カラクリの行方   作:うどんこ

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第七話 狩猟

 

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)のとある一角、そこには市丸ギンと玉座に座った藍染惣右介かたたずんでいた。

 

「ようやくアンジェちゃんが動き始めたみたいですねぇ、隊長。彼女、ずっと大人しくしてると思ってたボクの予想を見事に裏切ってくれましたわ」

「そうだね、こんなに早く行動を起こすとは私からしても予想外だったよ」

 

 そうは言うものの、藍染の表情は全てを見透かしたような表情であった。

 

「……ホンマかいな? まぁ、それはええとして。アンジェちゃん、いきなりノイトラに喧嘩を売るとはねぇ……。流石に相手が悪いんちゃうん?」

 

 そんな市丸の疑問に藍染は何も問題ないといった様子である。

 

「心配する必要はないよ。彼女は『戦士』でも『兵士』でもなく、『狩人』だからね。『獲物』に追い詰められる様な失敗はしない筈さ。まあ、それはこの戦いをみれば分かるよ」

 

その言葉を皮切りに二人の意識はアンジェ達の戦いの様子が映し出されたモニターへと向けられた。

 

ーーーーーーーーーーー

 

 解号を唱えると同時に大きな砂煙が辺り一面を包み込んだ。これにはノイトラも追撃を中断せざるを得なかった。舌打ちしながらも砂煙が消えるのを待った。

 砂煙が消えると、そこにはあまり様子の変わっていないアンジェの姿がそこにはあった。強いて変わった所といえば額に小さな鼠の頭蓋骨のような物が付いているくらいであり残りは先程までと変わらずタンクトップとホットパンツに白衣を纏った格好であった。

 しかし、大きな変化は外見以外に起こっていた。アンジェの姿が()()へと増えていたのである。これにはノイトラも珍しい物を見たといった様子である。

 

「なンだぁ、テメェの刀剣開放(レスレクシオン)は。ただ数が増えた程度でオレ様を倒せると思ってんのかよ! オイ!」

 

 その言葉に四人のアンジェはゲラゲラと笑いながら答え始めた。

 

「そうだよ〜。キミを仕留めるつもりだよ」

「キミはまだ私の『狩狙鼠(カサドール)』の恐ろしさを分かってないからね」

「これから私たちがじっくりと教えてあげるよ」

「それまでせいぜい悪足掻きでもしているといいよ」

 

 そう言うとアンジェ達はノイトラの四方を囲み始めた。そしてそのまま円を描くようにゆっくりと回っている。

 これにはノイトラも面倒くさそうに舌打ちした。攻撃対象が四人いる上にそれに囲まれてしまっているのである。一体を狙えば残りの三人が攻撃してくるのは目に見えている。しかし、各個撃破以外道がないのだ。

 そこまで考えると、早速自分の目の前にいるアンジェ目掛けて走り始めた。するとどうであろうか、目の前のアンジェは逃げる素振りも見せずに数十個の小さな光球をノイトラ目掛けて飛ばしてきた。大した威力もないだろうとたかをくくったノイトラは、そのまま正面突破をしようとして光球に触れた。

 

 

──その瞬間、途轍もない激痛と痺れがノイトラを襲った。光球が当たった場所は特に傷を負ったように見られない。しかし、光球が当たった場所から言葉に表せないような痛みと全身を襲う痺れが一斉におきたのである。痺れで身体を動かせずにいるノイトラに、光球を放ったアンジェ以外の三人が一斉に襲いかかった。ノイトラの4本の腕に貫手で攻撃をするも軽い傷しか負わせることしかできなかった。そしてそのままノイトラの四方へと散り始めた。

 それと同時にノイトラの身体から痺れと痛みが引いてきた。どうやら一瞬だけではあるが相手の身体の自由を奪う攻撃のようである。

 そこでノイトラはある事に気が付いた。己の自由を奪った後に開放前に放った強烈な攻撃をしてきていない事に。その瞬間、ノイトラの中に一つの考えがよぎった。相手はこの戦いを『戦い』として見ていないのではないか。そう考えると途轍もない怒りがノイトラの中で湧き上がった。己の事を『獲物』とみなしてジワジワと弱らせながら『狩り』を楽しんでいるのだ。その証拠に、ノイトラの周りを攻撃する事もなく四人のアンジェがくるくると回っている。どうやらノイトラが何か行動を起こすまで何もする気はないようである。まるで遊びの為に獲物をなぶって狩ろうとしている猟犬のようである。

 その事に怒りを抑えきれなくなったノイトラは叫んだ。

 

「このクソアマがァ! このオレを舐めやがって‼︎ テメェみてぇ戦いを舐めてる奴がこのオレを殺せるものか! テメェら四人共アタマを捻じ切ってやる!」

 

 その言葉にアンジェ達はまたしてもゲラゲラと笑い始めた。まるで何も理解出来てないと笑っているようだった。

 

「私は別に『戦い』を舐めてはいないよ」

「ただ、自分の能力に合わせた戦い方をしているだけだよ」

「さっきの麻痺弾(パラリシス)だって私の戦い方に合わせた私の技だよ」

「そしてキミはまだ麻痺弾(パラリシス)の真の意図に気が付いてもいない」

 

