プロジェクト・クローネのプロデューサー   作:変なおっさん

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第32話

《おまけパート⑤(橘ありすヤンデレ風味)》時系列とか関係ない本当のおまけ。息抜きも必要だからね。

 

「プロデューサーさん」

 

「どうかされましたか?」

 

「その、お願いがあって来ました」

 

オフィスに来た橘ありすは、そう言うとモジモジしながらこちらの様子を窺っている。

 

「お願いですか? 私にできる事であれば言って下さい」

 

「本当に、いいんですか?」

 

「はい」

 

少し考えるようにありすは俯くと、意を決して口を開く。

 

「私の事を『ありす』と呼んでくれませんか?」

 

「橘さんの事をですか?」

 

ありすは、顔を赤くして頷く。

 

「橘さんは、その……下の名前で呼ばれるのが苦手と聞きましたが違いますか?」

 

「確かに嫌です。クラスの男子とかにからかわれたりした事があるので本当なら嫌です。でも、いつまでもこのままだとダメだと思うんです!」

 

口調が徐々に強くなる。

 

「下の名前で呼ばれるのは嫌です。でも、両親がつけてくれた大事な名前でもあります! だから好きになりたいんです!」

 

ありすは一歩前に出る。ふんす、と鼻息が荒い気がする。

 

「そのお考えは素晴らしいとは思います。ですが、橘さ――」

 

「――ありすです! ありすと呼んでください!」

 

更に一歩前に出る。

 

「で、ですが、その……橘さんはアイドルとして一人前に働かれている方です。その方を下の名前で呼ぶのは……」

 

「プロデューサーさんは、私がこのまま下の名前を呼ばれるのが嫌なままでいいんですか? プロデューサーさんは、私の味方だと思っていたのに……」

 

ありすは、顔を隠すように後ろを向く。武内には、顔を手で抑え震える後姿が泣いているように見える。

 

「……わかりました。その代わり、仕事の時以外でお願いします。仕事の時は、体裁などがありますので。……ありすさん。これでいいでしょうか?」

 

未だに背を向けるありすに問い掛ける。

 

「……ありすです。ありすと呼んでください」

 

困り果て、癖である首をさする癖が出る。

 

「流石に呼び捨てはまず――」

 

「――私の事なんてどうでもいいんですね……うぅ……」

 

身体が上下に揺れる。微かに泣き声のような物も聞こえる。

 

「……ありす。これでいいでしょうか?」

 

他に名案も浮かばないのでここは従う事にする。あくまでも一時的な物だろう。自分の名前を呼ばれる事に慣れる間だけの。

 

「……もう一度、お願いします」

 

「ありす。これでよろしいでしょうか?」

 

「はい。えへへ……ありす。いいですね。ありすですか……えへへ」

 

どうやら泣き止んでくれたようだ。

 

「あの――」

 

機嫌が良くなったありすがこちらに振り返る。ただ、そこで違和感を覚える。泣いていたはずの彼女の表情はとても華やかで、泣いていたような感じが一切見られない。

 

「今度は、目を見てお願いします!」

 

デスク越しとは言え、限界まで前に出たありすは、デスクに乗るような形でこちらに顔を、目を向ける。

 

「お願いします、プロデューサーさん!」

 

「……ありす」

 

「もう一度!」

 

「ありす」

 

目を見ながら言われて満足したのか? ありすは、歓喜に震えている。

 

「いいですね! いい気分です!」

 

更に鼻息が荒くなるのを感じる。

 

「落ち着きましょう、たち――」

 

「――ありすです! もう、忘れたんですか!? プロデューサーさんは、ダメな人ですね。でも、大丈夫です。ありすと呼べるようになるまで何度でも聞いていてあげますから!」

 

それからしばらく、ありすが満足するまでありすと呼び続ける事になる。

 

 

 

♢♢♢♢♢

 

 

 

(大人組との飲み会②)片桐早苗、姫川友紀、川島瑞樹、高垣楓、安部菜々(ウサミン17歳)

 

「最近、大変なのね。友紀ちゃん、枝豆取って」

 

