カラクリの行方   作:うどんこ

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お久しぶりです……(ボソ
約一年ぶりの投稿ですお元気にしていたでしょうか
相変わらず忙しいので更新は不定期ですがこれからもどうか応援宜しくお願いします。


第二十八話 実験

 一護達が虚圏(ウェコムンド)に辿り着く少し前のこと、アンジェは自身の研究室に井上織姫とザエルアポロを招き込んで何かの作業を続けていた。 織姫は緊張した顔つきで椅子にただ座っており、ザエルアポロは何も聞かされていないのか訝しげな顔で何かを用意しているアンジェをただ見つめていた。

 今から一体何をさせられるのだろうか──そんな緊張した様子の織姫へアンジェはニコニコしながら嬉しそうに語りかける。

 

「やあやあ織姫ちゃん、こんな散らかった部屋に来てくれてありがとう。これからちょっとした実験に付き合って貰うけどいいかな」

 

 そう言うと織姫の前の机に小さな容器を置いた。中身はただの砂のようにしか見えない。するとザエルアポロが興味深そうにその中身を見ながらアンジェへと疑問を投げかける。

 

「アンジェ、これはなんだい? 僕にはただの砂にしか見えないけど。それと何故僕を呼んだのか教えてくれないかな。君から貰った()()()()の研究で忙しいんだ。もし下らない事だったらすぐに帰らせてもらうよ」

 

 それを聞いたアンジェはヘラヘラとしながら答える。

 

「キミを呼んだ理由は特にないよ。強いて言えば私の幸せのおすそ分けってとこかな?」

 

 そんなアンジェの返答にザエルアポロは顔をしかめる。それもそうだろう。理由もなく自分の時間を奪われたのだ、怒らないのが不思議なくらいだ。そんな様子を見てアンジェは更に楽しそうに笑顔を浮かべる。そんな二人に挟まれた織姫はどうしていいのか分からず困惑していた。

 

「まあまあザエルアポロ君、呼んだ理由は特にないってのはホントだけど観る価値が無いとは言ってないよ。私が長年夢みてきた事を()()する為の実験なんだ。それを特別に見せてあげるんだから感謝してよね」

 

 アンジェの自分勝手な話を軽く流しながら、ザエルアポロは少し喜ばしそうにしていた。アンジェが成したい事がかなり気になっているようである。

 そのためかアンジェを急かすように言葉を吐き出す。

 

「そうかい、それじゃあそのお裾分けとやらを早く見せてくれよ。それが済んだら僕はすぐに自分の研究に戻るからさ。時間が惜しいんだ、出し惜しみはしないでくれよ」

 

 そんなザエルアポロの言葉を聞いてアンジェは宥めるように口を開く。

 

「まあまあ、そんなにせかせか急がなくてもいいじゃあないか。そんなにせっかちだと幸せが逃げちゃうよ」

 

 そして織姫の方を向き、「準備はいいかい」と聞いた後、高らかに手を上に掲げた。

 

「さあさあ、今日はお忙しい中こんな私の実験にお付き合い頂いてありがとうございま〜す。それでは早速だけど織姫ちゃん、キミの力をこの砂に使ってはくれないかな?」

 

 そう言って織姫の前に置いていた砂のようなものが入った容器をニコニコしながら更に近づける。そんな様子のアンジェに困惑しながらも、織姫は聞き返した。

 

「……この砂にですか?」

「ああー、敬語じゃなくてもいいよ織姫ちゃん。その砂にキミの双天帰盾(そうてんきしゅん)を使ってくれればいいんだ。わかったかな?」

 

 それを聞いた織姫は真剣な表情になり、目の前の砂の容器へと意識を集中させる。

 

「『双天帰盾(そうてんきしゅん)』、私は──拒絶する」

 

 楕円形の盾が容器を覆い、光が包み込む。すると変化はすぐに現れた。

 ただの砂にしか見えないものがみるみるうちに茶色っぽい土の様なものに変わり、そこから緑の植物が伸び始めてその土を覆った。

 その変化にアンジェは満足そうにしており、織姫はその顔見て上手くいったのかなとホッとした表情をしていたが一人だけ様子がおかしい者がいた。ザエルアポロである。その表情はとても真剣で、色々な考えを巡らせているようであった。そしてアンジェへと問い掛ける。

 

