カラクリの行方   作:うどんこ

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はい、大変お待たせ致しました。お久しぶりです。
最近忙しかったのと某スマホカードゲームを始めてしまって投稿が遅れました。すみません。

誰だよ! 亡者のひとだまのステータスあんなのにしたのは! クリフトが原作リスペクトだったのは笑った。


第二十二話 休息

「で、最近色々と出来事が多くて話せる機会がなかったけど、まず最初にこれだけは言っておこうかな。()()()の完成お疲れ様」

 

 第5宮(クイント・パラシオ)の中では、最近日常になりつつあるアンジェとザエルアポロのお茶会が行われていた。ただ、今まではなかった大きい真っ白な甲胄の存在が、お茶会の雰囲気をブチ壊していた。

 

「あー、やる事多過ぎて大変だったよ。あいつらは来るなり勝手な事をするし、藍染様はあいつらを破面(アランカル)にするし、なんか始末書書かせられるし、ヤになっちゃうわ〜全く」

 

 グチグチ言いながらもアンジェは美味しそうに紅茶を(すす)る。その顔は少しやつれていた。

 

「でもまあ、忙しいのも終わったし、何気に藍染様があのジジイの騒動の鎮火に協力的だったのが助かったねぇ。なんか企んでんのかな?」

 

 しみじみとした様子でそう呟く。その時の事を思い出したザエルアポロは苦々しい顔をしていた。

 

「あの連中は一体どうなっているんだい? 陛下の所でも親玉の実態を掴めなかったし、自分の宮の映像も見たけどさっぱり理解出来なかった。おかげで陛下から小言を貰う始末だよ」

「こればっかしは教えられないよ。教えちゃったら駄目なやつだもん。知りたかったら本人に聞いてね〜」

 

 へらへら笑いながらアンジェはそんな事口にする。なんとなくだが腹が立つ顔だ。

 

「そうそう、いつか渡そうと思ってて渡せなかった物があったんだった。はい、一つしかないから大事にしてね」

 

 そう言って白衣のポケットから取り出されたのは()()()()()()であった。

 

「ああ、あの時の奴ね。大事な資料だから受け取っておくよ。あの時君が酔い潰れてしまって聞けなかったけど、(クズ)の身に起きた事の説明してもらってもいいかな?」

「え? ザエルアポロ君が私の身体をいやらしくまさぐって手に入れた資料に書いていたと思うけど?」

 

 その資料をアンジェから取ったのはレクシーである。ザエルアポロはそんな犯罪紛いな事はしていないのだが面倒くさいので、否定せずに話を続ける。

 

「いや、紙に書いている事以外の情報も欲しいし、何より本人に聞いた方がより理解が深まるかもしれないしね」

 

 ふーんとどうでも良さそうな態度をとるが、拒否するつもりもないようだ。ザエルアポロに質問を促す。

 

「ま、あの時も話したいこといっぱいあったからね。聞いてもいないことも喋っちゃうかもよ。で、何を聞きたいのかな?」

「あれに起きた現象をもう少し詳しく教えてくれないか? 資料には書いてはあったけど些か説明が足りない気がしたからね」

「うん? あれで説明は十分じゃなかったの?」

 

 そんな事をのたまうアンジェにザエルアポロは頭を抑えて呆れたため息を吐く。

 

「君はまともなレポートを書いたことないのかい? 普通他の人が見ても理解出来るよう詳しく丁寧に書くものだよ。ましてや僕へ見せる物だっただろ? 君だけが納得出来るものじゃ僕が困るんだよ」

「そりゃあすまなかったよ。次からは気をつけるからさ。ん〜詳しくねぇ……簡単に分かりやすくなら今すぐ出来るよ、かなり掘り下げてだったら場所変えた方がいいかもね」

 

 全く謝っているように見えないアンジェは、足をプラプラさせながら頬杖をついている。そしてそんな様子の二人を、純白の甲冑は全く動くことなく見つめていた。

 

