カラクリの行方   作:うどんこ

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あと少しで……あと少しで虚圏編へいける……後少しで戦闘シーンをバリバリ書けるんだ。そこまで持ってくれ……秋アニメを見るのに夢中で暫くSS放置病……


第二十一話 開演

 

「で? イヤな気分で帰ってきてみれば、お前がなんで私のティーセットで紅茶を飲んでいるんだよ。その茶葉貴重なんだぞ」

 

 第5宮(クイント・パラシオ)へ戻ってきたアンジェを待ち受けていたのは、一体の(ホロウ)であった。

 

「随分な挨拶だなぁ。オレ等を呼んだのはオマエだろ? もうちっとこう……んー……なんか労うような歓迎をしてくれてもいいんじゃね?」

 

 顎の発達した甲虫の頭蓋の様な仮面を付けた虚は、気楽そうにそう言う。溜め息をつきながらもアンジェは、その客人の向かい側へと腰を下ろした。

 

「それよりアンジェ。あの人怖いんだけど、どうにかしてくんない?」

 

 そうして指を差す方向には──

 

「許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ許サナイ排除排除排除排除排除排除排除アンジェ排除」

 

 物騒な発言をしながらフラフラと徘徊する第5十刃(クイント・エスパーダ)が居た。初めて見る者でなくても近寄り難いものである。

 

「ああ、気にしなくてもいいよ。何もして来ないはずさ、たぶん。

 それよりも後二人はどうしたの? なんかイヤな予感がするんだけど……」

 

 フラグを立てるのが好きなのか、思ったことをそのまま述べている。そんなアンジェの不安を、ヘラヘラと虚が笑う。

 

「そのヤな予感は正しいだろうさ。大体あいつ等の性格考えりゃあ、どう動くなんて簡単に()()がつきそうなモンだけどなぁ」

 

 確かにあの『海賊』に関しては分からないでもないが、あの『毒舌』の動きなど自分は読めたものではない。

 

「で、バラクーダはへーかの元へ向かっていると考えるとして、リンファは何処に向かったか予想が付くのか? 私ゃ分からんのだ。早く教えんさいな」

 

 ジト目で睨むと飄々とした態度の男は、少し勿体振りながら語り始めた。

 

「あのジイさんは今までの癖で、此処に来た時のお約束をある人物に届けにいってんのはまあ、すぐに分かることかぁ。で、お前が知りたいのはあの『刺激的』な言葉ばかり吐く『醜悪女』の事だろ? あいつも分かり易そうだと思うんだけどなぁ。」

「あいつの考えなんて私達を殺したい程毛嫌いしてる事しか知らないよ」

「それだけで十分さ。あいつはオレ等を毛嫌いしてんだろ? そんなら先ず始めにオレ等の心象を最悪にする筈さ、これから『お世話』になる所に対してな」

 

 それを聞いてアンジェは青ざめ始めた。それを楽しそうに眺めながら続ける。

 

「トップへ暴言を撒き散らして、オレ等の事でもある事ない事言いふらすんじゃね? 例えばここを乗っ取りに来たとか」

「それが分かっててなんで止めなかったんだ! 私等全員が攻撃対象になるじゃないか!」

「なんでって……そうなった方が面白そうじゃん」

 

 それを聞いてこいつもやはり手に負えない、どうしようもない輩だとアンジェは改めて思った。他人からしてみればブーメランであるが、そんなことがわかる筈のないアンジェは早速阻止しに行こうと移動しようとするも、肩を掴まれて止められる。

 

「まあ待てよ。オレは別に『そうなった方が面白い』と言っただけで『そうなる』とは一言も言ってないだろ? 安心なさいな、あいつの企み通りにゃあいかねえさ。藍染の(あん)ちゃんがそんなチンケな企みに乗せられると思うか? 可能性は限りなく低いね」

 

 それもそうである。伊達に尸魂界(ソウルソサエティ)を長く騙してきた男ではない。ただ、リンファの『能力』を考えると安心は出来ないのだ。あれの力は正に、彼女の本質である『醜悪』そのものなのだから。万が一を考えると落ち着くなど無理な話である。

 

「まーだそわそわしてんのかぁ。まあ大丈夫だって。藍染の兄ちゃんだってすぐにこっちの仲間入りするさ。『今すぐにでも殺したい程憎い奴等』のな」

 

