カラクリの行方   作:うどんこ

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先週上げる予定だったのですが先週はいかんせん用事が多くて完成が間に合いませんでした。ゴメンネ!
……決して地元の友人との飲み会が重なってたり、旅行に行ってたり、二日酔いで苦しんでいたりした訳ではないんです! 信じて下さい(目を泳がせながら)
それと今回は今までよりも短めです……アレ?


第十五話 報告

 

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)の玉座の間、そこには藍染と市丸と東仙、そして多くの破面(アランカル)達が集まっていた。

 多くの者が集まっているにもかかわらず、広間は至って静かであった。藍染の存在が、そういった空間を作り上げていた。

 

「さあ、見せてくれ。ウルキオラ、君が現世で見たもの、感じたものの──」

 

 少しの間が空く。

 

「全てを」

 

 答えは少しの間もなく返される。

 

「はい」

 

 その言葉を発すると同時に、ウルキオラは己の左手を自身の左目へ近づける。そしてそのまま、指を目の中に突っ込み、眼球を抉り出す。

 目玉はそのまま指の中に収まり、眼球があったであろう空間には、ぽっかりと暗い空洞が出来上がっていた。

 その様子を見ても驚く者は誰もいなかった。アンジェは両手で顔を覆い見ないようにしているように見えるが、実際、指の間を全開にしてガン見している。よくある、早く隠せと顔を隠しながら、実はじっくりと見ているムッツリスケベと同じ事をしていた。何故この場でこのような事をしているのかは謎であるが。

 ウルキオラは眼球を握った左手を、前方へ真っ直ぐ伸ばす。観衆の視線は、手の中の丸い物体に集まる。

 そして白い球体を握った手に力が込められていく。このまま力が加えられていけば、生々しい音と共に、手の中の眼球は簡単に潰れてしまうだろう。

 しかし、手に込めた力を弱めることは決してなかった。

 そして眼球はウルキオラ自身の手によって握り潰された。ガラスが割れるような音と共に。

 肉片が飛び散るのではなく、小さなガラス片の様なものが広間一面に広がった。そしてそれらが、ウルキオラの『記憶』を此処にいる全員へと伝達した。全ての者の脳裏に浮かび上がっていくものは全て、現世で実際にあったことだ。集中して体感する為に目を閉じていく。それは藍染も例外ではなく、頰をついたまま優雅に目を(つむ)っていた。そしてしばらくの間、広間を沈黙が包み込んだ。

 

「──成程」

 

 最後に、己の無力さに(こうべ)を垂れる死神の姿が映り、『記憶』の共有は終わった。

 藍染が軽く頷くと、ウルキオラは一礼する。今回の報告を咎める様子は見られない。寧ろ良くやったといった感じである。特に、アンジェの豹変をしっかりと『記憶』に残した事に関して。

 藍染はアンジェの方に顔を向けると軽い笑顔を見せた。ただ、目は笑っていなかったが。

 そしてすぐにウルキオラへ向き直った。

 

「それで、彼を『この程度では殺す価値なし』と判断した訳か」

 

 ウルキオラは淡々した口調で返す。

 

「はい。『我々の妨げになるようなら殺せ』とのことでしたので。それに──」

 

 ウルキオラは何かを言おうととしたが、馬鹿にしたような声がそれを遮る。

 

「ハッ、微温(ぬり)ィな」

 

 声がした方向を見ると、そこには水色の髮をした目付きの悪い不良の様な男──グリムジョー・ジャガージャックが従属官(フラシオン)を数人引き連れ胡座(あぐら)をかいていた。そのまま言いたい事を続けていく。

 

「こんな奴等、俺なら最初の一撃で殺してるぜ」

 

 ウルキオラは無表情のままそれを黙って聞く。

 

「大体、『殺せ』って一言が入ってんだ。殺した方がいいに決まってんだろうが! あ!?」

 

 側にいる従属官(フラシオン)もそれに同調する。

 

「……同感だな。殺す価値なしと言えども敵だ。生かす価値も無いだろう。殺さないに越した事はない」

 

 そんな第6十刃(セスタ・エスパーダ)従属官(フラシオン)の様子を、愉快なものを見る目で見ているアンジェ。

 