「なあアンジェ。『セルラ』は本当に完成したのかい? さっきから全く動かないのだけれども、眠っているとか何かかな?」

 

 ずっと動かない視線が気になるのかザエルアポロはアンジェに尋ねるも、アンジェは何も問題ないと手を振る。

 

「ちゃんと起きてるよ。ただ今は()()()()ってだけだよ。会話もしっかり出来るからまあ今の所問題は無い筈さ〜」

 

 そう言いながら『セルラ』と呼ばれた甲冑をポンポンと軽く叩く。甲冑はそれでも全く動くことなく鎮座していた。

 

「そうかい。詳しい話は後で僕の研究室でするとして、アレの原理を簡単に説明するとどうなるんだい?」

 

 (クズ)に使ったものの原理が簡単にどう説明するのか気になったザエルアポロは軽い気持ちで訊ねると、返ってきた答えは本当に簡素に纏められたものであった。

 

「割れて水がほぼ全て(こぼ)れてしまった器なら、器の中をスポンジで一杯にして水を無理矢理溜められるようにしたまでだよ。分かりやすいでしょ? 今回は溜めた水の量が少なかったから不具合が出たのかもね」

 

 確かに例えとしては分かりやすいかもしれないが、やはりというかザエルアポロが聞きたい部分には触れられなかった。その機構を作り出すための原理をザエルアポロは知りたいのだ。その部分は場所を変えて聞くしかないようである。

 

「話は変わるけどそのセルラは此処(第5宮)に置いておくつもりなのかい? 最近きた連中と合わせて、変わり者ばかりでとても楽しくなりそうだね」

 

 ちょっとからかう感じで紅茶を口に運びながら軽い皮肉を言うも、アンジェは笑いながらそれを否定した。

 

「いや〜、あんな連中をすぐ近くにおくわけないじゃんか〜。あいつらは他の十刃(エスパーダ)の所に押し付け……ゲフンゲフン、補佐してもらいに行かせる事で藍染様と話を既に通してるんだ。一緒にいるなんて気が滅入るったらありゃしないよ」

 

 それを聞いてザエルアポロはあからさまに嫌そうな顔をする。それもそうだろう、自分の所に来るのかと考えるだけでも嫌気がさしてしまう。

 

「ちょっと待ってくれ。そんな話聞いてないよ! そんな連中僕の所には絶対寄越さないでくれ、頼むから」

「だいじょーぶだいじょーぶ。ジジイはへーかの所でお世話になるだろうし、リンファは多分女所帯の第3十刃(トレス・エスパーダ)の所を()()()()そうだし、フィグザはまぁ……うん、ザエルアポロ君以外の所に落ち着く筈だよ」

 

 全然不安を取り除けないアンジェの答えに、ザエルアポロはダメだこいつといった顔を露わにしていた。

 

「はぁ……なんというか、お茶会の筈なのに疲れが溜まって来たよ。それじゃ他の連中を気にすることなくセルラを手元におけるね」

「何言ってんだい? コイツも他の人に任せるに決まってるじゃないか。抱え込むのは第5十刃(クイント)だけで充分さ〜」

 

 アンジェの予想外の発言がザエルアポロの興味を引く。能力を考えれば分からなくはないが、セルラを一体誰に預けるのであろうか。出来れば自分の所で引き受けたいが、アンジェの反応を見るにおそらくないだろう。ダメ元だが、アンジェにそれとなく伝えてみる。

 

「ふーん、そう。君がよければばだけど、生成に関わった僕がセルラを引き取ってもいいよ。ある程度は特徴を知っているから()()()()()()も出来るよ。どうだい?」

「中々いい客寄せ文句だけれどももう決めちゃってるんだ。ゴメンねゴメンね〜。まあ、次の機会があったら今度はザエルアポロの所に送るからさ、その時まで待っててね」

 

 やはり駄目であった。まあ、情報全て共有しているし少量であるがサンプルも受け取っている。無理を通してでも引き取れるよう仕向ける必要はないのだ。

 