 アンジェはしばらく虚を不満そうな目で見るが、諦めがついたのか自分の分の紅茶を注ぎ、寛ぎ始めた。

 その瞬間、遠くから大きな破壊音が聞こえてくる。どうやら爺さんは壁を派手に破壊して侵入するつもりなのだろう、色々な意味を込めて。

 

「分かりましたよ。お前が何を知っているのかは知らんが、お前の『情報』と『予測』は精度が高いからね。黙って見とくよ。自分で火種を大きくしてしまったら目も当てられないや」

「それで良いのさ。頭のイカれた奴の動きに首を突っ込むと碌な目に遭わないぞ。見て見ぬふりが一番だ」

 

 そう言うと虚は腰を上げた。何処かに出掛けるのであろうか? それを見透かしてか笑いながら軽く手を振る。

 

「ああ、別に何か悪巧みしに行く訳じゃねぇよ? ただ少し状況が落ち着いたら、藍染の兄ちゃん達に顔合わせしに行くだけさ」

「余計な事するんじゃあないよ。分かった?」

「分かってるって。第一、まだなんも始まってない状況で行動しても何も楽しくねぇよ。せめて計画が順調満帆でない限り何もしないさ」

「……これからもあんまり余計な事しないでね……」

「そりゃ聞けないね! オレは『お節介』焼くのが大好きなんだ。楽しみを取られんのは遠慮被るよ。それじゃあそろそろ様子を見に行くかな」

 

 そう言葉を残し姿を消す。先程までいた場所には、煌びやかな星の様な小さな光がいくつも残されていた。

 それを見送ったアンジェは、本日何度目か分からない溜め息を吐き出す。

 

「全くもってお前が一番扱いづらいよ……だからお前にはあの双子の『秘密』を教えられんのだ、フィグザ・バルガード」

 

 

──────────

 

 

 藍染達の前で未だに余裕そうな態度を取っている女──リンファ・ツァナル。東仙はこの女の存在が許せなかった。初対面で自分が敬愛する藍染惣右介その人を(けが)す言葉ばかりを吐くからだ。もし藍染が止めていなければ相手の息の根が止まるまで斬りつけている所だ。

 

「リンファ・ツァナルか……かの有名な『慈悲なき歌姫』がここへ何をしに来たのかな? 出し物をしたいのなら許可は出せないよ」

 

 藍染の一言に少し眉を潜めるが、態度を変える事なく続ける。

 

「あら、『ファン』なら絶対に呼ばない、勝手に付けられた異名を知ってるなんて下衆なストーカーなのかしら?」

「そうだったのかい? 君の噂を知っている者は皆こう呼ぶからそうなのだと思っていたよ」

「はあ、まあ良いわ。所詮は野蛮な下郎だから仕方ない事ね。で、ここへの用件は何かだったかかしら? 決まってるじゃない、アンジェの代わりに宣戦布告をしに来たのよ」

 

 その言葉で東仙は殺気立ち、市丸は意外そうな表情を浮かべ、藍染は嘘を貼り付けたような笑みを浮かべる。双子はリンファが姿を見せた時には既にいなくなっていた。

 その三者の様子を見て、藍染の反応に不満をあらわにするも口調は変えずに続けられる。

 

「あんたの時代は今日で終わりね。こんなチンケな手下しかいないなんてたかが知れてるわ。命乞いするなら助けてあげても良いわよ?」

 

 あまりにも見下した態度に、東仙の堪忍袋の緒が切れた。藍染はやれやれといった雰囲気を出すが、止めようとはしなかった。

 

「なに貴方? 私は貴方の飼い主と会話しているのよ。躾の成ってない豚さんは早く精肉してもらったら?」

「先程から汚らしい言葉ばかり吐き出して只で済むと思っているのか? 更にお前は気高き存在の藍染様を侮辱した。その罪は貴様の血をもって償って貰う」

 

 挑発に乗った東仙に、歪んだ笑みを浮かべたリンファは更に東仙の怒りを煽る──もっとも効果的な方法で

 

『要、君が私の命令を守れない様な役立たずだったとはね。君には失望したよ、二度とその顔を見せないでくれないか?』

 

 敬愛する藍染の声でこの様な事を言われれば、当然怒りが爆発しない訳がない。殺意を刀へ込め、確実に相手の命を奪えるよう全力で振り抜いた──

 

 

 

 

 

 一度も刃を向けた事がなかった藍染へ向けて。

 

「なっ!? 貴様ッ! 私に何をしたッ!!」

 