「大体、ヤミー! テメーはボコボコにやられてんじゃねえか! それとアンジェ! テメーは一体何がしてえんだ! ガキで遊ぶわ女を追い回すわ、戦う気がねえんならそもそも付いて行ってんじゃねえよ! 虫唾が走る!」

「おおっと?」

 

 グリムジョーの矛先がヤミーとアンジェに向く。それすらも楽しそうにしているアンジェ。何がそんなに面白いのであろうか。

 

「……グリムジョー、テメェ。今の視てなかったのかよ。オレが苦戦したのはこの黒い女だけだ。このガキじゃねえ」

 

 少しイラッとしたヤミーがグリムジョーへ言い返すが、それを鼻で笑いながらあしらう。

 

「分かんねえ奴だな。俺ならその女も下駄帽子も一撃で殺せるっつッてんだよ!」

「……なんだと?」

 

 ヤミーがその巨体を起き上がらせ、グリムジョーも好戦的に、抑えていた霊圧を解放し始めた。一触即発の空気の中、その場にそぐわないものが聞こえてくる。

 

「ぷ〜ククッ! アッヒャヒャヒャ! あーおっかしいんだぁ!」

 

 グリムジョーは腹立たしげに、笑い声がする方を見る。そこには、お腹を押さえて嗤っているアンジェの姿があった。

 

「……何笑ってんだよ」

 

 殺気が篭った目でアンジェを睨む。そんなグリムジョーに物怖じせず、笑いを堪えながらそれに答える。

 

「いや何、君の一言一言が面白くってつい笑っちゃったんだ。ごめんね。それと威勢のいい啖呵を切るのは構わないんだけど、もう少し考えて言った方がいいよ」

「あ?」

「『一撃で殺す』だって? 確実に無理な事を自信ありげに叫んでたらそりゃあ笑っちゃうさ。『僕は相手の力量も分からない無能でェーす』って言ってる様なもんだよ。あ、もしかしてギャグのつもりだった?」

 

 アンジェの小馬鹿にした態度がグリムジョーの怒りを煽る。グリムジョーに挑発されていたヤミーは何も言わずその様子をただ眺めていた。どうやら傍観を決め込む様だ。周りの視線もグリムジョーとアンジェへ集まる。

 片や十刃(エスパーダ)、片や一介の従属官(フラシオン)。グリムジョーの気分でアンジェの生死が決まると言っても過言ではないと、周りは思っている。

 

「そもそもさぁ、『調査』って名目なのになんで一撃で殺そうって気持ちになるのかね。それとウルキオラ君の判断に藍染様は納得してるんだ。そんなにイチャモン付けるんなら君が行けば良かったじゃあないか。

 それと対象の調査ってどんな物か分かってる? ”妨げになる様なら殺せ”って、つまり出来る限り殺すなって事だよ。調査するって事は観察を続けていくって事が殆どだからね。

 さっきまでのを聞いてるとさ、まるで仲間の行動を指をくわえて見てて、その仲間の行動が上に認められるとそれが気に食わないでキレる無能な間抜けみたいだったよ」

 

 アンジェはグリムジョーの逆鱗に触れる様な事を全く恐れることなくどんどん吐き出していく。グリムジョーの目は明らかに血走っていた。相当御冠のようである。周りの多くの者達は、アンジェの命運はもう終わったなと思っていた。

 そんな中、グリムジョーが怒り心頭である事にようやく気がついたアンジェ。遅すぎである。

 

「あれ? もしかして怒ってる? ……まあ、あれだ。ヤミー君の気持ちがこれで分かったんじゃないかな。これを機に他人の気持ちを考えた言動を心掛けた方がいいと私は思うな」

 

 他人の事を全く考えない奴が言う台詞ではない。正にお前が言うなといったものである。

 

「テメェ! 舐めてんじゃねえよ!」

 

 ついに我慢出来なくなったグリムジョーが、怒りに任せてアンジェに飛び掛かった。

 それと同時に、アンジェは物凄い勢いである方向へ逃げ出した──東仙の背中の後ろへと。

 