「その時は期待しておくよ。で? 断るってことはもう既に送り先はきまっているのだろう? その()()()を一体誰に送りつけるんだい?」

 

 自分以外の者にとっては手に余る存在だろう。誰が貧乏くじを引くのか気になったザエルアポロはとりあえず聞いてみる。

 

「アーロニーロ君って従属官(フラシオン)を連れてなかったよね。だから()()()な彼には丁度いいとプレゼントだと思ったんだよ。キミもそう思わないかい?」

 

 それを聞いたザエルアポロは苦笑した。普通に考えればアーロニーロに虚を送るなど子供に菓子を渡すのと同じようなものだ。だが、アレ(セルラ)は別である。間違っても()()()()()()()ものではない。傍迷惑な贈り物を送る所、アンジェの性格の悪さが伺える。

 

「全くいい性格してるね……アーロニーロもさぞ喜んでくれるんじゃないかな? お礼を渡しに来るかもしれないね」

「性格が素晴らしいってよく言われるからもう慣れちゃったよ。アーロニーロ君にはちゃんと注意はしとくから問題はない筈だよ……ちゃんと聞いてくれればの話だけどね」

 

 下手をすれば十刃(エスパーダ)が一人消えるかも知れないような話を、優雅に紅茶を楽しみながらしていく二人。そしてアンジェが茶菓子に手を伸ばしクッキーを取ろうとすると、いきなり現れた腕が横から掻っ攫っていった。

 気配も感じさせず現れた者にザエルアポロは先程までと変わらぬ様子でいながらも警戒し、アンジェは面倒臭い奴が来たといった顔で茶菓子を取り返そうと腕を伸ばしていた。

 

「中々面白そうな雑談するなら、オレも呼んでくれたっていいじゃないか。最近暇でしょうがないんだ」

 

 そう言葉を放つのは、白色の鹿追帽とインバネスコートを纏ったいかにも探偵といった風貌の破面(アランカル)であった。髪は短く黒色で、左目には仮面の名残である昆虫の大顎を象った美しいモノクルが掛けられており、煙の出ていないパイプを咥えた男──フィグザ・バルガードはアンジェの恨みがましい視線もザエルアポロの観察するような視線も気にすることなくクッキーを口の中に放り込んでいく。

 

「ハイハイ、参加させてやるからクッキーを返しなさい。参加したらすぐにお開きにするけどね」

「ひでぇこと言いやがるぜ。ま、いいや。それよりアンジェ、オレは今モーレツにカメラなるものが欲しいんだ。ほら、お前が現世から取ってきたカタログに載ってるやつ。一眼レフっていうの? 綺麗な写真が撮れるらしいんだ。作るか買ってくるかしてきてくれね?」

「へいへい、今度取り寄せとくよ。似たようなもの作ってもいいけど、本場の物の方が綺麗に撮れると思うよ。私にはそういった知識はないからね」

 

 ザエルアポロはそんな世間話をする2人を他所に、フィグザを注意深く分析する。いつの間にこの場に来たのかも気になるが一番気になるのは腰に下げられている美しい装飾の施されたルーペであった。あれからは破面(アランカル)の斬魄刀と同じ気配を感じる。もし斬魄刀なのだとしたら一体どの様な力がアレに込められているのだろうか。

 そんな風に考えを巡らせながら見ていると、考えを読んでなのかルーペを手にとって、ついでに咥えていたパイプももう片方の手に取り見せつけて来た。

 

「中々お洒落だろう? お前の考えてる通りこれがオレの斬魄刀さ。刀じゃねえけどな! で、こっちは破面(アランカル)化したオレの姿を見るや否や、咥えていると様になってるぞって海賊ジジイに言われて押し付けられたパイプだ。煙草の煙は苦手だし、探偵なんて柄じゃねえんだけどねぇ……え? そんな事聞いてないって? 別にいいじゃねえか無駄話くらい」

 

 コイツからもアンジェと同じ様なお喋りで面倒臭い匂いがする。話しているだけでも疲れそうだ。そんな事を考えているとまたもや心を読んだかの様に話しかけてきた。まあ、今回は顔にしっかりと出ていたが。

