漆黒は乱入者である甲龍に対して砲身を定める。とっさに回避行動をとりつつ鈴音は両肩の上に浮遊している一対のユニット、龍砲を牽制目的で撃ち返す。放たれた光は一直線に鈴音のいた位置を焼き尽くし消しとばす。しかし鈴音の龍砲も同じように苦しくも命中することはなく動揺もさせ得ぬ無駄玉となった。
龍砲とはPICを空間に対しての作用させ龍砲の向く方向正面上下左右360°の半円状を射程とし、空気を圧縮させそれに指向性を与え放つ空気の弾丸だ。空気ゆえに射線弾丸は視認できず、音速を超える速さで対象に向かって放たれる。セシリアのスターライトMk IIIのように機体のSEを直接使い放つのではなく、空気中の機体に働きかけるだけなので実質SEでPICを操れるだけ弾丸を生成射出することができるのだ。
だがそれを初見で避けられた、視認不可の魔弾を明確に避けたことを鈴音は確認している。つまり漆黒の機体は目視できないものを認識できているということだ。
「鈴!今のってなんだ」
「面倒だから簡略するわよ、正面360°に空気弾を放つどこぞの猫型ロボットの上位互換よ」
「残弾数は?」
「SE分だけ、正直当たらなきゃいいこの場ならほぼ無限よ」
「射出間隔は?」
「一発ごとに1秒、左右の交互打ちでカバー入れれば0.5秒毎。聞くってことは何かあるの?」
「今から考える、観客席側に砲身を向けさせないようあいつの目を俺たちで引き続けながら」
「なら頼んだわよ、私が囮になる。こっちが動かないともしかしたら観客席が狙われるかもしれないし、それとダメは無しよ。あんたの機体ブースター地面に叩きつけられて故障してんだから」
「…すまん、頼む」
「任されたわ」
作戦を立てる時間、漆黒は動かず二機をじぃっと見つめる。余裕か慢心か、だが隙であることに変わりはない。鈴は離れた一夏にから離れた位置より龍砲を放ちながら漆黒へと近づく、離れるを繰り返す。愚直に狙われる鈴音はなんとか回避をするが一撃必殺の恐怖、自分の死を隣に感じながら回避を続ける。ふと、ティナは一夏と戦っている時同じことを考えていたのかもしれない。そう思うとさらに回避に意識を割く鈴音。まだこんなところで死ぬつもりはないのだ。ティナも学園のみんなも誰も死なせない。代表候補生として、
「一夏ぁ!まだなの!?」
「OK、いけるぞ」
一夏は意識のないティナの元へ行くと、少し強引だがめり込んだ壁面からラファールとともに救助する。記憶の中からシャルロットと新人の会話を思い出す。
『シャルさん、ラファールについているこの装備なんでしょうか?』
『ん?えっとこれはね、SEを送受するためのバイパスケーブルでね、腰部に左右のケーブルが付いててこれが両方とも送受用になってるんだ。これを他機体のバススロットからコアに直接繋ぐことで、ケーブル付近にあるタッチパネルから送信を押せば相手側に受信を選べば相手側からSEを送り受けできるんだ。ただ効率はかなり悪いからそんなに大体4分の1位まで転送中に漏れて無くなっちゃうんだ。今本社で父さんたちが効率のいいやつを開発しようと頑張ってるけどなかなかうまくいかないんだ』
記憶の通りに腰部からケーブルとタッチパネルを見つける、これをバススロットから直接コアに繋いで送信を押す。
1分ほどで行程完了の文字が出るウィンドウディスプレイに出るとすぐさま一夏はSEの残り残量を確認する。
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なんとラファールはさほどの消耗はしておらず100以上のSEが白式へと送り込まれた。ガス欠ギリギリなので動けないだろう。
「一夏ぁ!まだなの!?」
「OK、いけるぞ」
1分の奇策をここで披露しよう。
「鈴そのまま引きつけてくれ!俺も行く」
「わかったわ、しくじって死ぬんじゃないわよ!」
「上等!ここで終わるようじゃ誰かを守るなんて夢のまた夢だ、必ず成功させる!」
ブースターを常に全力で吹かす。これでようやく普段の7割だ。これでどうにか奴を倒す。決心した一夏は鈴音とは反対方向に機体を旋回させお互いがぶつからない位置どりをする。
漆黒はズレて機動する二機に照準を合わせようとするが細かく速度を変える甲龍と白式がその狙いを外させる。そのため両機を狙うのではなく、先程から鬱陶しく動き回る甲龍へと砲身と機体を傾けた。
チャンスは一度きり
敵の背中を見逃すほど甘い剣士ではない、だから
瞬時加速をする
ブースターが初速を吐き出した瞬間に爆発四散した
零落白夜の出力を最大限に稼働させる
狙いは
「外さねぇ!!」
左下からの居合斬りは漆黒の下半身と右腕を見事切り裂き分断、爆散した。
生きているPICで機体を旋回させ、左砲身で速度を失いエネルギーを枯渇させた白式を捉える。すでにエネルギーの充填は始まっており1秒もしないで放たれるだろう。
ブースターの爆発によって軌道がずれたのだろう、一夏は振り返ることもできず失敗したと心の中で吐き捨てる。1秒が全然進まない、時が止まった中で全身の毛穴から焦りが汗となって吹き出す。
(すまん、鈴。ミスっちまった。後はたのーー)
次に響くのは空気を焼き切り裂く光の射出音ではなく
聴き慣れてしまった実弾の乾いた音、そして装甲を引き裂いて爆散する音だった
「止まってるやつに…外すほど…ノーコンじゃぁ ないのよぉ…」
静かに横たわっていたラファールは三角座りの姿勢で、最後の絞りかすのエネルギーによって呼び出されたスナイパーライフルと弾倉を使い、ほぼ静止していた漆黒の左砲身をおぼろげな意識の中撃ち抜いた。