 市丸の斬魄刀が藍染への袈裟斬りを妨げるが、東仙の刀には意思と反して力がどんどん込められ押し退けようとしていく。

 

「東仙はん、少し落ち着いた方がいいんちゃいます? 僕もこれ以上力入れられるとたまりませんわ」

 

 市丸が(たしな)めようとするも、東仙の怒りは引かない。そしてその事に対してますます怒りが湧き上がっていく。

 

「私に藍染を害させようとするなど……私に何をしたか答えろッ!!」

 

 そんな様子の東仙を愉快そうに眺め、口を醜く歪めながらその高圧的な問いに答える。

 

「私は何もしてないわぁ。ただそこで不敵な笑みを浮かべた男が『憎かった』だけでしょ? 普段の恨みが爆発して収まりがつかなくなったんじゃないのぉ? 私に『()()()()』するのはやめてよね、()()

 

 更に東仙の怒りは募ってゆく。但し、それは全て向けてはいけない人へと向けられていく。

 

「まだ話に続きがあるのだろう? 要を揶揄うのは止めてそろそろ本題に移ってくれないか」

 

 凄まじい威圧がリンファを襲う。普通の者なら恐れで身動きが取れなくなるものであるが、リンファは恐れを感じるのではなく苛立ちが湧き上がっていた。しかし今は話を進めるのが先決だ。東仙でその苛立ちを発散するのを止め、自分の考えを伝える。

 

「はあ、宣戦布告と言ったけど私は別に乗り気じゃないのよ。場合によっては手伝ってあげるわ」

「何が言いたい?」

「アンジェ達を返り討ちにして皆殺しにする手伝いをしてやるって言ってんのよ」

 

 仮面の隙間から見える瞳はドス黒い光を放っており口元は更に醜く歪んでゆく。どうやらこれが本当の目的らしい。

 

「分からないな。その提案が君にとって何のメリットがあるんだい? 特にアンジェは、君を戦力として信用してるから呼んだんじゃないのかな?」

「はぁ? 決まってんじゃない。あの屑三人を殺したい程『嫌い』だからよ。それ以外何もないわ」

「そうか、そういうことか」

 

 目を瞑って首を軽く縦に振り、何かを納得している藍染を、リンファはイライラしながら見る。そして目を開いた藍染は残念そうな顔をしながらリンファの提案への答えを返す。

 

「残念だけど遠慮させて貰うよ。君一人の勝手な行動に乗って、戦力三つを無駄に削るなんて愚かな真似はしたくないからね」

 

 藍染の返答も予想の内だったのか、リンファは慌てることなく言葉を返す。

 

「ふーん、そう。なら良いわ。あんたがいつその選択を選んだ事に後悔するか見物だわ。アンジェの謀反に怯える日々を精々惨めに過ごしなさいな」

 

 そう言って愉快そうにその場から姿を消そうとするリンファを、藍染は許しはしなかった。

 

「そうそう、見せてくれたら協力してあげないでもないよ? 君の()()()姿()をね」

 

 その一言でリンファの動きは止まった。そして何とも言い難い、暗い『憎悪』の感情が辺りを包み込む。

 

「…………貴方、何処で何を聞いたのかしら?」

「何も? ただ思った事を口にしただけだよ」

「そう、そういう事ね……気が変わったわ」

 

 『憎悪』が渦巻き、東仙や市丸、そして藍染の周りを包み込む。東仙と市丸は身構えるも藍染は未だに余裕そうである。

 

「テキトーな事を言って不信感を募らせたり、そのまま対立でもさせてやろうかとも思ってたけどもう良いわ」

「それで? どうするつもりなのかな」

「貴方の戦力になってあげるわ、不本意だけれどもね」

 

 その言葉に東仙はふざけるなと憤りを見せ、市丸は未だに相手を計り兼ねていた。

 

「どういう心変わりなん? リンファちゃん」

「別に唯の気まぐれよ。それとちゃん付けなんて馴れ馴れしいわ、気持ち悪い。

 だけど一つだけ気をつけて置きなさい。私の前で少しでも油断を見せたらすぐにその喉を掻っ切ってやるわ。覚悟することね」

「いいだろう。これからよろしく頼むよ、リンファ。それとこれからは私を呼ぶ時の言葉はしっかり考えてくれたまえ」

 