 

「まあまあ、そんな面倒な奴みたいな目でみなさんなや。確かに喋るのは好きだが嫌がればすぐに止めるくらいの気概はあるぜ。アンジェの友人なんだろ? これからそれなりに長い付き合いなるんだから仲良くしようや、な?」

 

 見た目には似合わない喋りっぷりである。外見は知的であるのに中身はそれに伴っていない。そんな印象である。

 

「で? 此処には一体何の用で来たんだ? 駄弁りに来ただけじゃないだろ」

 

 アンジェがそう切り出すとフィグザはおどけた態度を取りながらも二本の指を立てた。

 

「もうちっとダベっていたかったんだけどねー。まあいいや、藍染の兄ちゃんからの伝達でーす。崩玉の『覚醒』をもうちょいしたら行うそうだ。まあ集合ってこったな」

 

 さらっと重大な事を話すフィグザ。また集合かと疲れた顔をするアンジェと、十刃(エスパーダ)でも無いのに重大な情報を先に伝えられている事にやはり優遇されているのだなと考えるザエルアポロ。そしてもう一つとフィグザは言葉を続ける。

 

「そしてもうひとーーつ。その後の現世侵攻にはあの双子を連れてくつもりだから、保護者としてお前も行けだってよ。その時のついでと言っちゃ何だが、お土産にカメラ買ってきてくれよ。高いヤツをな」

 

 その発言でアンジェはあからさまに嫌そうな顔をする。そんな彼女をザエルアポロは楽しそうに見ている。アンジェには悪いが、正直双子についてもっと詳しく知りたいザエルアポロは今回の知らせは嬉しいものであった。まだまだ謎の多いあの双子を知る機会が出来るのはかなりありがたいものである。

 

「それと現世侵攻の指揮を取るのはウルキオラだとさ。ウルキオラってなんか勝手な行動にうるさそうだからバレない様にカメラ持って帰って来てくれよ。バレたら没収されそうだからな」

 

 そんなにカメラが欲しいらしい。ウルキオラの話はまあ妥当な人選だなとアンジェとザエルアポロの二人は思った。そして再び口を開くフィグザ。まだ話はあるようだ。

 

「これはどうでもいい話だろうけど、新しい第6十刃(セスタ・エスパーダ)はルピ・アンテノールとか言うヒョロい奴に決まったぜ。オレ思うんだけどソイツ、絶対相手をナメてかかって痛い目見るタイプだと思うんだ」

 

 ザエルアポロは何となく覚えているが、アンジェは誰なのか全く分かっていない。知っているていで話されるのも困りものである。

 

「藍染様からの報告は以上かい? それなら早く此処から立ち去ってくれよ。僕から君への用は今はないからさ」

 

 そう言ってこの場から追い出そうとするザエルアポロ。これ以上面倒な奴を相手にするのは御免だと言った様子である。それでもまだ立ち去らずに話し掛けてくるフィグザ。先程自分が言っていた事を忘れたらしい。

 

「まあまあ、そうかっかしなさんなや博士(ドクター)。これで最後にするからさ〜。()()()を1つ正しておかないとね……」

 

 そしてモノクルの向こうの瞳──瞳孔に虚の孔が空いた左目をギョロリとこちらに向ける。その瞬間、ザエルアポロに誰のものか分からない視線がいくつも襲って来たように感じた。

 

「オレは藍染の兄ちゃんから伝言を頼まれてもいないし、何も()()()()()もいない。まあ特別扱いはされてないってこったな」

「じゃあどうやって……」

「おっと! そこはまあ自分で調べてくれや。じゃあオレはこれにて失礼。あ、アンジェ! オレはこれからスタークって名の兄ちゃんのところで世話になるからヨロシク〜。それとカメラの件忘れないでくれよ!」

 

 そして瞬く間に姿を消した。フィグザが居た場所には、煌びやかな光の粒が星の様に輝いていた。

 