「アンジェ、アレは一体何なんだ? 本当にただの砂なのかい? どこで手に入れたものなのか教えてくれないか」

 

 そんな食い気味に聞いてくるザエルアポロを見て、アンジェはニタニタしながらザエルアポロに一つ一つ丁寧に教えていく。

 

「アレは()()()()だよ。手に入れた場所は教えられないけど、キミでも()()()()()()()場所にあるものだね」

 

 それを聞いたザエルアポロは思考の海へと沈んでいた。いやだのまさかだのブツブツといいながら。それを楽しそうに眺めていたアンジェは手をパンパンと鳴らし2人の注意を引きつける。

 

「はいはい、考え事してる所悪いけどまだ終わりじゃないよ。セルラ、例のものを持ってきて!」

 

 その掛け声と共にアンジェの後ろにあった白い甲冑が動き出した。ザエルアポロは知っていたから動じなかったが織姫は予想外の出来事に驚いていた。

 

「ああ、織姫ちゃんにはまだ紹介してなかったね。こいつの名はセルラ、第9十刃(ヌベーノ・エスパーダ)のとこの従属官(フラシオン)さ。ほらセルラ、織姫ちゃんに挨拶しな」

 

 アンジェの声に応じて、無機質な低い声が響き渡る。

 

「了解した、我等が偉大なる母よ。我等が名はセルラ、偉大なる母と聡明なる父によって生み出されし存在だ、井上織姫殿」

 

 その名乗りにアンジェは頭を抑えており、ザエルアポロは興味深そうにそれを見つめていた。そしてザエルアポロは気になったことを口にする。

 

「セルラの声を初めて聞いたよ。それで聡明なる父って誰のことだい?」

「それは決まっておるではないか。我等が偉大なる母と共に我等を生み出した者、そなたが聡明なる父だザエルアポロ殿」

 

 それを聞いたザエルアポロはとても愉快そうな表情を浮かべる。だいぶご機嫌のようである。

 

「いいね! そう呼ばれるのは少しむず痒い気はするけど嫌いじゃないよ。これからも僕の事をそう呼んでくれていいよ、セルラ」

「私はあんまり好きじゃないんだけどね、この呼ばれ方は。変えろって言っても他も大体似た感じだから諦めたけど」

 

 アンジェは愚痴をこぼしながらもセルラへと指示を飛ばして、何処かへと行かせて最初に言った物を取りに行かせる。そしてセルラが持ってきたものは異様な気配をさらけ出していた。

 先程と容器は同じであるが、その中身はドス黒い液体のような物で満たされており、見る者全てに不快感を与えるようなものであった。その物質にザエルアポロはとても興味深そうに目を細めて見つめており、織姫はその物質から放たれる威圧感に少し押されていた。

 

「アンジェ、今度のこれは一体なんだい? 今まで見たこともないような代物なんだけど」

 

 ザエルアポロの素朴な疑問にアンジェは楽しそうにしながらもあまり答えになってない返事を返す。

 

「そりゃあ見たことないだろうさ。コレの存在を知っているのはほんの一握りさ。藍染様すらも知らないだろうねぇ」

 

 アンジェはセルラに合図を送り、先程の砂の入っていた容器を退け、織姫の目の前にその黒い物質の入った容器を置かせる。そして少し前と同じ事を織姫にお願いした。

 

「それじゃあ織姫ちゃん、さっきと同じようにこの()にもキミの双天帰盾(そうてんきしゅん)を使ってはくれないかな? それが終われば今日のお仕事は終わりだからさ。さあ、早く早く」

 

 

 急かすアンジェに促されるままに織姫は先程と同じように自身の能力を目の前の容器の中の黒い砂に向かって振るう。すると変化はすぐに起きた。

 不快感を放つ黒がすぐさま抜けて()()()へと変化していき、少し前の白い砂と同じように黒っぽい茶色へと移り変わり、緑の命が生まれた。

 その光景をアンジェは恍惚の表情で眺めており、ザエルアポロは真剣な眼差しでそれをじっと見つめていた。

 

「アンジェ、今回の物質については何か教えてはくれないのかい?」

「教えれる事は少ないかな〜、ただ一つだけ言っとくとコレはさっきの砂と比べると、手に入れるのは結構難しいってとこかな」

 

 アンジェの大して役に立たない説明を軽く聞き、ザエルアポロは黙り込む。どうやら考えに(ふけ)ってしまったようだ。

 