 リンファを迎え入れるなど信じられないといった表情の東仙は少し不満そうである。だが藍染の事だ。何か考えがあっての事だろうと信じ、その場では負の感情を飲み込んだ。

 

「これだけは覚えて置きなさい。『お前は絶対に許さない』それだけよ、それじゃあ」

 

 そして姿を消した。暴言を吐くだけ吐いて去っていくなどいっそ清々しいものでもある。

 

「嵐のような娘でしたね、隊長」

「要、ギン。今度からは彼女の言葉にはなるべく耳を傾けない方がいいよ。自分を見失わない為にもね」

 

 東仙はリンファがいなくなった事をいいことに藍染へ進言する。あの女がどれだけの無礼者で、出来るだけ早く抹殺した方が良いと。

 

「藍染様、あの様な者を配下へ迎え入れては虚夜宮(ラス・ノーチェス)での秩序が乱れます。出来るだけ早くあの者の処刑を」

 

 そんな東仙を宥める様に藍染は言葉を紡ぐ。なるべく東仙が不満を残さないように。

 

「要。彼女はああ言った手前、表向きは私に従ってくれる筈さ。プライドが高いからね。自分から約束は齟齬にしないよ、私が弱っていない限りはずっとね。

 それと彼女を受け入れたのには訳があるんだ」

「アンジェちゃんの事でですか? 隊長」

「そうだよギン。彼女は今、何かを目的に行動している。その目的の一環として今回の侵入者騒ぎも起きたのだろう。彼女は制御が効かない者達を連れて来て、一体何を企んでいるのだろうね」

「聞き出さなくて良いのですか? 命令とあれば私があらゆる手段を用いて聞き出して来ますが」

 

 相変わらず血の気が多い事を口走る東仙をやんわりと制し、続けていく。

 

「拷問しても口を割らないさ。そして他の者達も何故集められたか知らされてない可能性もある。何より、今彼女に逃げられるとつまらないからね」

「もしアンジェちゃんの企みが、僕らの計画の妨げになるようだったらどうなはるつもりなん?」

「その時は潰すまでだよ。それに今の所は利害が一致しているんだ。不要になるまで利用出来るだけさせて貰うさ」

 

 そんな時、藍染達の前方にいきなり見知らぬ虚が現れた。藍染はやれやれと首を振り、市丸は来客が多いなぁと他人事のように呟き、東仙はさっきの奴と同類と思い殺意を向ける。

 

「えらくブラックな話をしてると思ったら、次は警戒されちゃったよ。リンファの次に顔を出すのはやだねぇ全く。まあ落ち着いてお話ししましょうや、殺気を向けられたら安心して会話が出来やしないぜ」

 

 緩い口調で話す男への警戒を東仙は少しだけ緩める。あまり変わっていないような気はするが、男は有難そうにしていた。

 

「君がアンジェの所に先程までいた侵入者かな?」

「そうそう、さっきまでいた口が悪い奴の知り合いさ〜。名前はフィグザ・バルガード。あんたらの名前は知ってるから名乗んなくていいよー。まあ、これからお世話になるんでよろしく頼みますがな」

 

 市丸は随分と軽い男だなと思っていたが、藍染の方を見ると何やら難しい顔をしている。何か引っかかる点でもあるのだろうか?

 

「……初めて聞く名だね。他の二人とは違って、名を広めるのはあまり好まなかったのかな?」

 

 なるほど、そういう事か。噂すら聞いたこともない者が他の有名な奴らと一緒に来た事に、少し警戒しているのだろう。しかし、いつ残りの1人が誰なのかを知ったのであろうか。そんなことを考えながら、市丸は再び虚の方を見る。

 

「まあ、そうだなぁ。オレの事知ってる奴なんてアンジェ達だけだな。他の奴らは俺の事を『見た事』もないだろうからな! あ、生まれたてだからとかじゃねえよ。これでも結構長くこの世界にいるんだぜ、オレ」

 

 なるほど、誰も見た事がなければ噂など立つ筈もない。しかしアンジェはどうやって知り合ったのだろうか。謎が深まるばかりである。

 

「そうそう! 挨拶だけにしようかとも思ったけど、リンファが不快な気分にさせてしまったからな。お詫びと言っちゃあなんだが、一つアドバイスしておこうと思ってね」

 

 藍染はそれを無言で促し、それを見たフィグザは、人差し指を立てて気をつけるようにといった様子で言う。

 

