カラクリの行方   作:うどんこ

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いつもいつも文量が多くなってると言ってるので気を付けた結果。
1万字超。何 故 こ う な っ た。
今回で現世調査も終わりです。


第十三話 豹変

 

 二人の援軍が来てから少しの間、誰も喋らない膠着(こうちゃく)状態が続いていた。その沈黙を破ったのは、やはりと言うか、アンジェだった。

 

「ウルキオラ君、ヤミー君、どうする? 面倒くさい人二人も来ちゃったよ。私はもう疲れたから相手にしたくないな」

「オレが代わってやるよ。さっきから見てるだけだったんで、飽き飽きしてんだ。ウルキオラァ! お前も参加するかァ?」

「俺はいい。それとアンジェ、お前は引き続き戦闘を続行しろ」

「何でッ!? 私の話聞いてた?」

 

 ウルキオラの言葉にアンジェは強い反応を見せた。休憩したいみたいな事を言ったのに、無視されれば当然かもしれない。

 

「藍染様からの御達しだ。浦原喜助(うらはらきすけ)四楓院夜一(しほういんよるいち)が現れたら、そのどちらかとお前をぶつけろとな」

「そーですか。参ったなぁ、あの二人を相手取るには、この地では些か()()()()だ」

「ごちゃごちゃ言ってねえでさっさと行くぞ、オレは早く戦いてぇんだよ」

「ヤミー君、下駄帽子と黒ネコがいるけどどっちと戦いたい?」

「あぁ? ンなもんどうでもいいんだよ。楽しめればな」

「そうかい。それじゃあ私はむっつりスケベの相手するから、キミはじゃじゃ馬の相手を頼むよ。私、猫は嫌いだからね」

 

 そして一歩前へ出るアンジェとヤミー。その様子をただじっと眺める浦原と夜一。どうやらこちらから何かしない限り、襲い掛かっては来ないようだ。

 

「やっこさんようやく動き出しましたね、夜一サン。あまり油断しないようお願いしますよ」

「そんな事分かっとるわ! それより喜助、あのちっこい奴は何じゃ? 霊圧も殆ど発しておらんし、何か嫌な気配がしておる」

「そーっスね……先程までの黒崎サンへの対応を考えても、一番厄介なのはあのお嬢ちゃんかもしれないっスね」

「だーれがお嬢ちゃんだ。キミらより私の方が遥かに歳上だよ。もっと敬って貰わないと困るな」

 

 真後ろから声が聞こえた。それだけでその場から離れ、咄嗟に距離を取り、声の主の姿を確認する。そこには先程までヤミーの隣にいた筈のアンジェの姿があった。目を離した時間など、微塵もなかった筈だ。それなのに全く悟られる事なく後ろを取られていた。その事に浦原も夜一も冷や汗を止めることなど出来なかった。

 

「オイ、アンジェ! オレの獲物も取ろうとしてんじゃねえよ。その女をさっさとコッチに寄越しやがれ!」

 

 大きな拳を鳴らしながら、此方へゆっくりと歩いてくるヤミー。荒々しい霊圧を発しながら夜一の前へと進んでいく。間合いに入るや否や、右腕を頭の上まで振り上げた。

 

「いちいちジャマくせえやつらだな。割って入るって事は、テメェらから殺してくれって考えていいんだよなァ!!」

 

 振り上げた腕を夜一目掛けて勢い良く叩きつける。直撃すれば挽肉になりそうな一撃を、夜一はその場から動くことなく迎え撃つ。ヤミーの丸太のような腕が当たる寸前に、手をそっと添える。その瞬間、ヤミーの巨体は宙を舞っていた。

 

「あ?」

「寝てろ」

 

 そのままヤミーの顔面に、強烈な回し蹴りを食らわせ、地面へと叩きつける。そして頭を地面に半分埋めるヤミー。

 そんな光景をアンジェは横目で見ていた。

 

「ヤミー君、出来るだけ時間稼いどいてくれよ。コッチにあのじゃじゃ馬が来たら面倒極まりないんだからね」

「お仲間さんの助けには行かなくていいんですか?」

 

