カラクリの行方   作:うどんこ

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第三話 同類

 

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)のとある一角、第8宮(オクターバ・パラシオ)の前に一匹の破面(アランカル)がいた。身長は低く、子供と言っても過言ではない幼さであった。髪は短めのショートヘアで、美しい黒色をかもし出している。首にはヘッドホンのような仮面の名残を掛けている。服装はタンクトップにショートパンツと涼しそうな格好の上に、博士や医者が着るような白衣を身に纏っており、とてもアンバランスな格好であった。

 その破面(アランカル)──アンジェ・バニングスはとある目的を持って第8宮のへと訪れていた。

 

『自分と同じ研究者がいる』

 

 その事を藍染から聞くや否や、アンジェの行動は早かった。自分の研究所の移設の準備すらもすっぽかしてその研究者を探しに行ってしまった。そのような行動に移ったのには明確な目的を持っていた──訳ではない。どういった研究者なのだろうか?どういった研究を続けてきたのだろうか?そういった事でアンジェの心は一杯であった。まるで楽しみにしている事が待ちきれない子供のようであった。

 

「ここがそのザエルアポロ・グランツ博士の研究施設か……。一体どんなものがあるのだろうか。私ワクワクすっぞ!」

 

 そんなことを口走りながら第8宮の扉を開け放った。

 

ーーーーーー

 

 ザエルアポロ・グランツは上機嫌であった。主に先ほど来た一匹の破面(アランカル)の聡明さとその発想が自分とは違う方向にぶっ飛んでいる事が特に彼を上機嫌にさせる要因であった。時は少し前まで遡る──

 

「たーのーもー」

 

 まるで気の抜けた声が第8宮の中に響き渡った。紅茶を飲みながら一時の休憩を楽しんでいたザエルアポロは、一体どこのどいつが自分の休憩をぶち壊しにきたのだろうかと少し機嫌を悪くしながらも闖入者への対応へ向かった。

 

「ほーほー、中々面白そうな場所ですな〜。私とは研究の内容が違ってそうだけど、中々興味が湧いて来るではないか」

 

 そこには一匹の破面(アランカル)が辺りを見渡しながらつっ立っていた。

 

「誰だい君は、一体どういった理由で此処に来たんだ?」

 

 そうザエルアポロが問いかけると、まるで今その存在に気付いたかの様に反応を示し始めた。誠に不愉快な反応である。

 

「やあやあ、君がこの宮の主であるザエルアポロ君かい? 私は君と同じ研究者であるアンジェ・バニングスと申す者だよ。今日この虚夜宮(ラス・ノーチェス)に来たばかりでね、君の話を聞くや否や気になってすっ飛んで来た始末だよ。よかったら此処の案内を頼めないかい? こういった所はいつもワクワクしてしまうんだ。君もそういった口じゃないのかな? 所でさ──」

 

 しかも自分の返答も聞かずにずっと一人で話を続ける始末である。ますます不愉快である。呆れた顔でザエルアポロはアンジェの独り言を遮った。

 

「……ハァ、君は一人で話を続ける事が趣味なのか? ボクはザエルアポロ・グランツ。この第8宮の主だよ。

で、話は戻るけど、一体此処に何しに来たんだ?」

 

 その言葉に待ってましたと言わんばかりに答えた。

 

「そりゃあ君の研究施設を覗きに来たに決まってるじゃないか! 他人の研究内容が気になるのは当たり前だろ? 私は君の話を聞くや否やこれからの準備すらもすっぽかして来た始末さ!」

「なんだい、君もボクと同じ研究者だったのか。そしたら、なんだ? ボクの研究成果でも盗みにきたのか?」

「いや、そんな面倒になる事をしに来る訳無いじゃないか。何が嬉しくて君と争わなきゃなんないんだ。そんなの自分からごめんこうむるよ」

 

 しかし、言葉とは裏腹に勝手に散策しようとし始めた。これには流石のザエルアポロも呆れを通り越して怒りが湧いて来た。

 

「君、さっきから入っている事としている事が矛盾してないか? ボクと争いたくないといいながら、どうして人の研究所を見て回ろうとしているんだ?」

 

 その言葉に対して、アンジェは特に気にした様子もなく返答した。

 

「なんだい、キミの研究は他人に見られて困る物なのかい? 私はてっきり見ただけじゃ理解できない様な事をしてるんじゃないかと思っていたよ。現に私の研究は見られた程度じゃ盗まれる心配なんてないからね」

 

 そう答えると勝手に動き回る気配を消した。どうやらザエルアポロの意を汲んでくれたらしい。しかし、ザエルアポロの興味は既に目の前の不審者から、その不審者の研究内容に移っていた。

 

「所で、君はボクと同じ研究者だと言っていたが、一体どんな研究をしてきたんだ? 良ければ教えてくれないかな」

 

 単純な興味が目の前の破面(アランカル)に湧いていた。一体全体どんな事をしてきたのだろうか? 自分が彼女より劣るとは思ってなどいないが、もしかしたら自分とは違う分野で優れているかもしれない。

 そういった事を考えているザエルアポロを他所に、アンジェはザエルアポロの質問に特に嫌そうな様子も見せず、己の研究中の内容を話し始めた。

 

「私の研究内容が気になるのかい? 別にいいよ、簡単なので良ければ教えてあげるよ」

 

 そうしてアンジェによる簡素な発表会が始まった。

 

「君は行きたい所に一瞬でいけたらなぁって思う事はないかい? 私はあるね。現世、尸魂界、虚圏(ウェコムンド)、どこもかしこも自由に行き来出来たらどれだけ素敵だろうなぁって。だから私は考えたのさ。黒腔(ガルガンダ)なんか使わずとも、一瞬で分け隔てられた世界を行き来する方法をね」

 

 その言葉にザエルアポロは絶句した。彼が考えもしなかった、バカげた内容を彼女は大真面目に研究しているのである。それと同時に彼女に対する好感度も少し上がった。自分と同類の中々狂っている存在であるからだ。

 

「まあ、まだ中途半端にしか進めてないから、同じ世界内ででしか『瞬間移動』はできないけどね…まあ、それを使って自分の研究所をこの虚夜宮(ラス・ノーチェス)に移動させるつもりさ」

「…それにはデメリットなどは無いのかな?」

「デメリット? 強いて挙げるなら移動先にあらかじめ転送装置を置いとく必要がある事かな…」

 

 ザエルアポロは上機嫌になっていた。目の前の破面(アランカル)は自分と同類の中々にぶっ飛んだ頭脳の持ち主である事に。そして彼女を自分の自分の従属官(フラシオン)に迎え入れたら、どれだけ己の研究が捗るのか、ぜひ彼女を己の従属官(フラシオン)にしたいと思った。

 

「君、まだこの虚夜宮(ラス・ノーチェス)に来たばかりだと言っていたね。もし良かったらどうだ? ボクの下に付く気はないか? ボクの助手はどいつもこいつも頭の悪いヤツばかりなんだ。君みたいに優れた助手が欲しいんだ」

 

 その言葉にアンジェは困った様な顔をした。

 

「折角のお誘いは嬉しいんだけれども、私はまだ此処に来たばかりなんだ。誰かの下に付くにしても色々な所を見てからにしたいからね。今回は遠慮させてもらうよ」

「…そうか。まあ、もしもボクの下で働きたくなったらいつでも来てくれよ。ボクは君が来てくれる事には大歓迎だからね」

 

 そう言うとザエルアポロはこれで話はお終いと言った様子で、研究室の奥へと行ってしまった。

 その様子を見送ったアンジェは、中々楽しめたといった様子で第8宮を後にした。


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