「藍染の兄ちゃんがいった通り、リンファの言葉は耳を傾けないのが一番だが、耳を潰して聞こえないようにしようとは考えない方がいいよ。更なる地獄を見たくないならね」

 

 

──────────

 

 

「相変わらずシケた面してんなぁ、バラガン」

「そういう貴様こそまだそんな餓鬼(ガキ)みたいな事を続けておるのか? バラクーダ」

 

 外に巨大な船が停泊している第2宮(セグンダ・パラシオ)の玉座の間、そこではかつて虚夜宮(ラス・ノーチェス)を支配していた男と、その男に度々ちょっかいをかけていた男が視線をぶつけていた。

 バラガンは不敵な笑みを浮かべ、かつての宿敵を前にしている。自身の家来達はいつでも飛び掛かれるよう身構えているが、相手が相手である。手も足も出ないであろう。そもそも普段通りの殴り込みであれば、まずこんな挨拶などせずに殺戮をしている筈である。そこまで考えて、バラクーダが殆ど部下を連れていない事に気がついた。

 

「おい、貴様の虎の子の手下供はどうした? 何処かに潜ませて奇襲でもするつもりか?」

 

 それを聞いてバラクーダは、豪快に笑いながら否定する。

 

「ハッ、お前にカチコミに行くのに奇襲などするものか。そんな事つまらんだろうが。藍染とか言う小僧の場所以外の所を襲撃させてんだよ」

 

 その言葉に疑問を覚えた。血の気が多いといってもそれなりに頭は回る奴である。従属官(フラシオン)を相手にするならまだしも、十刃(エスパーダ)と戦うとなると少々力不足の筈だ。しかも分散させてるとなるとまず勝ち目はない。十刃(エスパーダ)の源流である(エスパーダ)の存在は昔争った時から知っている筈である。それがわからない男ではないと思うのだが一体何を企んでいるのだろうか。

 思考に(ふけ)ようとしているバラガンを止めるかのように、バラクーダは声をかける。

 

「ああ、別に深い意味はねぇよ。ただ俺が出向くとうっかり殺しちまうかもしれねぇだろ? だからくそったれ供に向かわせた」

「殺すつもりがないのに手下を向かわせる意味が分からんな」

 

 バラガンが理解できんと言うと、バラクーダはやれやれといった様子で言葉を続ける。

 

「今回、俺は助っ人としてここに呼ばれた。だからあまり自分勝手な行動は取るつもりはねぇんだ。だが、舐められるのは別だ。新入りだからといって、舐められるのは許せんのだよ。

 だからあいつ等を向かわせた。あいつ等は『(エスパーダ)』とか言う連中には勝てねぇ。だが、あいつ等と争えば、嫌でも俺の『力』を思い知れる筈だ。そして、この俺にちょっかいを出そうなんて馬鹿げた考えなど起こらないようにしてやるのさ」

「なるほどな、相変わらずといったところか?」

 

 やはり昔から変わらぬ男だ。恐らく大抵の奴は理解するだろう。この男の力の異常さを。果たしてこの男の行動に対して他の連中はどういった対応を取るのであろうか? そして藍染はどのような対応をするのであろうか? 見物である。

 そんなバラガンの思考を邪魔するようにバラクーダが声を出す。

 

「しっかしお前の手下も新顔ばかりだな。俺に刃を向けられるように身構えるなど、俺を知ってる奴が取る行動ではないな。

 そういえば、あのヤミーとかアーロニーロとかいう奴らはとっくにくたばったのか? ザエルアポロとかいう奴もいるとか言っていたな、会った事はねぇが」

「彼奴等は今も生きておる。ただ、儂の支配下ではなく藍染の支配下であるがな」

 

 バラガンはつまらなさそうに言うが、バラクーダはどうでも良さげである。そして大事な事を忘れていたといった様子でバラガンに近寄る。

 

「無駄話してて忘れていたが、俺は別に楽しく会話する為にここへきたんじゃあねぇんだ。お前にちぃっと提案がある、聞きてぇか?」

 

 今までの経験ではこいつの提案に碌なものはなかった。だが、中には興味を惹かれるものもあった。与太話としては丁度いいだろう。

 バラガンは早く用件を話せと目で訴える。そして放たれた言葉は、バラガンにとって意外なものであった。

 

「なぁに。今の虚夜宮(ラス・ノーチェス)、少し窮屈だとは思わねぇか? 少なくとも俺たち虚にとってはな。久々に来た俺でさえそうだ。お前は言わずもがなだろ?」

「……何が言いたい?」

 