「彼、一体どんな虚だったんだい?」

 

 答えが返ってこないであろう問いを投げかける。しかし、意外にもアンジェはその問いに反応した。

 

「アイツは自由気ままな奴さ。楽しむ事しか考えてない。能力も戦いを有利に進めるためじゃなく、より面白い方向へ向かわせる為に使いやがる。相手がどんな反応をするか、相手がどんな行動をこれからするか予想を立てるのが大好きな奴さ。相手が予想外の行動を取ったら更に喜ぶ変態野郎だよ。よく分かっただろ?」

 

 求めていたものとは違ったが、かなり変わった人物だと言うことが分かった。まあ、あまり近づきたくない人物ではあるが。アンジェが誰かに訊ねるかのように独り言を呟いた。

 

「藍染様はアイツの手綱をどうやって握るのかな? あの手に負えない暴れ馬の。アイツじゃないけど考えるだけでも楽しみだね」

 

 

──────────

 

 

「何よ! あの新入りの女! 私達をゴミみたいに見やがって! 腹が立つわ!!」

 

 そう叫びながら物に当たっている女破面──ロリ・アイヴァーンはいつも一緒にいるメノリ・マリアと一緒に怒りを発散していた。まあ、メノリは不機嫌そうな顔をしてはいるものの大人しくしていたが。

 

「もうそれくらいにしたら? 確かに腹が立つ事言われたけど所詮は口だけなんだから無視すればいいのよ」

 

 窘めようとするもロリは聞く耳持たないといった様子である。

 

「今度ふざけた事抜かしたらブッ殺してやるわ!」

 

 そんなロリをやれやれといった様子で見ているメノリ。恐らく喧嘩を売りに行く時は自分も参加させられるのだろうと考えながら。そして、足を踏みならしながら進むロリを追いかけていった。

 

 

 

 

 

 

 そんな二人を遠くから見ていた人物が二人いた。

 

「あの子達、揶揄い甲斐がありそうね。()()はあの子達を虐めてあげようかしら」

 

 フリフリとした白黒のアイドルの様な衣装を纏い、頭には、仮面の名残を()()させて作った白い小さなシルクハットをちょこんと乗っけている。髪は燃えるような赤でポニーテールに纏めており、目はオッドアイでターコイズとアメジストの美しい光を放っている。スタイルも良く胸もバランスが悪くならない程度にたわわに実っていた。そんな男受けのとても良さそうな女破面──リンファ・ツァナルはそんな物騒な事を呟く。

 そしてもう一人、リンファの後ろにいる狐のように目の細い男──市丸ギンは困ったように話しかける。

 

「あんま他の子達にちょっかいかけんで欲しいなぁ。これでもそれなりに戦力になるんやで、()()()()

 

 そう言いながら視線をリンファの周りに向ける。そこには──

 

「殺して……殺して……」

「死ね! 早く死ねッ!」

「止めて……頼む……」

「泣け! 叫べ!」

 

 複数の破面達が、お互いがお互いを殴り合い、相手のマウントを取ってただひたすら相手を(なぶ)っている者が命乞いをし、顔から血を出しながら今にも死にそうな者が強気で相手を攻め立てるような言葉を放っている地獄絵図があった。

 そんな中リンファは傷一つ負っておらず、既に動く事がなくなった者を積み重ねて椅子にし、悠々とした様子でその場に座っていた。

 

「あら、心外ね。先にちょっかい掛けてきたのはこの子達の方よ、市丸さん。それと私は()()()()()()わぁ。()()にこの子達が喧嘩を始めたんだから私は被害者よ」

 

 クスクスと笑う姿はとても絵になっている。太もももチラチラと見えて艶めかしい雰囲気を放っていた。しかし市丸はそんなものに気にせずいつもと同じような様子で話しかける。

 