 急にアンジェ達はノイトラの周りを回るのを止めた。そしていきなり霊圧を指先に集め始め、そのまま四人同時にノイトラの方向へとその指先を向けた。

 

「「「「虚閃・四重奏(セロ・クァルテット)」」」」

 

 四方向からの虚閃(セロ)をノイトラは上に跳んで避けた。

 

 

──筈であった。上に跳んだ筈であるのに何故か地面に倒れ込んでいる。その原因はすぐにわかった。両足が吹き飛ばされていたのだ。四人とも虚閃(セロ)を撃つ動作以外特に変わった動きはしていない。なのにどうやって──と考えたところで4つの光がノイトラを巻き込んだ。

 

ーーーーーーーーーー

 

 四方向から放たれた虚閃(セロ)はノイトラを中心としてどこにも分散する事もなく収縮し、光の玉が出来上がっている。破壊のエネルギーがあます事なくノイトラへと襲いかかっているのだろう。光の玉が消えると、その中から全身が焼けただれたノイトラの姿が現れた。どうにか足は再生出来たようではあるがそれ以外はダメージが大きく、所々炭化してしまっていた。

 その様子にアンジェはわざとらしく驚いた。

 

「へぇ〜。私たちの『虚閃・四重奏(セロ・クァルテット)』を耐えるんだ〜。いくら威力を最低限に抑えたからといってまだ立っていられるとは思わなんだ」

 

 ノイトラは目の前に立っているアンジェ達を睨みながら怒りにみを任せて叫んだ。

 

「オレが十刃(エスパーダ)最強なんだ! テメェらみてぇなカス共にオレが負ける筈がねぇ‼︎ テメェらはここで死ね!!!」

 

 ノイトラは新たに腕二本を生やし、計六本の腕と鎌でアンジェ達に襲いかかった。幸いな事に、先程の攻撃の後、一ヶ所に集まっていたので一気に攻撃する事が出来そうである。有無を言わさず先手必勝とばかりにアンジェ達に飛びかからんとした瞬間、途轍もない寒気がノイトラを襲った。

 このまま突っ込むと不味いと思ったが、もう既に手遅れだった。上半身と下半身が引きちぎられ、大量の血をぶちまけていた。超速再生でも治すのは不可能なダメージである。一体何が起こったのかと考えながらも、飛びそうな意識の中で前にいるアンジェ達を睨みつけていると後ろから足音が聞こえてきた。

 後ろを振り返ると、そこには()()()のアンジェがいた。そこでノイトラはどうして両足が吹き飛ばされたり、上半身と下半身が別れる事になったのかを理解することが出来た。五人目のアンジェは無抵抗となったノイトラへ近づくと、何が入ってるのかわからない注射器を取り出し、そのままノイトラ打ち始めた。

 

「せっかくだから、キミに私の能力の説明をちょっとばかししてあげようか。どうせ知った所で活かす事なんて出来なくなるのだけどね。簡単な言うとあの四人の私は全て(ニセモノ)だよ。だから(ニセモノ)達はキミの手足や胴体をブチ抜くような威力の技である霊砲(カノン)は使えないんだ。その代わりに相手の自由を奪う麻痺弾(パラリシス)が使えるんだ。麻痺弾(パラリシス)で自由を奪い、霊砲(カノン)で狙撃するのが私の戦闘スタイルだよ。まぁ、今回は麻痺弾(パラリシス)を有効活用させる事が出来なかったけどね。(ニセモノ)達はキミの注意を引くための猟犬としては役に立っていただろう。どうだったかい私の狙撃は、遠くから撃ち抜いてたからどこにいるかわからなかっただろう。まだまだ説明したいことは山程あるけれど、そろそろキミの意識が持たないだろうからこの辺で終いにしとくよ」

 

 ノイトラは意識が遠のく最中、アンジェに向かって言い放った。

 

「クソがッ‼︎ このオレがテメェみてぇな奴に負けるとはよォ……。さぁ殺せ! オレは戦いの中で死にてぇんだ‼︎」

 

 その言葉にアンジェはキョトンとした顔をした。何を馬鹿な事を言っているんだといった様子である。

 

「キミを殺す? 馬鹿言っちゃいけないよ。私がなんでキミをジワジワと消耗させる戦い方をしたと思ってるんだ? 出来るだけ原型を留めた状態のキミを私の実験台にする為に決まってるだろ。

 ああ、心配しなくてもいいよ。君にはこれからも重要な役割を担ってもらうつもりだから安心してくれたまえ」

 

 ノイトラの意識がどんどん遠のいていく。このままでは戦いの中で死ぬどころではなくなるのに、身体はもう既に動かす事すら出来なくなっていた。

 

「さぁて、キミの身体は無駄にはしないよ。これからもバリバリ戦える身体にしてあげるから安心して眠ってくれ」

 

 それがノイトラが聞いた最後の言葉であった。




大変長らくお待たせしました。次回の投稿も未定ですが待って頂けると幸いです。

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