「聞きたい事はそういう事じゃないんだけどなぁ……。まあ自己紹介しとらんかったけんいいんやけど……。ボクも一応自己紹介しとったほうがいいかいな?」
「キミの名前はもう知ってるから別にしなくてもいいよ。それで一体全体どんな用事でこんな所まで来たのだい? 宗教の勧誘ならお断りだよ」
そんな軽口を叩くアンジェに市丸は苦笑した。宗教の勧誘よりもタチの悪い話を持ち掛けに来たと言えばどんな表情をするのだろうか。そんな事を考えながら、市丸はここまで来た理由を話し始めた。
「ボクがここへ来た理由は、隊長からキミを
市丸の来た理由を聞くや否や、あからさまに嫌な表情を浮かべていた。それはもう面倒事を頼まれた時の様な表情である。
「藍染惣右介の頼みで私の勧誘に来ただって⁉︎ とっても面倒臭い事に巻き込まれそうな気しかしないんだけど」
「さぁ? ボクはキミを連れて来いとしか言われてないから、一体キミにどんな事を頼むのかは知らないよ」
市丸は他人事の様に笑いながらそんなことを言っていた。
「大方想像できるよ。やれ私の配下になれだの何だの言うに決まってるよ。
市丸はそれを聞いて呆れた表情を浮かべた。
「なんや、
市丸がそう聞くと、またしてもアンジェはペラペラと話し始めた。
「
「それならこれを機に試してみるのもいいんちゃう?
「まあね、
このままでは拉致があかないと思った市丸は単刀直入に聞いてみた。
「キミが死神の虚化の事まで知っとった事は置いといて……単刀直入に聞くよ、ボクと一緒に隊長の所に一緒に来てくれへん?」
それに対する答えは意外なものであった。
「別に良いよ、ただし条件があるけどね」
「条件? 別にええけど常識の範疇で頼むで」
「常識の範疇ね…まあ藍染惣右介なら呑んでくれると思ってるよ」
「ボクに対する条件じゃなかったんかいな?」
それに対してアンジェは笑いながら答えた。
「キミに条件? バカ言っちゃいけないよ。キミに何か物を頼んだ所で私にはメリットが少ないからね」
「うわぁ、キミなかなかヒドいなぁ」
「それは兎も角さっさと藍染惣右介の場所まで行こうか。面倒事はさっさと片付けてしまうに限るよ」
そう言うや否や、アンジェは外へと向かって歩き始めた。その様子を見て溜息を吐きながらアンジェの後に続いた。
ーーーーーー
アンジェは
「偽物だとはいえ、お日様を作り出すなんて中々良いセンスしてるよね。私も今度真似してみようかな」
「そんなこと言ってないで早よ行こうや、あっちゃこっちゃで立ち止まられるボクの気持ちも少しは汲み取ってや」
そんなことを言う市丸を他所にアンジェは色々と考えていた。今日から住むかもしれない場所である。自分の研究所をどこに移動させるかなどで頭が一杯になっていた。
「これじゃあ隊長の所に着くまでに日が暮れてしまうやんか」
「大丈夫、いつまで経ってもあの日は沈まないからね。日が暮れる心配は無用だよ」
そんなやりとりをする始末であった。流石にこれ以上時間を掛けたくない市丸は、
「アンジェちゃん、たのむよ〜。ボクも早ようこの仕事終わらせて自由になりたいんや。
そうせがまれ、流石に悪いと思ったアンジェは、
「そうだったね。いやあ、悪かったよ」
と軽く謝るだけであった。
ーーーーーー
とある扉の前で市丸の足が止まった。どうやら目的の場所に到着したようだ。
「いやぁ、ここに着くまで凄い長かったね。運動不足気味の私にはキツかったよ」
「ここに着くまでにあちこち寄り道しとったキミがよう言うわ……。ハァ、疲れた」
そう言って市丸は扉を開けた。
その瞬間、とてつもない重圧がアンジェを押し潰さんと襲い掛かって来た。その発生源は中央の柱のある高みに座っている男からのものであった。
「隊長、連れてきましたよ」
市丸の声によってアンジェは重圧から解放された。
「お疲れ様、ギン。さて、君の名前を聞かせてもらっても構わないかな?」
「どうも初めまして藍染惣右介、アンジェ・バニングスと申す者です。いや…お久しぶりと言った方が良いのかな?」
その言葉に藍染は眉をひそめた。
「…確か君とは初対面だった筈だと思うのだけれども」
その言葉を聞いてアンジェは気分が良くなった。何もかも見透かしたような男を出し抜けたからである。
「いやいや、何度も何度も出会ったことが有りますよ。そう、
その瞬間、アンジェの姿はどこにでもいそうな死神の姿へと姿を変えた。これには市丸は兎も角、藍染すらも素直に驚いていた。
「へぇ、驚いたよ。それが君の能力かい?」
「こんなしょっぼいのが私の能力の筈があるわけないですよ〜。これは私が暇な時に作り出した物ですよ。名付けて『死神変身スーツ』。これさえあれば死神が一杯いる瀞霊廷の中も自由に行動し放題の代物さ!」
そんな風に自分の発明した物を紹介し始めた。その様子に市丸も藍染も少し引いていた。
「……少し話が脱線してしまったね。さて、君はもう予測しているかもしれないが私から提案があるんだ」
涼やかな声が続く。
「キミには私の陣営に入ってもらいたいんだ。もちろんタダでとは言わない」
そこでアンジェは口を挟んだ。
「あなたの陣営に入る事には問題ない。ただ、一つだけ条件を飲んで欲しいんだ」
そのまま言葉を続ける。
「私の研究所の移設をしたいのだけれども広い土地が必要なんだ。その土地を提供してもらっても良いかな?」
「良いだろう。それくらいはお安い御用さ。さて、それを飲めばキミは私の陣営に下ってくれるんだね」
「良いよ〜。どうせ断ろうと思った所で拒否権なんてなさそうだったからね」
それを聞いて藍染は立ち上がった。
「では、話がまとまった所で行くとしようか」
「行くって、
「……そうだよ。これからは存分に振るってくれたまえ。その知識と力をね」
ちなみにアンジェは尸魂界に100年くらい居た設定です