 浦原のそんな問いにアンジェは笑いながら返す。

 

「助けに入る? ヤミー君を? バカ言っちゃいけないよ! そんなことしたら私が殴り飛ばされちゃうよ。痛い思いは避けたいからね。それとあまりヤミー君を舐めない方がいいと思うな」

「そうですか。では、アタシはお嬢ちゃんのお相手をしなければいけないという訳ですかね」

「お嬢ちゃんはやめてくれって言っただろう? せめてお姉さんと呼びなさいな」

「……お姉さんって呼ぶの、アタシには抵抗があるから別の呼び方でお願いしたいっスね」

「それじゃあ、アンジェと呼びなさいな。これなら気兼ねなく呼べるんじゃないかな」

 

 浦原からもアンジェからも動こうとしない。お互い、相手の出方を伺っているのであろう。その間にも夜一とヤミーの戦いは続いていく。ヤミーが押されているという一方的な展開で。

 

「ところでアンジェサン、中々趣味の悪い遊びがお好きなようで」

 

 アンジェが視線から外れないように、あちらこちらにいる偽織姫達を見渡す。今は動きを止めているが、動き出したら厄介かもしれない。

 そんなことを考えている浦原とは対照的に、何も考えていないような雰囲気で楽しそうに語りかける。

 

「中々上手く出来てるだろ? 見た目は織姫ちゃんと瓜二つさ。織姫ちゃんのことが大好きな人がいたらたまんないだろうね。キミにも一人あげようか?」

「遠慮しときます。それより、そろそろ()()()に戻してくれませんかね。あのままだと色々と困るんですよ」

「そうだったね、遊び終わったオモチャは元に戻しておかないとね……」

 

 アンジェが指を鳴らす。その瞬間、周りの偽織姫達の身体からポロポロと霊子の膜が剥がれ落ちていく。するとどうであろうか、先程まで見分けが付かなかった姿から、老若男女の人間の形へと変化した。その中には、()()()()()()()()()の姿もあった。

 

「これで満足かな? あ、動かすのを止めろってのは聞けないよ。これから第二幕に使うんだから」

「ハァ、この街で()()()()()()()の身体を、あまり無下に扱って欲しくないんスけどね」

「さっき死んで肉の塊になったものを有効活用してるんだ。彼等もきっと役に立てた事をどっかで喜んでいると思うよ」

 

 そのまま浦原に右手を向け、指を指す。まるで浦原に向かって突撃しろと合図を送っているようである。浦原もそれに備えて構えをとる。

 

「キミは『スリラー』って知っているかな? 有名なエンターテイナーの曲だよ。私はソレが結構好きなんだ。だからキミに踊ってもらおうと思ってるんだよね。エキストラは()()()()いるから、私が満足できるようなダンスを踊れるまで頑張ってくれよ。それじゃあ──」

「ミュージック、スタート」

 

 腕を頭上へと振り上げた。それと同時に四方八方から骸人形が浦原目掛けて走っていく。それらを迎え撃つ浦原。そして──

 

 

 次々と爆発が巻き起こった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「喜助ッ!!」

 

 浦原とアンジェがいる方向から突如爆発が次々と起こり、土煙で様子が見れなくなってしまった。そのことに一瞬気を取られていると、後ろから怒声と共に鉄拳が飛んできた。

 

「よそ見してんじゃ……ねえよッ!!」

 

 それを宙返りで躱し、ヤミーの横っ面に裏拳を叩き込み、吹き飛ばした。

 

「相変わらずタフじゃのう」

 

 脳を揺らされたのか、ヤミーはその場から立とうとしていたが、足がフラフラしていた。その隙に、夜一は浦原へ確認をとる。

 

「喜助、儂はそちらの援護をした方がいいかの?」

 

 夜一の声が聞こえてきた。ただし、()()()()()()()。その声を聞くや否や、嫌ったらしい笑みを浮かべると共に、喉に手を当てて発声練習を始めた。

 

「あー……アー……Ah……」

「何してるんスか?」

 

 アンジェが始めた謎の行動に注意しながら、次々と襲い掛かってくるもの達を捌いていく。

 

