今回は7000字以内に収まったぜ! やった! ……あれ?
今回からまたしばらく戦闘パートはなく会話パートが続くので、お詫びとしてお風呂シーンを入れました。
やったね作者、読者が増えるよ! ……あれ?
アンジェ達が襲来してから少し時間が過ぎた頃、ビニール袋片手に古い駄菓子屋の前に立つ男がいた。この店の店主──浦原喜助である。
店の奥へ進んで行くと、二人の少年少女が姿を現す。どちらも小学生位であった。
「ウルル、ジン太、お土産にジュース買って来ましたよー」
間の抜けた声で二人にビニール袋の中身を渡す。ウルルと呼ばれた少女は少し嬉しそうに受け取り、ジン太と呼ばれた少年へ一本手渡す。
そんな二人のやり取りを微笑ましく見ていたが、すぐに態度を改め二人に話しかける。
「……夜一サンの容態は?」
そんな浦原の問いに対し、二人は何も言わずに神妙な顔で浦原を見つめる。夜一の身に何かあったのであろうか。不安になりそうな空気であるが、浦原はただ一言「そうですか……」と言うと、更に奥へと進んで行く。
襖の閉じた部屋の前に来ると、何も言わずに開ける。そこには──
「ぷはーー! 食った食った!」
大きなどんぶりを片手に、食事を終えて満足そうな夜一の姿があった。とても元気そうである。浦原の存在に気付いたのか、手に持っていたどんぶりを周囲に出来ている食器の山に重ねる。一体誰が片付けると思っているのだろうか。そんな事なんか知らんといった様子の夜一は、浦原へ視線を送る。どうやら話は長くなりそうだ。
夜一の前まで移動して座り込む浦原。その顔は至って真面目なものであった。
「腕と脚の調子は良さそうですね。井上サンがいなかったらもっと快復に時間が掛かったでしょう」
「ああ……腕は兎も角として、脚の傷は酷いものじゃったからの……。あのトラバサミ、かなりえげつないものじゃったぞ。起動力を奪うだけかと思いきや、傷はズタズタにされておった。あれは脚をただ使い物にならなくするだけでなく、治療も困難にするようなものじゃ。もし治療が遅れて井上がおらんかったら切断せんといかん羽目になっておったかもしれん」
そう言いながら右脚を動かす夜一、その右脚には傷一つ残っていなかった。
「それと、傷は治ったのじゃが、身体は相変わらず鉛のように重いまんまじゃ。最初よりかは幾分ましではあるが、それでも自由に動き回る事が出来ん。どうにかならんかの?」
そう言って浦原を見る。何か情報は掴めていないかと訴えているようである。それに対し困った顔をする浦原。どうやら、なんの成果も得られていないらしい。
「それについては元に戻るまで我慢して頂けないっスかね。時間が過ぎれば元通りに戻るみたいっスから。と言うのも、
そんな浦原の答えに、夜一は特に落胆の表情は見せなかった。恐らく察していたのだろう、あの小さい
「調べようとはしたんですがすぐに断念せざるを得ませんでした。なんせ、調べようとしたもの全て
浦原は困った顔のまま話を続ける。どうやら、今回の件でかなり痛い目を見たらしい。まるで夜一に愚痴を聞いてもらっているようであった。
「大きな方の霊子の情報はすぐ集まったんですが、あのお嬢さんの方を調べ始めるとまるで暗号のようになってました。時間を掛けて解読しようとしたんスけど、全くと言っていい程関連性が無く、何も出来なかったです。仕舞いにはウィルス紛いのものにも手をつけてしまって……お陰で暫くの間、頭がおかしくなって訳の解らない言葉を色々叫んでしまいましたよ……ハァ」
当時を思い出したのか、苦々しい表情を浮かべる。肉体的なダメージは与えられなかったが、精神的にはかなりのダメージを負ったようだ。
「恐らく、有益な情報は全く残っていないでしょうね。全てダミーに塗り潰されてるといったところでしょうか。夜一サンの症状も調べてる間に状態が収まり、ダミーしか残らなくなるといった感じになると思います」
沢山の痕跡を残していったにも関わらず、対抗手段などを練る為の情報を殆ど得る事が出来なかった。浦原にとっては完全に敗北したと言っても過言では無かった。
「まさか自分の情報を餌にして来るとは思いませんでした。アタシだったらまず何一つ残さないよう気を付けようとしますからね。あのお嬢さん、何においても一筋縄ではいかない曲者っス」
その時浮かべた表情は、とても険しいものであった。
「喜助、お主はその娘っ子と同じ芸当は出来るのかの?」
ふとした疑問を口にしてみる。すると、浦原の答えはすぐに返ってきた。
