オーバーロード 月下の神狼   作:霜月 龍幻

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第28話

翌日

 

起床し、アイテムボックスにある食料を適当にひっぱり出す、手にしたのはおにぎりが四つほど入った弁当箱、これはナザリックの食堂で頼んで作ってもらったものの1つだ。

 

 

朝食を済ませ、洗面所へ行き歯を磨きながら辺りを見回す。寝室やリビングにはぶくぶく茶釜はいなかった、おそらくもう店のカウンターの下にいるのだろうと考える。

歯磨きを終え獣人から人の姿へと変化し、寝間着から普段着に着替える。白の長袖、紺のロングスカート、カーキ色のエプロンを着て髪をオレンジ色のリボンで束ね、マジックアイテムの眼鏡をかける。洗面所の鏡で変なところはないかチェックし、店への扉を開け目に入ったのは・・・・・・。

 

 

店の入口、そこに人集りができている。ここから見える人数は少ないが、耳に聞こえてくるざわめきから判断すると店の前の通りは埋まっているかもしれない。明らかに昨日の朝や昼休み後よりいる。

 

「アルフさん、おはよ」

 

「おはようございます」

 

ぶくぶく茶釜に挨拶を返す。彼女はカウンターの下に人には分からないような穴を開けたようで、そこから扉の向こうを見ている。

 

「姉者よ、今日は休んでもよろしいか?」

 

「ダメだよ、ちゃんと働かなきゃ。見た感じ銅と鉄が多いから昨日より酷くなることはないと思うよ?」

 

「はぁ、分かりました。では入口を開けてきます」

 

アルフは二度深呼吸し、入口の鍵を外し扉を開け笑顔を作った。

 

「いらっしゃいませ、今日はどういったご用件でしょうか?」

 

その後、ぶくぶく茶釜の予想通り、それほど酷くはならなかったが。それなりに忙しかった。

 

客層は主に銀プレート以上のそれなりに稼いでいる者達だ。銀や金はそれなりにいるが、白金からオリハルコンとなると人数はかなり少なくなる、昨日の金払いがよかったのは上位者が多かったからだろう。

 

その証拠に強化済み装備や魔法式ランタン等の値のはるものがあまり売れず、銀貨2から6枚ほどの強化が主だ。

遠征に出ている銀より上の冒険者はまだこの店を知らないはずなので、その冒険者達が戻ってきたらそれなりに込むだろうが、それを過ぎれば消費アイテム類を買うのが主になり、強化の仕事も減って落ち着くだろう。

 

店主見たさに集まる者達は減るとは思えないのがあれだが、仕事が暇になったときは雑談でもして一般常識系の情報を集めるのも言いだろう。

 

そう考えながら客をさばいていく。

 

 

 

時刻は昼となり、店は昼休み中の札をかけて閉め。

アルフはエ・ランテルの露店のある通りを歩いている。

ぶくぶく茶釜はあの外見なので、残念ながらお留守番だ。

 

辺りを見回すと、装飾品やちょっとしたマジックアイテム、串焼きや果物を並べた露店が何件かある。その中の一件、串焼きの屋台に立ち寄る。

 

「いらっしゃい! おや、あんたが噂の強化屋の嬢ちゃんか?店の方は良いのかい?」

 

店主の活きの言い声と共に、質問が投げ掛けられる。

 

「はい。店は昼休みにして気分転換ついでに昼食でもとろうかと思いまして」

 

「そうかい。で、なんにする?」

 

「うーん、牛串と鳥串を二本ずつと、野菜串一本お願いします」

 

「あいよ、お代は黄銅板三枚だ。嬢ちゃんはかわいいから牛串一本おまけしとくよ」

 

「ありがとうございます」

 

代金を銅貨で払い、お釣りと串焼きの入った袋を受け取る。

 

「また来てくれよな、いつでもサービスするから」

 

「はい、また来ます」

 

そう言って屋台を離れた。

 

 

屋台を離れ、近くの建物の壁に寄りかかりながら串焼きを食べる。行儀が悪いとも思ったが、回りには歩きながら食べている人がちらほらいるので、これも大丈夫だと思うことにする。

 

ぶくぶく茶釜への土産として牛串と鳥串を一本づつ残し、状態保存の魔法がかかった箱に袋ごと入れ、アイテムボックスに放り込み。屋台見学を再開する。

 

 

アルフはゆっくりと歩きながら露店を見ていく。そんなアルフを見て立ち止まり、熱い視線を送る通行人たち。その視線を受け、無意識に歩く速度が上がっていく。

 

やはりこういった視線はなれないな、そう思いながら露店巡りを中断し、店にもどることにした。

 

 

 

自分の店の近くにつくと、そこには今朝と同じくらいの人集りが出来ていた。

またこれをどうにかしないといけないのか、と気分が重くなるが、気合いを入れ直して声を発する。

 

「すみません、店を開けるので道を開けてもらえますか?」

 

その言葉を聞きアルフを確認すると同時、ザッと人が左右に分かれ店の扉までの道を作った。

 

「あ、ありがとうございます」

 

この都市の冒険者はこんなにも統率がとれているのか、と少し驚きながら人の間を進み、店の扉の鍵を開けて外の客を招き入れる。

 

「いらっしゃいませ、何がご入り用ですか?」

 

 

そして閉店までの間客を相手し、日が暮れていく。


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