「ん、これかい? キミの代わりに愛しの夜一サンに返事をしといてあげようと思ってね……」

『どうっスかね、アタシの声。アナタそっくりじゃないっスかね』

 

 その声を聞いて、浦原は目を見開いた。その反応だけでアンジェは満足そうである。アンジェが何か言う前に、夜一に聞こえるよう、大きな声で叫ぶ。

 

「夜一サン! 気を付けて下さい! アタシの声を真似されています!」

『無駄っスよ、無駄無駄。アナタの声も、夜一サンの声もお互い届かないんですから。観念して()の会話を聞いといて下さい』

「……何故それを?」

『さあて、何ででしょうかね』

 

 浦原がその場から動けないよう指示を出しつつ、夜一へと返事を返す。

 

『夜一サンッ! 不味いっス!! あのお嬢ちゃんが井上サンの所へ向かってます。アタシは今、此処から動けないのでお願いします』

「分かった、すぐ向かう」

 

 その返事に、アンジェはその場から動かずに舌舐めずりをした。その光景を見ていた浦原は苦虫を噛み潰したような顔をする。

 

「……動かなくっていいんですか?」

「心配ご無用、既に仕掛けは終わってるからね。後は夜一さんの動き次第で決まるかな」

 

 そして、織姫がいるであろう方向に顔を向ける。土煙で全く見えていないが、どんな状況になっているのか理解しているようだ。

 

「井上ッ!」

 

 夜一が織姫の近くまで来ると、そこには地面に抑え込まれた織姫と、その上でヘラヘラと笑う()()()()の姿があった。

 

「おっ、遅かったね夜一さん。もう少し早くこっちに来れば間に合ったのに。そこで指咥えて織姫ちゃん解体ショーでも見てなさいな」

 

 緩慢な動きで織姫の首元へと指を近付けていく。明らかに罠だと分かる動きではあるが、織姫の命が掛かっているので早く対処せざるを得ない。もちろん、アンジェが織姫に傷一つ付ける気がないことなど、微塵も知らない。

 そして、夜一が織姫を助け出すために出した結論は、前方からの攻めは危険と判断し、背後に回り込んでの急襲・救出・即離脱という考えに至った。

 考えを即実行に移し、自分が今出せる全力の速さでアンジェの背後へと瞬歩(しゅんぽ)で移動した──

 

 

「ビンゴ」

 

 

 アンジェが浦原にだけに聞こえる声で呟く。その瞬間、金属同時がぶつかり合うような大きな音が響いた。その音の中心──織姫とアンジェの背後には、その場から動けずにいる夜一の姿があった。

 

「ッ!? ぅっ……何じゃコレは?」

 

 苦痛に顔を歪めながら、己の右脚を見る。そこには、鈍い錆色を放つ半円状の光の板が二枚、右脚を挟み込んでいた。挟んでいる面には鋸歯状(きょうしじょう)の歯が付いておりより深く食い込んでいる。脚の骨は完全に砕けてしまっているだろう。

 織姫を抑え込んでいたアンジェから、霊子の膜が剥がれ落ちる。その姿は幼い少年のものであった。その少年は織姫を立たせ、夜一から遠ざかり始める。それと同時に、アンジェの機嫌が良さそうな声が聞こえて来た。

 

「やっぱり背後を取ると思ってたよ。私の勘はまだまだ健在だね!」

「……やはりおぬしの仕業か。コレは何じゃ? 動き辛くてかなわん」

 

 己の右脚に食い付いている錆色の牙を指差す。額からは脂汗が流れており、とてもツラそうである。

 

「そいつは『罠座標(グリイェテス)』って言ってね、私の能力の一つさ。設置してしまえば、射程距離に入った相手の脚に喰らい付く獰猛(どうもう)な牙だよ。どんな相手も捕まえる優れものさ、例え()()()()()()()()であろうとね……」

 

 夜一はさり気なく脚を動かしてみる。先程までは全く動けなかったが、今は何とか動かせるようである。これならまだ戦える、そう考えた時──

 