「でもなぁリンファちゃん、あんまりイタズラしないよう見張っておいてって隊長から言われとるんよ。だからあんまりそんな事されるとボクも困るんや」

「あっそ、分かりました。()()()()()の迷惑にならないよう、これからは争いが起きないように気をつけますわ」

「その『惣右介さん』ってのも出来れば止めて欲しいとも言っとったよ。あの子らもそれを切っ掛けに殺気立っとったみたいやし」

「あの人は呼びかたに気をつけろって言ってたのよ。敬意と親しみを込めて下の名で呼ぶのはいけない事なのかしら? それとも貴方もあの人と同じ扱いをして欲しいのかしら?」

「ウゥ……苦しい……殺してくれ……頼む……」

「あら? まだ正気でいられたの? 頑張るわね」

 

 市丸とリンファの会話を遮ったのは、全身血まみれで息も絶え絶えで地を這っている破面であった。血まみれであるが傷は少しもみられない。全て返り血なのだろう。

 そんな彼を見て、リンファはクスクスと笑いながら悪寒を感じる視線を向ける。

 

「早く楽になりたい? なりたいのぉ? ダァメ、殺してあげなーい。死にたかったら()()でもしてみればぁ、元十刃(エスパーダ)さん?」

 

 そう言い放ち男を蹴り飛ばす。全くダメージは負っていないのに、蹴られた瞬間、断末魔の様な絶叫を上げて苦しみ始めた。

 それを悍ましい笑みで満足そうに愉しんでいる。そんなリンファに若干引きつつも会話を続ける。

 

「相変わらずスゴイ性格しとるなぁ……リンファちゃん、気に入ってる人とか一人もおらんちゃうん?」

「心外ね、市丸さん。貴方のこと好きではないけどそれなりに気に入ってはいるのよ」

 

 リンファの意外な発言に市丸は興味を示していた。他者には普段、悪意しか振り撒かない彼女が、自分を気に入っているとは一体どういうことなのだろうか。

 

「キミみたいに可愛い娘からそう言われるとは思わんかったわ、嬉しいなぁ。ボクのどういうところがお気に召したん?」

 

 市丸の問いに対して、リンファはニヤニヤと顔を歪めながら答える。あれは何か碌でもない事を考えている顔だ。その様子を見て、市丸は失敗したかなと思った。

 

「そうねぇ、惣右介さんみたいに胡散臭く無いし、東仙さんみたいに強情でも無いところかしら。それと──」

 

 その瞬間、頭に警鐘が鳴り響く。これ以上聞いてはいけないと本能が訴えてきたのだ。だが、身体は動かない。聞きたいという欲求と、腰まで底なし沼に嵌った様な感覚がすぐに立ち去るという行動を許さなかった。

 そして言葉が紡がれる。離れているのに、まるで耳元で囁かれているようにねっとりと染み渡るように聞こえた。

 

「市丸さんが()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()と思っているところかしらぁ」

 

 市丸はすぐに距離を取り、臨戦態勢をとる。コイツは危険だ。本能が有無を言わさず始末しろと叫ぶが、どこからか湧き上がった欲求がそれを抑えつける。どうやって感づいたのか。何故それを今言ったのかなど、始末するにしても知っておきたい事が斬魄刀を抜くのを阻害してくるのだ。

 

「……どうしてそう思たん? ボク、そんな事思った事ないんやけどなあ……」

「あらぁ、嘘が下手くそね。まあ安心して、心が読めるわけではないし言いふらすつもりもないわ。ちょっと揶揄っただけよ」

 

 クスクスと口を軽く歪めて笑っている。どうやら誤魔化しは効かないようだ。

 

「何でや?」

 

 市丸の言葉にリンファは楽しそうにしながら、気分が良さそうに語り始める。

 

「何ではどちらに対してなのかしら? もしかして両方? 相手に訊ねる時はちゃんと主語も付けないと間違われるかもしれないわよ。まあ、私は()()()から両方とも教えてあげるわ」

 

 そう言うと伸びをしながら脚を組み始めた。その動作の一つ一つがとても蠱惑的である。

 