「……もしそうだとしたら……いや、そんなことがありえるのか……でもあんなもの見たら……」

 

 そんなブツブツ言っているザエルアポロを無視してアンジェは織姫に語りかける。

 

「助かったよ織姫ちゃん! 織姫ちゃんのおかげで試したかった事が全部()()したよ! 後はこっちの準備を整えるだけだ。うおぉ〜やる気が出てきたぞ」

「私を使って一体何をしようとするつもりなの?」

 

 織姫の疑問にアンジェはニコニコと笑顔で答える。その笑みはどこか邪悪さを感じられた。

 

「とあるものを復活させるだけだよ。私のとってもとっても()()()()()()()を。だからキミの力が必要なんだ織姫ちゃん。私の為にコレからも協力してね、よろしく頼むよ織姫ちゃん」

 

 

 

────────────

 

 

 

 睨み付けている一護と頭に血が上っているルキア達を尻目に石田はネルへと問いかける。

 

「『妄言(テンタシオン)』とはなんだい? そして歌姫とは? なるべく早く教えてくれ! 黒崎がまた何かしだしそうだ」

 

 それを聞いたネルが早口に焦りながら喋る。ペッシェもドンドチャッカも焦っていることからかなり不味い相手なのだろう。

 

「『リンファ・ツァナル』、虚圏では『歌姫』と呼ばれてるス。今聞こえているハミングが『妄言(テンタシオン)』、別に歌でも言葉でも発動するスよ。これをしばらく聞いていると気がおかしくなり敵味方の分別がつかなくなるんスよ! これで滅ぼされたウチらみたいな群れもいくつもあるから虚圏では特に注意されてるっス! あわわ、早くここから離れないと……」

 

 そんな事を言っている間に自体は悪化する。茶渡が一護を殴り飛ばしたのだ。しかも攻撃が目的である悪魔の左腕で。斬月で防ぐも衝撃までは抑えきれず軽く吹き飛ぶ。

 

「何しやがるチャド……お前も俺を怒らせたいのか!」

「お前が勝手な真似をするからだ! 俺も巻き込まれたらどうする」

 

 そして一護へと戦闘体形に移る。どうやら茶渡も影響を受けてしまっているようだ。

 一触即発の空気の中、唯一まだ影響をあまり受けてない石田がネルに対処方を訊ねる。

 

「どうやったらその『妄言(テンタシオン)』とやらの影響を受けなくなるんだい」

「とにかく『声』が聞こえない場所まで各々で逃げることっス! そうすればある程度は治るはず……後は追いつかれないように気を付ける事スかな。もしくは、あの『声』さえ途切れさせればすぐに元通りになると思いまス……」

「分かった、声の元を断てばいいんだね」

 

 そう言うとすぐに弓を構え、周囲を索敵する。見つかるかどうか心配だったがそれも杞憂であった。かなり離れた所に動かない人影を見かけたからだ。恐らくこれが声の元凶なのだろうと当たりをつけ矢を引き絞る。そんな石田を止めるようにネルは足に飛びついた。

 

「ここは逃げるのが一番スよ! 万が一それで怒らせでもしたら後が怖いっス、リンファ・ツァナルはそれだけ恐ろしい相手なんスよ」

「大丈夫、必ず一発で仕留めて見せるから」

 

 そして引き絞った矢を標的目掛けて撃ち放った。

 

 

────────────

 

 

 リンファは目を瞑って楽しそうにメロディを(つむ)いでいた。自分の口から放たれる音楽が、虚圏(ウェコムンド)への侵入者たちを撹乱させている事に喜びを感じずにはいられないからであろうか。そのおかげで直前まで気付くことが出来なかった──石田が放った矢に。

 

「あ? 何? この音は──」

 

 そして何かが迫っている事に気付いた時には既に遅く、その姿を確認した直後にはその美しい顔へと霊子の矢が吸い込まれていった。

 勢いはそれだけでは収まらず、リンファの身体をその場から吹き飛ばして砂を撒き散らせながらその身体を転がさせた。そして勢いが収まった頃には地にグッタリと倒れ伏せておりピクリとも動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー……イテー……マジ無いわー……」

 

 暫く時間が経った後そんな言葉が辺りに響く。

 

「女の顔面狙うなんて信じられないわぁ……犯人はどうせあのメガネ君でしょうね……あークソムカつくんですけど……」

 