「いえ、今すぐには不可能です。恐らく、長い時間掛けてようやく一部が再現出来るかもといった芸当ですからね。よしんば出来るようになったとしても、彼女からしてみれば子供の遊び程度でしょう。まずこの分野じゃ勝ち目はありません」
そう断言する浦原。この事に夜一はかなり驚いた。自分が知る中で一番の智者が敵わない相手など、存在するとは思わなかったからだ。そんな夜一へ浦原は苦笑する。
「人には誰だって得手不得手がありますから仕方がないことっスよ。……ただ、彼女が
どうやら浦原もかなり危険視しているようである。主に智者として。
話が途切れ、少しの間無言の時間がやってきた。お互い色々と考えているのだろう。
すると、大事なことを言い忘れていたといった様子で、浦原が話を始めた。
「そういえば、あのお嬢さんが時折使っていた変な移動、アレの異常さに夜一サンは気付きましたか?」
恐らく後ろを取られた時や、追い詰められた時に使っていたものの事であろう。確かに、
「感知が出来ぬ高速移動の事じゃろう? 確かに厄介ではあるが、そこまで注意するものではないと思うのだがな」
そんな反応の夜一に、浦原は真剣な表情のまま丁寧に説明をする。今回唯一まともに知る事が出来た事なのであろう。
「アレは高速移動とか生易しいものではありませんよ。アタシからしてみれば反則ですね、アレは。対処のしようもほぼ無いタチの悪さも兼ね備えますからね」
どうやら浦原にとっては洒落にならないものらしい。そんな浦原の話を黙って真面目に聞く夜一。
「アレは
空間転位、尸魂界では禁術とされているものである。そんな大層なものを使っているとは全く思わなかった。何せそんな禁術を使ったら、普通何かしらの大きな痕跡が残ってしまう筈だからだ。
「『印』さえ刻んでしまえば、好きな時に一瞬でその場に飛んでいける。簡単に説明すると大したものではなさそうに聞こえますが、細かい説明が入るとその異常性が良く分かりますよ」
そう言って、手に持っていた扇子を開き、口元を隠す。
「先ず、その隠匿性です。何の痕跡を残さずポンポン使える。アタシも始め見た時は半信半疑でした。
次に手軽さです。空間転位は禁術と言われるだけあって、一回だけでもかなりの力を消費します。でもあのお嬢さん、見るからに力を使っていなかったんですよね。恐らくですが
そして、世界の境界を軽々しく越える事が出来ることです。普通、空間転位と言えども同じ世界の中ででしか使えません。この辺はお仲間さんの話だけですので事実か分かりませんが、恐らく事実でしょう」
浦原の話はまだ続く。
「『印』も中々の曲者でしてね、アレを探し出して消すのはまず不可能っス。なんせ、本当に『印』が刻まれているだけで、特別な力はおろか
これだけ説明を受ければ、夜一もこの能力がどれだけ異常なものかが分かった。逃げるのにも奇襲するのにも此れ程役に立つものは無いだろう。
「もし井上サンがあの場所にいなかったら、最後のお仲間さんの
そもそも織姫がいなかったら真面目に戦っていなかったであろう。
「次に対峙した時、何か対策出来る事はあるかの?」
夜一は聞く。もしまた戦う時があった場合、少しでも有利になれるように。しかし、浦原の答えは意外なものであった。
「彼女への唯一効果的な対策は、出来るだけ相手にしないことです。見かけたら無視して離れて下さい」
ふざけた事を言っているようだが、浦原の顔は至って真面目である。
「彼女の戦闘スタイルは、相手を
夜一は神妙な顔で聞く。
「……もし、仲間があの娘っ子に捕らえられていたらどうすればいい?」
浦原は少しの間、口を閉ざしていたが、重々しい口調で答えた。
「正直言って、仲間を助けに行くのはオススメ出来ません。まず確実に罠として使われますから、しかも殺傷能力抜群の罠として。ミイラ取りがミイラになる可能性大です。ですから夜一サン、もしアタシが捕まっていても構わず見捨てて下さい」
その浦原は真剣そのものであった。本気で言っているのであろう。夜一はそんな浦原を咎めるように見ていたが、何も言わなかった。
「しかしあの娘っ子を抜きにしても、
その夜一の呟きに同意する。
「ええ、これから大変になって行くでしょうね。アタシ達も尸魂界も、そして黒崎サン達も」
そして開いていた扇子を閉じた。
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「ふんふんふ〜んふふ〜ん!」
その鼻歌が聞こえてくる部屋の入口には『浴場』と書かれた看板があった。どうやら入浴を楽しんでいるようだ。
「湯加減はどうだい? さっき私が入っていたから少し