「私は心を読む事は出来ないけど、憎しみ、妬み、恨みみたいな負の感情は大好きなのぉ。だから貴方の思ってる事がすぐに分かったわ。東仙さんは私に対して同じような事思ってるみたいだから似た者同士ね」

「……もう一つは?」

「簡単な事よ。惣右介さんをブチ殺したいと思っているからよ。利害の一致って奴ね。だからその殺意を私に向けない方が得策だと思うわよ」

「……やり辛くてかなわんわぁ。リンファちゃん、キミ友達おらんやろ」

「友達なんて要らないわ。煩わしいだけだもの。ホントはアンジェ達も始末したいと思ってて欲しかったのだけれどね。まあいいわ。

 秘密を暴露したお詫びにいい事教えてあげるわ」

 

 そう言って、腰の斬魄刀に手を掛ける。しかし市丸は身構える事もなかった。どんな刀か知っているからだ。とても警戒するようなものではない事を。そして抜かれた斬魄刀は不思議なものであった。

 鮮やかな柄に綺麗な彫刻のなされた飾り鍔が付いており、刀身も美しいものなのではないかと連想させる。しかし、刃は付いていないのだ。柄と鍔だけの斬魄刀である。刀身が見えないという訳でもなく、本当に何もなく、何も切れない欠陥品そのものである。そんな斬魄刀を抜いて一体何を説明するつもりなのだろうか。

 

「一緒に来た私たち三人の斬魄刀はね、私たち達の本質をよく写してくれてるって事は知ってたかしら? 私の斬魄刀は刃のない斬魄刀よ。他2人のもみたけど概ねその通りだったわ。それでどんな相手か予測を立ててみるのも楽しいかもしれないわよ」

 

 そう言って再び斬魄刀を鞘に納める。納める必要など無さそうなものであるが。

 

「現世侵攻も崩玉の一時覚醒の集まりも興味無いからそろそろお(いとま)するわ。それじゃまたお暇な時にまたお話しましょう。それでは市丸さん、ご機嫌よう」

 

 その言葉と共にリンファの身体が泥のようになって一瞬にして崩れ落ちた。そしてその瞬間、周りにいたまだ動いていた者達がいきなり奇声を上げて、虚ろな目をしながらゾロゾロと立ち去っていく。あれほど苦しんでいた十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)も含めて。

 そしてその場にはピクリとも動かない破面達と市丸とリンファだった泥が取り残された。

 

「……はあ、リンファちゃんの相手は疲れるわぁ。でもまあ()()もあったしいい事にしますかぁ。それにしても何で()()()()()()()()()()()()のやろなぁ」

 

 

──────────

 

 

「おい爺さん。ボクは新しい十刃(エスパーダ)なんだぞ。何でキミみたいな奴と一緒に藍染様を待たなきゃならないんだ」

「テメエに十刃(エスパーダ)の番号振るのは、俺への用事のついでで良いと思ってたからじゃねえのか? ションベン臭えガキが」

 

 ルピ・アンテノールは少し不機嫌であった。グリムジョーが十刃(エスパーダ)から落ち、その地位に自分が入り込むことが出来た。それは天にも登るように気分だった。しかし、いざ十刃(エスパーダ)の印である番号を貰いにいくと先客がいたのだ。それはまだいい。しかしその先客──顎髭を長く伸ばし、ガッチリとした肉体に厳つい顔、仮面の名残らしき骸骨の飾りや羽根の付いたトライコーンを被り海賊などが着てそうな白黒のジュストコールを羽織っている爺さんが此方を見下してきたのだ。ガキはさっさと帰れなどと抜かして。

 左腰には立派な斬魄刀らしきカトラス、反対には大型のペッパーボックスが吊り下げられており、放たれる霊圧もどこか寒気を感じさせられるものがあった。しかし、右足は膝から下が、見た目は木の棒の義足が付けられており、どこかの誰かに奪われたのだろう。そんな四肢の一つを失った輩などに馬鹿にされるなど許せない。そんな気持ちでその老人と言い争っていた。

 