「そうそう、キミには『罠座標(グリイェテス)』の使用用途を教えてなかったね。コイツの効果は二つあるんだ。一つはその場に拘束すること。少しの間、全くと言っていいほど動けなかった筈だから分かるよね。まあこれはおまけみたいなものかな」

「……もう一つは?」

「勘のいい夜一さんならもうわかってるんじゃあないかな? 浦原さんじゃなくて、キミに対して使った訳を」

 

 相手を焦らすよう、ゆっくりと溜めて語る。

 

「もう一つは、相手の()()()を奪うこと。今のキミは翼を()がれた憐れな鳥だよ。己の速さに自信がある者程、コイツの恐ろしさを実感出来る。さて、与太話は終ーわり。お待ちかねの処刑人(ロス・エレヒィドス)の登場の時間だ」

 

 夜一の後ろから荒々しい足音が聞こえてくる。どうやら足音の主は相当ご立腹のようだ。

 

「余計な真似しやがって……まあいい。それじゃ、さっきまでの仕返しをタップリさせて貰おうじゃねえか。スグにくたばんじゃねえぞ、クソ(アマ)ァ」

 

 そこには口から血を流しながらも凄惨に笑うヤミーの姿があった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 最初の頃と同じように、夜一とヤミーの戦いは一方的なものになっていた。ただし、夜一が()()()()()()()()という状況で。

 

「オラオラァ! さっきまでの威勢はドコいったんだァ!! 前みてぇにピョンピョン跳んで躱してみろよ!」

 

 ヤミーの猛攻を僅かに避けたり、軽くいなしたりするので精一杯の夜一。アンジェの罠は思った以上に厄介なものであった。

 まず、右脚のダメージ。これのおかげで右脚に負担が掛かる技が出せず、反撃が難しくなっていた。次に、ヤミーが目で追える速さででしか動けないこと。まるで全身が鉛のように重く、全くと言っていいほど思ったように動けない。そして、致命的なのが、瞬歩(しゅんぽ)が使えないこと。これのおかげでヤミーから離れる事も出来ない。

 

「トラバサミ一つでここまで追い詰められるとはの……少し見誤っておったわ」

 

 そんな光景を眺めるアンジェと()()。どうやら浦原への攻撃はやめたようである。周りには動くことを辞めた、本来の姿の死体が沢山転がっていた。

 

「夜一さんを助けに行かなくて良いのかな? 結構キツそうにしてるよ」

 

 アンジェに斬魄刀を突き付けたまま動かない浦原へ向けて話しかける。浦原はどう行動するか、アンジェを牽制したまま考えているようである。

 

「アタシが夜一サンの助けに向かったらどうするんですか?」

「そりゃあ決まってんじゃん。織姫ちゃんを確保して、そのまま虚圏(ウェコムンド)へ帰宅だよ。そろそろ撤退命令が出されるだろうからね。

 あ、私を止めようとしたら全力で夜一さんを潰しに掛かるからね。謂わゆる飛車角取りみたいな状況だよ。夜一さんを取るか、織姫ちゃんを取るか、あまり時間はないけど考えてね」

 

 その言葉を聞くなり、浦原の行動は速かった。急いで夜一の元へと向かって行く。その姿を確認したアンジェは満足気に織姫の方向へと歩いていく。

 

「何もかも上手くいくとは思わない事ですね。()()()()()

 

 浦原の声はアンジェには届かなかった。

 織姫の前まで来たアンジェはとても喜んでいるようだ。もう誰の邪魔も入らない。ヤミーが二人に追い詰められるまでに織姫を捕まえてしまえばいいのだ。時間は充分にある。織姫を捕まえている少年に織姫を引き渡すように指示を出す。そして、織姫が自分の目の前にやって来た──

 

「この距離なら避けられないですよね」

「え?」

「許してね」

 

 アンジェの胸に織姫の手が置いてある事に気がついた時には既に遅く、避けることが出来なかった。もう終わったと思い、完全に油断していた事が致命的なミスであった。

 矢のように後方に吹き飛んでいくアンジェ。その胸には、黒い弾丸のようなものが突き刺さっていた。

 

