オーバーロード 月下の神狼   作:霜月 龍幻

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第27話

城塞都市エ・ランテル アルフの店 14:00

 

 

 

そこは戦場と化していた。

 

 

 

 

「店主、これはおいくらですか?」

 

そう言いながら、体格のいい男がカウンターに品物を置く。

 

「あ、はい。魔法式ランタンですね、十五金貨になります」

 

「はい、これ代金ね」

 

男から代金を受け取り、枚数を確認する。

 

「確かに。ありがとうございました」

 

「お嬢ちゃん、武器の強化はまだかね?」

 

商品の受け渡しと同時に他の者から催促の声がかかる。

 

「少々お待ちください。強化内容は武器に属性、銀と神聖の追加でよろしいですね、一金貨いただきます」

 

「はいよ」

 

お代を受け取り、武器を強化する。強化直後にまた声がかかる。

 

「店主さん、この剣はおいくらだい?」

 

「追加属性、雷と斬撃強化を付与したミスリルの剣ですね。三五金貨になります」

 

「やっぱ高いな。情報での値引きを頼めるかい?」

 

「承ります」

 

 

現在の状況、店の中は人で埋め尽くされ、外にまで溢れている。

客の言う話では、ペテル達の宣伝を聞いて来たのだが、その内容が「異国の美人が店主をしている装備を強化する店がある」との事だが、異国の美人が強調されていたという。

その宣伝のせいなのか、値段が高いからなのかここにいる五分の一はちゃんと商品を買ったり強化していったりするが、その他は店主見たさの野次馬的なところがある。

 

午前中はこれほど人は来ていなかった。午後になって来たということは、午前に来た人達がペテルの宣伝が確かだと言い回ったため、こんなことになっているようだ。

 

人が来てくれるのは良いが、こんなことになるとは思わなかった・・・・・・。

 

 

「で、どうだい?」

 

男が話したのは二百年ほど前にいた〈国堕し〉と呼ばれるヴァンパイアの話だった。国を滅ぼし、死者の都とした伝説の吸血鬼の王、十三英雄という者達に滅ぼされたとの話だが実は生きて身を潜めている、と言うのはよくある話だ。

 

「その伝説は初耳なので十五金貨値引きいたします」

 

そう言い男から代金、二十金貨を受け取り、カウンター横に貼られた紙に〈国堕し〉、とこの世界の字で追加する。

 

その紙には他にも書かれており、

 

十三英雄、フールーダ・パラダイン、死を撒く剣団

森の賢王、ガゼフ・ストロノーフ、バレアレ家

ブレイン・アングラウス、そして追加された国堕し。

 

この紙は今までどんな情報を聞いたかと、客に一目で分かるようにしたものだ。

 

「店主。武器の強化を頼む」

 

「はいー」

 

忙しい時間が続き、やがて日暮れになる。

 

 

「お客さま、今日の営業時間はもう終わりなのでまた明日来てください」

 

アルフが両手を合せ、微笑みながら言う。

それを見た客たちが惚けた顔をし、店を出ていった。

 

 

 

 

 

先程の騒がしさとは一転、静寂が店の中には訪れる。ここにいるのはアルフと、カウンターの下にいるぶくぶく茶釜だけだ。

 

アルフは扉の鍵を閉め、店の中を見回す。

店頭に並んでいた品物の殆どが売れ、空いている所が多い。

 

「いやぁ、大盛況でしたね」

 

カウンターを見ると、そこにはぶくぶく茶釜が立ち、今日の売り上げが入った無限の背負い袋を覗き込んでいる。アルフもカウンターへ行き、一緒に袋を覗き込む。

そこは金と銀の色で埋められていた、一金貨=約十万円、一銀貨=約一万円というのを考えればかなりの額になるだろう。

この店は他の店と比べて高額商品が多いのでここまで売れるとは思っていなかった。

 

「これもアルフさんの美貌のなせる技かな?」

 

ぶくぶく茶釜のいたずらっ子の雰囲気を含んだ声が耳に届く。

 

「なんか複雑な気分・・・・・・」

 

そう言いながら丸椅子に腰掛け、変化を解いて眼鏡を外し、それを見つめる。

 

識字の眼鏡

見たことない字でも読み書きできるようになるマジックアイテムだ。レア度はかなり低く、ユグドラシルでは使う機会はほとんどなかったものだがここに来て役に立つとは思わなかった。

 

「それにしても、データクリスタルけっこう使ったけど大丈夫?」

 

その言葉にアルフぶくぶく茶釜に視線を移す。

 

「大丈夫ですよ。戦闘の練習と素材集めで無限湧きさせる課金アイテム使ってモンスターを狩りまくっていた時期がありますし、サービス終了日が近いからといろいろ貰いましたし。正確な数は数えたこと無いですが合計すると兆を超えてるんじゃないですか?」

 

そう言いながら、ナザリックの自室のアイテムボックスを思い出す、あれは結構な量を入れることが出来るが、クリスタルを無限の背負い袋に入れ圧縮したが入りきらず、何度か課金して増設した。

 

「ち、兆ですか、ずいぶん溜め込んだね」

 

「ただの貧乏性です。いつか使うかも、と捨てられずにいました」

 

 

そんな会話の途中、アルフにメッセージが入った。

 

『アルフさん、ちょっといいですか?』

 

「良いですよ」

 

アインズの声に、アルフは短く答える。

 

『ニグンの事ですが、アルフさんの提案を採用して今はスレイン法国にスパイに行かせています。法国で何かあった場合は俺、アルフさん、ぶくぶく茶釜さん、ペロロンチーノさんの誰かに知らせるように指示を出しておきました』

 

「了解」

 

アルフは思うところあって、ニグンを法国へのスパイに行かせることを考えた。本人は大丈夫と言っていたが、元は異形種等を敵としていた者達だ、それに加えナザリックのシモベ達は程度に差はあれ人間を下等生物、ゴミムシ等と思っているものが多い。そんな中置いておくのはまずいと思ったのだ。

 

 

『それと今、冒険者としての仕事で漆黒の剣というチームと一緒にいるのですが。ペテルさんからいろいろ聞きましたよ?異国の美人店主さん』

 

「・・・・・・」

 

『どうしました?』

 

「い、いえ。その宣伝で今日はとんでもないことになりまして、それを思い出して疲労感が増しただけです」

 

『そうでしたか、では明日もありますしこの辺で』

 

「はい」

 

そう答えた直後、メッセージが切れた。

 

「さて、今日は品出し手伝ってくださいね、お姉ちゃん」

 

「任されよう」

 

そう言いながら、ぶくぶく茶釜が元のサイズに戻る。

 

おそらく明日も同じ状況になるだろう、それを考えて気が重くなるがしかたない。

そう思いぶくぶく茶釜と共に品出しを始めた。




指摘により少し弄りました。確かに垓は多すぎたと反省しております。

モンスター無限湧きアイテム
一定時間、周囲に常時10~20体程モンスターがいる状態が続く。
クリスタルは落とすが、アイテムの効果が続いてる間は経験値と金がてに入らなくなる。

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