「東仙さん、助けて! 軽口叩いてたら、怒った暴漢が私に乱暴しようと襲ってきたの!」

 

 東仙の身体をグリムジョーの方向へ向けて盾のようにしている。これには東仙も怒るどころか呆れている。同じ事を藍染でしていたら、キレた暴漢が二人に増えていただろう。

 グリムジョーも流石に東仙に飛び掛かる訳にはいかないので、少し離れた所でそいつをこっちに寄越せと睨んでいる。

 アンジェをどうしようか東仙が考えていると、隣から声が聞こえてきた。

 

「グリムジョー、アンジェを虐めるのはそこまでにしてやってくれないかな? 彼女も悪気があってあんな事を言ったわけではないんだ。分かってくれるかい?」

 

 藍染直々に制止を求めてきた。これには流石のグリムジョーも怒りを抑えざるを得なかった。

 そしてまだイライラしているグリムジョーにウルキオラが言葉を発する。

 

「グリムジョー、そいつ(アンジェ)の言葉に耳を向けるな。殆どがあいつの自論だから藍染様の考えではない。それと挑発はあいつの十八番(おはこ)だ。いちいち相手にしてたら身体が持たんぞ。」

 

 そしてグリムジョーが言うように、調査対象『黒崎一護』を何故始末しなかったのかも、説明を始めた。

 

「我々にとって問題になるかもしれないのは、今のこいつではないってことはわかるか?」

「……あん?」

 

 それがどうしたといった顔をしている。それもそうだろう。ウルキオラの考えていることが、グリムジョーにとっては理解不能だからだ。

 

「藍染様が警戒されているのは今現在のこいつではなく、成長したこいつだ。確かにこいつの潜在能力は相当なものだった」

「え? そうだったの? 芽を摘むかどうかの調査だったの? そういうのは最初に言ってよね。勘違いしてたじゃあないか」

 

 間の抜けた茶々が横から入る。それを完全に無視して話を続けていく。

 

「だが、それは大きさに不釣り合いなほど不安定で、このまま放っておいてもそのまま自滅するか、こちらの手駒になるかと俺は踏んだ。だから始末せずに此処に戻ってきた」

 

 無機質な瞳がグリムジョーを映す。

 グリムジョーはそれを聞いても、納得出来ないといった様子で不満気である。

 

「……それが微温ィって言ってんだよ!」

 

 威圧の篭った言葉をウルキオラにぶつける。

 

「そいつがてめえの予想を遥かに超えた力をつけて、俺達に牙を剥いてきたらてめえはどうするってんだよ!!」

「その時は俺が始末するさ」

 

 間髪入れずに答えが返される。その答えにグリムジョーは押し黙ることしか出来なかった。ウルキオラの一言がグリムジョーの言った問題を解決してしまっているからである。

 納得は出来ていないが反論も出来ない。それが今の状況であった。

 

「これで文句はないだろう? まだ何かあるか?」

 

 これでこの話は終わりだと言葉無しで語っていた。

 

「そうだな、それで構わないよ。君の好きにするといい、ウルキオラ」

 

 藍染がウルキオラの判断を認めた。これでこれ以降異議を唱えられるものはいないだろう。

 どれだけ納得が出来なかろうとも、十刃(エスパーダ)でもこの結果を覆す事は出来ない。

 藍染に礼をするウルキオラを睨み付けるグリムジョー。彼は未だにウルキオラの判断が気にくわないようだ。

 そんなグリムジョーを見ながら、アンジェは何か良い事(碌でもない事)が思いついたといった笑みを浮かべていた。

 報告も終わり、さあ解散だといった時、藍染が最後に一言言い放った。

 

「それとアンジェはこの後、私の所まで来てくれ。現世での事で聞きたい事がある。()()()()

 

 その一言にアンジェは明らかに嫌そうな顔をしていたが、盾にしていた東仙が首根っこを掴み、藍染と市丸と共に奥の暗闇へと消えていった。




次はまだグリムジョーは現世へ襲撃しません。その少し前の閑話をお楽しみ下さい。戦闘シーン見せろよオラ!って人は、その次までお待ち下さい。アンジェ本人は登場しませんが少し噛んで来ます。

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