「テメエ、さては俺が来た時の騒動を知らねえな? あのクソったれ供を連れて来れていれば思い知らせられたのによ。ある意味運が良かったな」

「あーあ、ここが玉座の間じゃなかったらお前なんかボロ雑巾にして喰ってあげたのになぁ。運が良かったね」

「ハン、ガキらしく強がりおって。まあテメエみたいなガキは嫌いじゃねえがな」

「どういう意味だよ?」

 

 ルピが皮肉を言われたと思い、不機嫌そうにそう言葉を発した瞬間、猛禽の様に鋭い目がルピへと向けられた。その瞬間、全身が冷え、身動きを取ることが出来なくなっていた。

 

「恐怖に怯え命乞いをする時、その時の強がりを後悔させて腹の底から嗤って嬲り殺してやれるからな。そう考えるとテメエみたいな糞ガキも好ましく思えてくるんだ。不思議だろ?」

 

 少しの間明らかに腰が引けていたルピを軽く笑いながら、反論が来る前に口にパイプを咥え、火を付けた。

 

「おい、今から藍染様が来るんだぞ。煙草なんて吸わずに大人しく待ってろよ。ボクにまでとばっちりが来たらどうするんだ」

 

 先程まで自分に怖気付いていたのに、すぐに持ち直してきた相手を軽く笑いながらも感心していた。そしてその相手にパイプを見せつけるようしてに語りかける。

 

「テメエといい、ウルキオラのガキといい、煙草を吸う事にうるせぇ奴ばっかりだな。()()()()()()()()()古いパイプはフィグザの野郎に押し付けたんだ。似合いそうだったしな」

「……何を言ってんだよ?」

「ヒントもやったのにまだ気付けねえのかよ。はっきり言ってやろうか? ()()()抜かれてんのにアホ面晒している気分はどうだって聞いてんだよガキンチョが」

 

 その言葉と同時に藍染がこの場に現れた。あと少し遅れていたら自分はどうなっていたのだろうかという思いで、ルピは頭が一杯になっていた。

 

「我らが新しい十刃(エスパーダ)をそんなに虐めないでくれないかな? バラクーダ・ウィグルスダル」

 

 そう呼ばれた老人は面倒くさそうな顔をしながらも煙草を吸い続ける。それを見ても藍染は反応しない。どうやら許容されているようだ。

 

「別に虐めてなんかいねえよ。ただそこの若造を揶揄って、暇な時間を潰していただけさ、()()

「そうか、では君への指令を覚えているかな? もうすぐ決行だから準備をしておいてくれ。ウルキオラにもちゃんと協力するように。話は以上だ」

 

 藍染はそれだけ言うともう用は済んだといった様子でバラクーダに退出を促す。当の本人はこれだけの為に呼ばれた事に不満を見せることもなく姿を消した。まるで霧のように。

 

「藍染様、アイツはなんなんですか?」

「ああ、君はその時、私からの命令で虚夜宮(ラス・ノーチェス)を離れてたから知らなかったね。新しくここに来た新入りだよ」

 

 たったそれだけである。もっと何かないのだろうか。そう思って言葉を出そうとした時、藍染の発言で遮られた。

 

「彼は()()()()存在だよ。とても強い呪いで縛られているんだ、彼の部下も全てね。地獄を見たくなかったら彼にはあまり関わらない方がいいと思うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 崩玉の覚醒が行われた後、すぐにウルキオラによって人員が集められ現世へと侵攻する事となった。そして黒腔(ガルガンタ)を通り、入口が閉じられる瞬間、男の声が聞こえた。

 

「さて、皆に内緒で買い物するかな」




はい、と言うわけで今回は破面化した三人組の容姿と斬魄刀のお披露目でした。
……え? 斬魄刀が刀じゃないって? ま、まあそもそも棍棒が斬魄刀の奴もいるから珍しい形ということで許してください。まあ、奇抜なもの程強そうに見えますよね!

リンファ以外の能力のヒントが殆ど出てねぇや……

あ、次回は確実に戦闘回になります……番外編を挟まない限り……

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