孤天斬盾(こてんざんしゅん)

 

 織姫唯一の攻撃技である。アンジェには直撃したが、殆ど傷を負わせる事は出来ていない。あまり状況は良くなっていないように見えるが、アンジェの位置を動かしたことが重要であった。

 

「中々やんちゃするね! 織姫ちゃん! 私、そんな事する子じゃあないと思ってたから油断しちゃっ──「先程の仕返しじゃ」」

 

 体制を立て直した瞬間に、頭上から夜一の声が聞こえた。勢いをつけての(かかと)落としがアンジェに迫る。アンジェはそれを確認もせず、躱す為に瞬時に移動する──()()()()()()()()()()()()()()()()()へ。

 

「もう一箇所は潰してるんで、そこしか()()()()()()()が無いっスよね」

 

 浦原喜助は既に行動を終えていた。

 アンジェは、己に目掛けて飛んで来る紅の斬撃を、自らの右手で叩き割る。これくらいの芸当は出来るようである。

 

「残念、後一手足りなかったかな」

「いいえ。詰み(チェックメイト)です」

 

 浦原の攻撃に気を取られていたのもあるが、気付くのが遅れるのも仕方がなかったことかもしれない。自分を守ってくれるであろう仲間の攻撃が、()()()()()()()事など考えもしていなかったからである。

 

 真後ろにいるヤミーの虚閃(セロ)が、アンジェと浦原を飲み込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「オイアンジェ!! いきなり射線上に入って来るんじゃねえよ」

 

 仲間の事など微塵も心配していない怒声が響き渡る。そんな破面(アランカル)とは対照的に織姫は浦原を心配していた。

 

「夜一さん……浦原さんは大丈夫なんでしょうか?」

「喜助はまあ大丈夫だろう。狙ってやっておったからの。……それより問題はあの小娘じゃ。少しは大人しくなっておるといいんじゃがの……」

 

 土煙が風で吹き飛ぶ。そこには無傷の浦原と、白衣のあちこちが焼け焦げ、破けている、不穏な気配を放つアンジェの姿があった。

 

「『座標(マルカ)』が二つだけは流石に舐め過ぎだったか……でも、詰め将棋のように追い詰められるとは……ああ、屈辱だ。苛々する、腹が立つ、()()()()()()()()()()()()()

 

 いきなりアンジェの放つ霊圧が変化した。弱々しい霊圧ではなくなり、ヤミーやウルキオラと同じような大きさの、そしてどこか()()()を感じさせるものへと変わっていく。

 それに伴い瞳の色も、宝石の様な(あか)から濁った(あか)へと変化する。

 

 アンジェの異様な変化の仕方に浦原、夜一だけではなく、ウルキオラも警戒する。

 

(どういう事だ? 藍染様からの情報には載っていなかった筈だ。何か隠しているのか?)

 

 そんな警戒する三人をよそに一人アンジェに突っ掛かる者がいた。

 

「オイそこをどけ、アンジェ。さっきからジャマくさくてたまんねぇんだよ。お前はさっさとどっか行きやがれ」

 

 自分の前にいるアンジェを払いのけ、浦原の所まで歩いて行こうとした──

 

「貴様が下がれ、()()()

 

 途轍もない寒気がヤミーを襲う。その場に留まってはいけないと本能が囁く。気が付いたらウルキオラの隣まで飛び退いていた。

 

「何だ……今のは……?」

 

 なぜこのような行動をとったのか理解が出来ていない様子である。

 アンジェの意識の矛先は、ヤミーから浦原、夜一へと向けられる。

 

「出来損ないの木偶人形(デクニンギョウ)共が、デカイ顔ばかりしやがって。貴様ら木偶人形(デクニンギョウ)が、どれだけ脆弱(ぜいじゃく)な存在かを嫌という程思い知らせてやろう」

 

 白衣の袖口から、どうやって仕舞っていたのか分からない斬魄刀が飛び出す。見る者全てを不快にしそうなどす黒い色を放つ、()()()()()()()()()()()()。俗にフランベルジュと呼ばれるものである。