 微かに身体を動かした後、そう言葉を吐き捨てながらゆっくりと立ち上がる。矢は歯で挟まれて受け止められており、顔の何処にも傷はついていない。だが、宝石のような両目を血走らせながら口角を大きく歪ませ、怒りを全く隠さずにいた。そして霊子の矢を思い切り噛み砕いた後、綺麗な声で恨み言のように汚い言葉が吐き捨てられる。

 

「調子に乗ってんじゃねえよ、ゲロ虫が! テメェの股間のブツをネジ切って、その口にブチ込んでやろうか!? このクソメガネ野郎が!!」

 

 そうして視線を自身への狼藉者達へと向けるも、その姿は建物の中へと消えようとしていた。しかも連中は五手に分かれてしまっており、そのことで更に不機嫌さを露わにする。

 

「なに? 仲間割れしないようにバラバラになった訳? つまんない事してくれるじゃないの、ええ! あのカスみたいな破面(アランカル)どもの入知恵かしら……余計な事しやがって!」

 

 そんな言葉を吐きながらも獲物を見逃さないように、二色の瞳で標的を捉える。そして顔を嬉しそうに歪ませた。

 

「まあいいわ。全員の脳ミソをぶち撒けられないのはザンネンだけど、あのクソメガネを散々いたぶってやれると思えば鬱憤が少しは晴れるってものよ」

 

 そして腕を胸の前へと伸ばして手のひらを広げ下へと向ける。するとドロドロとした泥のような物体が地面へとボタボタと垂れていき、小さな山を作り出した。

 

「さあ行きなさい、私の従順な()()供。あのメガネを見逃さないように追いかけるのよ」

 

 すると泥の山は水のように虚圏の砂の中に染み込んでいき、跡形もなく消えていった。それを確認したリンファは伸ばした腕を自分の胸に当てた。するとどうであろうか、身体がドロドロと崩れていき、先程の泥と同じ様にそのまま地面へと吸い込まれていく。そして姿が完全に消えると同時に言葉が残された。

 

「さあ精々必死に逃げ回るといいわぁ。追いついたら虫ケラの様に扱ってあげるから覚悟しとくのね、キャハハハハハ!!」

 

 そして誰も居なくなった空間が静寂に包まれる。しかし、それも長くは続かなかった。

 

「リンファのヤツまーたキレてやんの。あのプッツンはどうにかならんのかねぇ……まあ、あのメガネ君を追って居なくなったし巻き込まれる心配もなくなったからいいか」

 

 砂の中にいつのまにか隠れていたフィグザは、リンファが居なくなったのを確認してから現れる。

 

「それにしてもあのメガネ君もやるなぁ。リンファの顔面狙うなんてオレは怖くて出来ねえぜ! 後で何されるか分かんねーからな!」

 

 自分の服に付いた砂を払いのけながら、テンション高めで独り言を続けていた。

 

「まあメガネ君も運が良い方じゃねえかな。ジジイだったら兎も角、リンファ相手だったら()()()()()()()()からねえ。なんせあいつは足が()()()()()()からな。下手すりゃ()()()()()()()()()()んだ、()くなんて造作もねえだろうさ」

 

 すると何かを思い出したのか苦々しい表情を浮かべ始めた。何か不安な部分でもあるのであろうか。

 

「……でもちっとばかし不安だな……リンファのやつをブチ切れさせて帰刃(レクレスシオン)させそうな予感がしないでもないや。アイツ、ホントしょーもねー事でキレて刀剣解放しかねないからなあ。ま、そん時はそん時さ、オレにゃカンケーねえことだ。

 さて、オレはオレの好きなように行動させてもらおっかな」

 

 そう言葉を発するとおもむろにポケットに手を突っ込んで、何かを取り出し始める。

 

「さあ黒崎少年よ、オレの新しくなった相棒の練習台になってもらおうか。ああ、これからが楽しみでたまんねえぜ」

 

 そして懐からこの前現世で手に入れた改造済みのカメラを取り出すと、煌めく星のような光の粒を残してその場から居なくなった。

 

「現世みたいな素晴らしいファイトを見せてくれ! ファイトマネーは出せねえが、オレがバッチリとこのカメラに収めてやっからよ!」




ネルの口調が難しいよ……分かんねぇ
次回の更新も未定です、すんません
感想が欲しいなぁ……(チラッ

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