ナザリック地下大墳墓・第六階層 闘技場
アルフは、ちゃんと転位できたか確認するために辺りを見回す。
今立っている場所は闘技場の中心、周りには観客席がある、観客席をドラゴン・キン達が箒をもって掃除しており、そのドラゴン・キン達に指示を飛ばしているアウラがいる。
アウラがこちらに気付き、観客席から飛び降り駆け寄って来た。
「アルフィリア様、おはようございます」
「おはよう、アウラ」
挨拶に答えながら、その頭をやさしく撫でる。
アウラは嬉しそうに撫でられている。
「で、マーレは?」
「マーレは家で寝てます、ぶくぶく茶釜様も一緒にいますよ。起こして呼びますか?」
食事が終わったあとすぐにここへ来ていたのか。
「いや、そのまま寝かせてあげて」
撫でていた手を引き、黒龍を頭から下ろし抱きかかえる。
「それで今日はどういったご用件で?」
「この子を運動させるためにちょっとね」
そう言いながら抱えた黒龍を揺すった。
「この子強そうですね、もしかしてあたし達くらい強かったりします?」
そう言いながら黒龍撫でるアウラ、黒龍ももっと撫でてというように、手にすり寄っている。
「うん、一応Lv100だよ。だけど僕はテイマー系の職業に就いてなくて、ずっと部屋の番をさせてたからね。
この機会に戦闘能力の把握を兼ねた運動と、これがちゃんと動くかのテストをしたいんだ」
黒龍を左腕で抱え、右手に持った手綱を見せた。
アウラは黒龍から手を離し、アルフの持った手綱を見つめる。
「龍の手綱ですね。見た感じ力も感じますし、ちゃんと動くと思いますよ」
「じゃあ、元の大きさに戻すから少し離れてて」
「分かりました」
そう言い、アウラが離れていく。
そんな中、視界の端で観客席にいるアインズの姿を捉える。どうやら考え事をしているようで、こちらに気付いていない。
ふと、頭の中に悪戯の案が浮かぶ。
心の中の悪魔がそれを実行しろと囁き、天使は面白ければ良いじゃない、と。
心の中の天使は魔に堕ちた。
アルフは黒龍の右前足に着けているサイズ調整の腕輪を取り、地面に置いて退避する。
少しすると黒龍の体が大きくなっていく。
巨大化した黒龍の大きさは、地面から頭の先までが約五メートル、鼻先から尻尾の先まで約二〇メートル、翼は片方二〇メートルくらいだろうか、これでもまだ半分の大きさだ。
黒龍は大きすぎるため、腕輪を二つ使って小さくしている、小さくても戦闘能力は変わらないが、乗るのであれば大きい方が良いだろう。
頭を下げてきた黒龍に、龍の手綱を装備させてその背に乗る。
握った手綱を通じて、召喚した眷族と同じような繋がりを感じる。
手綱を握り直し、音をたてないように歩くよう指示を出す。向かう場所はもちろんアインズのいる観客席の前。
黒龍が観客席の前で立ち止まる、それでもアインズは気がつく様子はない。
アルフは邪悪な笑みを浮かべて黒龍に指示を出す。
甘噛みしろ、と。
黒龍が口を開き、アインズの上から覆うように頭を移動させ、その口を閉じて持ち上げた。
『えっ?ちょ何?!牙?!』
黒龍がモゴモゴとアインズを食んでいる。口から飛び出してる足がじたばたと動く。
アインズには暗視能力があるので何かしらの口の中というのは理解しているっぽい。
「もう吐き出していいよ」
そう言いながら、ぽんぽんと黒龍の首を叩く。
吐き出されたアインズは呆然と黒龍を見上げ。視線を落とし、アルフに気付く。
「・・・・・・アルフさんやめてくださいよ、心臓が止まるかと思いました」
もちろんアインズには心臓どころか内蔵、血肉の類いが皆無なのでびっくりしてショック死することはない。
「すみません、こちらに気付いていないアインズさんを見たらつい」
笑いながらそう言った。
黒龍をアウラにまかせ、アルフはアインズの横に腰をおろした。
「で、何を考えてたんですか?」
「実はですね、息抜きと情報収集を兼ねて冒険者をしようと思ってまして。
冒険者として行動するにあたって誰かつれていこうかと思うのですが、なかなか決まらなくて」
アインズは頭をかきながらそう言った。
「候補は決まっているんですか」
「はい。出来るだけ人の姿に近いプレアデスのユリ、ナーベラル、ルプスレギナの中からつれていこうと思っているのですが」
「ん?、ソリュシャンは?」
「ソリュシャンにはセバスと一緒に他の任務を与える予定なので」
アインズは再び考え込む、うんうん唸っているがどうも答えがでないようだ。
「ならナーベラルはどうです? 彼女、見ためクールそうで何でもそつなくこなしそうですし」
「そうしてみます」
悩みごとが消えアインズの顔が明るくなった・・・・・・ような気がする。
「先ほどから気になっていたのですが、あれって黒龍ですよね」
アインズの視線の先、アウラを乗せてドシドシと駆け回る黒龍の姿がある。
「はい。そうですよ」
「魔獣使いや竜騎士が血ヘド吐きながらボーナス全額突っ込んで回しても出なかったあの?」
「その黒龍です」
アインズはその言葉を聞き目を輝かせ、身を乗り出して黒龍を見ているようだ。
「あげませんよ?」
「ぐ・・・・・・」
何となく釘を刺してみたが、正解だったようだ。
アインズは収集癖があり、
「でも、たまになら乗っても良いですよ」
アインズがキラキラした笑みで振り返った・・・・・・ような気がする。
いつまでも黒龍やあの子、じゃあ味気ないな。
アルフはそう思い、何かしらの名前をつけようと考え始めた。