 アンジェが取り出した斬魄刀に疑問を感じたのは、ウルキオラただ一人であった。

 斬魄刀の切っ先を浦原に向ける。そして──

 

 

 

 

 

()()らせ『(ペス)「──そこまでにしろ、アンジェ」

 

 ウルキオラがアンジェの斬魄刀を掴む。アンジェが何かしようとしたのを止めたようである。

 

「離せ()()()()()、私の邪魔をするな」

 

 (よど)んだ赫の双眸がウルキオラへ向けられる。ウルキオラはそんな事に臆することなく(いさ)めにかかった。

 

帰刃(レスレクシオン)は禁止だと言ったはずだ。それと今回の調査は終了だ。結果は充分に取れた、()()()()

 

 アンジェの瞳は今だにウルキオラを映している。まだ止める気はないようだ。そんな状況のアンジェを鎮めるために更に言葉を紡ぐ。

 

「これ以上の戦闘は命令違反として藍染様に報告する。貴様も流石にそれは嫌だろう。例え藍染様から逃げ回れるだけの力があろうとも、虚夜宮(ラス・ノーチェス)に残ったものは全て手放さなければいけなくなるのだからな」

 

 その言葉に少し眉を潜め、自分の斬魄刀を袖口に滑り込ませていく。渋々といった感じではあるが、闘う気は失せたようである。

 斬魄刀の姿が確認出来なくなると、双眸が赫から朱へ、嫌悪感を与える霊圧が元の弱々しい霊圧へと戻っていった。

 

「あー、私疲れたや。先に虚圏(ウェコムンド)帰ってるから、終わりの挨拶は宜しく、ウルキオラ君。織姫ちゃん、()()()

 

 そう言葉を残して、その場から姿を消した。黒腔(ガルガンタ)()()()()()()

 

「お仲間さん、何処か行っちゃいましたけど、どこにお出掛けしたんスかね?」

 

 浦原が周囲を警戒しながらウルキオラへと問いかける。まだどこかに潜んで居るのではないのかと疑っているようである。

 

「安心しろ。あいつはもう帰った」

黒腔(ガルガンタ)も通らずにですか?」

黒腔(ガルガンタ)()()()()()()

 

 何もない空間に指を添え、黒腔(ガルガンタ)を開く。どうやらウルキオラ達も撤退するようである。

 

「……逃げる気か?」

「そうだ。止めたければ掛かって来い。その脚で勝てると思うのならな」

 

 夜一の挑発も軽くあしらい、ヤミーを連れて黒腔(ガルガンタ)の中へと歩みを進める。それを無言で見送る夜一と浦原。そんな中、二人の撤退を妨げようとする者がいた。

 

「っ……オイ、待てよ!!!」

 

 織姫から治療を受け、何とか動けるくらいまで回復した、オレンジ頭の少年──黒崎一護である。

 一護の発言に足を進めるのを止めるウルキオラ。

 

「好き勝手暴れて……逃げんのかよ「黙れ」ッ!」

 

 ウルキオラは感情の篭っていない瞳を一護に向ける。それだけで次の言葉を口から出すことが出来なくなった。

 

「あれだけあいつ(アンジェ)(もてあそ)ばれたのをもう忘れたのか? それだけで底が知れるというのに、まだ羞恥を晒すつもりか」

 

 一護の心を(えぐ)る言葉を続ける。

 

「今回の任務はこれで終了だ。藍染様には貴様のことをこう報告しておこう。貴方が目をつけた死神()()()は──殺すに足りぬ、(ゴミ)でしたとな」

 

 黒腔(ガルガンタ)が閉じた。

 

 

 こうして、アンジェ達の現世調査は幕を閉じた。




色々と気になるところがあると思いますが、後々説明が入っていくので続きをお楽しみに。
ちなみに、アンジェの二本目の斬魄刀の解放は、ぶっちゃけエグいです。

次回の更新は来週は短編を絶対に上げたいのでお休みで、再来週になると思います。短編の方も興味があったら是非どうぞ。情報は活動報告にあります。

間違えて20時前に投稿しちまった……まぁいいか。

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