには私から伝えるので必要はない。
あと、シャルティアにはペロロンチーノさんの事は伝えなくてよい、ちょっとしたサプライズだ」
「畏まりました、六階層守護者の二人を除き、各階層守護者に今より一時間後に六階層の闘技場まで来るように伝えます」
「よし、行け」
「はっ」
少し早足でアルベドは玉座の間を後にした。
忠誠の儀の後くらいか、本格的オリジナル要素を入れたいです。