 そういうことか。バラクーダが何を言いたいのはすぐに理解できた。だが、バラガンはそれを理解していながらも相手にその続きを口にさせる。自分から食い付くのは何かに負けたような気がしてならないからである。

 バラクーダはドンッ、ドンッと木の棒が地面を叩くような、鈍い足音を立てながらバラガンへと近づいてくる。

 

「ガキにこの城を盗られてんのは気にくわねぇんだよ。お前がこの城で踏ん反り返り、俺がそこに喧嘩を吹っかける。昔みてぇに出来るようしようじゃねぇか。

 お前は俺の力を借りるのは少し気に喰わねぇかもしれんが、悪い話ではねぇだろ?」

「……見返りは何を要求するつもりだ?」

 

 こいつと力を合わせれば確かにあの藍染を地へと引きずり落とす事が出来るかもしれない。とても魅力的な話ではあるが、易々と案に乗るのは危険である。こいつがタダで動くとは思えない。手遅れになる前に聞いておいた方がいいだろう。

 だが、バラクーダが求めたものはとても厄介なものであった。

 

「俺とお前の仲だろう? 『貸し』にしといてやるよ。さあ選べ! 二度と頂点に戻る事が出来ずに失意のままに朽ちるか、再び王となって俺と長い戦争を繰り返すか!!」

 

 『貸し』というもの程厄介なものはない。普通の奴であれば知らぬ存ぜぬを通せば良いが、()()()の場合は別だ。こいつに『貸し』を作る事程恐ろしい事はない。知らぬを通す事は許されないから。

 だが、それでもお釣りは帰ってくる。あのいけ好かない藍染を叩き潰す事と比べれば些細な事だ。

 

「いいだろう。貴様の手を借りてやろう。だが、儂の足を引っ張るなよ。もしそうなった場合は、その時点で貴様との協力関係は無かった事にするぞ。忘れるな」

 

 バラガンの返しを愉快そうに笑い、二つの瞳から邪悪な光が放たれる。そしてその光を放つ霧の塊がバラガンの眼前まで一瞬にして近づき、緑の光がバラガンの目を映した。

 バラガンの従属官(フラシオン)達は、即座に自分の主人に害を成そうとする愚か者を排除しようとするが、バラガンはそれを霊圧を発する事で制した。自分の為に命を捨てるのは構わないが、無駄な事で戦力を失うのはいただけない。そして、それは力の差が分かりきっている相手であればなおさらだ。

 ただ、何もかも振り回され続けるのはつまらない。仕返しとばかりに老いの力を目の前の黒い霧に飛ばしてやった。だが、結果など昔から分かりきっている。周りの床はボロボロと朽ちていくが、黒い霧は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。昔からずっとこうだ。未だに謎を解けていない。

 

「ハッ、元気な事だな。『契約』は成立だ。アンジェとの『契約』が終わり次第お前の協力をしてやろう。それと力の差が判らぬ間抜けの教育はしっかりとしておけよ。うっかり手を出してしまうかもしれんからな。では──さらばだ」

 

 霧が霧散し、その場には何も残らなかった。それと同時に巨大な船がここから離れていく。そして、残されたバラガンは独り言の様に呟いた。

 

「これから確実に荒れるだろうな、虚圏(ウェコムンド)も、現世も。それで、奴の秘密は見抜けそうか? ──ザエルアポロよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まるね」

「始まるね」

「狂った群像劇が」

「欲望溢れる終末が」

「楽しみだね」

「ワクワクだね」

僕達(私達)も踊ろうか」

私達(僕達)も唄おうか」

 

 

 

「「アンジェの『()()』を叶える為に」」




(エスパーダ)は原作では、バラガンの配下を源流として藍染が生み出した仕組みですが、この小説ではバラガンが藍染に支配される前からあったものとしています。お許し下さい。


今回、勝手に動き回る奴らが多過ぎる…こんなフリーダムな奴らなんて手に負えないぜ。正直困る!

リンファの能力ははっきりに言うと凄まじくゲスい能力です。強いのではなくゲスい。相手には回したくないですね。

そして名前が初登場のフィグザ・バルガード。性格は自由人といった感じですね。

そろそろ1話1話のタイトルが二文字じゃなくなると思います。因みにオリキャラの戦闘編は、既に全てタイトルを考えてるので楽しみにしていて下さい。

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