乾いたタオルを手に持って立っているアンジェ。どうやら風呂を楽しんでいるのはアンジェではないようだ。……何か嫌な予感がしてきた。しかし、ハリベルなどの女
するといきなり浴室の扉が開かれた。そこから出てきたのは──
「オイアンジェ、なんでオレが風呂ってもんにはいらねえといけねえんだ!」
筋骨隆々の鍛え抜かれた肉体美を余すことなく周りにさらけ出す、全裸の大柄な男──ヤミー・リヤルゴであった。
「ウヒャー! 隠して隠して!! ちょっとその格好はマズイよ!」
そう言ってすぐさま手に持っていたタオルを手渡す。ヤミーはそのタオルを腰へと巻いていった。その間に何か逞しいものが見えた気がするが多分気のせいであろう。
「フゥ……何とか危機は免れたかな? 下手すれば色々と問題になってたかもしれないからね!」
「オメーは何言ってんだ? 別にオレが裸でいようと何の問題もねえだろうが」
「いや何、私の直感がそう囁いていたんだ。何でか分からないけど。それとうら若き乙女の前で、セクシャルゾーンを晒すのはよろしくないかと思うんだよね」
コントのようなやり取りをするアンジェとヤミー。事の成り行きはこうであるようだ。
ヤミーとウルキオラが帰って来て、アンジェが合流し藍染に報告しに行こうとしたが、アンジェがヤミーに身嗜みを整えろと言い、そのまま風呂にぶち込んだといった感じである。
「大体、身嗜みなんてどうでもいいだろうがよ。誰も気にする奴なんていねえんだから」
そんな風に愚痴を言うヤミーに、アンジェは何処から取り出したか分からない4Lの牛乳瓶を投げ渡す。それを受け取ると一気に飲むヤミー。いい飲みっぷりである。
「何事においても見た目は大事だよ。誰も意識してないといっても、無意識のうちに少しは気にしているものさ。小綺麗なのと薄汚れているのじゃあどちらに好印象を持つかは一目瞭然だろ? 特に報告の場だ。多くの者が集まる場での身嗜みは気を付けるに越したことはないよ」
綺麗になったヤミーの死覇装を棚に置くアンジェ。どうやら衣服も風呂に入っている間に整えてくれたようだ。
そんな事知らんといった様子で乱暴に着るヤミー。もう少し感謝というものを覚えて欲しいものだ。
「そういやアンジェ、お前いきなり雰囲気が変わってたが、ありゃ一体どうしたんだ?」
恐らく斬魄刀を抜いた時のことであろう。そう問われたアンジェは、苦々しい笑顔を見せていた。どうやらあまり触れられたくないことのようだ。
「アレね……ちょっとムシャクシャしてたら感情が
するとウルキオラが入って来た。どうやらそろそろ行かなければいけないようである。
「準備は済んだようだな。殆どの
そういってすぐにその場から出ていく。それに続くアンジェとヤミー。
そうして藍染の待つ玉座の間までやってくると、始めにウルキオラ、次にヤミー、最後にアンジェの順に入っていった。
藍染の前までくると、自然と膝を突くアンジェとヤミー。まるでそうしなければいけないと本能が働いているようであった。報告役であるウルキオラは、膝を突かず藍染を見上げる。
「──只今戻りました、藍染様」
ウルキオラの声が響く。それと同時に周りから話し声が消え、静かな空間が生み出された。
「おかえり、ウルキオラ、ヤミー、アンジェ」
藍染の一言一言が重く響き渡る。
「さあ、今回の成果を聞かせてくれたまえ。我等、同胞の前で──」
そうして、今回の現世調査の報告会が幕を開いた。
アンジェのサービスシーンが来ると思ったか? 残念だったなぁ、トリックだよ。
ああっ! やめて! ゴミを投げつけないで下さい! ゴミを投げつけないで下さい!
入浴シーンボツ案その1:アンジェ
最初はアンジェでいこうかと思っていたが、描写すると作者の性癖がバレるのと読者の方が求めていない(偏見)かもしれないので泣く泣くボツ
入浴シーンボツ案その2:ハリベル
話の流れ的に難しいし、何より作者の性癖が(以下略)。また、やはり読者の方は求めていない(偏見)かもしれないのでボツ
入浴シーンボツ案その3:スンスン
ハリベルの従属官の一人。ぶっちゃけ作者はこの人がBLEAHで一番好きである。ああ! スンスン可愛いよ! やはり話の流れ的に無理だったのでボツ
入浴シーンボツ案その4:バラガン
この人も話の流れ的に無理があった。そして何より作者が書いてて苦痛を感じたのでやむなくボツ。老いの力とはなんて恐ろしいんだ……
そんなこんなあった結果、ヤミーの入浴シーン(ポロリもあるよ)になりました。
え? ボツ話が見たい? ……いつか機会があれば書くかもしれません。
それと先週短編をあげましたのでそちらも是非ご覧になって下さい! お願いします(土下座)! ……見てよぅ……