「はい、早苗さん。武Pは、昔から働き過ぎだからねー」

 

「少しは息抜きしないとダメよ? はい、これ。身体に良いサプリメント。若返りの効果もあるのよ」

 

瑞樹から愛用のアンチエイジング作用のあるサプリメントを分けてもらう。

 

「仕事ですから」

 

「そんな事だと疲れて倒れちゃいますよ! 今日は、ナナがたくさんご奉仕してあげますから休んでくださいね、ご主人様!」

 

そう言って、ビールをグラスに注いでくれる。

 

「疲れには、温泉が一番ですよ? 美味しいお酒があればもっと良いですね! 何処に行きましょうか?」

 

楓は、楽しそうに鞄から温泉旅行のガイドブックを取り出す。

 

「腰痛や筋肉痛に効くとこでお願い。最近、レッスンが堪えるのよ」

 

「茜ちゃんと一緒だとキツイよね。いつもの倍以上する時あるもん。あと、レッスンは午後からにしてほしいかな?」

 

「友紀ちゃん。午前中にレッスンがある時は前の日は抑えておきなさいよ? マストレさんが本気で怒るから」

 

「いやー、この前も大変だったなー。あたしだけ居残りレッスンだったから。あれっ? もう、ビールがない?」

 

頼んだばかりのビールが空になっているのを不思議に思ってグラスの中を覗き込む。

 

「姫川さん。確か、明日もレッスンがあると言っていませんでしたか?」

 

武内の記憶だと、友紀がそう言っていた気がする。

 

「友紀ちゃんは、ここからはお酒無しね」

 

「瑞樹さーん。それだけは許してよーなんでもするからー」

 

「ダメよ。少しは、アイドルとしての自覚を持ちなさい」

 

「そうそう。それと、女の子がなんでもするとか簡単に言っちゃダメよ。友紀ちゃん可愛いんだから男が黙っちゃいないわよ。ねえ、武P?」

 

「……私に振らないでください」

 

「えー、あたし武Pに何かされちゃうのー?」

 

そう言って、友紀は武内の腕に抱きつく。

 

「た、大変です!? これ以上は、ナナにはまだ早――いえ、ここはナナも乗るべきなんでしょうか? 最近、実家からの催促が増えてきましたし……ええい! ウサミンも行きますよー!」

 

反対側から菜々に抱きつかれる。友紀と菜々に挟まれる形になるわけだが、嬉しいような、酒臭いような。

 

「ここなんてどうでしょうか? 近くに酒蔵もありますのでオススメですよ?」

 

この状況でも冷静に場所を選んでいた楓がオススメを見せる。

 

「あらっ? 近くにワインの酒造所もあるのね」

 

「あたしは、温泉入ってお酒が飲めれば何処でもいいわ!」

 

「じゃあ、決まりですね。スケジュールの方は任せてもいいですよね?」

 

楓は、武内に言うが――

 

「きゃあー! 武Pのエッチー!」

 

「そこはダメなんですよー!」

 

両腕をガッチリと掴まれ、身動きが取れなくなった武内は抵抗することもできずにそれを受け入れている。

 

「私の事は気にせずに皆さんで行って下さい」

 

「むう、そんな事を言うのはこの口ですか?」

 

身動きが取れない武内の口を楓は、人差し指で塞ぐ。

 

「ダメです。行きます。いいですね?」

 

否定はしたいが、下手に口を動かすと楓の指に今以上に触れてしまう。

 

「黙秘は、肯定とみなす! 武Pも追加で!」

 

「強引だけどエスコート役は必要よね。じゃあ、調べておきましょう」

 

「やったー! みんなで旅行だー!」

 

「そうです――ハッ!? ウサミンの秘密がバレる危機では!?」

 

「みんな、菜々ちゃんの秘密知ってるけどね。ほら、菜々ちゃんも飲んで!」

 

「すみません、早苗さん。ゴクゴク、ぷっはー! 五臓六腑に染みわたりますねー!」

 

早苗にグラスに注いでもらったウサミン星特製炭酸麦茶を菜々は一気に飲み干した。

 

こんな感じの一コマがあってもいい気がする。

 


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